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連載

呼び出しに応じる

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 翌日。ワンモアにログインした自分は、マリアちゃんを保護していたご老人の家を目指していた。もう一度来てほしいとお願いされて、それを了承していたからだ。しかし、一体何用だろう? わざわざ自分に対してもう一度来てほしいと要請を出した真意が分からない。だからこそそれを確かめるために行くのだが。

 そうして走ることしばし、ご老人の家の前に到着する。さて、入る前に準備を整える。義賊リーダーもここのご老人がただの一般人ではないという事をほのめかしているし、一種の敵陣に潜り込むようなものであると考えよう。最終確認を終えた自分は、ゆっくりと家のドアを軽くノックする。

「以前ここに来た者です。入ってもよろしいでしょうか?」

 その問いかけには、ガチャッとという音を立てて開いた鍵の音が答えだった。この鍵一つとっても、他の家とは違う。薄らと背中に冷たいものを感じるが、その感情を押し殺して中に入る。いきなり切った張ったの話にはならないと思うが……油断すべきではないと言う警告が心のどこかから聞こえる。その警告を無視しない方が良さそうだ。

「済みませんの、足が良くない爺ですのでお客人を出迎える事が出来ませんで。ささ、こちらへどうぞ」

 中に入ると、家の中からご老人の声が聞こえてきた。その声が聞こえてきた方向にへと進む。おそらくこの前マリアちゃんと一緒にいたあの一室の中に居るのだろうと予測が立つ。その予測は的中し、ご老人は部屋の中でゆったりとした椅子に座ってのんびりとしていた。

「これほど早く訪れて頂けるとは思いませんでしたぞ。もうしばらく時間がかかると思っておりましたが」

 自分の姿を見たご老人は、そんな言葉を投げかけてきた。さて、ここからが本番だな。もし厄介な話だったら即座に逃げを打つつもりだ。そんな思考を固めている自分の前で、お爺さんの更に口を開き始めた。

「いやはや、時代と言う物は変わるものだとつくづく実感しておりました。よもや盗賊の頭がこんな平穏さを身に着けておるとは」

 この一言を聞いた瞬間、自分は迷いなく惑を鞘から抜いていた。もちろん目の前のご老人を殺す為ではなく逃げ出すためだ。自分は〈義賊頭〉だが、義賊と言っても賊に変わりはない。だから盗賊の頭という表現は間違っていないのだ。しかしどうやって見抜いたのだ? という疑問は残るが、そんなことはどうでもいい。さっさと逃げ出さないと不味い事に──

「お待ちなさい、逃げる必要はありませんぞ。分かったのは、儂もまた盗賊の頭であるという裏の顔を持っておるからじゃ。故にこんな街の端っこに家を構えておるわけじゃしの」

 ──同業者、か。だがこちらは全く分からな……いや、義賊リーダーは訳ありと言っていた。つまりはそういう事か。

「もちろんお主を自警団のような連中に突き出すつもりは全くないぞ。何せお主は市民を殺さず、盗まず、悪事を働く者に対してのみ鉄槌を加える義賊、と言う者らしいからのう。そのような者も、世の中全体の安定のためには必要な存在じゃろうて」

 ──そこまで分かっていて呼び出したとなれば、話を聞いておく方が良いだろう。惑を鞘に納めてから、壁に寄りかかる形で一息つく。

「座ってもよいのじゃがなぁ……まあ話を聞いてくれるようじゃし、始めようかのう」

 何かの警告だろうか。魔剣の一件ではド派手に動いたから、その辺りか?

「部下を使って調べたのじゃが、お主は色々な国で活躍しておるようじゃな。しかも活動資金は冒険者稼業と全うな商いで行っておると言うのも驚きじゃ。これと言った悪党が居るときに影で対処に走ろうとする所がなければ、お主らは普通の人とそう変わらんの」

 そんな事までか。まあ、各地で動いてきたからな。その足跡を別に消そうという考えも無かったから、調べる事が出来る人には調べ上げれるだろう。

「じゃが、部下はまあいいとしてもお主じゃ。その外套を着こんでフードをかぶった姿と言うのが少々有名になってきておる。まだ目の前にいるお主がそうだという情報を得ている物は少ないようじゃが……この爺が老婆心から一つ提案があるので、ここに来てもらった訳じゃな」

 提案、ときたか。飲むも蹴るもその内容次第だな。何も聞かない内には判断しようがないから、とりあえず聞いてみようか。

「とりあえず伺いましょう。その提案とは?」

 自分がそう声を出して問いかけると、ご老人はその提案の内容をしゃべり始めた。

「なに、お主にこちらの傘下に入れなどという話ではないぞ。お主の様な自警団などでは解決に時間がかかり、救出が難しい人を助け出せるような人材の一団を縛る様な事をしては愚かにも程があるからの。ワシからの提案とはの、お主に変装の技術や小道具の提供といくつかの薬の製作方法の伝授を行いたいという話なのじゃよ」

