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連載

痛風の洞窟の中で

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 そんなこんなで四人で痛風の洞窟の中に入る。といってもPTを組んでいる訳ではなく、ただ四人で行動しているだけというレベルである。途中にある厄介な冷気の風を潜り抜け、氷の結晶体の集まりがふよふよと飛んでいるエリアまでやってくる。

「んじゃ、そこで止まって。手は出さないでくれよ」

 獣人さん達を一定のラインで待機させて、結晶体を相手とした修練を開始する。そうしていくつかの結晶の団体を相手にしたのだが、そこではっきりとしたことが一つある。

(こりゃ駄目だ、もうここではなんの修練にもならんな)

 なんというか、魔剣である『惑』が自重を忘れたという感じがするぐらいに張り切りすぎるのである……というより色々とおかしい事になっていた。

 まず最初に結晶体を弓の攻撃で釣って敵と認識しながら惑を鞘から抜くと、勝手に惑の切先が自分の意思を介さずに伸びて結晶体をぶち抜き始める。さらにはアレとアレとあの結晶をこの順番でぶち抜いてくれると嬉しいな、何て念を送ってみるとそのリクエストを受け付けてくれる。

 なんというか、もう剣を抜いておくだけで後はかってに攻撃をやってくれる精神感応型ビットシステムみたいな感じだ。

(あーうん、後ろに居る三人もおそらく目が点になってるよな……使ってる自分ですら混乱してるんだから)

 その上に結晶を殲滅したら、刃がすりすりとまるで小動物のようにすり寄ってくるのである。もちろん自分に触れて来るのは刃部分ではなく腹部分ではあるが、刃物にすり寄られる人間って他から見たらどうよ? という疑問は当然湧いてくる。

 もし自分が後ろで見ている立場だったら、間違いなくこの光景にドン引きしているだろう。ツヴァイの魔剣がツヴァイと一体化した一件をみて、こいつは変な刺激を受けたのかも知れない。受けなくていいのに。

 そんなわけで戦っても戦っても碌な習練にならない。自分がやってる事と言えばたまに飛んでくる水攻撃を回避する事と、最初の弓による釣り攻撃だけである。これを修練と認めてくれる人はいるはずもない。

 こんなことを続けていたら、プレイヤースキルと呼ばれる自分自身の戦闘技術は絶対に鈍る。なので途中からはオート攻撃しないで自力でやらせてという、変なお願いを惑にする羽目になってしまった。それでも攻撃を数回外した時点でここからは私がやる〜とばかりにオートモードに戻ってしまうのだが。

(なんか、とことん甘やかして駄目にしてしまう人物像が浮かぶな)

 魔剣として取り込むのが不安になってきた。ツヴァイの様な大剣二刀流はそこから使いこなせるように今までやった事のない修練を積むので問題はないが、この惑はちょっと問題がありすぎる。こんな鞘から抜いて敵と認識すれば、ほぼオートでザクザク敵を切りまくるのはちょっと……と、その時、左手の薬指にはまっている指輪からこんな声が聞こえてきた。

【よっ、ほっ、やっと。こんな感じですか? ええ、マスターをお守りするための手段は多い方が良いですわよね。私も貴女の意見に同意しますわ。私のマスターはいろんな場所に色々と首を突っ込みますし、こうやって実体化せずに指輪の中に居る状態であっても攻撃の支援をする事が出来るようになったのは良い事ですわね。

 そして後はマスターが貴女を体内に取り込めば、より強力な攻撃も可能になるんですよね? 私も簡単には実体化する訳には行かないのが困りものでしたが、こうして同士を得て共に戦えるようになったのは良い事──って、あ、あらマスター、今の会話聞こえてました?】

 無言で惑を鞘に納める。こんな動きを惑がするようになった原因となったのはお前か、お前だったのかフェアリークィーンの分身体! そして、話しかけていたのはおそらく惑の意思という奴だろう。どういう訳か、いろいろとまじりあって両者の間にはパスかなんかが開いてしまっていたらしい。

 もしかして呪具と魔剣は相性がいいのか? どっちも闇属性だしな……。少し頭痛がする頭を気合いで堪え、後ろで戦いを見ていた獣人さん達に近寄っていく。ああ、見事に凍ってる。もちろん物理的な意味ではなく。

「えー、こんな感じです。見て頂いたように、それなりに戦っても被弾せずに相手を倒せているのはお分かりいただけたかと。これで問題はありませんね?」

 今回は自分の実力ではないんだけど。とは言え今は都合が良い。戦っても無傷で圧倒する力を持っているからこそ一人でうろついていられるんだと誤解してくれるだろう。まあ、いいパフォーマンスになったという事で割り切ろう。分身体も悪意を持ってやっていた訳ではない……はずだし。

「……嘘でしょ?」

 凍っていた時が動き出したのか、ぼそっとそんな声を上げたのは犬の獣人さんだった。あーうん、気持ちはよくわかりますよ。こっちだって、まさか呪具と魔剣がコンビ組んでオートアタックを始めるとか予想外だった。しかも自分よりはるかに腕が上って言うのがかなり悔しい。そりゃ自分は特化型ではないが……ないんだが!

