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契約妖精はご機嫌ななめ

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 翌日。ツヴァイとミリーがわざわざ自分が泊まっている宿屋まで訪ねてきた。

「アース、お邪魔するぜ」「フレンドリストでログインしてきたことが分かったので、申し訳ないですが押しかけさせていただきました」

 と二人から。別段それは何の問題もないが……。

「来たこと自体は別にいいけど、何かしらの問題がそちらで発生でもしたか?」

 と質問を飛ばす。この二人が事前に泊まっている宿屋を教えておいたとは言え、わざわざこうしてやってくることは非常に珍しい。何かがあったと考えてしまうのもやむを得ない。

「問題と言うかなんというか……身内の恥をさらすことになるんだけどよ、まずひとつ。女性陣が今の所ミリーを除いてあまり使い物にならねえ……」

 なんじゃらほい。

「ええと、私から説明しますね〜。ハーピーの子供達がいなくなっちゃったことで張り合いと言うかなんといいますか……とにかく気力が抜けちゃって、口から魂がほんわかほんわかと言う感じで半分抜けかかっているですよね〜。もしくはログインしてこないか。そんな感じなので、今日は狩りなどに連れていくわけにもいかず……困ったものですね〜」

 むう。予想以上のダメージがあとから出てきたと言った感じか。とはいっても、ハーピーのお母さんにもう一回来てくださいなんて言えないからなあ。くどいようだが今回がおかしかったのであって、今のハーピーの子供達が街中に居ないのが正常な日常なのだ。

 そんな正論は、魂が抜けかかっている女性陣にとっては何の慰めにもならんだろうけどな。それでも今日ワンモアにログインしてきたのは、もしかしたら戻ってきているかもしれないという一縷の望みにすべてをかけていたんだろう。そしてそれは見事に砕かれた、と。

「そしてもう一つ、そんな女性陣の一部と契約している妖精のご機嫌がものすごい勢いで悪化してる。具体的にはノーラとロナとカナの契約妖精だな。まあ今までずっと近くにいるのに今回の件で半分無視されたような形になっちゃったから無理もないんだけどよ。妖精達はただのペットじゃない以上、これ以上悪化したら契約を解除されて実家に帰るというか妖精国に帰る事になりかねない」

 そしてツヴァイがそんな状況報告を付け足す。ツヴァイの契約妖精である大きな火の狼も、ふしゅーとため息? をついている。

「物の見方としてはものすごい狭い話になるけどよ、戦闘においても契約妖精は大きく貢献してくれてる。今じゃ指示を飛ばさなくても勝手にこちらのやってほしい事をベストタイミングでやってくれる『相棒』だ。まるでこっちの考えていることを知っているかのようにな。そういった面一つとっても、契約妖精を失うとなると今まで通りの戦いが出来なくなるから、それだけで一気に弱くなっちまう。俺みたいに成長を特化している奴は特にその傾向が強い」

 ツヴァイは自分の契約妖精の狼をもふもふしながら話を続けていた。ふーむ、やっぱりそういう方向になり始めているのか。そうなるとツヴァイがやってきた理由は。

「そうすると、ツヴァイは自分に不機嫌になった妖精たちのご機嫌とりをして欲しいという事か? もうちょっと正気に戻るというか落ち着きを契約主が取り戻すまで」

 そうツヴァイに聞いてみたが、「それはちょっと違う」との返答が。

「いや、それはもう女性陣の責任だからな。可愛いというのは理解できるが、だからって自分の一番身近にいる契約妖精をないがしろにしたんだ。信頼関係にヒビが入ってもしょうがないだろ。アースにお願いしたいのはご機嫌とりじゃなくて、妖精たちのストレス発散なんだよ。

 正直見ているとかわいそうでさ……気を引こうとしているのに、肝心な契約主がミリーがさっき言ったように魂が半分抜けてるような状況だろ? ほとんど「うんうん」とかの上の空の返事だけしか返ってこないんだよ。さすがに俺も見てられなくて強い言葉でたしなめたんだが、それもイマイチ聞こえてないって状況なんだよ」

 それはいけないなぁ。いつもの定位置にいたアクアを頭から降ろして自分の前に抱きかかえつつ、アクアをじっと見てみる。アクアはそんな自分を見て、こくりと頷いた。

「じゃあしばらくの間、契約者と離して外に連れ出してもいいんだな? まあ街の中をのんびり散歩したりする程度だが。それでもって契約妖精が契約破棄を決心しても引き止める必要はない、と」

 この自分の言葉に、ツヴァイとミリーはこっくりとうなずく。決断に迷いがないな、こりゃそうとう不味い。特にツヴァイが全くおちゃらけてない。

「じゃあ、ブルーカラーの泊まっている宿屋まで行こう。とりあえず現状を見てみないと……」

 そうして、ツヴァイ達が泊まっている宿屋まで足を運ぶことにした。


「予想以上だわ、色んな意味で」

 宿屋の中で険悪な雰囲気を隠さない契約妖精は……カナさんのハリネズミ、ノーラの飛び魚がツートップだった。エリザの方は自体がハーピーの子供達と関わっていた時間が短かったせいか仲たがいをしている様子は無く、ロナの方は魂を自力で戻したらしく、今は契約妖精である小型グリフォンに向かって見事な土下座をしている真っ最中だった。そんな光景にツヴァイとミリー、そして二人の契約妖精までもが乾いた笑い顔を浮かべていた。

