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連載

ツヴァイ、魔剣の主に

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 浮かび上がった炎の魔剣は、剣の柄部分を起点にしてクルクルと回転を始める。やがて魔剣から柄が消え、刃も消えて一本の紅く光輝く棒となり、その棒がさらに縮んで一つの球体へと姿を変えた。そうして球体となった元・魔剣はゆっくりとツヴァイの手に降りてくる。降りてきた球体は綺麗な赤色に美しく輝いており、まるで宝玉の様だ。

「これはまた……随分と形が変わりましたね。ツヴァイさん、体などは大丈夫ですか?」

 カナさんがツヴァイに声をかけ、ツヴァイは「ああ、大丈夫だ」と返す。さて、魔剣から宝玉? に姿を変えたようなんだが、ここからどうすればいいのだろうか? その答えはツヴァイの口から発せられることになった。

「──みんな悪い、俺から二十メートルぐらい離れて貰えないか? この球が今から大事な儀式をするって言っててな、どうやらこのまま俺の近くに居ると周囲居る人達を巻き込んで殺してしまうらしい」

 との事なので、皆で十分に距離を取ってからツヴァイを見守る。ツヴァイの護衛を影から行ってくれている忍者さん達が十分に離れたことも確認済みだ。全員が距離を取り、ミリーが「皆さん離れましたよ〜」とツヴァイに告げる。ツヴァイ自身も自分の目で確認して十分に離れたと確信したようだ。

「よっし、んじゃいくぜ! 準備は整った、やってくれ!」

 ツヴァイはそう宝玉? に向かって声をかけ、宝玉? はそれに応えたようだ。ツヴァイを中心とした魔法陣が赤い光によって地面に描かれていき、その描かれてゆく陣の内側に生えていた草などが一瞬で炎上して灰になり、散っていく。

「おいおい、ずいぶんと物騒な儀式だな……」

 そんな光景を見たレイジの一言がこれである。もっとも自分を始めとした他のメンバーもその言葉に頷いていたが。燃えていくのは草だけではなく、岩も、ごろつき達が残していった地面に転がっている剣や鎧も区別されることなく燃えてゆく。鉄が熱せられるとまずは赤くドロドロとした液状になるはずなのだが、そんな行程すらふっ飛ばしている。

 やがて魔法陣が完成したようで、赤い光が走り回るのをやめた。ツヴァイの周囲半径二十メートル程は、完全にむき出しとなった乾いた大地しかない。他の人が後でここに来たら、なんでここだけ不自然に一本の草も生えていないのだろう? と首をかしげるに違いない。その一方で肝心な儀式の方だが、魔法陣が光り輝くたびにツヴァイの体の周辺に赤い光が複数浮かび上がった後に吸い込まれてゆく。どうやら問題なく儀式は進行している様子だ。

(一応《危険察知》で周囲を伺ってはいるが、新たな敵影は無いようだな。このまま儀式が終わってくれれば一番いい)

 一度敵を退けて、肝心かなめの作業を始めたら『今が好機、全員かかれ!』なんて追加のお客さんがやってくる展開は古今東西色々とあるからな……そんなフラグは必要ないのだが、警戒しておくに越したことは無い。結果から言うと、そんなフラグは幸いにも成立しなかったようだ。魔法陣から浮かび上がる赤い光はすべてツヴァイの体に吸収された様で、赤く輝く魔法陣が消滅した。そして最後に残った宝玉? がツヴァイの手の中で砕け、粒子となった後にツヴァイの両手に降り注ぐ形で吸収された。

「うっし、もう大丈夫だぜ。無事に儀式は終わった!」

 ツヴァイは手を上げながらこちらに近寄ってくる。これで魔剣はツヴァイの中に吸収された。もう盗む事は絶対にできない様になったって訳だ。

「お疲れ様でした。ツヴァイさん、それで魔剣はどうなったんですか?」

 カザミネの質問に、現時点で分かっている事をツヴァイが一つ一つ説明してくれた。まず、魔剣の意思はツヴァイに吸収されたことにより役目を終えて消失したらしい。完全に吸収される前に、新しい技術……要は使えるようになったアーツを教えてくれたらしいが。そして今後魔剣は呼び出し式となり、呼び出して維持するためにはMPを常時消費する形となる。

