トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
133 / 391
連載

東街から北街へ

しおりを挟む

「ぴゅいぴゅいぴゅーい♪」

 ご機嫌なアクアの背中に乗って、今自分は獣人連合の北街を目指している。事前に獣人の皆さんから聞いた話では、北の街には戦闘を得意とする人が集まっているとのこと。単純な殴り合いと言うだけではなく、色々な状況に合わせた戦闘方法の研究も同時進行で行われているとか。その他に闘技場とか、修練場と言った戦いに関する設備が多いのも特徴らしい。自分も少し稽古をつけてもらおうかな? 運よくそれに付き合ってくれる気のいい獣人さんがいればだが……

『それにしても、退屈だったわねえ。地味なお手伝い作業は見ているのに飽きちゃったし』

 そんな道中で、突如、自分の指輪の中に居るクィーンの分身がしゃべりだす。周りに人がいるときなどはさすがに自重しているらしく黙っているが……こういう時は突然しゃべり出すのが心臓によろしくない。

「おい……そりゃお前さんは見ているだけだっただろうが、こっちは作業をしていたんだから退屈とか考える時間は無かったんだが」

 少々声に非難する色を付けてぼそっと指輪に向かってつぶやく。

『そう言われてもねえ……こっちが退屈だったのは事実なんだし仕方ないじゃない。私は一度指輪の外に出て実体化したらかなり長い時間休息が必要になっちゃうからうかつに出れないし。おまけにしばらく放置されたしー? まあ、いろいろと歩き回ってくれたから放置されていても退屈はしなかったけどね』

 あー、まぁ指輪の中に居るクィーンの分身を完全に忘れていた時が多々あったのは否定しない。とはいっても本当にあれこれと色々あったし、あちこち歩き回っていたからこいつにかまってやれなかったな。

「かといって、人前じゃこうやって喋れんぞ。指輪に話しかける声は周りに聞こえるが、実体化してないお前さんの声は自分にしか聞こえてないんだから。それを考えると、この状況を他の人が見たら指輪に話しかけているだけの危ない人と捉えられてしまう」

 面倒なのがこれ。指輪のクィーンの分身の声は、自分にしか聞こえない。実体化した時だけは別なんだがな。

『分かってるわよ。だから普段他大人しくしてるんじゃない。集中力を削ぐのは悪いと思って、前回のバッファローとの戦いだってずーっと沈黙してたんだし。でもさ、こういう時は話に応じてくれてもいいじゃない?』

 ──それは正論だな。だから今こうして話に応じている訳で。

「そこはまあ、そうだな。とはいえ、重要な警戒行動をアクア頼みにしちゃうわけにはいかないからな……反応があった時はそっちに集中することになるぞ」

 幸い今の所、近寄って来るモンスターはいない。まあ東街の周辺にバッファローの代わりに生息するようになった鹿系統は、野生動物にしてはおかしいと突っ込みたくなるが、どうやらバッファローに比べると探知能力がやや低めになっているようだからな……自分の探知能力範囲に入ったら離れるように動けば戦闘にはならない。

『それはもちろんそうして。今は移動がメインなんでしょ? だったら無駄な戦闘は避けないとね。それにバッファローが消えたのは東街周辺だけなんでしょ? 他の街の周辺には出没するって話だったわよね』

 クィーンの分身の言う通り、あくまでバッファロー達が森の奥に消えて好戦的ではなくなったのは東街周辺だけらしい。他の街では変わらずバッファロー達がうろついているらしい。なので、バッファローと戦いたい人は自然に北か南の街に向かっているそうだ。まさかとは思うが……各街の周辺にはバッファローの王がいて、バッファローを乱獲したらその地方の王が出張ってくるとかないだろうな? もういやだよ、あんな大軍と戦うのは。

「ぴゅい!」

 と、そんな時にアクアが警戒して! というような声を上げて足を止める。急いで《危険察知》を確認するが、探知範囲の端っこにモンスターの反応が出ている。そしてその反応は鹿系統のモンスターではない。

