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占い

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「はあ……」

 そして翌日ログインし、早速北街を歩き回ってみたのだが……武術系統の館はどこもかしこも固く扉が閉められ、その門の前には門番さんが目を光らせていた。とてもじゃないが、訓練をして欲しいと頼める状態ではない。そしてその原因なのだが……

(無理もないのか、バッファローの大群が押し寄せてきて防衛戦をすることになった東街の一件が原因だからな……バッファローが奥に引っ込んだのはあくまで東街だけ。他の街の周辺には今まで通り生息している訳で、もしかしたらそのバッファロー達が街に押し寄せてくる可能性があるとなれば、前もってある程度準備をしておく必要がある。

 それだけではなく、この街に住む武人達は他の街が襲われた時は援軍として出かけなければならないという一面まである。そういえば、以前の南街での一件もこの街から援軍が来ていたんだったな。その時もかなりの手練れが大けがによる引退、もしくは殉職したんだったな)

 とにかく東街の一件で、そう言った戦う事にたけている獣人さん達はみな気を張っているためにピリピリとした空気が流れている。さすがに一般の人が住む区域とか、商店が立ち並ぶ中ではそんな剣呑な空気は薄れるが、だからこそ戦う人達が集まる場所はそういった空気が強い。闘技場なども今は休場状態らしい、こんな状況下ではそんなのんきな事をやっている余裕などないという事だろう。

(予定が大幅に狂ったな。だがこれは仕方がない事だ。獣人の皆さんを責めるのは筋違いだしな……うーん、戦闘訓練はエルフの村まで戻って蹴りの師匠に叩き直してもらうしかないか。そうすると、この北街に長居する理由はないな……とてもじゃないがこんなピリピリとした空気が漂う状況下では、のんびりと観光するなんて訳には行かないしなぁ)

 最低限の店を見て回るだけに止めてさっさと北街を出て行こう。そんな風に考えを纏めていくつかの店を見て歩く。特に食料品関連の店は複数のスパイスを売っていたので購入。特に質のいいブラックペッパーをかなり購入した。そんなちょっとした良い事にも出会いつつ北町の中を歩いていると、「もし、そこの外套を着たお方」と誰かに呼び止められた。

「──もしかして、私ですか?」

 声のした方に振り向いてから応えると、声を投げかけてきたと思われるローブを着て顔も覆面で隠している一人の人が静かに頷く。声が中性的だったので、男か女か分からないな……。何用だろうか?

「私は占いを生業としている者ですが、もしあなたさえよろしければ見ましょうか? もしかしたら貴方の悩みに少々助言ができるやもしれません」

 占いかあ。うーむ、どうなんだろうか……あまり占いと言う物は信用してない質なんだが、試しに聞いてみるのも悪くないか。それも見料次第だが……どうやら占いの道具は水晶玉の様だな。

「いくらです? 法外な値段を吹っ掛けられるのは困りますが」

 と一応占い師? に向かって念を押す。たまにだが現実世界でもある事だからだ。

「先払いで二百グローで十分です。日々の生活ができる程度の金銭があれば十分ですので」

 二百か……それぐらいなら何の問題もないな。見料を占い師? に渡して、指定された椅子に座る。占い師は自分が座り、落ち着いたのを見計らってから水晶玉に向かって手をかざしつつ、自分と水晶玉を交互に見ている様子が伺える。さて、何と言われるだろうか。

「なるほど……あなたは力を欲している訳ですね。それはどちらかと言えば新しい世界を旅するために必要であり、他者に誇示するための力ではないようですね。そうなりますと、今のままの貴方ではこの先苦しくなるでしょう。貴方は多才ではありますが、その反面才の成長の度合いは低いと出ています。そうなればなおさら一点集中ではなくあらゆる力や才で世を渡っていかなくてはなりません」

 ──こっちの事を見抜かれている。こいつ何者だ?

「ふむ、貴方の弓の技術は近いうちに成長の限界を迎えるでしょう。これは貴方の努力が足りないという訳ではなく、貴方と言う器の限界ですので仕方がないでしょう。ですが、貴方の足を使った戦闘法や腰にさしている魔剣を用いた戦闘法はまだ伸びる余地が残されている様です」

 こちらの成長限界をここまではっきりと指摘して来ただと……? ただの占い師じゃない、目の前に居るのは何者だ?

