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連載

引き留められた理由

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 忍者の皆様が「では、我らは先に失礼する」と言い残して立ち去り、この場には自分と義賊リーダー、そしてカリーネさんだけとなった。

「で、カリーネの姐さん。親分にまだなんか御用があるってえ事でやすが、一体なんですかい? 話し合いはもう十分やったはずで、これ以上詰める所はねえと思うんですがねえ?」

 義賊リーダーの言い分はもっともだ。そもそもそう言った話し合いならば忍者の皆様がいる所ですべきであるし……そしてもう話し合うことは無いはずなのだが。

「いえ、これは別の依頼と言いますか……ある冒険者を探してほしいのです」

 人探し、か。しかしそれは。

「姐さん、あっしらは義賊ですぜ? 人探しなら、情報屋の伝手が使える怪盗の皆さんの方に頼んだ方が良いんじゃないですかい?」

 この義賊リーダーの言葉に自分も頷く。これは義賊よりも情報屋から個別の情報を仕入れる事が可能だと思われる怪盗チームの方が、はるかに向いているのではないだろうか?

「はい、それも存じております。ですが、今回の人探しは義賊頭様にお願いしたいのです。実を申しますと、怪盗の方には一度打診したのですが……探し人の名前を挙げた所、『その人物ならば、こちらより義賊頭を通した方が良いかもしれない』とのお言葉をいただきまして」

 ──ますますわからなくなった。怪盗の連中がこっちに人探しを振る、だと? いったいカリーネさんの探している人物とは誰なんだ?

「そりゃ怪盗の連中が面倒くさがってこちらに丸投げしたんじゃねえんですかい? まあ、こうやっていても始まりやせん。どこのどいつを探せば宜しいんで?」

 義賊リーダーも、このままでは埒があかないと判断したのだろう。カリーネさんにその人物の名前、もしくは特徴を言うように話を進める。

「はい、その人物なのですが……ここではないところで産まれた人族でして……名前を『アース』と言うそうです」

 ──本人が目の前に居ますよー? と発言する訳にも行かない。それにしてもなぜ自分の名前が挙げられるんだ? 裏で活動するときは基本的にしゃべらない義賊頭のスタイルを崩していないし、表の冒険者として活動するときのアースの状態では、裏の連中と積極的に関わってはいない。この前の魔剣における一件だって、襲われたから撃退したという形のはずだし。

「何でその人物を探しているんで?」

 当然の疑問を、義賊リーダーはカリーネさんに投げかける。こちらとしてはなぜ名前が挙がったのかを確認しなければならない。その内容によっては、今回の仕事を終えた後二度と獣人連合に訪れてはいけない状態を生むかもしれない。そんな事を考えながらカリーネさんを半ば睨むような視線を自分は送っていた。

 二〇秒ぐらい沈黙が場を支配したが、やがてカリーネさんから妙に威圧感のあるオーラが漂ってきた。殺気ではないが……そしてそんな状態のカリーネさんの口から言葉が零れ落ちた。

「か……」

 か? カリーネさんの口から零れ落ちた一言に、自分と義賊リーダーは顔を見合わせる。『か』ってなんだ? ここまでのオーラを漂わせているのだからただ事ではない。この人探しは、何か獣人連合にとって運命を左右する様な事に──

「カレー! 初代のカレーがたべたいの!!」

 ならなかった。というか、その発言に自分と義賊リーダーは仲良くずっこけた。というか、あんたもカレーの魔力にはまった口だったんかい!! にしても、アンタ影の人間でしょ? と言うか代表者でしょ? なんでカレーが食べたいなんて発言を叫ぶんだよ……しかも妙にかわいい声で。

「か、カリーネの姐さん。カレーだったらもう何人も人族の人がやってきて屋台を引いているんじゃないですかい? 色んな味で競うように作っているんで、わざわざ特定の人物を呼び出してカレーを作らせる? 必要はねえと思いやすが……」

 自分よりずっこけ状態から立ち直った義賊リーダーがそう質問を飛ばす。そりゃそうだ、自分よりおいしい料理を作れる人はもう山ほどいる。並ぶ料理もほぼ製作評価が一〇の作品ばっかりで、自分が屋台というか、お店を出すのはただの気まぐれとか暇つぶしとかの状態になりつつある。

 そんな状況なので、自分はもう料理をメインに行動していく事は無理だ。基本的にはどんな物でも評価が良い方が売れるのだから、評価八の物は、よっぽど珍しい物とかじゃないと今の情勢じゃお客は来ない。そしてそんな珍しい物を作れるだけの知識も無い。

