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準決勝開始……のちょっと前。

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(そろそろ結果が出たころかな? どちらが勝った事やら)

 今日もカレーの屋台を動かしながらそんな事を思う。そろそろレイジVSガルの試合結果が出たころ合いなのだ。どちらも実力者同士、見ごたえのある試合になったとは思うが……カレーの屋台も裏稼業も忙しくて見に行く余裕はない。義賊リーダーからの情報では、不届き者はほぼいなくなった。だが、魔剣の一件の方の残党は尻尾がつかめなくなってきたとの事。もちろん北街隠蔽兵の皆さんや忍者の皆さんとも協力して事に当たってはいるが、それでも芳しくないらしい。

「親分、何があるか分かりやせん。重々お気を付けを」

 報告に来るたびそう言い残していく義賊リーダー。本当に状況はよくない様だ。お祭りのメインでもある闘技大会も残す日程はあとわずか。仕掛けてくるとしたら決勝の日が一番可能性があると言う考えは、裏方の皆がすでに共有している。素直に何事も無く……と言う予測はもうできない。

(それがなければ、見に行ったのになぁ)

 レイジの知り合いという事で、チケットを買おうと思えば買う事は可能だったのだが……そんな事を思いつつ、一時間ほど前の事を思い出す。


 ──


 それは闘技大会ベストエイトから準決勝進出者を決める戦いが始まる一時間前。今日は残業も無く、家に早く帰れたため普段よりも早くログインしてカレーの屋台を出していた。その後やってきたブルーカラーのメンバーとカレーの屋台を経営しながら雑談に興じていたのだが、そこにグラッド達のPTまでやってきたのである。グラッド達は自分の屋台の前に立つとカレー六人前を注文。自分が出したカレーを食べ終えると、おもむろに口を開いたのはグラッドPTの魔法使いであるガルだった。

「ごちそうさま。なかなかおいしかったよ。でも、残念だったなぁ。今回の大会、なんでアースは参加しなかったんだい? いい線行くと思ったのに」

 このガルからの問いかけに、自分は「面倒くさいから」と返答しておいた。最強を目指す、上位プレイヤー同士で普段のPvPとは違う空気の中で戦う事に価値を見出す人にとっては参戦する意味があるだろうけどねえ。自分は最強の二文字には興味ないし、裏のお仕事もあったし。だが、ガルの話はまだ続く。

「ここでPvPを申し込んでも、アースは受けてくれないでしょ?」

 自分は無言でうなずく。なんでプレイヤー最強の一角、全属性の魔法使いであるガルとPvPしなきゃならんのよ。戦ったら勝っても負けても絶対に精神的に疲れてへとへとになるし、それではいろんなことに差しさわりが出る。

「アースとは一回戦ってみたいんだよねー。ネクシア奪還の時に見せてくれたアレ、アレとやり合ってみたい。まあそれが無理でも、弓と道具を組み合わせて戦うスタイルの人はそうそういないから。戦えばこっちが予想できない手を出してきそうでワクワクするんだよ」

 そんなに期待されても、何も出ないんですけどね。それに、黄龍変化は一回使うと再使用にリアルの時間で一週間はかかる。数時間休めば再び使えるようになる一般的な変身のように気軽に使う訳にもいかない。なのでリクエストに応える事は絶対にできない。いざと言う時に切れる切り札を平時に失う訳には行かない。

「ガルは、俺との戦いには不満があるという事か?」

 ここで、今日の対戦相手であるレイジが口をはさむ。だが、ガルは手を振ってそれを否定する。

「そんなことは無いよ、ブルーカラーの重戦車であるレイジとの戦いだってわくわくするさ。だけど、やっぱりアースと一回本気で勝負したいってのも本当。もちろん今まで弓使いと何度も対戦して来たよ? ジャグドも弓使いだからね。だけど、やっぱり弓と近接時の蹴りで戦うスタイルが圧倒的だよね。たまに鞭を使う人も居たけど、まだ完全に使いこなせてない人が大半だった感じがしたね。弓ギルドのマスターであるアヤメとの戦いは面白かったけど」

 グラッド達は結構手広くPvPをやっているんだな。アポロンの弓ギルドのアヤメさんとも勝負したことがあるのか。アポロンの弓も弓使いの中ではトップギルドだし、抱えている職人も良い弓を作っているらしいから、弓の事で迷ったら相談に行くといいとかなんとか掲示板では言われてるんだったっけか。