「そうなりますと、貴方はこれからこの北街の北東にある『痛風の洞窟』に挑まれるがよろしいでしょう。あそこは中で吹く冷たい風が寒いではなく痛いと感じる事からそう呼ばれています。その洞窟にて、主に足と魔剣を使った戦闘を繰り広げなさい。そうすることで、成長としては限界を近く迎える弓の技術が、他の形で新しい伸びしろを生み出す事になるかもしれません」

 『痛風の洞窟』ねえ。痛風って部分だけを抜き出すと、非常に厄介な病気の名前になるのでちょっと嫌な気持ちになるが……。この街では他に修練の手掛かりと言う物が得られなかった以上、その洞窟に行ってみる価値はあるかもしれない。目の前のこいつのたくらみに乗せられている可能性も否定できないのだが。

「痛風の洞窟には、他の場所に仕掛けられている人工的な罠……毒針といったたぐいのものですね。そう言った物はありません。その理由は、冷たき風がそう言った小細工を凍えさせて破壊してしまうからです。それだけの冷たい風が吹いている場所には長くとどまらずに素早く移動された方がよろしいでしょう。存在している魔物たちはそんな冷気の中でも生き抜ける存在なので、注意してください。念のために申しあげますが、水や氷と言った攻撃は洞窟に生存している魔物には完全に無効化されます」

 自分の使う属性は強化オイルの火 (だけど今は品切れ中)、魔スネーク・ソードの惑による闇属性、そして風迅狩弓の風属性だから通じないという事はないから、属性は特に問題ないな。

「そしてその洞窟にてしばしの間修練を積まれた後、旅の合間をみて製造する力をより蓄えられた方がよろしいでしょう。今お使いになっている弓は良いものとお見受け致しますが、貴方はそれ以上の弓を以前持っていたはずです。貴方からはそんな感じが漂っていますので。そして今度は、その以前お使いになられていた弓よりさらに上の物を生み出して、それを生涯の友となさるべきかと……その弓には八つの首があるのが見えます。かなり異質な形をしていますが、弓であることは間違いないようです」

 今度は製造の事まで……八つの首か、ドラゴン素材で作れって事ならばそれは間違いなく八岐大蛇をイメージしろという事か? X弓だと頭と表現できそうな部分である弓の先の数が上下二つづつで四つだから、今度はその倍にしろと? 弦も当然倍に増えて四本……そんなアホみたいな弓を引けるのか? それ以前に製造工程がイメージできない……これはさすがに無茶じゃないのかね〜。まあ製造能力を上げるべきっていうアドバイスは素直に受けるが。強化オイルの発展形も考えたい所だからな。

「──今の私に見えるのはここまでのようです。肝心な時が来ても後悔せぬよう、真摯に修練を積まれるべきでしょう。それがあなたを助ける事になるはずです。」

 さて、これで占い……というよりはこっちの事を見透かしたうえでのアドバイスは終わりの様だが……是非一つだけ聞いておかなければならないことがあるな。

「無礼を承知でおききます、貴方は誰ですか?」

 この自分からの質問を聞いた占い師は、別段慌てた様子も見せずこう返答を返してきた。

「私は占い師です、それ以上でもそれ以下でもなく。ただし少々その人の先にある可能性や道が見えるときがあります。そういった人を見かけた場合はお呼びとめして助言を与えているのです。大半の方が私に疑いの目や怪しいものを見るような眼で見るようになりますけれど……私の助言を聞いて修練を地道に積んだ方は、この国の中でもそれなりの成功を収めておられるようです」

 その言葉が真であると裏付ける物は何もない。だがその反面、嘘であると言い切る証拠もまた何一つとしてないのも事実か。

「私の言葉を信じる必要はありませんが……実際に通風の洞窟は先程も申しましたようにこの街を出て北東にございます。修練を積むための当てが特にないのであれば、一度行ってみられるとよろしいでしょう。ただし、そこには貴方一人で入るべきです。貴方の頭に乗っている妖精国のシンボルの力を借りていては修練になりません」

 アクアの事、つまりはピカーシャの事までしっかりと見通したか……世間によくいる『騙り』ではないようだな。

「──わかりました、助言に従い痛風の洞窟に行ってみる事にします」

 そう告げてから立ち上がり、会釈を占い師に行う。

「貴方が続ける旅の先に、良き出会いがあることをお祈りいたします」

 こうして、この日はいろんな買い出しを行って、痛風の洞窟に行く体勢を整えた。痛風の洞窟に行くと告げた事で、道具屋の店主が体を温める道具を幾分安く売ってくれたのはありがたかった。これは筒状になっていて、それを手で握りつぶすと自分の周囲の空気を僅かな時間ではあるが温めてくれるという代物。これで暖を取り、体の調子を取り戻せという事らしい。

 痛風の洞窟に吹く冷気の風によって冷えた体は、こういった道具を使うか温かい食事をとるなどの方法で一定の温度まで体温を上げないとポーションによる回復も魔法による回復も一切受け付けてくれないのだそうだ。

「いいか、決して無茶はすんなよ? やばいと思ったり道具が少なくなったら絶対に街まで引き上げて来るんだぞ!」

 道具屋の店主が熱心に警告をしてくれたので、素直に感謝の意を示してから道具屋を後にして宿屋に戻り、ログアウトする前に手下のリーダーを呼ぶ。

「親分、如何いたしやした? 何か問題が?」

 そう尋ねてきたリーダーに、先程の占い師の身辺を洗うように頼む。白ならそれでよし、黒だったら……。

「解りやした、お任せくだせえ」

 そうしてリーダーは部屋から消えた。さて、自分はログアウトだな。
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次からはダンジョン探索になります。
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