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隠しダンジョンである、森での戦い

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 翌日、普段よりも少々早くログインした影響で待ち合わせ時間に余裕があった自分は、アーツ《幻闘乱迅脚》発動時に出現する幻影の設定に頭を捻っていた。説明をしっかり読むと、出せる幻影は今まで一定以上の付き合いがあるとか、死に別れたとか、とにかくそれなりの関わりがある存在に限られるらしい。

 また、幻影の外見と強さは比例しない。つまり滅茶苦茶強いプレイヤーやこの世界の人を幻影に設定しても、《幻闘乱迅脚》を使う本人が弱ければ何の意味も無いという事になる。あくまでそのへんは幻影という事らしい。つまりこれは、見た目だけを変えるアバター装備みたいなものだ。

(ふむ、結構リストには登録できる人が多く明記されているな。この中から選ぶのか……)

 設定できるリストに浮上してきたメンツの内容は、まずブルーカラー組のツヴァイ、ミリー、ノーラ、カザミネ、レイジ、ロナ、エリザ。続いて共闘したこともあり、ちょこちょこと関わりがあったグラッドの名前がある。その一方でシルバーのお爺ちゃんは無いな。それからヒーローメンバーのレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンク、ブラックの名前もリストに上がる。

 プレイヤー組はこんな所か……続いてこっちの世界の住人メンバーは、フェアリークィーン、龍ちゃん、龍王様。砂龍さんに雨龍さん。──エルに、蹴りの師匠であるルイさん。大討伐で一緒に戦ったガルザさんの名前もある。ダークエルフのライナさんの名前が最後か。

 獣人連合でもそれなりの人には出会っているが、南街で共闘したあの隊長さんの名前がないのはなぜだろう? まあいいか、あの人の存在を幻影とは言えあちこちで見せるのは色々とまずい事になるだろうし。

 さて、とりあえず上位四名を選ぶか。この四名は《幻闘乱迅脚》を使うと絶対に幻影として登場する存在となるので、特に誰を選ぶかは重要だろう。そうなると……やはり、まずはエルを選びたい。彼女の肉体も魂ももうこの世界のどこにもないが、幻影という存在で少しでも残したい。

 そして蹴りの師匠でもあるルイさんもチョイスしたいな。これで二枠が埋まったか……女性二人で枠が二つ埋まったので、残りの枠は男性二人にしようか。誰が良いかな。

 男性でキックが似合うとなると、これはやはりヒーローの出番だろうな。ただレッドとかだと必要以上に派手になるから、ここはブルーをチョイスする事にしておこう。そして最後の枠は誰にしようか……ツヴァイ達はやめとこう。そもそも鎧姿であるツヴァイやレイジ、侍風のたたずまいであるカザミネに飛び蹴りはあまり似合わない。同じ理由でグラッドも外す。

 ──そうなると選択肢として残るのは砂龍さんか……さすがにここに龍王様をだすのはまずいだろう。龍王様はランダムで増えた幻影の中にも絶対に出ないように設定しておく。

 これで《幻闘乱迅脚》を使った時に、絶対に登場してくるメンツが決まったな。残りの面子はランダムで幻影の数が増えたときに出て来る確率を均等にしておこう。設定が終わって時計を確認すると、あと数分後に待ち合わせ時間になるというタイミングだった。そろそろ向かおうか……といっても、集合場所は泊めてもらったハーピーの家の玄関なので、今から向かえば絶対に遅刻はしない距離でしかないが。

 準備の確認を終えてから部屋を出て、玄関に降りると今日のPTメンバーがほぼそろっていた。今日はミリー、カザミネ、ロナちゃん、シェルフィルさん、ケンタウロスの皆さんの中から一人、そして自分の六人PTデイ粉う予定である。この場に居ないのはロナちゃんだ。

「来たか、アース殿。貴殿に紹介しておこう、同族のリフールだ。前衛に立ち、盾を用いて仲間を護るという事を得意とする戦士だ」

 初顔合わせとなるケンタウロスさんの名前などを、シェルフィルさんが紹介してくれた。そのリフールさんに向かって、自分は軽く会釈する。リフールさんも自分に向かって軽く会釈をした後に自己紹介を行ってきた。

