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案内役が仕事をサボったら

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 翌日ログインした自分は、再び痛風の洞窟の奥を訪れていた。昨日の迷路をやるだけでかなりスキルレベルが上がった事をかんがみて、修練を兼ねた痛風の洞窟に居る住人の暇つぶしに付き合おうと考えたからだ。

 そうして再び昨日であったアイスガーゴイルの居る場所まで出向くと、お二人は一心不乱で将棋をやっていらっしゃった。

「そう来るか……ならこちらはこう攻めるか」

「チッ、いやらしい攻め方を……ならこう受けよう」

 完全に自分が近くまで来ている事に気がついていない。「あのー、すみません!」と何度か声をかけても全く反応がない。案内役がこれで良いのかとツッコミを入れたくなった自分は、アイテムボックスからハリセンを取り出して構える。

「仕事せんかい! 趣味に走りすぎるなや!」

 スッパーンスッパーン! と、洞窟の中にいい音が鳴り響いた。そして頭を押さえるアイスガーゴイルのお二人。ダメージはほぼゼロなのだが、なぜか妙に痛みを感じるらしい。そして数秒後、何があったとばかりにきょろきょろと周囲を見渡して、ようやく自分が来ている事に気がついたようだ。

「いきなりひっぱたくなんて、ひ、ひどいではないか。けっこう痛かったぞ?」

 と、片方のアイスガーゴイルさんが文句を言ってくるが知った事か。ちゃんと案内役の仕事をしてくれればこんなことしなくて済むのに……それに声を何回かけても完全に反応しなかったのはそちらなのだから、これぐらいは仕方がないだろう。

「声は何回もかけました。なのにお二人とも将棋に夢中になりすぎて全く反応してくれなかったじゃないですか! 将棋をやるなとは言いませんけど、案内役という仕事はやってくださいよ!」

 と、自分が反論を行うとそっと目をそらす二人のアイスガーゴイルさん。ああ、自覚はあったのね。その上薄らと汗が浮かんでいる様なんだが、氷の体からどうやれば汗が浮かぶんだろうか? それに、この場所の特性を考えたら即座に凍らないか? どうして地面にまで凍らずに落ちるんだろうか。

「いや、まさかこんな短期間に同じ人間がここを訪れるとは思わなくてな。早くてもあと数か月はまた退屈な日々になると思っていたからこそついつい将棋を……」

 そう言う一種のパターンみたいな物があったからか。だが、そんなパターンは宙に投げて蹴り飛ばしてしまえ。少なくとも自分はもう少しの間、ここに通うつもりだしな。

「──もういいです。で、今日は闘技場への案内をお願いしたいのですが」

 自分が本日の要望を告げると、アイスガーゴイルさんはどちらもにやりと笑う。あ、表情豊かですね、氷の体なのに。

「そうかそうか、ならば私が案内しよう。ついて来てくれ」

 ふわりと宙に浮かび上がった右側に居るアイスガーゴイルがそう告げて奥に進もうとする……が、そんなアイスガーゴイルさんの肩をがしっと掴んで地面に思いっきり叩きつける者がいた。やったのは左側に居たアイスガーゴイルさんだ。

「おやおや、こんなに派手に転ぶとは調子が悪いんじゃないか? 無理せずここで休んでいると良い。彼の案内は私が行うから安心しろ」

 思いっきり地面に向かって叩きつけたくせに、そんなことをさらっという。──大体読めた、案内した方はそのまま戦いを観戦することができるんだろう。外からやってきた戦いの手札が分からない存在との戦いは、見ているだけでもいい娯楽となるのは十分に予測がつく。だから見に行きたい。

 しかしこの場を完全にあけるわけにもいかない。そもそも案内役は一人で十分だ。だから右のアイスガーゴイルさんは積極的に動き、左のアイスガーゴイルさんはそうはさせんと強硬すぎる手段に出たんだろう。

