トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
194 / 390
連載

久々の鍛冶仕事

しおりを挟む

 そして翌日。ログインして木工や鍛冶と言った生産スキルをメインに移動させてから、自分の武器の具合を見ているとドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい、どちら様? ドアは開いているから入りたいならどうぞー」

 そうドアに向かって声を出すと、入ってきたのはツヴァイにレイジ、そしてケンタウロスさんが二人。普通の個室ではまず入りきれないよなーとかどうでもいいことが頭に浮かぶ。

「あ、アース。済まないけどちょーっと俺達の武器を見て貰えないか? 具合がどうにもおかしいような気がするんだよ」

 そう言ってきたのはツヴァイ。どういうことかと話を聞いてみると、ツヴァイ達は昨日、森の中ボスとでもいうべき存在と一戦交えたらしい。その退治した中ボス? は火に耐性のあるでかいイノシシで、名前をタイラントフレイムボアというらしい。

 で、当然火の属性を持っているためにツヴァイの火の魔剣は効果を発揮することが出来ず、控えとして持っていた武器を用いて戦ったとの事。しかし次第に防戦一方になり、撤退する方針になったが背中を向けて走り出してはただの的になる為じりじりと後退しながらの戦いになったらしい。

 とにかく生き延びる事だけを考えて戦ったために、武器も防具も相当に酷使。それでもツヴァイ達は死者を一人も出さずになんとか撤退する事に成功。タイラントフレイムボアも自分の縄張りより外に出て行けば興味を失った様に森の奥に消えていったらしい。アレは見逃してもらったと考えるべきだな、とはレイジの言葉である。

「とにかく疲れちまったんで、昨日は街まで戻る気にもなれなくてよ。だが、今日ログインして武器を軽く素振りしたら、どうにもおかしいって気がするんだよ。そこでアースが鍛冶に手を出していたって事を思い出してさ、武器の調子を見れないかって頼みに来たんだ」

 ふうむ、そういう事か。そしてツヴァイに同行してきた他の三人も理由は同じなのだろう。武器は命を預ける大切な物だからな、戦闘中に耐久の限界を迎えて『バキン!』と折れてしまったら大変の一言では済まない。だからこそ武器のメンテナンスは大事なんだが……とにかく見てみようか。応急処置で済むレベルかどうか確認しないと。

「わかった、なら具合が悪そうな武器、もしくは防具を出してほしい。一度見てみない事には何とも言えないし、もし致命的な問題が出ていた場合は街に戻って鍛冶屋さんにしっかりと直してもらわないといけなくなるだろう。多少直すだけで済むのであれば、自分が外で処置を行う事で修繕が可能だな」

 そうして出されたのは、ツヴァイが大剣、レイジが片手斧と盾、二人のケンタウロスさんはどちらもランスだった。さて、どんな感じかね……うーむ、これは……よろしくないな。

「まず、レイジの盾、ケンタウロスさんのランスは簡単な修繕を行えば問題ない。これは自分がちょいちょいとやれる範囲で済むので、この後直すよ。そしてかなりダメージが残ってるのがレイジの片手斧だな。これはそれなりの修繕を行わないとすぐダメになるから、先に言った三点の修繕が終わった後に取り掛かるよ。そして最後のツヴァイの大剣だが……駄目だ、残念だが剣が完全に死んでいる」

 そう言った後にツヴァイの大剣を分解する。いくつかのパーツに分かれた大剣だが、大剣の剣身の内側に走ったヒビが見やすいように色付きのペンでちょいちょいとなぞっておく。

「ツヴァイ、見えるか? この剣は表面は何でも無いように見えるが、内側にこんなひびが入ってしまっている。どうやればこんな風にヒビが入るのか分からないが、とにかくこの剣は残念だが寿命だ。さっき教えてくれた戦いで力を振り絞りすぎて精も根も尽きたんだろう。それでも自分の主人を守り通したんだから大したもんだ。ちょっと見てろよ?」

 自分が鍛冶用のスミスハンマーを、軽くツヴァイの使っていた大剣の剣身に向かって振り下ろす。それだけで大剣の剣身は私の仕事はこれで終えたとばかりに無数のヒビを浮かび上がらせてばらばらに砕け散った。本当によく持ったものだな、一種の奇跡としか思えない。そんな砕け散った剣身を、ツヴァイも信じられないといった表情を浮かべながら見ていた。

