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連載

メイド屋敷 (仮)に再びお邪魔してみた

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今欲しい物。風来のシレンにでてくる
マムルというモンスターのぬいぐるみ。癒しが欲しい。
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 そしてやってきた例のメイドを従えているご当主のお館。アポとか取ってないから、会えない可能性は高いが。そして会えなかった時は、都合のいい時を教えて貰えばいい。後で出直せば問題ない。そう考えてやってきたのだが、あっさりと通されてご当主と再会した。自分の素性などはばれているので、外套を脱ぎ、頭のドラゴンスケイルヘルムも、顔につけているフェンリルの毛皮で出来ている頬当ても解除済み。そう言えばこの頬当てを外すのはいつ以来だろうか。

「ようこそ、我が館へ。こうして会うのは久しいが、そちらの調子はいかがかな?」

 ご当主様はそんな言葉と共に歓迎してくれた。なので、話せる範囲内でここを離れてから戻ってくるまでにあった事を話しておく。話せない部分が多いから少々虫食い気味になってしまうので、ある程度おかしくないように話を継ぎ足したりもしたが。この辺の罪にならない嘘のつき方は、大人になれば覚えてしまう物なんだよな、悲しいねえ。もちろんご当主もその辺は分かっている可能性が高いが、あえて突っ込んでこない。そこもまた上手くやっていくためには必要な部分だ。

「とまあ、こんな感じでしたね。退屈はしませんが、こんなに走り回る必要があるのかと思ったりもしましたが」

 話を終えた自分は、最後にこの一言を告げて〆とした。それでも七割は事実を言っているから、十分だろう。

「なるほどな、冒険者というにふさわしいぐらいの旅だったようだな。それにしても、多数のバッファロー達の強襲か……獣人達もかなり苦労をしているようだな。どの世界でも苦労をせずに生きている者など居ないだろうが……」

 まあそうだな、誰だって人の見える範囲、見えない範囲に差はあれど苦労はしていると思う。世間の人から見ればゴージャスな生活をしている人でも、その人はそんな生活の維持やら、財産を目当てにつか寄ってくる親類という名のあかの他人や泥棒への対処とか。この辺は宝くじの一等を当てた人も苦労する点だろうな。大金が突然入ってきたとなれば、その金に群がる亡者は多いからなー。そういや、冗談半分で買った宝くじで予想外の一山当ててしまったあいつ、あれからどうなったかな。協力できる部分はしたが……上手く逃げたかな?

「そこから話が変わりますが……街でメイド服の販売が行われているではないですか。アレはもしかして……?」

 話を切り替えた自分に、ご当主は頷く。

「うむ。実はな、他の種族を招いて話をしたときにだな。『あのメイド服と言う物を、譲っていただく訳には行かないだろうか?』と聞いてくるものがかなり多くいてな。ならば商品として売ればその要求に応えられるだろうと。そうして試験的に売り始めたら、予想以上に需要があってな。今では名物の一つになってしまったぞ」

 はっはっはと笑うご当主。やっぱりここのご当主が関わっていたのか。そうなると、あの四百七十万グローというぶっ飛んだお値段のメイド服も試験的にやったんだろうか? そのメイド服の事を自分が聞いてみると──

「ああ、あれか。アース殿が想像したように、あれも試験的に売り出したものの一つだ。だが、一応念押しをしておくがあの値段は暴利ではないぞ? 貴重な素材に全力をもって行う各種エンチャントを施した一品だからな。一着つくるのに時間も手間もかかるから仕方がないのだ。それでも、我がメイドが着ている服のダウングレード版なのだがね。あの性能が市場に流せる限界点だな。それ以上は機密となってしまう」

 なんと、まあ。つまり今、ご当主や自分の横にどんなことを言われても即座に対応すべく存在しているメイドの皆さんが着ている服は、あれ以上の化物効果と防御力を兼ね備えた逸品なのか。そう教えられてしまうと、つい隣に立っているメイドさんの服をまじまじと見てしまう。うーむ、見た目は普通のメイド服なのに……この服には並の鎧以上の防御力があるのか。

「あの、もしよろしければ……触ってみますか?」

 まじまじと見ている自分に、メイドさんがそう聞いてくるが……そこで触ったらいろいろとアウトすぎる。というか、いくら何でも見すぎたか。リアルだったらセクハラで訴えられてしまうな。

