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連載

買い出しと呼び出し

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「ぴゅい〜ぴゅい〜♪」

 アクアが空を悠々と飛ぶ。妖精国の国宝を返しに行く間、服の中に押し込めてしまっていたので……今は本来の大きさに戻ってもらい、思いっきり羽を伸ばしてもらっている。今日はログアウトするまでに獣人連合の北街に戻れれば良いので、アクアに目一杯ストレスを発散してもらう。アクアもそのつもりのようで、かなりのスピードを出して上空を飛んでいる。

(うーむ、こりゃもう飛行機だな)

 下に広がる雲海を眺めつつ、アクアの背中でそんな事を思う。アクアも『人に見られるのが問題なら、見られない場所にまで高度を上げればいいじゃない』と考えたらしく、こんな高度にまで上がってきた訳だが……自分の体はアクアのふわふわ羽毛によって包まれているので寒さはあまり感じない。

「ぴゅいいいいい〜〜〜!!」

 ご機嫌なアクアが地面に戻るまで、四十分ほどこの高度で飛び続けた事を最後に報告しておく。今後もこの高さまで飛んでもらおうかな? アクアのストレス発散になるだけではなく、あの雲海の美しさには心洗われる思いがした。ああ、先日の城の中で起きた醜い争いを忘れられそうだと思ったぐらいには。

 満足したアクアにお願いして、龍の国に飛んでもらう。目的はお米を手に入れる事。獣人連合に帰ったら、いよいよカレーライスを作るつもりなのだ。料理を中心に動き、美味しい料理を作る人のカレーを食うのも良いが、自分で作ったカレーを食うというのもまたいいものだ。リアルでも、お店のカレーと自宅で作るカレーはどちらもおいしいだろう? そのノリである。

(さて、そうなると美味しいお米を売っている食材店を探し当てたい所だが……ここは宿屋の女将さんに聞くのが一番か? これと言ったあても無いし、聞けたら幸運だったという事で)

 アクアの背中の中で、そう考えを纏めて龍の国へと向かった。


「美味しいお米が欲しい? 量はどれぐらい欲しいんだい?」

 場所は変わって龍の国一が武。以前お世話になった宿屋の女将さんに早速おいしいお米が手に入る食材店はどのあたりですか? と質問を投げかけてみた。

「そうですね、米俵にして三俵ほどを考えています。厳しいでしょうか?」

 自分の返答に、腕組みをする女将さん。蛇足かも知れないが、米俵一俵分の米は六十キロ分である。数分ほどこちらの質問を聞いて考えていた様子を見せていた女将さんは、ようやく口を開いた。

「一番の上手い米が手に入るのは六が武だね。だけど、さすがにそこで三俵も買ったら不味いかもしれないねぇ。そんなに大量の購入希望は断られる可能性が高いよ。だから格を少し落として五が武の食材店をあたってみると良いかもしれないね。あそこの米は六が武には劣るけど十分にうまいし、量も多く取れるから三俵ぐらいの米を買っても白い目で見られることは無いだろうさ」

 とのアドバイス。なるほど、六が武は最高級の米があるのか……とはいえ、おかみさんの言う通りそんな高級米を大量に一人の人間が買ってしまったら色々とあるだろう。以前の四が武木材買占め問題みたいなことが起こるかもしれない。それだったら大量に買っても問題がない五が武で買う方が無難だろう。

「分かりました、五が武に行ってみる事にします。教えてくださってありがとうございました」

「それぐらいは構わないけどさ、次は泊まって行っておくれよ?」

 笑顔で女将さんにそんな事を言われてしまった。獣人連合内での冒険に一区切りがついたら、またここに来てみようか。自分は2.5mモードのアクアに乗り、五が武を目指す。空は飛ばない、関所破りになってしまいかねないので。きちんと通行手形を各所にある関所のお役人様に見せて通過し、五が武へ。到着したらさっそく食材店に向かう。

