トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
130 / 391
連載

獣人連合の長い一日・ラスト

しおりを挟む

 雷撃を纏っての突進という厄介な攻撃を行ってきたバッファローの王は今、感電によるダメージにてバタンバタンとのたうち回っているために完全に無防備だ。そんなバッファローの王に、ここまで生き残っていた突撃プレイヤー全員が一気に詰め寄った。その表情は皆必至であり、ここがVRの世界であるなど忘れているように見える。

 だが、そんな彼らを自分は笑うつもりはない……おそらく今の自分もそんな彼らと全く同じ顔をしているはずだからである。

「もう一度電撃を纏っての突撃攻撃を再開されたらこっちの負けだ! 電撃を纏えず、無防備にのたうち待っている今のうちに止めまで持っていく為に全員全力で攻撃しろ! 後のことなど考えるな!」

 グラッドのそんな指示を聞くまでもないとばかりに、全員+付き従っている契約妖精がバッファローの王に総攻撃を仕掛け始めた。剣や斧が振るわれ、槍や矢が突き刺さり、魔法が雨となって降り注ぐ。バッファローの王による突進で水魔法が使えるメンバーがかなり脱落させられている。このチャンスに攻め切ることができなければ、グラッドの言う通りにこちらが押し負けるかもしれない。

 それに、バッファローの王を抑えていたグラッドの特殊なエルフ変身もいつまで持つのかが分からない。そういった意味でも、このチャンスでバッファローの王を仕留めなけれなばらない。

「邪魔にならないところを狙って……《七つの落星》!」

 激しい動きができない状態の相手ならば、《七つの落星》の条件を満たすことなどたやすい。自分のドジで失敗しないように気を付けつつ、七本の矢をバッファローの王に射かけて命中させる。成立と同時に隕石が降ってくるが、隕石系魔法を使う事が出来る魔法使いがいるようであまり目立たなかった。それに、目の前に居るバッファローの王に攻撃を仕掛けるのが忙しくて見ている暇もないだろう。

「とっとと消えろよ!」「タフすぎるでしょ! もう倒れなさいよ!」「気持ちは分かるが攻撃を続けろ! こいつだって不死ではないはずだ!」

 生き残ったプレイヤーが総攻撃を仕掛けているのになかなか倒れないバッファローの王に対して愚痴を吐く人、うんざりしている人、そんな人達を励ましつつ攻撃を続ける人……バッファローの王も体の頑丈さで必死に耐えていたのだろうが、さすがに力尽きる時がやってきた。

 バッファローの王はプレイヤーからの猛攻を受けつつも、最後の力を振り絞るかのように立ち上がった。だが、角は誰かが保険をかけて殴っていたようでヒビが入り、体は無数の傷跡が刻まれている。誰がどう見ても満身創痍だろう。

 だが、そんな状態であるにも拘らずバッファローの王は立ち上がった。そして前の両脚で地面をたたき、衝撃波を発生させて近くに居たプレイヤー達を吹き飛ばした後に……『ブモオオオオオオオ!』と一度だけ大きな声で鳴いた。その直後、王と戦っていたプレイヤーの周囲に居たバッファロー達が次々に森に向かって一心不乱というような表現が似合う感じで走り出した。

 いや、森に向かって走り出したバッファローはそれだけではなかった。空から見てみれば、獣人連合の東街に攻めこもうとしていたバッファロー達全員が引き上げるように森の中に走っていく。どうやらさっきの鳴き声は王の撤退命令だったようだ。追撃しようという動きが防衛を行っていた人達の中にあったが、それは大声で指揮官が止めていた。

 これは賢明な判断だろう。今の防衛軍は戦場の熱のおかげで一時的に疲れなどを忘れでいるだけであり、何かの拍子で疲労などを自覚すればガクッと崩れる可能性が高い。追撃をするよりも街に引き上げた方が間違いない。

 そうして生き残っていたバッファローの連中を引き揚げさせたバッファローの王だが、自分自身は逃げるそぶりを見せない。ただひたすらにプレイヤー側を見据えている。その迫力に押され、先程までひたすら攻撃をしていた自分を含めたプレイヤー達は攻撃の手を止めていた。

 そんな双方が動かない睨みあいをどれだけしていただろうか。三十秒か? 一分か? そんなにらみ合いにしびれを切らして前に出たのは今回の戦いで最前線に身を置いてきたグラッドだった。普段のバトルスタイルである片手剣に盾を持ち、ゆっくりとプレイヤー達を睨みつけているバッファローに近づいて剣を振り上げた……が、なぜか剣をバッファローの王に向かって振り下ろさない。なにがあった?

