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やっぱりこうなった

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この二人が出会ったら
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 そして待つことしばし、妖精女王が自分の居る個室にやってきた。今日やらねばならない政務は終わったんだろう。

「お久しぶりでございます、アース様。此度は我が国から失われてしまった国宝を取り返してくださったとの事で……」

 なので、もう一回今回の一件を説明する。話を聞き終えた女王陛下は「そうでしたか」と前置きをしてから言葉を紡いだ。

「たとえどんな事情や経緯があろうと、人族の上に立つ者がこうして我らの国宝を無償で返還したという事実から人族に争う意思があるとは到底思えません。アース様がお帰りになられたら、その人族の上に立つ者に『妖精国はこれからも皆様と共にあります』とお伝えください。今回の人族の皆様の配慮に、妖精国を代表して感謝を述べさせていただきます」

 とのお言葉を頂いた。よかった、これで間違いなく人族と妖精族が正面から衝突するという展開は完全に消滅した。これで依頼は十分に達成したと言って良いだろう。後は帰って報告するだけだ。女王陛下は「この国宝を厳重に国庫に保管し直しなさい」と銀髪の男性に命じ、男性はそれに応えて国宝を持って出て行った。

「──こうして顔を合わせること自体久しぶりではございますが、お元気そうで何よりでございます。ところで、あの子はどうしていますか?」

 ああ、自分に預けたピカーシャ、アクアの事だな。外套の中に隠れていてもらったアクアにぴょこっと出てきてもらう。窮屈な思いをさせてしまったがやむを得ない。外に出てきたちび状態アクアは、テーブルの上にぽてっと着地すると、ぷるぷると首を振ってから「ぴゅい」と一鳴きした。

「なるほど、小さくなって貰っていたのですね。そ、それでですね。少しだけその子をお借りしますね」

 言うが早いか、ちびピカーシャをさっと手でさらって部屋の隅っこにそそくさと立ち去る女王陛下。貴女は国の王でしょうに、何やってるんですか。へやの中に残っていた水色の髪を持つ女性に (なにあれ?)という感じで視線を向けるが、 (わたくしからは何とも)という返事を視線で返された気がする。気がするだけなのだが間違っていないような。

 体感時間で十分ほど部屋の隅っこで何やらごそごそとやっていた女王陛下だが、ようやくテーブルの前に戻ってきた。なんとなく表情がちょっとこわばっているような?

「さ、さてアース様。本日の要件は以上でよろしいのでしょうか? 夜も更けております、今夜はぜひわが城にてお泊り下さい。そしてできれば私の──」

 なんてことを言い始めたクィーンの声を、別の声が遮った。

「はぁ、こんな色ぽけぽけなのが私のオリジナルとか精神的に滅入るわね……」

 その声が聞こえてきた場所に、自分を含めた三人と一匹が視線を向ける。そこには自分の薬指にはめられた指輪の上に十cmぐらいの身長を持つ、指輪の中で生まれた妖精女王の分身体のちぴきゃらが立っていた。

「長い睡眠と研究を重ねて、魔力の消耗を極力抑えてこの小さい姿ならば問題なく出入りできるようになったから……これで心置きなくオリジナルとご対面できると思っていたのに。そのオリジナルは夜遅い時間帯になっている事を良い事に、自分の寝床に男性を引っ張り込もうとする色ボケとか……やだわー」

 そしてその女王分身体はぺらぺらとそんな事をしゃべる。体が小さいせいなのか、やや声が高い。

「──誰ですか貴方は?」

 一転して冷やかになった妖精女王の言葉に、分身体は全く物怖じすることなく返答する。

「初めまして、我がオリジナル。貴女がこのアース様に渡し、ともに冒険を繰り広げていた指輪の中で生まれて、自由意思を獲得して指輪と共にアースさんの旅に同行している貴女の分身体よ。と言っても、あくまで元が同じというだけであって、性格などはかなり異なってるみたいだけどね」