「ガル、そこまでにしとけ。お前は今日これからレイジとの一戦が待っているだろう。アースと戦ってみたいという点には同意するが、もう少し落ち着け」

 ここでザッドが口を開く。両手斧に重鎧といった相変わらずの重装備を身に付けている。彼の声をこうして聴くのもネクシアでの一戦以来か。獣人連合の東街を襲ったバッファローの群れの時は話をする事も無かったし。

「それに、おそらくあれと戦えば今のお前であっても叩き潰されるだろう。試しにグラッドがあの変身を身に付けたときに行ったトレーニング的なPvPで、あっという間に俺達全員が叩き潰されたのを忘れたのか?」

 あの変身、とは獣人連合東街防衛で見せたあのダークエルフへの変身だろう。もちろんただのダークエルフではないのは間違いないが、その時のトレーニングや具合を確かめる為にPvPを行っていたのか。

「ガル、戦いたいのは分からなくもないけどさあ……あんたは目の前の方に集中しなさいよ。好奇心旺盛な所は、あんたの良い所だけど悪い所でもあるわ。それに、あの変身の修行や試練に最後まで耐え抜いて残ったのはグラッドだけだったのよ? この時点で、あれだけの変身が出来るアースもそれ相応の試練を乗り越えてきているって予想がつくでしょうに。それと戦いたいっていうなら、グラッドの変身状態と戦って、勝てるようになってから申し込みなさいよ」

 さらにグラッド達の紅一点、ゼラァだったっけ? がガルにそんな言葉を投げかける。仲間からあれこれ言われたガルが「俺が悪かったよー」とやや凹んでいるようだ。そんなガルを見て苦笑している他のグラッドPTのメンバーとブルーカラーのメンバー。だがここで、グラッド達の弓使い……ジャグドだったか? が口を開いた。

「変身は抜きにしても、俺はアースにちょっと勝てる気がしないぜ。純粋な戦闘力とは違う意味でな」

 この言葉に、この場に居る全員の視線が集まる。そんな中、ジャグドはゆっくりと口を開く。

「ガルだけじゃない、ここに居る皆が忘れてねえか? アースは今何をやっている? 料理だぞ? この時点で戦闘特化な俺達とは、戦闘関連のスキル上限の限界や、修練に取れる時間などの点ですでにハンディを背負っているんだぞ?」

 あ、何て声を誰かが上げた。そこからジャグドの言葉はさらに続く。

「そんなステータス的な面もそうだが、俺は以前に見たアースの行動を見て勝てないと思った。グラッド、思い出してくれ。あのファストを防衛した後にネクシアに向かう前、アースは何をやっていた?」

 話を振られたグラッドが少し顔を俯かせて考えるようなしぐさを見せるが、やがて思い出したとばかりに自分を見ながらグラッドが答えを口にする。

「握り飯を作っていた、でいいか?」

 このグラッドの言葉に、ジャグドは頷く。

「覚えてたか。あの握り飯は美味かったな。だけどな、肝心なのはそこじゃない。誰もがこれから戦闘が待っていて、どうやって戦おうか考えている時に一人だけメシの準備をして、それを全員に配ると言う気配りを見せたんだぞ? あんな緊迫した状況下で、それが出来る奴はどれぐらいいる?」

 ジャグドがぐるっと周囲を見回すが、グラッド達もブルーカラーのメンバーも何も言わない。

「アースのすごい所はそこだって俺は思うぜ。どんなスキルを身に付けたって、どんなアーツを覚えたって必要な時に適切な物が使えなきゃ全部ゴミだ。だがアースは必要な時に必要とされている事が出来る。そして戦闘だけじゃなくて時間や手間がかかる生産系も取った上でそれをやってる。さっき食ったカレーだって、一級品ではねえかも知れねえけど二級品でもねえ。そんなうまい料理を作るにはこれまた時間がかかってる。そしてそれをこういった場で売りに出せる……俺には無理だな」

 まあ、確かに……自分は色々な事に手を出している。しかし、それをこうして他の人から指摘され、さらには評価されるとは思わなかった。

「いやいや、そんな持ち上げなくても。自分としては好き勝手やっていたらこうなったってだけだからさ」

 と、自分は言ったのだが……ジャグドの真剣な目は変わらなかった。そしてそれから数分後、彼らは闘技場へと向かうために立ち去っていたのである。


 ──


(持ち上げられても、本当に好き勝手やってきた結果でしかないんだがな)

 ジャグドの言葉を思い出して、ふうとため息をつく。しかし、まだあの時の事を覚えているとはね。人からどう見られているのかなんて本当に分からん物だ。とりあえず、まだ決着がついたというメールも来ない事だし、カレー屋台の方に集中しますか……。
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活動報告にも書きましたが、とあるおっさんのコミカライズ版は
5月25日に発売予定です。
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