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連載

獣人連合・東街の長い一日 その六

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 一人の人間が多くの相手をなぎ倒す。物語やゲームにてそれを疑似体験できるようにしたものは数多いが、現実ではまず不可能である。圧倒的な実力差があったとしても、多数を相手取るとなればスタミナという問題が立ちはだかる。その上に使っている武器だって相手を斬るなり殴るなりすればあっという間に劣化ししていく。かなり生臭い話になるが、日本刀も人を二、三人斬ると人との油によって使い物にならなくなるらしい。そのため、刀のスペアを戦場に数本持っていくのが当たり前だったとか。

 だが、今目の前で行われているのは……まさにその現実では不可能とされる現象。一人が多数をなぎ倒す、いわゆる『無双』と呼ぶにふさわしい状況が展開されている。変身したグラッドは剣を振るい、槍で刺し、斧で吹き飛ばし、魔法で焼く。多種多様な武器を使い分け、バッファロー達で出来た厚い壁をドリルのようにごりごりと削るようにぶち抜いてゆく。以前のオーガによる街への侵略があった時に自分が行った黄龍変化を見ていたグラッド達は、こんな光景を見ていたんだろうか?

 しかし、その姿を見た防衛軍は完全にバッファローの王によって付与された萎縮状態を打ち破ることに成功したようだ。あとに続けとばかりに武器を掲げて、目の前にあるグラッドが張った氷の壁を破壊してからバッファロー達に向かって猛然と攻撃をし始めたのだ。やはり百の言葉よりも一の行動の方が説得力がある。言葉ではなく自ら先陣を切るというグラッドの姿に血が沸き立つのも無理はない。まして、戦いが得意な獣人の皆さんからすれば先程萎縮してしまった自分の姿を恥と感じる可能性が高いから、その汚名返上とばかりにより激しく戦うだろう。

(だが、あれだけ強力な変身だ。そう長くは続かないはず。今の勢いを維持したままグラッド達がバッファローの王にまでなだれ込み、討伐できるかどうかにかかってくるだろう)

 自分の黄龍も2分ちょいしか変身時間が維持できない。グラッドの変身はすでに3分が経過しても解かれない様子からしてそれなりに持続する様だが……数時間持つ一般的な変身に比べれば短いはずだ。バッファローの壁はまだまだ厚い。今のグラッドを先頭とした勢いが維持できたと仮定しても、バッファローの王の元にまでたどり着くにはあと10分ぐらいはかかるはずだ。そこまであの変身と勢いが持つのか? 先陣を切っているために、勢いがなくなって足が止まれば一気に四方八方から袋叩きにされてしまうだけに心配だ。

(自分の空中からの支援攻撃は点でしかない以上、あまりグラッド達の助けになっていないな。せめてあと1つ、強力なPTがグラッド達のサポートをしてくれれば……)

 空中から休みなく矢を放ちつつ、状況を見る。グラッド達の強さを信用しないわけではないが、それでも一つのPTだけで状況を切り開くのは不安定だ。他の防衛軍はまだかなり後ろ……と思っていたのだが、その防衛軍より突出して前に進んでいる集団が二つある。アレは……誰だ?

「集団戦ではこいつが便利だな! 《フレイム・ライン》で牛の丸焼きが量産ってやつだぜ!」

 色々な音が交錯してうるさい戦場で何とか拾った声……この声はツヴァイじゃないか! そういやツヴァイの魔剣は火の魔法みたいな物が使えるんだった。現にツヴァイが魔剣を一振りすると、前方に一本の火のラインが走って燃え上がる。なるほど、あれでバッファロー達を一直線に攻撃して弱らせて突き進んできたわけか。そして一緒に居るメンバーの数がかなり多い。どうやらPTじゃなくてギルドの主力メンバーを引っ張ってきてPT同士で組む事で成立する大きなPTと言って良いレイドチームを組んできた訳か。十人以上の大所帯だから、アレは早々潰れないな。

 そしてもう一つの方は……あ、顔見知りがいる。あれはアヤメさんだな。アヤメさん達アポロンの弓所属のギルドメンバーと思われる人達がバッファローに向けて矢をガンガン撃っている。そしてそのアヤメさん達に近づけないように槍で反撃し、護衛している一団がいるんだな。こっちもレイドチームなのだろう。槍を使ってバッファローを追い帰しているメンツの中に、一団の先頭を務めて炎を穂先に灯してバッファローを突き殺している人がいた。アレは『槍炎舞』ことランダさんだろうか。そうすると槍使いの一団はランダさんのギルドメンバーなのかも知れないな。