「とりあえず、エリザとロナは自力でどうにでもなりそうだねえ。じゃあカナさんのハリネズミと、ノーラの飛び魚を連れていけばいいかな?」

 そんな確認をツヴァイとのミリーに取ると、土下座をしていたロナが自分の声を聞きつけたようでこちらにふっ飛ぶようにやってきた。

「うちの子もお願いしていい? ちょ、ちょっと落ち着きを取り戻すための時間が欲しい……」

 という事で、妖精3人? を引き連れて獣人の街の散歩をすることになった。ハリネズミを肩に、飛び魚は空を飛んでもらい、小型グリフォンは前を歩いてもらう。頭の上にはいつも通りにアクアが座っている。

「1時間ぐらいで戻るよ」

 ツヴァイとミリーにそう告げて宿屋を後にする。もちろん本来なら契約者の了解を得ていないのにもかかわらずこうやって契約妖精を引き離すことはできないのだが……見た目では消滅した『妖精たらし』が生きているという事なのだろう。それ以外の要因もあるのかも知れないが、一々それを掘り起こす気にはなれなかった。知った所でどうしようもない事であるし。

 さて、のんびりと南街を歩いていると、ハーピーの一件で顔……と言うより外見が売れてしまったため、声をかけてくる獣人さんの非常に多い。そしてその獣人さん達が契約妖精達を可愛らしいと褒めるので、険悪な気を発していた契約妖精達も、徐々に穏やかな気に変わっていった。この分なら、ロナの契約妖精である小型グリフォンはロナと仲直りできそうである。ハリネズミと飛び魚の方はまだまだ不安だが。

(狙った訳ではないが、獣人の皆さんに感謝だな。打算のない笑顔で褒められれば誰だって嬉しいもんだ。嬉しくなれば陰の思考も和らぐ。あまりに陰気になってしまうと、悪落ちみたいなことになるかもしれんしなぁ。『そんな馬鹿な事があるか、ここはゲームの世界なんだぞ』なんて言葉こそが浅はかな意見になるってのがこのワンモア世界だし)

 実際悪落ちしたプレイヤーの存在は今までの冒険や色んな情報サイトなどで耳に入れているし、ふとしたきっかけでツヴァイからもそれらしい奴とやりあった経験があるらしい。契約妖精もそうなってしまう可能性は無いなどと断言はできない。

 この世界は色々とえぐい所はとことんえぐい、そういう風にできている事はもう嫌と言うほどに理解している。相手を斬ったら血や内臓がどばどば出て来ると言ったグロさとはまた別のグロさがあちこちにある。そんな事を考えているうちに目に入ってきたベンチに座って、一息つく。

(せめて目が届く範囲ではそうならないようにしたいな……)

 今回の話を引き受けたのもそういう思考が根底にあったことは事実。契約妖精達が悪落ちして暴れ回り、討伐対象になったらあまりにも悲しすぎる。初期のイベントでは契約解除して立ち去るだけだったが、ここまで世界が大きく進んできた以上、最悪な展開を迎えたとしてもそれだけで済むという楽観的な考えはとてもできな──

 つんつん

 そんなマイナス方面の思考をしていた所に、自分の頬をつつく感触が。ゆっくり振り向くと、そこには肩に乗せていたハリネズミが心配そうな目でこちらをみていた。

「大丈夫だよ、心配をかけてしまったかな?」

 背中はとげとげだから撫でることはできないが、撫でられる下腹部をなでてあげると目を細めて気持ちよさそうにするハリネズミ。──この子達なら大丈夫かな。人である契約主に対して険悪な感情を持っていたはずなのに、こうやって人を心配できる心があるこの子達ならば。

 ついでに飛び魚や小型グリフォンも軽くなでてあげた。飛び魚は鱗の感触がなかなか面白かった。小型グリフォンは背中がなかなかもっふもふでした。アクアはそんな自分をのんびり眺めていた。

 そうして大体1時間後、ツヴァイ達の泊まっている宿屋にもどってきた。

「おーい、ツヴァイ。アースなんだがはいっても良いかー?」

 ノックをしながら確認をすると、「大丈夫だ、入ってくれ」という返答が。中に入ると……カナさん、ノーラ、ロナが一列で土下座をしていた。

「少々荒っぽくなっちまったが、体に魂を突っ込みなおした。んで、不機嫌な契約妖精達の事を考えろと叱っておいた」

 とはツヴァイの説明。何をしたんだか……と聞こうとして止めた。よく見ると、カナさんとノーラの頬が少し赤い。ひっぱたいて気を戻したんだろう。優しいだけではなく、必要となればそういった手を打てるのかと、個人的にツヴァイの評価を上げた瞬間であった。
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こういう時は真面目なツヴァイ君です。
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