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「とにかく、これで自分の用事は完了しましたのでそろそろ失礼します」

 正座によるしびれた足の攻防戦をやっていたアホ二人は一旦放置しておいて、配下である水色の髪を持つ女性に頭を下げる。この後城下町にある宿屋に泊ってログアウトだ。普段より時間が遅くなってきているから、いい加減寝ないと明日に響く。社会人として遅刻なんかやらかしたら非常に不味い。

「今回は我が国の国宝を無事に届けてくださったことに感謝いたします。そして、我が国の女王が実にお見苦しい姿をアース様にお見せた事に対して心からお詫び申し上げます」

 貴女も言いますね、結構容赦なく。まあその言葉は全くもって否定できないけどね。さてと、息を切らして服も乱してあられもない姿を晒している二人……色気のかけらもないが……分身体を回収して城から出ますか。

 ちらっと指輪を確認したら、きっちり再召喚までの時間である二週間相当の時間が浮かび上がっていた。これは詐欺じゃないか? 今回自分は召喚しておらず、分身体が勝手に飛び出してきたのに。罰として分身体の名付けを大きく後回しにしてやる。

「ほら帰るぞ! まったく、面倒な姉妹が三姉妹に増えてしまった気分だ……」

 自分の言葉に、分身体が「こんなオリジナルと一緒にしないで」と言ってきたが……お前さんも大差ないだろうに。妙に軽いその体を無理やり持ち上げて、指輪に軽く押し付けると指輪の中に吸い込まれた。何となく出来そうだなーと思って試したが、本当にできてしまったな。即座にちびキャラで指輪から出て来て自分に文句を言ってきたが、めっ! の一睨みで大人しくなった。

「どうしてもお帰りになるのですか? 添い寝は諦めますし、部屋もきちんとした個室を用意させますが」

 乱れたドレスをある程度直した後に、女王陛下はそう言ってくるがハッキリと断らせてもらった。誘いに乗ったらまた面倒事が発生するに決まっているんだ。それにこのまま城に止まったら、あと一日あと一日とずるずると引き伸ばされそうだからな。今回はさっさとサーズに戻ることにしているため、友人であるゼタンにも会いに行くつもりはない。

「仕方ありません、アース様もご多忙のようですね。次の機会を待つことにします」

 次の機会なんてないから! 切にそう祈りたい。ここに来るとゴリゴリ精神力が削られていく気がするんだよ。

「ではアース様、旅のご無事を祈っております。それから、そこの小娘の誘惑にお乗りにならない事を信じております。それとですね、こちらは人族の皆様とこれからも友好的にお付き合いしますという事をしたためた私からの親書となります。どうかお届けください。言葉だけでは不安でしょうし、ね」

 この女王の言葉に、分身体がぎゅあーぎゅあーという感じで反論しているが……こんな醜態を見せられた相手だしなぁ。ここがもし現実の世界だったとしてもそんな気にはならないよ。あんなドタバタ劇が行われていたというのに、いつの間にか用意されていた親書を受け取り、貴重品枠に入れておく。

「それではこれにて失礼いたします。ほら、お前もいい加減に指輪の中に引っ込めよ……夜も遅くなってきているんだからもう騒ぐな」

 自分の言葉に、分身体はぶすっとした表情を浮かべて指輪の中に引っ込む。はぁ、やっと静かになった。この指輪、外す方法を探そうかな……割と本気で。

「それでは失礼いたします。陛下もお体にお気をつけて」

 こうして自分は久しぶりの女王陛下との謁見? を無事? に終えたのである。疲れた自分はその後、適当に見つけた宿屋の中に止まって即座にログアウト。


 そして翌日。ログインした自分は、すぐにサーズへ向かった。幸い妖精国からサーズへ向かう間、大きな問題や戦闘は何も発生しなかった。毎度毎度巻き込まれていてはたまらない。

 妖精国を出て距離を十分に取ってからは、アクアによる移動を解禁したので楽な物だった。サーズのあるていど近くにある森の中に降り立ち、アクアに小さくなってそこからは徒歩。そしてサーズの街の門をくぐる。やれやれ、妙にいろいろあったせいでこの門に懐かしさを感じるよ。

 サーズの街にある役所に直行した自分は、受付を経由してすぐさま妖精国の国宝を受け取ったあの個室に通された。どうやら自分の帰りを今回の一件を知っている人達は一日千秋の思いで待っていたらしく、自分が役所の中に姿を見せた途端、優先的に受付に案内されてこの部屋に。あの時自分に仕事を頼んだお偉いさんも、すぐに部屋の中にやってきた。少し息が荒く、顔も赤いのは気のせいではないな。