「この通りだ、とても実戦で耐えうる力はこの大剣には残っていなかった。ちょっとおかしいけどまだ大丈夫だろなんて考えず、自分の所に持ってきてくれて本当によかった……もしこの剣をあの森にもっていっていたら大惨事に繋がっていたかもしれないぞ」

 目の前で突如武器が砕けると言うのは動揺を誘われる。最初から砕ける事を前提にしているのならいいが、普通大剣は砕ける事を前提に使う武器ではない。某RPGにあった一度しか使えない代わりに途轍もないダメージを与えるガラスの剣とかは数少ない例外だ。

「──こいつには長い間世話になったんだが、そっか、寿命じゃ仕方ないか。新しいのを探さないとな……魔剣は強いが、今回みたいに属性の関係などで無力化される事もあるからやっぱり基本的な武器は必要になってくる。アース、済まないが大剣は打てるか?」

 ツヴァイの問いかけに自分は首を振る。何せ自分の鍛冶仕事は弓関連と変な武具を作るために行われてきたので、打ったまともな剣はかなり前に打ったショートソードとかぐらいだったかな……もう記憶の片隅にしかない。そんな自分が大剣を打っても、ゴミしかできないだろう。どう転んでもこんな場所で行われる戦いで主人の命を守る、そんな良い武器にはなるわけがない。

「無理だ、大剣は一回も打ったことがない。だから作ってやる訳には行かない。ナマクラを友人に持たせて死なせたなんて笑い話にもならない」

 ツヴァイも自分の言葉に「いや、こっちも突然無理を言って悪かったよ」と詫びてきた。自分がそれなりに経験を積んで良い物が作れるのであれば良かったんだが、ワンモアの生産システムの関係上、どんな名工であっても作った経験のない武器はナマクラにしかならない以上やむを得ない。もちろん完全なナマクラという訳ではないが、それでも一級品が出来上がることは絶対にない事は断言できる。

「そうするとどうすっかなー……昨日戦ったあいつの縄張りは大体わかったからそこに近づかなけりゃいいけど、その他にも属性を無力化してくるような奴が出てきたら魔剣一本だと厳しいし……」

 うんうんとツヴァイがう唸っている姿を見て、助言をする事にした。こういう時は周りの助言を受けた方が良い方向に進む事が多い。

「だったら、新しい武器の入手を兼ねて今日はいろんなところを歩き回ってみてはどうだ? もしかしたら掘り出し物が見つかるかもしれないし、ここで変に焦ってもしょうがないと思うんだがどうだろう?」

 自分の言葉を聞いたレイジも「そうだな、武器がない以上はそうする方が良いぞ、ツヴァイ。別段攻略を急がなければいけな理由も今はないしな。一人で街に行くのが不満というなら、俺も付き合おう。ミリーたちも事情を話せばついてくるだろうしな」と乗っかってきた。

「じゃあ今日は休みにして、こっちのPTは街に繰り出すか! そちらもそれでいいかな?」

 ツヴァイの問いかけに、ケンタウロスのお二人も「そうだな、この前のイノシシとの戦いは激戦だったからな。ここはじっくりと疲れを抜いておく方が良いかもしれないな」と同意していた。

「そうなると、無理に自分が武器の修理をしなくても良さそうだ。街の鍛冶屋さんに頼んだ方が良いんじゃないかな?」

 と自分は聞いてみたのだが、そっちは修理して欲しいと言われてしまった。別段修理をする事自体は構わない。ただ、自分じゃなく町の鍛冶屋さんに頼めば早く街に出発できるんじゃないかなと思っただけで。それならさっさとやってしまおうか。そうしないといつまでたってもツヴァイ達が出発できない。待っている間に、昨日ツヴァイ達が遭遇してしまった中ボスの縄張りと思われる場所を地図に書き込んでおいてもらうかな。

 そしてツヴァイがPTメンバーに自浄の説明に行った後、ハーピーの母親にやりたい事を説明。そして許可を貰った後にハンマーを振う。携帯用の炉があるので、武器製作は厳しいがある程度の修繕作業は行える事がここで生きた。