「と言っても維持にかかるMPはそう多くはないぜ。とりあえず呼び出して見せるから見ててくれ」

 ゴウッ! と音を立ててツヴァイの『両手』に炎の魔剣が召喚された。大きさもツヴァイが大剣に変化させていた時とほぼ同じだ。つまり、ツヴァイは大剣の二刀流が出来るようになっていたのである。それを見たノーラなどが「大剣で二刀流とか……インチキ臭いわねー」などと言っていた。

「一応言っておくけどな、この大剣二刀流はこの魔剣限定だからな? 他の大剣じゃ無理だ。それに扱いも結構難しそうだから訓練しなきゃ駄目だろーなぁ……」

 他のも火属性の魔法をいくつか習得したらしい。厳密には魔法を唱えるのではなく、魔剣を介して魔剣が知っている魔法を引き出すという形になるらしい。そのため、使いたい魔法を詠唱するのではなく、使いたい魔法を魔剣にお願いして、それから使ってもらうという流れになる。故に発動するスピードは魔法使いに比べたらかなり落ちる事になるそうだ。とはいえ、それでも純粋な戦士が能力を落とすことなく魔法を使えるようになったというだけでかなり驚異的なのだが。

「ちなみに使える魔法は何ですか?」「あー、《ファイヤーボール》とか《エクスプロージョン》とかの攻撃系統ばっかりだ。補助や回復の類は一切ないな」

 こーんぽたーじゅからの質問に、ツヴァイは覚えた魔法を確認しながらそう告げた。なるほど、完全に攻撃系しかないのか。この辺も魔剣の性格? によっていろいろありそうだな。調べてみたい所だが、そもそも本当の魔剣なんてまず手に入らない。こりゃ魔剣に関する研究が遅々として進まないわけだわ。

 とにかく、これでツヴァイは無事に魔剣を吸収したわけであり、護衛の忍者さん達のお仕事は完了だ。後で宿屋の個室で落ち合う事にして、今は立ち去ってもらっていいだろう。忍者さん達がかすかに頷いて立ち去ったことを確認する。

「ところでアースさ〜ん、先程から随分と遠くを見ている様ですが、何かあるんですか〜?」

 そんな言葉をいきなりミリーから掛けられてしまい、内心では『うわあ!?』と声を出さんばかりに驚くが、表面上はポーカーフェイスを維持するように努めた。

「ああいや、なんかいたような気がしたんで警戒していただけで。《気配察知》にも引っかかりませんから、気のせいだったようだけどね」

 と、当たり障りのない返答を返しておく。この返答にミリーさんは「そ〜ですか〜」とのお返事。気づかれてないかどうかが微妙だが、まあいいか。最大の目的はもう達成しているんだからな。この後休憩を挟んだ後に、早速ツヴァイが戦闘で魔剣による大剣二刀流を皆に披露することになったのだ、が。

「よっと」「うわって!?」「のがあ!?」「あーもーだめだ!」

 なんて声をツヴァイがあげていた。つまり、慣れてない戦闘方法だったので攻撃は当たらないわ隙は大きいわで散々だった。最終的には今まで通り一本の大剣で戦うスタイルに戻し手戦う事に。さすがのツヴァイも、ぶっつけ本番では上手く行かなかったらしい。

「駄目だ駄目だ! とてもじゃ無いけど今は実戦じゃ使えねえよ! もっとモンスターのレベルが低い所で訓練してこないとこれは使い物にならないぜ……」

 バッファローと二回戦ってツヴァイが下した結論がそれだった。ある意味当然か。それからツヴァイは街に引き上げるまでの間、今まで通りの戦い方を行っていた。さすがにそのスタイルであれば一流の戦士としての活躍をする。

「そろそろ引き上げ時ですね。帰りませんか?」

 バッファローを倒した後にそう言ってきたカナさんの声に、皆が時間を確認する。確かに街に帰ってログアウトする方が良い時間になっていた。そろそろ街に引き上げるべきだろう。

「そうですね、良い時間ですし引きあげましょう。今日は予定外の戦いがありましたが、一つの問題が片付きましたね」

 カザミネの言葉に同意する声がいくつも上がる。こうしてツヴァイは、本当の意味での魔剣使いとなった。
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これで、ツヴァイ君が正真正銘の魔剣の主になりました。

それと告知ですが、活動報告の方におっさんの4巻出荷日を記載いたしました。目安ではありますが、宜しくお願いします。

これから年末に入る為、更新頻度がどうなるかが分かりません。その点もよろしくお願いいたします。
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