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連載

闘技場その5

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 まだ自分は終わった訳ではない、そう思って立ち上がったまではよかったが……六:四の割合でお互いの体力を削り合う戦いが繰り広げられることになった。ちなみに自分が四の方。お互いすぐに使えるの手札の内容が大体わかってきたために、遠距離の弓、中距離のスネークソードにある程度能力を割り振っている自分は懐に入られると押し合うための力が足りない。

 もちろん一定の距離を取れれば自分が一方的に攻撃できるのだが、《ウィンドブースター》や《大跳躍》などのスキルを使わないと距離が取れない。そして距離を取ってもその距離を維持し続ける為のスピードが自分にはないので、すぐにワーウルフさんに詰められてしまう。そのため攻撃の割合が六:四になっているのである。

(このままでは……勝てない。だが、一発逆転の手段なんて……)

 《七つの洛星》も《サクリファイス・ボウ》も今回は除外だ。七回も高速で動くワーウルフさんに矢を当てられるとは思えないし、《サクリファイス・ボウ》はこんな闘技場で使って良い技じゃない。《プリズム・ノヴァ》は詠唱する時間がないのでこれも使えない。

 唯一使えそうなのは妖精の記憶が妖精の黒本に変わった時に習得した《アンノウン・プレッシャー》だが、アレは発動するとHPを半分、MPを全部消費する博打技だ。そしてMPがしばらく回復しなくなる制限もつくので、使ってしまったら《ウィンドブースター》や《フライ》と言った移動手段が使えなくなる。

 有効な手段が思いつけないまま体力の削り合いが続いたが、自分に蹴りを入れて後ろに軽くのけぞらせつつ後方に突き飛ばしたワーウルフさんがこう切り出した。

「このままどちらかが倒れるまで削り合いをやるのも悪くはねえんだが、これだけ戦える戦士に敬意を表してとっておきの技で決めさせてもらう事にしたぜ!」

 とっておきとはこれまた。だが、はいそうですかと食らってあげるわけにもいかない。再び突っ込んで突きや蹴りを放ってくるワーウルフさんの攻撃を何とか盾でいなしつつ、タイミングを見計らって反撃の蹴りを繰り出した自分だったのだが、この自分の蹴りに合わせてワーウルフさんも蹴りを合わせてきたのだ。そしてぶつかる双方の蹴り。

「ぐんぬぬぬぬ!」「おおらあああっ!」

 クロスするようにお互いの足がぶつかり、そこから相手を押し込もうとする。そしてこの力比べに負けたのは自分の方だった。足を払われるような格好になり、バランスを崩したところへ容赦なく追撃の前蹴りが飛んできたことに耐える事が出来ず、自分の体はまたも吹き飛ばされた。

 ある程度転がった後、すぐさま立ち上がったのだだ足が自分の言う事をあまり聞いてくれない。これは、ダメージを受けすぎたが!? そしてとっさにワーウルフさんの方に視線を向けると、ワーウルフさんは空に高く跳躍した。

「奥義、幻闘乱迅脚げんとうらんじんきゃく!」

 奥義の名前を宣言しながら、こちらに技を繰り出してきた。いくつもの分身? を生み出して、その分身を伴って空中から飛び蹴りの体勢で急降下して迫ってくる! 足が効かない、手も持ち上がらない……これは、どうやっても避けられないっ!

「ぐああああああっっ!!?」

 自分の顔面や上半身に何度も蹴りと思われる攻撃が何発も降り注ぐ。そしてことさら重い一発が顔面に入った後、自分は膝からばったりと闘技場の床に崩れ落ちそうになったのだがそれを必死でこらえた。

 なぜならば、ここでもしダウンをしてしまったらもう立ち上がることはできないだろうと感じ取ってしまったからだ。そこにこれといった理由や理屈はない、そうなるだろうとただ本のように感じてしまった。

(ここでダウンして負けとなっても恥ではないはずだが……だが、自分のどこかがそれを許さない。やるからには何事にも全力でと言ってきた自分がそれを許さない)

「ぐ、うぬぬぬぬ……っっ!!」

 歯を食いしばり、震える足でなんとか踏ん張りつつ両手にも力を込める。左手に持っていた弓は幸い手から離れていなかったようで、感触が戻ってくる。立ち上がるんだ、まだ、まだ終わりにするには早い!