「そんなことは無いわ! 確かにいろんな人族の人が来て、各自色々なカレーを作っている事は知っているの。何せ全部制覇したんだから! 三週はしたわよ」

 ──制覇したんですか。しちゃったんですか。カレーの魔力恐るべし。それにしても三週って、食い過ぎにもほどがあるぞ。

「そして確かに美味しかったわ! 基本的なルールは変わらないけど、いろいろな付け合わせの種類だけに飽きたらず、ルーの具材や香辛料の調整、お米? っていう物にも軽い味付けをして差別化を図っている人も居たわね。一つの料理に対し、ここまで色んな味が出せるのはすごいと思ったわ」

 隠蔽兵の皆さんには見せられない姿だな、これは。自分達のトップが、カレー大すき大食い魔人と知ったら……それと、カレーは結構匂いが残ると思うんだが、その辺は対策を取っているんだろうか? ポーションの中に匂い消しとかあったっけ……か?

「でもね、物足りないの! 確かに美味しいのよ、でも、なんかこう物足りないの。そしてふと気がついたの……それは、一番最初に料理を出していたあの人のカレーのシンプルさがないの! 色んな事に手を加えた結果、最初に食べたカレーより美味しくはなったのは事実だけど。だけど、ごてごてに飾りたてたケーキを見ているような気分にもなってしまったの」

 カリーネさんの力説は続く。あの、もう帰って良いですか? さっきまであったシリアスな空気が行方不明なんですか? 帰って来てくれないかなぁ。

「でも、探そうにも基本的に私達は仕事がない時は北町で待機することが絶対。そしてこれからは見回りで探す時間がない! だから伝手がある可能性が高いと言われた義賊の皆様にお願いしをするしかないと言う結論に達したの」

 いや、あの。こちらも貴女に仕事を振られたから暇ではないんですが。ちらりと義賊リーダーの方を見たが、こちらも半分呆れて半分呆気にとられていた。そりゃそうだよな、人探しの理由が『個人的な理由で特定の人物が作ったカレーを食いたい』じゃなぁ。

「もちろんこれはこちらのわがままですし、受けてくださいとは言えません。ですが、もしアースと言う人を見かけたら、カレーの料理店を出すようにお願いできませんか? 義賊の皆さんは、その伝手があるのでしょう?」

 盛大に勘違いしているので訂正をしておかないと。義賊リーダーに目で『頼む』とお願いした。

「姐さん、勘違いしているようなので訂正しておきやすが。あの人は堅気の人間でして、あっしらの様な影働きをする人間とは関わりのねえ人物でやす。怪盗の連中が姐さんにそう言ったのは、一回だけ少々脅すような形で、あっしらでは絶対にできない仕事をやって頂いただけで。関わったのはその一回っきりでして、こちらがあれこれ関われる関係ではねえってこって」

 まあ実際には目の前に居る義賊頭と同一人物なんだけどな。それを明かす訳には行かないから、義賊リーダーの説明のような関係にしておく方が良い。だが、この説明を聞いたカリーネさんは、まるで青菜に塩を振ったかのようにしなしなと崩れ落ちた。

「そ、そうなのですか……私のカレー……」

 ヲイ。この後に及んでそこなんですか。そしてそんなうずくまるほどに落ち込まなくてもいいじゃないか……本当に目の前に居る人はあのラウガとの一戦で共に戦った人と同一人物なのかと疑いたくなってくる。

 義賊リーダーも『どうしやす、旦那』と目で質問を飛ばしてくるが、こんなのどうしようもないぞ。義賊の仕事もある事だし、ここで変にカレーを作る事を安請け合いする訳には行かない。それは解っているのだが。

(忙しくなっても良いか?)

 念話で義賊リーダーと話し始める。さすがにここからは目によるコンタクトだけでは意思の疎通を図り切れない。

(仕方がねえ……と思う事に致しやしょう。この状態じゃ、姐さんが使い物になりやせん。親分には街の中央に近い場所で店を開いていただき、あっしらと影で情報のやり取りを行うと言う方法で行きやしょう。

 逆に考えれば、親分の居る場所が固定されやすからそれはそれで良いのかも知れやせん。なにより、姐さんがこのままではあっしらや忍者の皆さんが予定以上に忙しくなってしまいやす。ここはメシでやる気を釣るという事で)

 目の前には涙を隠さずさめざめと泣く一人の女性カリーネが。こんな人物で大丈夫か、ほんとに。こうして、表面上は『もし見かけたら、カレーの店を出してくれるように頼んでおく』と伝えてから解散した。何をやってるんだろうね、本当に。
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こんなばかばかしい理由でした。
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