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連載

城下町までの道

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今年最後の更新となります。
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「私やこの子の運命はここまでかとの覚悟もしておりましたが……御同行していた大魔法使い様のお蔭で助かりました。本当にありがとうございます」

 突如馬車を襲ってきた盗賊たちを妖精の力を借りて一掃した後……自分は壮絶に誤解されていた。馬車の中に居た親子や吟遊詩人風の男性には魔法使いであると受け取られていたのである……

(まあ確かに、炎の燃え盛る音と悲鳴からして、大魔法が炸裂したと考えるのが一番自然だけどさ……妙な事になった)

 今は妖精城の城下町に徒歩で向かっている。馬車は横転した上に破損の度合いがひどくて使い物にならないし、肝心の引いてくれる馬も死亡している。なので移動手段は歩くしかないのだ。アクアを本来の姿に戻せば一気に運ぶことができるのだが、そんな事をしてしまえば余計な混乱を招く為に使えない。小さい子は完全回復した御者さんが背負ってくれているので、問題はないという事にしておく。

「あの盗賊団はなかなか捕まらず、女王陛下を悩ませていたのです。今回の一件で、魔法使い殿は陛下から多くの報奨を賜る事になるでしょうな」

 御者がそんな事を言う。まあいい、これで懐にある物騒な物を渡すときに使えるカードが一枚増えたと考えよう、うん。

「ちょっと伺いたいのですが、あの賊共はいつごろから現れてどれぐらい荒らし回っていたか大体で良いので教えてもらえませんか? 妖精国に入ったのは実に久しぶりの事だったので」

 話を聞いてみると、どうも現れたのはけっこう前らしい。だがトカゲのしっぽ切りのごとく捕まるのは盗賊団の末端ばかり。本命の幹部や頭領は捕まらず……被害が何度も出てしまっていたとの事。懸賞も当然掛けられており、生死問わずとされている。今回自分が焼いて砕いたメンツの中に盗賊団の頭領や幹部が居れば、それが城の方で分かるようになっているらしい。どんなシステムなのかは分からんけど。

「なるほど、焼却処分は正解でしたか」

 御者さんや吟遊詩人風の男性の情報を聞き終えて、自分は頷く。そんなゴミ連中だったのならば、焼いちゃって問題なかったか。少々やりすぎたかな? とも思ったが、全然そんな事は無かった。それなら自分の手元にある妖精の本の進化も受け入れてよさそうだ……だが。


 妖精の記憶→妖精の黒本こくほん

 地水火風に加え、光と闇の妖精を同時に召喚する事で特殊魔法が使えるようになった。現時点使用可能魔法アンノウン・プレッシャー

 《アンノウン・プレッシャー》六属性の妖精の力を借りて敵対するモンスターを正体不明の重圧で押しつぶす。

 現時点アンノウン系魔法必要コスト……MP全てに加え、HPの半分を消費する。MPは十分間の間どんな手段を用いても回復することが不可能であり、二時間経過しないと自然回復が再開しない


 こんなんばっかだよ! いっつもいっつもこういう時に自分が修得する技術はハイパワー&大きな反動がある物ばっかりなんだ! 効果がおとなしいもので良いから、普通に戦術の中に組み込んで使える物を下さいよ……意地でもこんな使用者に負担を強いる物しか自分には渡さんつもりか……? 本の色も表紙が青からまっ黒に染まってしまい、ちょっと怖い。

「とにかく今こうして生きて居られるのも貴方様のお蔭です。我々は幸運でした、こんな大魔法使い殿が馬車に同行してくださっていたのですから」

 自分は魔法使いじゃないのだが……というか自分は何者なのか、すでにビルド自体がぐちゃぐちゃで解らなくなって来ているが、それでも魔法使いではない事だけは確かだ。魔法使いならば、魔法攻撃を主力にするものだからな。自分の主力は弓だし。とはいえ魔法使いと勘違いされている以上、なんとなく弓を出しにくくなってしまった。

「そんなに持ち上げられても困ります。あ、少しだけこちら側に歩きましょう。このまままっすぐ進むのは嫌な予感がしますし」

 なので戦闘にならずに済むように《危険察知》でモンスターと出会わないようなルートを取っている。だが、先程の盗賊団のように《危険察知》をあるていど無力化してくる連中がいたから過信はできない。馬車の中に居たとはいえ、それなりに警戒はしていたのに……あんな状況になる少し前まで《危険察知》が働かなかった。自分の〈義賊頭〉としてのレベルが足りないから盗賊たちの接近を早めに察知する事ができなかったという可能性も十分にある。と、ここまで考えて首を振る。