「はじめてお目にかかる。シェルフィルから案内されたリフールだ。繰り返しになるが、鎧で身を固めて盾役を務める事を得意としている。ただ右手に持つ獲物が一般的な片手剣ではなく、直接殴りつける為のセスタスであることと得意とする飛び道具が弓矢ではなくチャクラムであるので、違和感を感じるかもしれないがどうかご理解願いたい」

 ほう、確かにケンタウロスと言えば獲物は剣か馬上槍ランス、飛び道具は弓矢というイメージで良く書かれている。そういった所から見れば確かに珍しいというか違和感を感じる人がいるかもしれない。でもまあ、個性という事で考えれば別段おかしい事でもない。

「アースと申します。私もメインは弓矢での攻撃ですが、蹴りやこのような変わった剣も使いますので特に違和感などは感じておりません。本日はよろしくお願いします」

 こちらも簡単な自己紹介と、使う武器の内容を申告しておく。自分の反応を見たリフールさんが「アレ? それで終わり? ツッコミは無いの?」という感じのちょっと間の抜けた表情を浮かべているがこれはスルーする。周りからいろいろ言われてきたのかも知れないが、前衛に立って味方を護るタンカーという役割を十分にこなせるのであれば武器は何を使っても良いと思うけどねえ。

 極端な話、モンスターを羽交い絞めとかの手段で動きを封じて「俺ごと貫けぇ! 大丈夫だ、俺は平気だ!」とやってもまあ、いいわけで……要は他の仲間に攻撃を流さなければ問題はない。──いや、さすがにこれは無いか。極論すぎだ。

 ロナちゃんも時間前にやってきたので、早速ダンジョンに向かう。自分以外はダンジョンの場所を知っているとの事なので、大人しくついて行く。歩いて十分ぐらいの所に、そのダンジョンの入り口、今回は森だが……はあった。一本の細い獣道があり、そこが入り口となっているようだ。

「基本的に危険すぎる罠とかは無いんですけど〜、モンスターの中に簡単な落とし穴を作ったりするのがいますので気を付けてくださいね〜」

 ミリーのそんな忠告が入る。なるほど、ダンジョン自体には罠が生成されていないが、モンスターが罠を生み出す事はあると。どれぐらいのレベルの罠なのかは、実際に見てみないと分からないな。自然物ダンジョンなので、もしかしたら自分が罠はないと考えているかもしれないと、ミリーさんは思ったのかも知れない。だから忠告してきたのだろう。

「了解です、注意します」

 ミリーの忠告にそう返答してからダンジョンになっている森の中へ。森の中はそこそこ明るい。極端に木々に光が遮られて視界が悪いと言ったことは無いようだ。近場に落とし穴とかも無い、な。

「では、私が先頭に立つ。行こうか」

 リフールさんの言葉に従って全身を始める。ちなみに一番後ろにはシェルフィルさんがついた。一番後ろにも防御力が高い人を配置するべきだという行軍の基本に忠実に従った欠課である。これで不意を突かれてバックアタックを仕掛けられても即座に対応できる。まあ、そんな状況には《危険察知》の能力を持っている自分が早々にはさせないがな。っと。

「早速お出まし、数は八匹。初めての遭遇になるのでモンスターの種類は判別できない。右斜め前からこちら側に向かってきている様子」

 もう少し進むと道が二股に分かれている所までやってきた時にモンスターのご一行様の反応が。えーっと、ツヴァイは何て言っていたっけ。モンスターはアリとかイノシシとかシカとかだって話だったか? そうなると、イノシシ系だと突進系統の攻撃が厄介だな。

 他にアーツとしてありうる攻撃は、蟻は酸、シカは角による刺突攻撃とかかな? ここのモンスターはアーツを使ってくるってツヴァイから注意されている以上、いつも以上に注意していかないと。

「この匂い……イノシシだ! 奴らの直線状に立つなよ!!」

 モンスターのおさらいを頭の中でしていると、リフールさんがそう忠告を飛ばしてきた。匂いと言われてもさっぱりわからないのだが……そう言う能力を持っているんだろう。プレイヤーが取れるスキルにももしかしたら嗅覚があるのかも知れない。