「すみません。米を大量に買いたいのですがよろしいでしょうか?」

「へいらっしゃい! 大量と言ってもどのぐらいで? あまりに多すぎる注文はお断りしやすが……」

 食材店の店主に米俵三俵分と伝えると「それぐらいなら問題はないですぜ」とのお言葉。内心ほっとしながら米を購入。カレーはついついいっぱい食べてしまうから、ご飯がそれなりにないと食べ足りない! という事態に陥りやすい。それでも三俵分も買っていけば馬鹿食いし続けない限りは十分に持つだろう。

 そして米の買い出しという用事も済んだし、さっさと獣人連合の北街に向かおうとした所で自分を呼び止める声が聞こえた。誰かと思って振り返ると、そこには雨龍さんが。何事だろう?

「お久しぶりです、どうしましたか?」

 自分はとりあえずそう挨拶したのだが、雨龍さんの表情がやや険しい。また何かあったのか?

「すまぬが、少しだけ時間を貰ってもよいかの?」

 雨龍さんがそう聞いてくる。時間的にはまだ余裕はあるので自分が頷くと、付いてまいれとばかりに歩き出す。どうしたんだろう、自分は何か不味い事をしでかしていたのかも知れない。とりあえずここは付いて行くしかないので、おとなしく同行する。しばらく歩き、人影が少なくなったところで龍のお二人は歩みを止める。雨龍さんは自分に向かって振り返り……

「さて……わざわざこんな場所について来てもらったのは、お主に伝えなければならない事があった為だ」

 雨龍さんが口を開く。自分はその言葉に黙ってうなずく。こんな人影の少ない場所にまで付いてこさせたという事は、他の人に聞かれたくない事なのだろう。

「単刀直入に言わせてもらおうかの……お主、龍の力を使って暴走した事があるな?」

 !! ──これはあの時の……エルフの森にて起きたあの事件の時の事か。あの時エルの命が失われたことで切れた自分は、黄龍変化を使ってあのハイエルフを殺した。

「黄龍殿より伝言を預かっている。『龍の国にてアースを見かけたら、もう一度龍の儀式を行ったあの場所に来るようにと伝えてほしいと。来る時期はアース次第ではあるが、手が空いたときに必ず来るように伝えておいてほしい』と。黄龍の力を暴走させたお前は、黄龍殿の所へもう一度赴く義務がある、という事になるのでな」

 雨龍さんが、黄龍のおじいちゃんの伝言を伝えて来る。あの時は感情的にブチ切れただけじゃなかったのか……そう言えばあの時の変身時間は異様に長くて、変身が終わった後はスキルが全体的に下がっていたな。

 呼び出されるという事は、あの時起こっていた事をより詳しく教えてもらえるのかも知れない。時間はあれからかなり経っているが……それでも聞いておくべきだ。

「──わかりました。今やっている事に片が付き次第、黄龍様の下にお伺いいたします」

 自分の返答に「確かに伝えたからの」と雨龍様がいい残し、二人は立ち去った。いつか行こう行こうと思いつつも行かなかったが、いい機会だ。獣人連合での冒険が終わった後、ここにもう一度戻ってこよう。それなりのお叱りを頂戴することになるだろうが、それも仕方なしだな。

(とりあえず今は獣人連合での冒険をひと段落させる方が先だな。それにそろそろ戻らないとツヴァイ達を心配させちまう。ある程度メールでやり取りをしているとはいえ、こっちでやっている事の大半は言っていない訳だし)

 お米も買えたし、今は龍の国に長居する理由もない。後はアクアにお願いしてさっさと獣人連合北街にある、ツヴァイ達が泊まっている宿屋に帰るだけ。そうしていくつもの用事を済ませた自分は、数日ぶりに獣人連合の領域に帰還した。さて、明日からは少し料理に勤しもう。
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ふと思った事なんですが、漫画の単行本で作者の方が書く一言欄ってありますよね。あれを毎回考えるのってかなりきつい事なんじゃないか? とか最近思います。
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