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獣人連合からサーズへ

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「親分、おはようごぜえやす。今回は次々とお手を煩わせる事になり、本当に申し訳ねえです」

 ログインして出発の準備を整えていると、義賊リーダーが天井裏から部屋の中に降りてきた。今回はしょうがないだろう、適所適材で動くようにした結果、自分が適役だったというだけなのだから。

「気にするな、種族同士の混乱や反発を招くようなことは義に背くことだ。そんなことにならぬように裏でなんとかするのも俺達の様な者の仕事だろう」

 穏便に済むにこしたことは無いからな。それに妖精国にも知り合いがいる。そんな知り合いと戦わねばならないような事態になるよりは、手間がかかっても出来るだけ静かに解決できた方がはるかにいい。

「親分、サーズのお役所からこれを持たせて欲しいと頼まれておりやす。一種の符丁替わりでしょうな」

 義賊リーダーから渡されたものは、小さな鈴だった。細かい細工が入ったきれいな鈴だ。この鈴を偽造しにくいようにするための仕掛けもいくつか入っているのだろう。そうでなければ符丁替わりになどできないからな。

「これを受付に見せればいいのか? それとも特殊な手続きが必要か?」

 義賊リーダーに確認を取ると、普通に受付に見せればしかるべき対応をしてもらえるとの事。それなら問題はないか、と鈴をアイテムボックスの貴重品枠に入れる。

「親分、それと今回の一件につき、親分が無事に妖精国の方に物を届け終えればサーズのお役所があっしらに報奨金を出すと言ってきておりやすが……如何いたしやしょう?」

 報奨金か……そうだな。

「受け取るな。鈴をつけられるかもしれん。今回の一件についてのお前たちの行動に対し、俺が金を出す。もし役所が金を出す場合は俺が受け取る。お前たちは役所のお偉いさんに報告を終えたらすぐに退去するんだ」

 義賊リーダーに十五万グローを渡しながら告げる。自分達の義賊団はあくまで義によって動くべきであり、報酬云々が絡むとそういった一面が一気に壊れる可能性がある。

「あっしもそうすべきとは思いやしたが、親分にお伺いを立てておかねえと不安でもありやして。それに以前いただいた金に、今回頂いた金で十分に部下達は食っていけまさあ。それに、実は部下の商売もそこそこ順調で、資金調達にはあまり困っていねえですし……お役所からの報奨金はきっちりとお断りしておきやす」

 資金に余裕があるなら何よりだ。衣食足りて礼節を知る、だからな。いくら義賊だからと言って飢えている様ではまずい。

「ではあっしはこれにて……後の事は親分にお任せいたしやす」

 そう言って義賊リーダーは天井裏に消えた。さて、こっちはこっちで行動を始めないといけないな。ツヴァイはまだログインしていなかったのでメールにて妖精国に行ってくると言付けておく。他のメンバーは……ミリーしかいないな、珍しい。ウィスパーの要請を飛ばして……許可されたな。

【ミリーさん、ちょっとよろしいですか? すぐ済みますので】

 と、ミリーとウィスパーで少しだけ会話。こちらの要件を伝え、少しの間獣人連合から離れると伝えておく。

【おひとりで大丈夫ですか〜? ちょっと心配なんですが〜】

 と、ミリーには心配されたが……逆に複数で行動すると今回は都合が悪いので、適当にごまかしておいた。

【とりあえずツヴァイにはメールをしておきましたが、それだけと言うのもあれなのでウィスパーで一言断っておこうと思いまして】

 そう伝えると、ミリーは【分かりました、お気をつけて〜】と言ってくれたのでウィスパーを切る。これでブルーカラーへの連絡も良しとしよう。いよいよ出発だ。宿屋を出て徒歩で街の外へ出た後、周りに人がいない事を確認してからピカーシャ本来の大きさに戻ってもらった。

「じゃ、お願い。目的はサーズの街からある程度離れた場所まで。直接サーズまでピカーシャの本来の姿で行ってしまうと、少し問題があるからね」

 こっちの正体が多少でも推察できるような切っ掛けを、他の人に与えたくないからな。もし何らかのきっかけを与えてしまうと義賊リーダー達が動きにくくなる可能性もあるし、自分の周りをこそこそと嗅ぎ回ってこられるのも不愉快だ。そんな面倒事が起きる可能性は最初っから潰しておくに限る。

「ぴゅいいい〜♪」

 久々に本来の大きさに戻って空を飛ぶピカーシャに乗れば、あっという間に獣人連合の区域から抜けて人族の区域に入る。こんな足があるのは強みだよな……この速度があるから、今回のような要件にも早急に対処できると言う物だ。

 空を飛んで人族の区域に入ったピカーシャはこちらの要望通り、人影のないサーズからある程度離れた場所に着陸してくれた。後は再び小さい状態に戻ってもらい、頭の上に。そこからは徒歩でサーズの中に。サーズを離れてからそんなに時間は経っていないはずなのだが、懐かしさを感じる。

(感傷に浸るって訳でもないが、こう人族が多い街の様子が懐かしく感じてしまうな)

 色んなケモミミがついているのが当たり前な状況から、一転してそれがなくなった状況に変わるだけでこんなに懐かしさを感じる物かなどと考えつつ、サーズの役所を目指す。えーっと、確かこっちだっけか。

 その後少々道を間違えたが、サーズの役所に到着。不審者と思われないよう外套のフードやフェンリル皮の頬当ても外して素顔を晒した後、役所の中に入ると今日も役所は混雑していた。順番待ちのカードを受け取り、呼ばれるのを待つ。あの鈴を見せれば即座に案内されるのかも知れないが、それでは少々目立つ。少しでも目立たないようにすべきだと考えた自分は、大人しく順番を待つ方を選んだ。

「はい、順番待ちのナンバー三五三をお持ちの方、お待たせいたしました! 六番の受付へどうぞ!」

 おっと、三五三は自分だ。指示された番号の受付の前に進む。

「大変お待たせして申し訳ありません! 本日のご用は何でしょうか?」

 元気よく応対してくれる受付のお姉さんに、アイテムボックスから例の鈴を取り出す。

「この一件です。宜しくお願いします」

 そこからの展開は実に早かった。他の役所に来ている人達からあまり目立たぬように別室に案内され、数分もたたない内に役所の重鎮と思われる人に深々と頭を下げられた。

「此度の協力に対し、まずは感謝を述べさせていただきます」

 あーうん、そりゃそうだろうな。だがここはある程度とぼけておかないといけない。

「えーっと、すみません。実はこちら側としても、物を運んでほしいとある人から懇願されたために動いているだけなので……状況をよく理解していないのです。とにかく頼まれたことは、妖精国に何らかの重要な物品を確実に届けて欲しいとの事でしたが、それで間違いはないのですね?」

 自分の言葉に「そうです、それを出来るだけ内密にお願いしたいのです」と役所のお偉いさんは言った後にいくつかの物品を部屋の中に持ってこさせた。

「運んでほしいものはこの三点の品です。宝玉、宝剣、魔除けです」

 どれもこれもきらきらと光っており、眩しいったらありゃしない。確かに宝なんだろうが、ちょっと趣味が悪いなぁなんて考えてしまう。

「この三点は絶対に妖精の現女王陛下にお返ししなければなりません。本来この三点は妖精国の外に出てはいけない物のはずなのですが……どうやってあのクズはこれを手に……」

 なんか目の前のお偉いさんがぶつぶつ喋り出したぞ。大丈夫かねこの様子で……ちょっと不安になるんだけどな。
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役所のお偉いさんは重度のストレスでやや壊れている様です。
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