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打ち合わせ

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 翌日。ログインした自分は南街を出発し、アクアに乗って北街を目指す。アクアの飛行能力のお蔭で、北街の近場まで到着するまで大した時間はかかっていない。部下達には先に向かうように指示してあるから、すでに街の中に居るはずだ。直接街まで乗り込むとアクアの姿でちょっとした混乱を招きかねないので、ある程度街から離れた場所でアクアから降りて街を目指す。アクアはちびモードになってもらっておく。

(それにしても、その特殊性から隠蔽兵の補充は遅々として進んでいないか。影働きという特殊性から、訓練をすればある程度使い物になるという訳ではない。訓練は当然大事だが、そこからそれ相応の経験、そして何より影働きに徹することができる意思が必要だからな……人材が足りないだろう)

 門番さんに挨拶して北街に入って宿屋を取る。カリーネさんとの待ち合わせ場所は、今回も義賊リーダーが聞いてくることになっている。時間は……あと一時間は経たないと暗くならないな。それまで時間を潰すしかないか……でも武器の修理を始めとした街でやっておくべきことは南街でやってしまったし、狩りに出るにしてもこれまた中途半端……うーん、上手く行かないな。

(そうなると、やれる事は薬剤の調合か。手間のかかる快復草を用いた調合をやって、ハイレア等級の回復ポーションを狙っていくのも悪くない。今回の見回りも、何にも起きずにスムーズに終了なんて事にはならなそうな予感がするんだよな。──いや、こんな予感は外れた方が良いんだが、今までが今までだし考えに入れておかないとなぁ。今までが今までだし)

 今まで関わってきたトラブルの数々を思い出し、ため息をつきながら調合セットを取り出す。とりあえず義賊リーダーが来るまではここで調合だ。義賊の部下たちに配る分も今回は作っておこう。ラウガの様な化け物は出てこないかもしれないが、獣人の皆さんは全般的に力が強い。

 それに、もしかしたらもめ事を起こした人を自警団が取り押さえる時に怪我を負うかもしれない。そんな時に使う事が多いだろうから、普段よりも多めに作っておこう。ダンジョンに行くわけじゃないから、戦利品を入れる為にアイテム枠の空きを作っておくことを考慮する必要がない。

 自分の顔面に、変装用の皮を張り付けて準備を整えてから作業を開始し、調合したポーションをずらっと開いているテーブルの上に並べることしばし、義賊リーダーが静かに天井裏から降りてきた。来たな。

「親分、お待たせしやした。カリーネのお嬢さんから、待ち合わせ場所の指示がきやした。今回も忍者の皆さんが来るようですぜ」

 あ、やっぱり忍者の皆さんは今回も参加するのか。獣人連合の一部を報奨として住処をもらった以上、こういう時には協力するよな。共存共栄という方針で行く方が、お互いのためになるのは間違いないし。

「そうか、では行こうか。それと、今回は何が起こるか分からない状況が予想されるために、お前達にも各種ポーションを支給する。怪我をした一般市民や自警団と言った人達を見かけたら惜しみなく与えろ。それと、わずかではあるがハイレア等級のポーションも制作した。これは大けがを負った罪なき者に使え。良いな?」

 自分の指示に「へい、分かりやした。頂戴いたしやす」と答えてポーションをしまう義賊リーダー。こういったお祭り騒ぎには、必ずと言って良いほど不届き者がやってくるからな。そうでなければカリーネさんが忍者の皆さんだけでなく、こっち側にまで声をかけてこないだろう。普通に見回りをするだけなら、忍者の皆さんが居れば十分のはずだから。

「では案内いたしやす。あと、これは新しい外套になりやす。お着替えをお願いしやす」

 今回は黒に少しねずみ色を混ぜたような色がついた外套をチョイスしてきたようだ。普段使っている外套をしまい、さっさと義賊リーダーの持ってきた外套に身を包む。さて、外もいい感じに薄暗くなってきたから、出発するとしようか。

「頼む。あまり向こうを待たせる訳にもいかんし、すぐに向かう事にしようか」

 そうして義賊リーダーの案内の下、詩文はカリーネさんの待つ集合場所へと向かう運びとなった。さて、今回はどんな話をする事になるのやら。


「お久しぶりでございます、今回も私の依頼を受けてくださり感謝いたします」

 指定された集合場所に到着すると、そこにはすでにカリーネさんと、忍者の皆さん数名が待っていた。待たせてしまったか?