「納得したわ。そんだけ戦えるんやったら、ソロでも問題あらへんわ。ハッキリ言ってうちら三人がここで襲い掛かったとしても、無傷であっさりと返り討ちにされる未来しか見えんわぁ」

 狸の獣人さんもそんな事を言う。まあいい、納得してくれたのならそれでいい……こっちは納得できないんだが。

「うん、今の私達じゃとてもじゃないけど同じような戦いをする事は無理だね。今日はおとなしく引きあげようよ。良い物が見れたって事で」

 このリス獣人さんの一言に、犬と狸の獣人さんは同時に頷いて引き揚げて行った。引き上げる前に「実力は分かったけど無茶だけはすんじゃないよ!」との一言を残して。とにかくこれでギャラリーも居なくなったことだし、そろそろ試してみるか。ここからさらに奥に行けるかどうかを。

 そもそもこの氷の結晶がいる場所は、痛風の洞窟の中では言うまでも無く浅い場所である。洞窟の奥には何があるのかも直接見てみたくなってきていたので、今日は一歩前進する腹積もりだった。このまま結晶相手に戦っていたのでは、タッグを組んだ分身体と惑が蹴散らすだけになりそうだし。

 そうと決まればという事でゆっくりと氷の結晶に近づいて行く。氷の結晶の集合体がアクティブモンスターなのかどうかを確認するためである。今までは遠距離から弓矢で攻撃して引きつける方法を取っていたので、アクティブなのかノンアクティブなのかの見分けがつかなかった。

 アクティブなら一旦逃げる、ノンアクティブなら刺激せず通過する。シンプルにそう決めてゆっくりと氷の結晶の集合体に近寄った結果は、ノンアクティブだった。〈隠蔽〉系なんかに頼らずに通過できるのはありがたい。〈隠蔽〉系のスキルはMPを馬鹿食いするからな……消耗せずに済むのならその方が良い。

 そんな氷の結晶体が漂う区域を抜けた先には、分かれ道などが一切ないまま冷たい風の洗礼を二回ほど浴びる事になった。ここで焦って無理をしても意味は無いため、確実に暖を取ってゆっくり進む。それにしてもかなり前進したが新しいモンスターの類は一切出てこない。この洞窟に居るのはあの氷の結晶だけとは思えないんだが。総首をひねりながらさらに前進すること数分、やっと新しいモンスターに出くわしたのだが……えーっと。

「ほお、こんなところまで人の身でありながらよく来たな。お前は暇なのか?」

 パチリ

「まあそう言うな、ここに来た目的は探索か修練なんだろうよ。ほれ、王手飛車取りだ」

 パチリ

「おお!? おいまってくれ、その手は待ってくれ!」

 なぜかアイスガーゴイル? と思われる二匹のモンスターが、自分の方を一切振り向かずに氷で出来た将棋盤の上で将棋をしていらっしゃった。何故にこんな場所で将棋? いや、突っ込むべきところはそこじゃない気がする。

「ええっと、お二方? はアイスガーゴイルで宜しいんでしょうか?」

 まあ、モンスターには分類されるんだろうが、その肝心のお二方は将棋の勝負の方に夢中なようだ。右側のガーゴイルが「頼む、これは待ってくれ」と言っており、左の方が「もうまったは五回目だぞ? 今回は負けをいい加減に認めたらどうだ」と反論している。ええっと、どうしたもんだろうか。やがて「くそ、投了だ!」と右のガーゴイルが宣言した後に、ようやくこちらを向く。

「いやはや、お待たせした。ここに少し前に来た変わった人間が教えてくれた将棋、と言う物が我々の中で今流行っていてな。

 元々あったんじゃなくて、ここに将棋のルールを持ち込んだのはプレイヤーだったのか。まあ自分もエルフの村にチェスを持ち込んだからあれこれと強くは言えないが。

「ついつい勝負に熱くなってしまった。さて、我々はここから先に進もうと言う者に確認を取るために居る。むろん、そちらが襲ってくるのなら戦うが」

 一転して真面目にしゃべり始めたアイスガーゴイルだが、そこには緊迫した空気と言う物は全くと言って無い。なので自分もつい、「はぁ」と気の抜けた返事をしてしまった。その自分の声を聴いた左のガーゴイルが右のガーゴイルを肘でつつき始めた。

「ほらみろ、お前が待ったなんてやるから目の前の人間が呆れているだろうが。ここは緊迫した空気が流れるべき場面だと言うのに」

 つつかれた右側のアイスガーゴイルは、その言葉に反論をし始めた。

「自分の事を棚に上げるな。そもそも退屈だし、人なんかまずここまでは来ないから一つ打とうではないかと猛烈に誘ってきたのはそちらだろうが」

 とまあ、妙にぬるい空気が漂う。色々と大丈夫なんだろうか……入れた気合いが抜けそうだよ。
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さらにフリーダムになるクィーンの分身体。

スキル

風迅狩弓Lv40 剛蹴(エルフ流・一人前)Lv38 百里眼Lv32  技量の指Lv49  小盾Lv31 隠蔽・改Lv7  武術身体能力強化Lv82 ダーク・チェインLv45 ↑1UP
 義賊頭Lv33 妖精招来Lv16 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv1.88

控えスキル

木工の経験者Lv8 上級薬剤Lv34  釣り LOST!  料理の経験者Lv22 鍛冶の経験者LV28 人魚泳法Lv9 

ExP 30

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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