(今はそんな考察はしなくていい、とにかくこの四人を護って無事に城下町にまで到着することが現時点で最優先するべき事だ。せっかく盗賊団から護ったのに、その後に出会ったモンスター連中に捕まって殺されましたなんて展開になってしまったら、話にならないからな)

 他のゲームの話になって悪いが、護衛対象となっている人物を暗殺者などから護り切ったのに、モンスターの不意打ちを食らって護衛対象者を死なせてしまって任務失敗となってしまった苦い経験がある。

 この世界では、プレイヤー以外の人々は死んだらそこでほぼお終いだ。もちろん常時こちらの世界の人を蘇生させることができる薬は持ち歩いているけれど、それだって過信出来る様な物じゃない。そうさ……もっと良いものだったら、あの時自分はエルを死なせずに済んだのだから。

 そう気張った甲斐があったのか、モンスターはそれなりに居たがすべて回避することに成功。戦闘を発生させることなく城下町のある程度近くまでやってきた。あともう少しで城下町だ……が、その城下町の方からがっしりとした鎧兜姿の騎士たちが馬にまたがってこちらに向かってきているのを〈百里眼〉を持つ自分の目が捉える。何事だ?

 状況が分からないので、自分はすぐ戦えるように身構えたのだが……近寄ってきたその鎧姿の騎士を見た御者が喜びの声を上げる。

「あれは陛下直臣の騎士団です! 皆さん。もう大丈夫ですよ!」

 女王直臣の騎士団か。ならばおかしなことにはならない……だろう。とりあえずこちらに戦意なしと分かるように、大人しく待つことにする。それに母親や吟遊詩人風の男性はかなり疲れており、騎士団を見た後に、御者の声で安心してしまったためか地面に座り込んでしまっている。そのためこちらは動けないという事だ。

 騎士団の方もこちらの姿を確認したようで、徐々に馬の速度を落とす。近寄ってきた騎士団の先頭に立っていた一人の鎧を着こんだ男性は馬から降り、兜を脱いで素顔をこちらに見せてからこう告げてきた。

「こちらは女王陛下直臣騎士団No.3、フレイム隊である! こちら側から城下町に来るはずの馬車の到着が大幅に定刻を過ぎても到着しない事から様子を見に来た次第である。貴公達が何かしらの情報を持っている様であれば教えてもらいたい。そしてそこに居る者は服装から馬車の御者であると見受けたが……事情を教えてはくれまいか?」

 との事だったので、御者さんに起きた事の説明を頼んだ。馬車が盗賊団に襲われてしまい、馬車は使用不能になり放置してこざるをえなかった事。自分がその盗賊団を始末した事。そしてそこからここまで城下町を目指して歩いてきた事などである。

「事情は分かった。ここまで歩いてきた五人はわが騎士団の名において丁重に城下町までお送りすることを約束する。おい、お前達十人ほどでこの先にある馬車の残骸を確認して来い。どのようにやられていたのかはしっかりと見て来いよ、その被害の程度でこれから盗賊に対する対策を練り直さねばならん」

 御者から話を聞いた騎士団の団長らしき男性は部下に対していくつかの指示を送っている。それを聞いた騎士団の部下達はすぐさま行動を始めて立ち去って行った。大多数の騎士団の人員はここに残っている。

「残りの人員で、生き残ってここまで長い距離を歩いてきたこの五人を護衛しつつ城下町へと帰還する! 騎士として護衛任務は誉れある仕事の一つである、しっかりと勤め上げろ! 傷一つ負わすことなく丁重に送り届けるのだ!」

 騎士団によって、馬に乗せられる自分達。親子はこれでもう間違いなく大丈夫と気が緩んだためか涙を流し、吟遊詩人風の男は「助かった……」と言葉を漏らす。御者は騎士たちに「お手数をかける事になり申し訳ありません」と詫びている様子だ。自分も騎士の後ろに乗せてもらい、騎士団たちは城下町を目指して出発した。

 鎧姿の騎士団が陣形を走る勇ましい姿を見て、モンスターが慌てて逃げていく様子が《危険察知》や〈百里眼〉で分かる。騎士団も逃げるモンスターを追いかける様な事はしない。何せ『護衛任務』中だからな。向かってくるのなら倒すが、そうでないなら今は放置すると意思が統一されてるとみていいだろう。

 馬の速力も十分に早いので、これならば城下街に到着するのにあまり時間はかかるまい。徒歩とは比べ物にならないのは言うまでもない、な。

 そうして騎士団の皆さんに護られながら、自分達はようやく妖精城の城下町に到着したのである。
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それでは皆様、良いお年を。来年の更新一発目は、本編とは全く関係ないネタ系番外編となります。
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