「う、嘘だろ!? 俺のとっておきは当たったはずだ、直撃したはずだ!? なのにまだ……お前は倒れねえってのか!?」

 何か声が聞こえたがどうでもいい、もう一度完全に立ち上がって前を見る! あれだけの技を放った以上、向こうもあまり後がないはず……まだこちらにも十分に勝ち目はある! だから全身に力を込めて──立つんだ、もう一回だけ立ち上がってみせるんだ!

「ううう……っおおおおおおおお!!」

 そんな自分の口から出た絶叫と共に、自分はもう一度立ち上がった。ある程度足にも手にも力が戻ってきた。これならばまだやれる! 懐に手を突っ込み妖精の黒本を取り出す。ワーウルフさんは一定距離を取って動いていない。都合が良い、審判のガーゴイルさんも止める様子はないから、攻撃に移っても問題はないはずだ。

「返礼だ、受け取ってくれ! 《アンノウン・プレッシャー》!」

 MPがこれでしばらくの間回復しなくなってしまうが、もう後先考える余裕はない。ここから削り合いに移行したら、大技を食らってしまった自分が間違いなく先にやられる。ならばリスクが高くても、こちらも大技で相手に攻撃を仕掛けるしかない。そうしなければ、勢いに飲まれる。

 魔法を発動した直後にズン、という音が周囲に響いた。それとほぼ同時にワーウルフさんが天に向かって両手を向けて何か大きなものを支えている体勢になった。正体不明の何かに押しつぶされそうになっているから、それを堪える為に取った行動だろう。

 しかし、こっちの残っていたMPとHPの半分を食らって発動した《アンノウン・プレッシャー》は、そんな事は知った事かとばかりに押しつぶしていくようだ。ワーウルフさんの体勢が片膝立ちに変わり、うずくまるような姿に変わって……

「ぐおわっ!?」

 という声と共に、ワーウルフさんはズズン、という音と共に不可視の存在によって地面との間で押しつぶされた様だ。さて、これで決着となってくれればいいのだが……そうは問屋がおろさなかった。ダウン判定を受けてカウントナインまで取られたが、あちらも意地をかけて立ち上がってきたのである。

 しかし、両方とも満身創痍に近い状態であると言ってよかった。お互いフラフラな状態だし、ワーウルフさんは分からないが自分は《アンノウン・プレッシャー》を使った影響でHPも削られたし、MPはペナルティを受けたので一切回復せずにゼロのまま。今の自分にできる事と言えばアーツを使わない通常攻撃だけである。だが、お互いにそれでも引くつもりはなかった。

 ゆっくりと闘技場の中央部にお互い歩み寄る。なぜ弓攻撃をしないのかと問われれば、腕がもう震えてまともに狙いをつける事が出来ないからだと答えるしかない。最後の一撃を振うために、示し合わせたかのように自分もワーウルフさんもゆっくりと歩み寄ったのだ。もう最初の時のようなアーツの打ち合いも高速戦闘もいっさい無い。ただ歩み寄って、最後の一撃を相手に当てる。それだけだった。

「──行くか」

「──おう」

 自分とワーウルフさんはそう一言だけ言葉を交わし、しばし睨みあう。そして自分は右足のハイキックを。ワーウルフさんは右手の正拳突きを繰り出した。先に命中したのはワーウルフさんの正拳突き。だが本来の力が出ていないその一撃は、自分のハイキックを止めるほどの威力ではなかった。そしてその直後、ワーウルフさんの側頭部に自分のハイキックが命中する。そして、双方ともほぼ同時に闘技場の上に崩れ落ちた。

「お、おっとダブルノックダウンかあ!? カウントを取るぜ!」

 そして数えられていくカウント。だが、自分もワーウルフさんも再び自分の力で立ち上がるだけの力は残っていなかった。そのため、今回の勝負は引き分けという結果に収まることになったのである……。
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戦闘シーンは書くのがムズイ。
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