 とりあえず多少へたっているだけのレイジの盾、ケンタウロスさんのランスに取り掛かる。レイジの盾は表面にダメージが蓄積し、凹んだり多少ゆがんだりしている部分を修繕。幸いにして盾の中心はダメージを受けた形跡は感じられないので、この程度の修繕でほぼ新品にまで戻す事が出来た。

 次はケンタウロスさんの使っているランスだが、これも穂先が多少へたっている程度。ただ、単純な金属疲労で穂先が少し曲がったという感じではない。タイラントフレイムボアの火で炙られたのかね? このままではランスの性能を引き出せなくなってしまうので、きちんと本来の形を取り戻すように修繕を行う。

 そしてレイジの斧に取り掛かろうとした所で、ツヴァイ達のメンバーがやってきた。修理の進み具合をツヴァイに聞かれたので、後はレイジの斧だけと返答を返して待っていてもらう。

 さて、最後に残ったレイジの片手斧だが、これは修繕するためにはちょっと分解が必要だ。いくつかのパーツに分解し、まずは斧の刃から修繕を行う。刃全体に新しい修繕専用のインゴットの一部をゆっくりとしみこませるようにまんべんなく打ち込んでゆく。斧のいくつかの部品にもかなり金属疲労の様な物が見受けられたので、こちらも補強を行っておく。

 組み立てる前に斧の刃部分を研ぎ直して鋭さを取り戻させてから念入りにチェックを行う。何にも不具合が出ていないことを確認した後に元通りに組み立てて最終確認。この最終確認にも問題は見受けられなかったことを確認してレイジに返却する。結局斧の修繕に二〇分はかかったな。やることを言葉にすれば短いが、作業をするとなると手間がかかる。まあ、生産行為は時間がかかるものなんだが。

「綺麗になったな、ありがとうアース。報酬はこんなもので良いか?」

 レイジが渡してきた金額は二四〇〇グロー。まあ、大体相場だ。ケンタウロスのお二人も六〇〇グローを渡してきた。こちらも槍の傷み具合から考えれば相場だな。武器の修繕が終わった事で道具を片づけている自分の背中側から、ツヴァイの声が聞こえて来る。

「うーん、やっぱりアースが一人いるだけで色々と助かるよなぁ。戦える鍛冶屋、バトルスミスが欲しくなってくるぜ」

 数は少ないが、自分のように生産能力と戦闘能力を持つ人は今でもいる。武器がへたった時でもその場で修繕や応急処置が取れる事から、敵が強くなるにつれて重宝されるようになったバトルスミス、現地で薬草を見つけて収集し、足りなくなった回復薬を提供できるマジックドクターなどが居る。

 バトルスミスはその場で長時間狩りつづけるキャンプと呼ばれる狩りで。マジックドクターは魔法と治癒を駆使できる事で、PT生存率を飛躍的にあげる。

 ただしどちらも戦闘と生産の二足の草鞋を履く以上、特化した人にはかなわないのでなり手は少ない。PTを組んだときに居るとありがたいが、それを自分がやるのはちょっと……という感じになるそうだ。って、そういや今更ながら思い出したぞ。

「ツヴァイ、今更ながら思い出した事なんだが……以前ファスト、ネクシア、サーズに大量のモンスターが押しかけた時の報酬に、復刻玉ってのがあったんだが。おそらくお前も貰ったんじゃないのか?」

 あの時のブルーカラーの実力なら、サーズの方で活躍して特別報酬を受け取っていてもおかしくはない。だから復刻玉を手にしていた可能性は十分ある。

「──全部使っちまった。あれ便利すぎてついつい……」

 ツヴァイの返答にヲイヲイとツッコミを入れたくなる。とは言え、使っちまったものはしょうがないか。

「修理は終わったようですね〜、それでは街に行きましょうか〜。アースさん、またです〜」

 ミリーの声と共にツヴァイ達は街のある方向に歩いて行った。さて、こちらのPTは今日も狩りかな? 色々と談笑しながら待っていてくれていたPTメンバーに挨拶をしながら近寄る。さて、強化が入った部分を確かめるためにも頑張りますか。
************************************************
スキルレベルは上がってません。
しおりを挟む