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連載

闘技場その4

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「ぐうううおおおお!?」

 と、今度はワーウルフさんの声が周囲に響き渡る。ぎりぎりで発動が間に合って、カウンターとしての迎撃を成功させることで発動する《惑わしの演舞》をもろに食らったようだ。複数の刃によって行われる反撃を食らい、最後の魔法陣による爆発でさらにダメージを積み重ねられたワーウルフさんがふっ飛び、背中から落下して見えない何かに引きずられる様に滑って行き、闘技場の端っこでようやく止まった。

「ダウン! カウントを始めるぜ!」

 ここで審判のガーゴイルさんが大きな声を出してダウンをしたと判定。ワン、ツーとカウントを始める。

(──そうだ、ここは武舞台の上だった。完全に忘れていたな……ほとんど反射的に《惑わしの演舞》を発動してしまったが……)

 と、ここで今の自分がぜえぜえと息を荒くしている事に気がついた。まあいい、ワーウルフさんが立ち上がるまで呼吸を整える事に努めよう。どうせこれぐらいじゃ完全には倒れてくれないんだろうし。

「セブーン、エーイト……お、立ってきたな? どうだ、やれるのか?」

 ワーウルフさんはカウントエイトで立ち上がってきた。審判のガーゴイルさんがいくつか質問を飛ばしている様子だが、続行だろうなと自分は思っていた。立ち上がってきたワーウルフさんの足元がふらついていない事に気がついたからである。

 肉体的なダメージがたまっていると、足に来る物だからな。個々のモンスターさん達にも、ある程度は通用する事柄だろう。

「おし、じゃあ両者再び構えて……ゴー!」

 やはり再開か。って、ワーウルフさんの目が燃えてるな……今度はこちらの番だとばかりに。体は氷でも心は炎とでも言いたいのかね!? これはますます気を引き締めていかないとあっという間に負けるな。

 完全にさっきのダウンがきっかけでワーウルフさんの何かが大きく変わってしまっている。詰め寄ってくるスピードがさらに速くなった上に、鋭いパンチを乱射してくる。そのため、こちらは防戦一方になる展開になってきた。

(避けきれないっ、一発一発がそこそこ威力があるってのにこの手数! しかも時々フェイントまで混ぜて来るから余計に性質が悪くなった! しかも大ぶりの攻撃がないからカウンターも取りにくい……よほど先程食らった《惑わしの演舞》が堪えたと見える)

 盾によるガードと今までの冒険で得てきた経験で回避を行うが、細かくピシピシとワーウルフさんのパンチが自分の体を捉える。このままでは今度はこっちが手も足も出せずに体力が尽きてダウンさせられてしまう。蹴りによる反撃も試みようとはしているが、タイミングが掴めずにいる。こんな至近距離では弓はもちろん、剣もあまり役に立たない……。

(こんな攻撃をリアルでやったらあっという間にスタミナが切れるだろうに、苦しそうな表情どころか楽しそうな表情を浮かべてるな。スタミナ切れを待って……という戦法は使えない。アイテムも防御で両手がふさがっている以上取り出す暇がない。やはりタイミングを掴んで蹴り技か、《ウィンドブースター》で距離を取るかするしかないか)

 地味にダメージが蓄積してきており、このままではやられるのを待つだけだ。それは解っているのだが、なかなか『今だ!』という瞬間がやってこない。このまま鳥かごの中に入れられるように押しつぶされるしかないのか……? そう思っていたのだが、れていたのは自分だけではなかったらしい。

「何てしぶといんだ! しかもまだ諦めてねえな? これだけ俺のパンチをぶち込んでるってのにまだ心が折れねえのか!?」

 パンチを自分にぶち込み続けていたワーウルフさんの表情が遂に変わった。楽しそうな顔は、最初の方はともかく途中からは演技だったのかも知れない。

 だが、はっきりとその感情がはっきりと表に出てきたこの瞬間は自分にとってチャンスだった。その発言と共に緩んだパンチの合間をぬって、ようやくまともな反撃となる右ミドルキックを叩き込めたのだから。

(今回の我慢比べはこっちの勝ちだな)

 ミドルキックが入った事で、ワーウルフさんの攻撃がストップする。さらに相手の体内に響いてダメージを与える蹴りのアーツ《芯響蹴》でさらなる追撃ダメージを稼ぎ、流れをこっちに引き寄せようとした。だが、自分が繰り出した蹴りをワーウルフさんは両手でがっちりと掴みとってきた。しまった、こちらの蹴りの動きを見切られていたか!?

「残念だがそうはさせねえよ! 今度はこっちのカウンター技、《ドラゴンスクリュー》を食らえ!」

 掴まれた足を回転させるように捻ってくる。ここで変に逆らうと足が破壊されると感じた自分は、止む無くワーウルフさんにされるがままに技を食らう。視界が天地を何度かぐるぐると交互に映し出された後に、地面に叩き付けられた。

 まずい、足の破壊こそ免れたものの結構なダメージを受けてしまった。しかもうつぶせ状態になってしまったので、ワーウルフさんの姿が見えない。急いで立ち上がって体勢を整えなおさないと……

「そしてもう一発だ!」

 だが、立ち上がろうとした自分の背中に重い物が落ちてきた。おそらくワーウルフさんが全体重を乗せての追い討ちを仕掛けてきたのだろう。自分の口から「かはっ!?」という声が漏れる。それと同時に体から力が抜ける。もしかしてこの状態が──

「ダウンだ! それ以上の追撃は認められねえぞ! カウントを始めるぜ!」

 審判であるガーゴイルさんの声が聞こえてきた。やっぱりこれがダウン状態か、ここからテンカウント以内に起き上がれないと負けになってしまう。だが、こういうカウントはカウントセブンかエイトあたりまで休むというのが一つの手段だったはず。焦るな、自分。

「ワーン、ツーウ」

 カウントがきちんと聞こえているって事は、意識もしっかりしてるな。行動を阻害したりするような状態異常にはなってない。悠長にはしていられないが、ここで一度深呼吸。

「スリィー、フォー」

 よし、落ち着いたことで体の感覚が戻ってきた。指も動く、足も大丈夫。幸い足そのものへのダメージは変に逆らわずに技を受けた事で、比較的軽微な範囲に収まったのだろう。

「ファーイブ、シーックス」

 ここでHPゲージをちらっと見てみると、じわじわと回復していた。なるほど、ダウンするとHPが回復する仕組みになっているのか。だが、おそらくそれなりの速度で回復しているのはこれが最初のダウンだからだろう。二回目のダウンではそんなに早く回復しないはずだ。そうじゃないと永久に戦いが終わらなくなってしまうからな。

「セブン、エーイト」

 おっと、そろそろ起き上がらないと。力が入るようになった体を起こして両足で立ち上がる。大丈夫、まだまだいけるな。

「おっと、立ち上がったな。どうだ、まだやれるか? 厳しいようならギブアップも認められるぞ?」

 審判のガーゴイルさんはそう確認を取ってくるが、まだギブアップするには早いだろう。なので「もう少し頑張ってみます」と伝えておいた。とはいえ、相手もカウンター技を持っている事が判明したわけで、これでむやみやたらと蹴りを繰り出す訳にもいかなくなってしまった。

 さて、そうなると攻撃手段がかなり狭まってくるな。何とか距離を取って弓かスネークソードによる攻撃を仕掛ける方向にもっていきたいが……

「では両者構えて……ゴー!」

 とはいえここからあっさりと負けてしまう展開を迎えるのは少々癪だし、何とかなる様にしたいな。まだこの戦いの決着はついていないのだから。
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