 この二つの団体がグラッド達と協力し合える距離まで近づければ、突破力はもっと上がるはずだ。この戦いを終わらせるには襲い掛かってきているバッファローの数が多すぎる以上、全滅を狙うのではなく大将首を取ってケリをつけるしかない。そうなれば突破力がある人達がバラバラに動いているのは非効率的だ。グラッド達をトップにして、ツヴァイ達とアヤメさん&ランダさんのチームをサイドウィングと配置できればより突破力が生まれるはず。そうなると、上空から見渡すことができる自分がある程度方向を指示した方が合流できる確率が上がるだろう。ウィスパーチャットで、ツヴァイとアヤメさんに呼びかけよう。まずはツヴァイからだ。

【ツヴァイ! 忙しいのは分かっているが、相談がある!】

 敵を前にして武器を振るっているにもかかわらずウィスパーを受けてくれたツヴァイに感謝をしつつ、手短にそう告げる。

【アース、相談て何だ!?】

 ツヴァイの声は普段より荒い。戦闘中ゆえに無理もないが……とにかく今は手短に話を伝える方がいいな。

【お前たちから見て左側前方に、先を行くグラッド達のPTがある! ばらばらに突撃するよりもある程度まとまって進む方がいいと判断したから声をかけた! もしグラッド達と、もう一つのアヤメさん達がいる集団。この二つと合流をしようと考えてくれるのならば、今からちょっとだけ左に……具体的にいえば、時計の十一時方向に進んでくれ!】

 返答はすぐに来た。

【分かった、今いる場所を基準として十一時方向だな!? そう動いてみるぜ! じゃ、切るぞ!】

 ウィスパーチャットはそうして切れた。これでツヴァイの方は良し、次はアヤメさんとランダさんの混成レイドチームだな。以前にもらったウィスパーチャットの記録から、ウィスパーを何とかアヤメさんには送れる。

【はい、アヤメです! アースさん、こちらは今忙しいの! 用事があるなら後にしてください!】

 何とかアヤメさんもウィスパーチャットを受けてくれたが、もたもたしてはいられないな。さっさと用件を切り出そう。

【アヤメさん達から見て前方右側に先行している2つの集団がいる。一つはグラッドのPT、もう一つはツヴァイの率いているレイドチームだ! アヤメさん達も彼らと合流すれば、より突破力が上がると判断したので声を駆けさせてもらった! 方向は今のアヤメさん達の集団から見て二時の方向になる!】

 自分の声を聞いたアヤメさんは、『なっ!?』と驚いた声を上げる。その後、慌てたためか『ランダ、そのままでいいから聞いて! 実は〜』と、アヤメさんがランダさんに向かって自分が伝えた情報を叫ぶようにして話していく声が全部丸聞こえだった。ウィスパーチャットを一時的に相手に聞こえないようにする為の設定をし忘れたらしい。その後に気がついたようで『あっ!?』とアヤメさんの驚く声が再び聞こえたが。

【その話に乗ります! 数が多いので、ランダも一点突破でバッファローの王を打ち取るべきだという意見で一致しました! ですがかなりこちらも混乱しており、二時の方向と言われても……何か目印みたいなものは出せませんか?】

 アヤメさん達が一発でわかる目印か……ならここで強化オイルを使おう。温存しておきたいが、そうも言ってられない。

【了解! これから十秒後に進んでほしい方向が分かるように火柱を上げる! その火柱が上がった方向に進んでほしい、その方向にグラッド達がいるから!】

 アクアに頼んで位置取りを行いつつ、口で十秒をカウント。あと四、三……ここらへんで強化オイルを4つ同時に投下! そしてすぐに離れる。 口の中で行っていたカウントがゼロと言ったのとほぼ同時に爆発と強化オイルが四つ同時に炸裂したことによる火柱が上がる。強化オイルの製作コストがもっと安ければ爆撃機のような攻撃もできるんだが……な。

【見えました! その方向に進みます! 方向が狂った時にはまた指示をください! これでウィスパーはいったん切ります!】

 と、アヤメさんからのウィスパーも切れた。本音を言えばここにシルバーさんも混ざってほしかったのだが……門の守りを任せている以上それは無理だ。防衛軍の方は士気も高いし奮闘しているのも解るが、やはりグラッドやツヴァイ達の様な突進力は無い。彼らにはこのまま大多数のバッファローが街になだれ込まないように頑張ってもらう方がいいだろう。無理に突っ込んで死亡して防衛ラインが崩壊なんてことになったら目も当てられん。

(とにかく、ボスを打ち取れるだけの腕を持つグラッドPT、ツヴァイとアヤメさん達のレイドチームによる相手の総指揮官である王の撃破。今回の勝利を得るためには、この面子がすべてのカギを握っている。いよいよこの戦いも最終幕かな。ここでこの面子が全滅したら、じりじりとバッファローに押し寄せられて東街は崩壊する結末を迎えそうだからな)

 そんなバッドエンドな終わり方にならないよう、自分も空中からできる事をしていかないといけない。今回の襲撃も結末が近い。
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そろそろ決着になります。メンツもそろいましたからね。
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