 ──そう言われれば、今まで〈盗賊〉系のスキルには変装関連のアーツってなかったな。もしかしたら義賊ではない方面にはあるのかも知れないが、それは確かめようがない。Wikiにもそういったアーツの情報は上がってこない。そういった情報はやはり秘匿されている可能性がある。

「技術や情報は力となります。その二つをこちらに提供するというのであれば、そちらは何を望むのかを明確にして頂きたい」

 ご老人の言葉に、自分はそう返答を返す。タダという事はあるまい。タダより高い物はないという言葉もあるからな。確かに変装技術や新しい薬品の情報は欲しい。しかしそれを得る以上のデメリットがあるのであればバッサリと切り捨てるべきであろう。さて、このご老人は何を要求してくるかな?

「ああ、そうじゃな。こちら我がの要求は……もう十分に対価を支払ってもらっておるのでな、これ以上の要求を積み重ねるつもりはないのう」

 だが、ご老人からはそんな言葉が帰ってきた。すでに支払ったとはどういう事だろうか?

「ほれ、少し前にお主らとぶつかって殲滅された賊共が居たじゃろ? 今回の話は、あいつらを殲滅してくれたお礼なのじゃよ。あ奴らの中には……いや、大半の者がこの国の鼻つまみ者達での。多くの者が迷惑を被っておった。もちろん自警団も誅すべく動いてはいたがの、末端はともかくとしても根の方にはあまり効果的な行動が出来ていたとは言えんかったの」

 根の方、つまりは幹部クラスなどの事を指すのだろう。そしてツヴァイの魔剣を狙って動いていた賊連中は、助太刀に来てくれた忍者の皆さんと情報提供で協力してくれた怪盗の一団のバックアップがあったおかげで、あの草原にてボロボロになった。自慢気にあれこれ言ってくれた奴も、ツヴァイの魔剣によって露と消えたからな。

「じゃが、お主らを中心とした一団があれこれ動き回ったおかげで、この街の大掃除が出来た形になった訳じゃな。もちろんお主らがそれを狙って行動していた訳ではないじゃろうが、この街の治安がぐっと良くなったことは事実じゃな。わし等のように、盗賊ではあるがあくまでそういった腕は魔物が住まう場所に仕掛けられた罠の解除を行う事を第一に置く者としては、今回の大掃除には感謝しておるのだよ。何せ規模も数も多かったからの」

 ふむ、自分達の行動が意図していない所でも状況は大きく動いてたって訳か。

「先日のマリアという娘も運が良かった。もしお主らが大掃除する前に今回の様な計画も何もない勢いだけで行う家出をしておったら、今頃は連れ去られて身代金を要求された挙句に生きて戻れなかった可能性が高かったからのう。娘を見つけてここに連れて来て判断を仰ぎに来た部下も、そう言っておった」

 マリアちゃんを見つけて保護したのは、このご老人の部下だったわけだ。つまりご老人の生活も補佐しているはずであり……察知することもできないが、数名の護衛がご老人のすぐそばに居るのかも知れないな。というか、居た方がしっくりくる。

「そうでしたか。こちらは友を護る為だったのですが……それで、変装や薬は具体的にどういった物なのでしょうか?」

 こういった話であるならば、もう少し突っ込んだ話を聞いても良いだろう。その自分の言葉を聞いたご老人は、ごそごそといくつかの道具を取り出した。

「まずは変装の小道具じゃな。これは顔に張り付ける顔面偽装の道具一式じゃ。これでそのフードを不意にとられても、顔面が別人に成りすませるから正体がばれ難いと言う物じゃな」

 手に取ってみると、それなりに肌に近い感触もある。某大盗賊の三代目が使うあの顔にくっつけるマスクの様な物か。顔面パックの様な感じで使うのだろう。必要がなくなったらべりっと剥がして焼却処分すれば済む、か。顔を大きくごまかせるのは強力だな。詐欺師が知ったら間違いなく悪用されるぞこれ。

「薬の方は各種毒薬と、その毒薬を含んだ各種状態異常に対応する解毒剤じゃな。教える毒はその強さがかなり高いからの、一般的に出回っている解毒剤では効果が薄いぞ。必ず解毒薬を先に作り、万が一自分がその毒に侵されても即座に対応できるようにしておくのじゃ。むろん、儂らも使う相手は主に魔物じゃがの」

 主に、ね。つまり必要となれば人にも迷わず使うという事ですか。だが、薬の知識はありがたい。知らないと対処できない毒は厄介極まりないし、今後そう言う毒を使うモンスターが出て来るかも知れない。これもこの機会に仕入れておくべきか。

「──わかりました、ではその技術をぜひ教えていただきたく」

 そうして数日間この家にて変装技術と、毒関連の技術を教わることになった。
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何人かの方から、『ワンモアってこういうスキルありそうだよね』ってメッセージを頂いていますが、今のところそれは無いと言う物はまずないですね。性的な物とかはさすがに駄目ですが。
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