「遅くなりやしたかね? 長時間待たせてしまったとしたら申し訳ありやせん」

 自分の意図を読んだ義賊リーダーが自分の代わりに詫びてくれた。顔は変えられるが、まだ声を変えるアーツはないんだよな。もしかしたらどこかにあるかもしれないし、ぜひ欲しい。そうすれば義賊リーダーにわざわざ話をさせる事にならないのに。

「──安心せよ、我らも集まったばかりであった。貴公らが特別遅かった訳ではない」

 義賊リーダーの言葉に反応したのは忍者の一人だった。声などからして以前のラウガ戦で共闘したプレイヤーの忍者ではないようだな。まあ、そこらへんを深く探るつもりは全くないが……面倒なことになるだけだ。協力関係である事さえはっきりとして居ればそれでいい。実際、魔剣の一件では世話になった恩もある。

「今回皆様にわざわざおいでいただいた理由は、先に文で述べたように近く始まる闘技大会において、影部分の見回り、あるいは排除の助力をお願いしたいからです。どうしてもこういった人が大勢集まる催しが行われると、それに比例して悪事を働こうと言う悪意を持つ者が紛れ込みやすくなってしまいます。スリや言いがかりをつけるなどで他者の金品を奪おうとする者に始まり、浮かれている街の雰囲気を利用して盗みに入り、その家の財産をうばいとる。最悪は殺しまで行う……そういった不届き者が来ないとは言い切れません」

 そうだな、現実でもお祭りとか何らかの祭典だとかでいろんな国からやってくる人が集まる時、そんな人達を狙って悪事を働く連中までやってくる事がある。そう言った連中を入れない、もし入られても阻止する為に、普段より警備が厳重になるのは当然の事だ。ここで、忍者側から手が上がる。

「話は分かる。そのことにおいて、拠点を構える事を許された我々は協力する意思は当然ある。しかし、獣人連合の隠蔽兵の方はどうなっているのだ? 北の街は広い。我々やこちらに来てくれた義賊団の協力があっても満足に見回る事は厳しいだろう。内情を明かしたくないと言う感情は理解できなくもないが、隠蔽兵の補充などは進んでいるのか? そこを知りたい」

 この言葉にカリーネさんは両目を閉じてしばし思考する状態に入ったようだ。数分後、目を開いたカリーネさんは……

「そうですね、ここに居る皆様は内情を言い触らすような方々ではありませんね。お話しいたします。議会の方はラウガの一件にて隠蔽兵の重要性を再確認したらしく、大幅な人員の増加、そしてそれにともない必要になる資金の大幅増額などを決定し、追加人員も送られてきました」

 この言葉を聞いた忍者は、ゆっくりと首を縦に振る。しかし、カリーネさんの話はここでは終わらなかった。

「しかし、忍者の皆様や義賊団の皆様ならばお判りでしょうが、我々は影で仕事を行い、影で処理を行わねばなりません。これはただ訓練をすれば身に付くという話ではなく……前のラウガの一件にて生き延びた者達が必死で新規隠蔽兵の訓練を施しているのですが……まだ陰に潜んで静かに仕事を終える事が出来るといった域にはとても達しておりません。今回の見回りでは、彼らは隠蔽兵として扱いだけの技量がないので苦肉の策となりますが、一般兵士に紛れる形で見回りの仕事をさせる予定になっております」

 ふうむ、まあこんな影働きの技術は一朝一夕では身に付く者じゃない。自分だって最初から〈隠蔽〉をもってスタートして、いろんな経験を積んだから今こうしてやっていけている訳だしな。これはやむを得ない点も多いだろう。

「そして、その穴埋めがあっしら、という事で良いんですかい? こちらは動かせる義賊全員、すでに北街に潜ませておりやすが」

 義賊リーダーの言葉に、カリーネさんが頷く。見張りとかはこいつらは十全にこなすからな、連携プレイで何とかなるだろう。担当地域が極端に広くなければだが。

「なるほど、そのような力量の物を影働きとして扱う訳には行かぬか……承知した、話をしてくれたことに感謝する」

 忍者側も理解の意思を示す。明らかに未熟な者を組み込んだ結果、全体に問題が発生してしまったら元も子もない。そんな愚を犯す訳には行かん。

「ご理解ください。こちらもしても早く質を上げて行きたいのですが、これはいくら急かしても急速に伸びるという事はありませんので……では、詳しい話を始めます」

 そこからは見回りの担当地域に始まり、連絡方法や不届き者を発見した時の対処方なども話し合われた。まあ具体的にはスリとか恐喝は自警団や兵士たちにそれとなくお縄となるように動き、民家などに忍び込み、盗みや住民の命を狙った者は──首の上下が離れる事になる。

 そういった非情の処理を行う権利も、ここで正式に与えられた。裏ではあるが、獣人国の議会からの承認も前もって正式に取り付けてあるそうだ。護る為には、時には力をもってでも原因を排除すべし──という事の様だ。

「以上です、何がご質問があれば」

 一通りの打ち合わせが終わって最終確認を行っている時にカリーネさんがそう聞いてくるが、これには自分や義賊リーダー、そして忍者の皆様も首を横に振る。質問を一々する必要がないほど細かく話し合いを行ったからな。ここにきて聞きたい事は何もない。

「分かりました、ではここを出た直後から闘技大会が完全に終了するまでの間宜しくお願いします」

 こうして行動を起こすべくこの場を離れる──はずだったのだが。

「あ、申し訳ありません。義賊頭様にはもう少しだけ別件のお話がございます。もう少々お時間を下さいませ」

 と呼び止められてしまった。なんだ、まだ何かあるのか?
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獣人連合編はもうちょっとで一区切りです。予定より色々寄り道したなぁ。
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