 なんだろう、室温がいきなり九度ぐらい下がったような気がする。なんだか急に肌寒さを感じるようになったな。

「そ、そうですか。アース様と共に冒険の旅に同行ね、冒険ね……」

 女王陛下は部下が用意した紅茶を飲もうとするが、そのカップはふるふると細かく震えており、上手く口に運べていない。よく見ると、顔に一本の青筋が浮かび上がっているな。

「ええそうよ。四六時中べったりよ。薬指から感じる温もりを受けながら辛い時も強敵との戦いも一緒に乗り越えてきたのよ」

 対して指輪の分身体は余裕の表情でそんな事を言う。さらに室温が下がったのは気のせいではないだろう。ちなみに自分と女王陛下の側近、そしてピカーシャは一言も発していない。何を言ってもまずい気がするこの冷たい空気が口をつぐませる。こんな状況で何をしゃべれと言うのだ。

「わ、私は女王としての仕事がありますから同行できないのは当然です。それでもアース様の無事を祈らない日はありませんでしたわ」

 そんな女王陛下の言葉を、分身体はさらに言葉の暴力で容赦なく薙ぎ払う。

「私は常に傍に居たけどね。ピンチの時には指輪から出てきて戦う事で、直接アース様を守ってあげたりもしたしね〜」

 うっ、過去のトラウマがっ!! あの時のマスターリッチさん元気かなぁ。心にへんな大傷を負っていないといいんだけどなぁ。おかしいなぁ、なぜだか体育座りをしたくなってきたなぁ。指輪を外したいけど、カースユニーク属性のせいで外れないしなぁ。

「うふふふふ…………」「くすくすくすくす………」

 もうやだ。なんでこうなった! あくまで仕事のために妖精国の国宝を返しに来ただけなのに、二人の修羅が笑顔でオーラをぶつけ合っているという状況に陥らなければならんのだ! ちなみに水色の髪を持っている女王陛下の側近である彼女は、部屋の隅っこにちびアクアを抱きかかえた状態で退避している。自分も逃げたいが、指輪のせいで逃げれない。

「いい度胸ね、ぼっこぼこにしてあげる!」「オリジナルがなによ、敗北をその体に刻み付けてあげる!」

 こりゃもう駄目だ。仕方なく自分は……すっぱーん!! すっぱーぁぁん!! と叩いた後に大声で叫ぶ。

「いい加減にしろお前らぁ!」

 周りのことなど気にせずに広範囲攻撃魔法をぶっ放そうとし始めた女王陛下と、こっちに断りなく完全な姿で登場して戦う態勢に入った分身体の二人に対して、思いっきりアイテムボックスから取り出したハリセンで二人の茹った頭を思いっきりひっぱたいたのだ。そして二人は頭を押さえてうずくまっている。今回は実にいい音がしたな。

「正座」「「え??」」「いいから正座する!! 今すぐ!」「「は、はいいい!」」

 そして自分は女王陛下……いや、女王とその分身体に有無を言わせずこの場で正座させた。妖精女王に対する不敬罪? 今は知るか。

「まずクィーン! お前は一国の王なんだから言動にもっと注意を払え! そしていい加減自分と添い寝をしようという考えを捨てろ!」

 自分の言葉を聞いた女王いろボケは、ガガーン! と言った感じの表情を浮かべる。そんな女王を見てやーいやーい怒られてやんのー! と子供のような表情を浮かべている分身体だが。

「それからお前もだ! 無用な挑発を行ったことがこの状況に陥った原因の一つだぞ! 今回は二人とも同罪だ、女王陛下だけでなくお前も反省しないか!」

 と、自分から言われたことで分身体もしょぼぼーんという感じで落ち込んだ。はあ、この二人を会わせるのは不安だったんだが、ここまで不安というか嫌な感じが的中しないでほしかった。とはいっても、指輪はカースユニーク特性の縛りで装備状態から外せないからなぁ。それにここ最近やたらと指輪の分身体が寝ていた理由もわかったが、外に出てこれるようになるまでには時間がもう少しだけかかればよかったのに。

「うう、足が、足がしびれます」「ほらジーン」「やめなさい! ああっ、痛い痛い痛い! あなたもほらジーン!」「ひぎゃああああ!」

 それからしばらくお説教を行い、解放したのだが正座の影響で二人はすぐには立ち上がる事が出来ず……その上分身体が足がしびれている様子の女王の足に人差し指で触ったものだから、お互いの足を指で攻撃し合って、余計痛みとしびれに苦しむことになっていた。頭が痛い。今の妖精女王には登場時にあった威厳なんか欠片も無い。どうしていつもこうなるんだか。
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妖精女王の威厳が持つ時間……3分ぐらい?
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