「いえいえ、それには及びません。むしろ、こちらこそ失礼を」

 つい、日本刀や鎧を眺める気分で見てしまったよ。トンデモ性能であっても、服であるという事をつい失念してしまっていた。自分は服を見ていたのだが、普通は服だけを見ているなんて受け取らないよな。何をやってるんだ自分は。反省しないと。しかし、館のご当主は考え方が違うようだ。

「遠慮しなくても良いだろう。別段やましい事を考えながら見ていた訳ではないと言うことぐらいは分かるぞ? ましてや冒険者だ、優秀な防具に興味がわかない方がおかしいからな」

 と。そう言われましても、やっぱり女性をじろじろと見るのは失礼だ。恋人だとか、伴侶とかだったらじっくり見てもいいだろうけどさ。

「さすがにそういう訳には。やはりよく知らない異性にじろじろと見られるのは落ち着かないでしょう」

 この自分の返答を聞いたご当主は「ふうむ、まあそれは確かにそう言えるだろう」と言いながら顎をさする。そのまま考え事をするように目を閉じたが……数秒後に目を開く。

「ならば、再びアース殿の所に我がメイドを派遣すればいい話か。そうしてお互いの事を知れば見るのも見られるのも抵抗なくやれるだろうからな」

 それは実に魅力的な話ではある。あるが……今はルイ師匠との修行中だ。ここで下手にメイドさんをお持ち帰りなんてしたら、何を言われるか分かった物じゃない。

 それだけではなく「やっぱりメイドが好きなのね。じゃあ私もメイド服を着て指導するから、あのメイド服の購入をお願いね?」とか言われそうだ。今はまだあのメイド服の購入うんぬんは冗談半分で言っているだけだろうけど、ここで下手を打ったら本気に切り替えて購入させられそうだ。

「ありがたいお話ではありますが。私は、先程のお話にもあったように修行を行う為にこの地を訪れている状態でして。ここでもしメイドさんを派遣していただき、連れ帰ってしまうと……色々と変な事を勘ぐられてしまいそうで怖いのです」

 君子危うきに近寄らず、だ。この場合は虎穴に入らんずば虎児を得ずと言う状況には百パーセントならない。そもそもメイド服を見ていたのは、布にそこまでの防御能力をつけるのがすごいなと純粋に感心したからであって、このメイド服の秘密を暴いてやるだとかの考えはない。

 だから、ここでメイドさんを連れ帰ったら自分にとっては損をする展開しかならない。それに連れ帰っても、やってもらいたいことは特に無い。修行で基本的にソロ行為を強要されているので、PTも組めない。料理は自分でやる。

「ふうむ、それならば仕方がないか。いや、実は前にアース殿に派遣したあの三人……予想以上に腕を上げて帰ってきたのでな、また鍛えてやってはもらえないかという考えもあったのだよ」

 ほう、そうだったのか。あの三人とPTを組んでいた時はかなり助けられた。戦闘でもそうだが、食事の用意などもしてくれたので本当に楽だった。まあ今はそれに甘える事は許されない状況下におかれているのだが。

「そうでしたか。特に用事がなければ請け負っても良かったのですが……申し訳ありません」

 こちらが頭を下げると、ご当主も「いや、それはこちらの一方的なわがままに過ぎん。気にしないでくれ」との事で、気分を害した事にはならずに済んでほっとする。さて、そろそろここからお暇しようか、いろいろと話していたら、結構な時間が過ぎてしまっているし。

「では、そろそろ失礼させて頂こうと思います。本日は突然押しかけたのにもかかわらず、これだけのもてなしをして頂き……ありがとうございました」

 そう言って自分は席を立ち、頭を深々と下げる。

「気にしないでほしい。今日は私も楽しませてもらった。またいくつかの冒険をした後にやってきて、話をしてくれると嬉しい。待っているぞ」

 ご当主からのお言葉を頂き、メイドさんの案内によってお屋敷の外へ。さて、今日はこのままログアウトして、明日からは修行だな。そうして立ち去ろうとした自分だったが、案内してくれたメイドさんが自分の左手をそっとつかんで耳元で一言。

「またのお越しを、心よりお待ちしております」

 そして、耳たぶに軽いキスをされたような感覚が。危うく変な声が出そうになったが、何とかこらえた。不意打ちすぎるだろう。何とも気恥ずかしくなってしまったので、脱いでいた外套を再び纏い、頬あてやドラゴンスケイルヘルムを再装着してからそそくさと立ち去った。今、自分の顔を見たら変な表情を浮かべているんだろうな……見たくもない。さっさと宿屋に帰ってログアウトして、リアルでも寝てしまおう。うん、それがいい!
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