「無事お戻りになられましたか! で、首尾はどうなりましたか!?」

 顔が近い! 息が荒い! 報告はきちんと行いますから、まずはお互いに座って、水を飲んで落ち着きましょうと頼み、お偉いさんが深呼吸してから椅子に座り、水を飲んで落ち着くのを数分かけて待つ。ある程度落ち着いたな、と見計らった所で自分は報告を開始した。

「最初に結果から申し上げます。妖精国の国宝であるお預かりした三点の物品は、間違いなく妖精女王直々の確認の下、妖精国に返還が完了しました」

 この一言を聞いたサースのお偉いさんは、「そうか、そうか。良かった……」と一言漏らした後にはぁーっと大きく息を吐き出した。そのままズルズルと崩れ落ちそうになっていたが、大慌てで体を支え直していた。ホッとした事で気が一瞬抜けたんだろう。お偉いさんもううんと咳払いをしている。

「報告を続けます。繰り返しになりますが、妖精国の国宝は妖精女王陛下の確認の下で返還を確認していただきました。そして女王陛下も『こうして国宝を届けてくださった人族の皆様に、敵意があろうはずがない』と仰られ、危惧されていた人族と妖精族の諍いが発生する可能性は消えたと考えてよろしいかと存じます。加えて、女王陛下の親書を預かっております。ご確認ください」

 言葉だけでは不安だろうと思ってあの時親書を渡してきたんだな。誰がいつの間に書いたんだろうという疑問が頭をかすめたが、よくよく考えればあの妖精女王だ。実力自体はあるのだから、話をしている裏で手を使わず親書を書き上げる曲芸みたいなことをやれてもおかしくはないか。ただ、あの残念っぷりを見てしまうとちょっと心配になるけど。

「おお、よかった。これで一安心だ。此度はどうなるかと思ったが」

 親書を読んでいるお偉いさんの表情も明るい。まあ悪い事が書いてある可能性はまずなかったし、一件落着だな。一通り親書を読み終えたお偉いさんは、自分に向かって深々と頭を下げてきた。

「貴方が仕事を受けてくれてよかった。この女王陛下から頂いた親書を通じて『これからも良きお付き合いを続けていきましょう』と言って頂けたことで、何の憂いも無くなった。当然この後報酬はお渡しするが、まず最初にありがとうと言わせてほしい」

 こうして今回の仕事は完全に終了した。報酬として百五十万グローの現金を、後は何かあった場合にある程度融通を効かせて貰える権利みたいな物を頂いた。そして今回の件については当然ながら他言無用と念押しをされた。まあ始めからしゃべるつもりはない……基本的に仕事の内容は軽い物でなければ、他言無用が当たり前だから。

「こちらとしても、変な争い事が勃発するような可能性を潰せてほっとしています。戦争は勘弁願いたいですからね……ましてや妖精国は、一度我々とは違いますけど人族と戦争をしていますからね」

 自分の言葉に、お偉いさんも頷く。

「うむ、あのゲヘナクロスを名乗っていた連中の一件があったからな。私もそれを危惧していたのだ……幸いにしてその可能性は完全に無くなってくれた訳だが」

 やはりそこを気にするよな。ま、とりあえずそんな展開が来ることは防げたわけだが。

「──本来なら、貴方にはもっと多額の報酬が与えられるべきなのだ。何せそんな戦争が行われるという最悪の未来を潰してくれたのだから。だが、今回は秘密裏に処理するしかない案件であり、先程お渡しした金額が我々の精一杯なのだ。申しわけない」

 そういって、お偉いさんはもう一度頭を深く下げてきた。ま、いいけどね……こちらとしても義賊としての仕事もできたし、冒険者としての仕事も完了した。後は貰った百五十万のうち、百万を部下に回せば今回の一件は終了だ。その後はちょっと龍の国に寄って買い物をしてから獣人連合の北街に戻ってのんびりする事にしよう、料理でもしながら。

「ではそろそろ失礼します。今回の一件は誰にもしゃべらず、墓の中にまで持っていきますのでご安心を」

 こうして、いくつかごたごたはあったが今回の一件も無事に終了したのである。
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カラータイマーをつけると、カラータイマーさんが過労死して破裂するのでつけません。ご了承ください。
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