「そうか、もう北街の領域に入ったんだな」

 おそらくその警告をアクアはしてくれたんだろう。ここからはより気を引き締めていかないとな。実はバッファローの強さも地域によるらしく、最弱が南、最強が北。そして東西はその中間らしい。つまり、今まで戦ってきた南や東のバッファロー達と同じ考えをしていると危険だという事だ。

「ぴゅいぴゅい」

 そうだよー、気を付けてね? という感じの鳴き声を上げてから、アクアが前進を再開した。さて、しっかりしないとな。

『ここからは喋ってると邪魔になりそうね。私はそろそろ引っ込むわ。またいろいろなものを見せてね。あと、私にも名前を頂戴よ? いつかつけてくれると思って待っていたけど、全然つけてくれないし』

 名前ねえ。そういってもクィーンの分身という認識だからどうしてもそう呼んでしまうんだが。

『あ、ドッペル系統の名前は却下するわ。クィーンドッペルとか、あまりにひねりがないから嫌。じゃ、よろしくね』

 そうして再び指輪は沈黙する。名前って地味に難しいのに……また面倒な宿題を残していったな。まあそっちは後回しにして、今は街に着くまでしっかりと周囲の警戒をしないとな。

 時々《百里眼》で《危険察知》に引っかかったバッファローの姿を遠巻きに確認するが、全体的に体が他の地域に居たバッファローよりもいかついな。皮膚と切り裂くだけでも一苦労と見た方が良いか……ソロで戦うのは無茶かなぁ。街についたらいろいろと話を聞いて情報を仕入れた方がよさそうだな。一当てするのはその後だ。

 ──慎重に警戒しながら歩いたおかげで、何とか一度も戦闘にならずに北街に到着した。門番さんの前に来た時に、一応兜を脱いで外套のフードも外し顔を晒す。特に何も言われず街の中には入れたので再び外套のフードをかぶって兜も元通りに装着する。面倒なんだけど、ドラゴンスケイルメイルは目立つからな……美しい青色が。

 さて、そんなこんなで到着した北街の宿屋を探すべくアクアから降り、小さくなって貰ったアクアを今度は頭にのせててくてくと街の中を歩く。そうして気がついたことは、この街には武器や防具、鍛冶を扱うお店が非常に多いってことだ。こんなに商売のライバルが多くて生き残れるのか?

 と思ったが、一つ一つの武器屋や防具屋のウィンドウにある品ぞろえを見ると、少しづつ違いがあることが分かってきた。剣は基本になるから置いているところだけは共通しているが、あとは槍を中心にしている所とか斧を中心にしている店とか……よく見ればそれなりの色を出しているのだ。

(なるほどなるほど。あとはお客に対してより付加価値をつけていくことでほかの店とは差別化を図っているんだろう。武具は自分の命を預けるものだからな。誰だって自分に合う上で最上のものを求めるだろう。たとえ最上級の武器と言っても、扱う人がその武器を振り回すことができないなら意味がないしな)

 たとえば両手剣と一口に言っても、その人それぞれの好みのバランスや形をした両手剣があってもおかしくはない。プレイヤー製作の武具だって、外見の違いは結構激しい。一応念を押しておくが、装飾的な意味ではない。

 ほとんどの人が色んな武器職人の所を回って、己の手になじむ一品をそれぞれのプレイヤーが振り回しているはずだ。自分は自作やら貰い物やら褒賞やらで手に入れた武具で身を固めているのでそのへの事をいまいち考えてこなかったな……。

 このあと何とかそこそこ大きい宿屋を発見して、その宿屋のお世話になる事にした。残念ながら風呂は無かった……公衆浴場とかないのかね〜? 風呂はリアルで入っているけど、こちらの世界では居るというのもなかなか良いもんなんだよな……。
しおりを挟む