「──確か武蔵坊弁慶だったか? こんな形で死んだことで有名だったのは。全員武器をしまっていいぞ……こいつ、立ったまま死んでやがる。王としての意地か? 部下を逃がすための時間稼ぎか? 一つだけ間違いない事は、俺達は死体の眼光に圧倒されてしばらくの間動けなかったって事か……」

 ──なんと、弁慶の立ち往生とは。グラッドの言葉を聞いて、バッファローの王の周りに集まるプレイヤー達。バッファローの王から生命値の反応が消えていることを確認し、次々と「マジかよ……」と小声で話し合っている。グラッドが武器を収めた後に動かないバッファローの王に向かって軽くパンチを入れた瞬間、バッファローの王はパキィンと乾いた音を立てて消滅した。それと同時にグラッドの変身も解除されてグラッドの本来の姿である黒い鎧姿に戻る。

「いろいろありすぎたが、とにかく目標のバッファローの王の討伐は成功した。それに、街を襲っていたバッファロー達はすべて引き上げていった。間違いなく俺達の勝ちだ、拳を振り上げろ!」

 このグラッドの言葉に、止まっていたかのように静かだった周囲の空気が動き出した。そうだ、勝ったんじゃねえか! とかの喜びの声が上がり始める。それは防衛軍の方も同じで、徐々に防衛に成功した事の実感が生まれ始めていた。

(これで終わりか。今回の戦いはきつかったな……今回のMVPを決めるならまず間違いなくグラッドだろう。次点が門を守り切ったシルバーおじいちゃんか。そしてここに居るメンツがいなかったら危うかったな。最悪獣人の皆さんたちに多数死者が出る凄惨な消耗戦になっていたかもしれない)

 長時間の飛行を続けてくれたアクアと共に地面に降り立ち、今回の戦いを終えた感想を考えた。この戦いで間違いなくグラッドのPTは獣人達に名前を売ることになる。今後は色々と指名依頼を受けるかもしれないな。

「よっ、お前さんもお疲れだな。てか、その鳥すげえな……あんなに長時間空を飛べるなんてよ……」

 考え事をしていたら、今回のバッファローの王との戦いを生き残った一人の男性プレイヤーに声をかけられた。

「そちらこそお疲れ様。この子が居たから自分はここの戦いに参加できたと言って良いですからねえ。それでも、バッファローの王が電撃を纏い始めてからは矢が通じなくなってしまって役立たずに成り下がってしまいましたが」

 そう、そこが最大の誤算だった。空中から矢を射る事でコツコツ削る事と嫌がらせができると思っていたのに、矢を完全に無力化されるとは思わなかった。今後こういう相手が出てきた時の対処法をもっと増やすべきかもしれない。

「んなことねえだろ。空中から矢を射ることで、王の側近の妨害をやってたのがちらちらっと見えてたぜ? お前さんが役立たずだってことはねえよ、一緒に戦った奴は分かってるって」

 そんな事を言ってくれる男性プレイヤー。ありがとう、と述べながら自分は頭を少しだけ下げる。

「これから、街にゆっくりと帰還するぞ。動けないほどのダメージを残している奴はいないな?」

 グラッドの確認するような言葉に、全員が頷く。グラッドはもう一度ぐるっと周囲を確認してから……

「よし、撤収だ。みんな、お疲れさんだ」

 そうしてグラッドPTを先頭にして、獣人連合の東街の引き上げる生き残ったプレイヤーの集団。途中で合流した防衛軍からはまさにヒーロー扱い(特にグラッド達)。そして街の入口にて、門を守り切ったシルバーのおじいちゃんと合流。

「じーさん、きっちりバッファローの王は片をつけてきたぜ」

「ワシもしっかりと門を守り切ったわい。お互いの役割は無事に済ませる事が出来たのう」

 などと、グラッドとシルバーおじいちゃんが軽口をたたいていた。どうやらある程度お互いの仲は改善されているようだ。

 それから街中に入った途端、大勢の獣人の皆さんから歓声があがった。街に住んでいる住人の皆さんから、今回の街を守り切った防衛軍と切り込んだプレイヤー達に惜しみない感謝の言葉と拍手で出迎えられた。そのまま街の中を歩くと、東街の最高責任者から感謝と後日防衛に参加してくれた勇士に対し、その働きに見合った報酬を支払う事が伝えられた。

「そして、礼の一つとしてできる限りの料理を用意させてもらった! 勇士たちよ、ぜひ食べて飲んで、今日の疲れを癒して欲しい!」

 東街の最高責任者のこの言葉で、そのまま宴会へとなだれ込んだ。次々と運ばれてくる料理。焼肉などの焼き物や生野菜のサラダなどが多いのは、必死に数を作るために手をあまりかけなくても作れるものを優先して作っていたからだろう。実際しばらく後には揚げ物とかの少し手間がかかる物が追加されていた。

 こうして、大量のバッファローによって危機に陥った獣人連合の東街は、崩壊することを免れたのであった。
************************************************
という訳で、やっとバッファローの王を討伐しました。バッファローの王の最後は立ち往生という形になりましたが、如何でしょうか?
しおりを挟む