「いやいや、体は大丈夫だ。だから案内は私が行おう。その手を離すが良いぞ」

 実ににこやかな笑顔で、アイスガーゴイルさんの二人は案内役を買って出ている。だがその周囲には氷の吹雪が巻き起こっており、物理的な意味で冷え始めてきた。自分は大人しく距離を取ってその様子を伺う事にした。どういう能力を持っているのかを見せてもらおうという魂胆と、巻き込まれたくないという本音からくる行動である。

「いやいやいや、宙に浮かんだ後にあんな無様な姿で地面に落下する姿など見せられては心配もする。だからこそ今回の案内役は私が務めよう」

 なんてことを、叩きつけたご本人がしれっと言う。あ、とうとうお互いの笑みが崩れてきた。これはそろそろ始まるな。

「その原因は、お前が私の肩を掴んで無理やり地面に突っ伏すように力を込めたからなんじゃないのかね?」

 とうとう言っちゃった。アイスガーゴイルたちの喧嘩がはっじまるよー! という感じだな、うん。

「何を言うか、ちょっと心配になって肩に手を掛けただけの気遣いをそんな風にとられるのは心外だな」

 へえ、ちょっと心配になって肩に手を掛けただけ、ねえ。自分から見ればどう見ても『全力で地面に叩きつける為に躊躇せずにやった』行為にしか見えなかったんですがねえ。そしてアイスガーゴイルのお二人は、どちらも急にはっはっはっはと笑い出した。もうちょっと距離を取って、暖を取れる道具も用意して、軽く腹ごしらえもして、と。

「「覚悟はできてんだろうなあ!!」」

 あ、本格的に始まった。だが、ガーゴイルであるはずのお二人の戦いは一風変わっていた。魔法を使わない、足も使わない、宙にも浮かない。お互いの拳を使ってお互いの顔を殴りまくる。

 まるで一歩でも引いたら負けを認める……えーっと何て言ったっけ、ナイフデスマッチだっけか? 足の後ろにナイフを刺して、そこから下がったらナイフで足を切られて負けになるというアレ。それをやっているみたいだった。ガギンガキンと人間同士では絶対に聞こえるはずのない打撃音が周囲にこだまする。

(ふむ、多少の打撃とかではちっとも堪えないのか)

 殴り合う事によりガーゴイルさん達の体にひびが入り、砕けるのだがすぐに再生していく。なんというか、氷の体が砕けた部分から盛り上がってくるような形で再生しているようだ。おそらく闘技場で出て来る氷のモンスターの皆さんもそう言った特性は変わらない……と考えておくべきか。

「その鼻が気に入らなかったんだ、少し削ってやるから程よく低くなっておけ!」

「その耳がチッとばっかしデカいだろ! 程よく砕いてちょうどいい大きさに加工してやるぜ!」

 ──いや、その言葉はおかしい。彫刻じゃないんだから、削るとか砕くとか……って、実際に削ってるし砕いてるし。でも再生して元の大きさに戻っている。そしてそこをまた削って砕く。なんともまあ、人間には絶対できない喧嘩だな。それにしてもお互いの実力はほぼ拮抗しているな、これはどうやって白黒つけるつもりなんだろう?

 そんなのんきな事を自分が考え、本気の喧嘩をガーゴイルのお二人が繰り広げているとそこに一人の女性の声が洞窟の奥から聞こえてきた。

「ずいぶんと楽しそうですね。せっかくですので私も混ぜて頂きましょう」

 そんな声が聞こえた直後、アイスガーゴイルのお二人は氷で出来た柱に閉じ込められていた。見事にかっちんかっちんな状態で、アイスガーゴイルのお二人は完全に身動きが取れない様だ。顔だけは筒の外に露出しているが。

「「あ、あああああ、姐さん!?」」

 さっきまでお互いを罵りながら殴り合っていた怒気は完全に抜け落ち、脅えだけがそこにあった。そんなアイスガーゴイルの(相手を完全にぶっ壊しかねないレベルで行われた殴り合いである)喧嘩を止めたのは、奥から出てきた雪女? さんだった。
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威厳のかけらもないガーゴイルのお二人。普通ガーゴイルってかなり強いモンスターなんですけど、ワンモア時空によって歪んだようです。
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