 まあ、そんな考察は後回しだな。イノシシの突進攻撃は確かに厄介だ。それにモンスターとの距離があるって事は、それだけ助走距離があるという事になるわけで。

「現状では、まだ向こうはこちらに気がついていない様子。一定の速度……おそらく歩いていると思われるが、そろそろこちらの視界にも入ってくる頃合い」

 さらに《危険察知》で得た情報をPTメンバーに流す。地形上、まだ黙視できないがこのまま接近して来るモンスターがこちらに近寄ってくるなら、角を曲がった所でその姿を見る事が出来るはず。そして色々と準備をしながら待ち構えていた自分達の前に姿を現したのは、丸々と太ったかなりの大きさを持つイノシシ八匹の団体さんだった。

「撃てえ!」

 再びリフールさんの号令が飛ぶ。それと同時にミリーの魔法、シェルフィルさんと自分の矢がイノシシたちに襲い掛かった。先制攻撃を受けたイノシシたちは怒り狂ってこちらに向けて走り出してきた。距離が詰まった所でカザミネの大太刀から飛ばす斬撃風の飛び道具とリフールさんのチャクラム攻撃が追加される。それで二匹ほどは倒せたものの、残りは猛突進をこちらに仕掛けてくる。

「余裕をもって回避! その後は私が奴らの注意を引きつける!」

 三度リフールさんの指示が飛び、それに従って全員がイノシシの突進攻撃を回避する。速度はかなり早かったが、直線的すぎる攻撃ならばこの場に居るメンバーにとって回避行為を成功させるのはたやすい事である。

 避けられた事で背中を晒したイノシシたちの後方に、自分とシェルフィルさんの矢が飛ぶ。ミリーは大きめの魔法を討つための詠唱に入り、リフールさんが盾となるべく前に出る。そしてその横にカザミネとロナが並ぶ。

「私の盾を割らなければ、後ろに居る者達には傷一つ付ける事は出来ぬと心得るがいい!」

 ガンガンガン! と盾をナックルで打ち付ける事により、リフールさんがイノシシたちの注意を引く。これもまた《タウント》系の挑発アーツの一つなのだろう。イノシシたちの視線がリフールさんに釘付けとなったことが分かる。再び突進してくるイノシシたちだったが、今度は助走距離が短いのでリフールさんの盾に向かって殺到してもリフールさんを突き飛ばすことはできなかった。

「スキありだよ!」「今度はこちらの番です!」

 遠距離手段が乏しいロナとカザミネが、ここぞとばかりに飛び出してイノシシに攻撃を仕掛ける。ロナの蹴りがさく裂し、カザミネの大太刀がイノシシの胴体を捉える。しかしイノシシ側もさるもので、なかなか倒れない上にアーツでの反撃も行ってきた。その反撃とは……

「っ!? 耳が! またこれなのお!?」「平衡感覚が……まずいですね、この状態での接近戦は無謀すぎますか」

 イノシシが数匹ロナとカザミネに向かって叫んだ直後、ロナが耳を抑え、カザミネがふらついて後退した。状態異常を引き起こす音波が混じった咆哮が、このイノシシたちの使うアーツらしい。これは厄介だな、音波系は防ぎにくい攻撃の一つだ。少しでも下がりやすくするために、自分とシェルフィルさんの矢がイノシシたちに飛ぶ。

「二人とも下がってくださいね〜、大きくのけぞらすために魔法攻撃行きますよ〜《クリムゾン・ボムズ》」

 こんな時でものんびりとした声でミリーが魔法を放つ。複数の火球がイノシシたちに向かって放射線状に飛んでいき、次々と炸裂。爆発の規模は《エクスプロージョン》には劣るものの、威力はそれなりにあるらしい。派手に爆発するのではなく、濃縮した火の力を爆発の規模抑えて威力の拡散を防いでる……のかも知れない。詳しくは知らないが。

 実際、先程の魔法攻撃を受けたイノシシたちは大きく怯み、体勢を崩したロナやカザミネへの追加攻撃を諦めたようだ。

「やはりこのイノシシにはあまり挑発行為の効きが良くないが……こっちだこっち!」

 もう一度盾を叩いて大きな音をだし、イノシシをひきつけ直すリフールさん。最初から結構強敵だな。
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