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連載

伝授開始

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時々、ニコニコの生放送にお邪魔させていただいています。
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「さて、これから早速技の伝授を開始するわよ。伝授する技だけど、まずは見てもらうわ。そしてその後実際に動いてもらう。それだけよ」

 ルイ師匠はそう言い放つが早いか、訓練場に設置してある人の形をかたどった的に向かって猛然とダッシュ。近づいたところで竜巻のように回転したかと思うと、ローキック、ミドルキック、ハイキック、飛び蹴りの四連続攻撃を行う。ただの蹴りによる四回攻撃ではなく、竜巻の様な回転を加える事で威力を増しているのだろう。おそらくこれが《風華蹴》なのだろう。蹴りが命中した時に花の様なエフェクトも出ていたし。

「この回転しながら行う素早い四連続蹴りが《風華蹴》よ。下から順に蹴る事で相手の体勢を崩しつつ逃がさない。そしてトドメの飛び蹴りで吹き飛ばすと言う流れになるわ。さすがにここの施設を破壊する訳には行かないから、さっきのは手加減していたけどね。さ、見せたのだからモノにしなさい。今の貴方の力なら、十分に扱う事が出来る技よ」

 システムには《エルフ流蹴技・風華蹴習得のきっかけをつかみました》と出ているし、後はとにかく師匠の動きをできるだけ真似して挑むだけか。竜巻のように回転しながら行うから、目が回らないかが心配なんだけど。そんな事を頭の隅っこで考えつつ、まずは動いてみる事にした。接近してから回ってロー、ミドル、ハイキックと繋げてとびげっ……っとここで転んだ。飛び上がる事が出来なかったのだ。

「もうちょっと回転の速度は落としても良いわ。最初はゆっくりで良いから四連続の蹴りを完走できるようにしなさい。そこから徐々に回転の速度を上げていけば良いわ。焦ることは無いのよ、きちんと習得できるまで付き合うから心配しないで。今日中に習得しなければ許さないなんてことを言うつもりもないの」

 ──そうか、ちょっと焦りすぎていたかもな。ならばまずは、ロー、ミドル、ハイ、飛び蹴りの流れを体になじませるか。ある程度馴染ませたら、徐々に回転を加えて行こう。一、二、三、トドメ、一、二、三、トドメ。そんな感じで黙々とまずは四連続の蹴りを的に向かって行い続ける事しばし。そこからゆっくりとした回転を加えたローキックを放ち、安定して来たらミドルまでつなげ、さらに安定したところでハイまで繋ぐ様にした。

(むう、回転を加えた状態でのハイキックを放つとどうしてもバランスが崩れるなぁ。《重心安定》のパッシブがあってもキツイ。自分は何か間違っているのか?)

 そんな事を考えながらも習得すべく蹴りを放っていると、パンパンとルイ師匠が手を叩いた。

「変に手間取ってるから何かおかしいと思ったわ。アース君、この技は自分一人でやるものじゃないの。風の力を借りるのよ。アース君の気配から、ある程度の風に関する魔法を使えると分かったから《風華蹴》を伝授することにしたのよ。そして、この《風華蹴》を身に付けることができないと、その先にある奥義の一つ《風結蹴》を習得することはできないわ。奥義の方はより強く風との連携が必要になるから。そうね……少しきっかけを与えましょうか」

 自分の肩に手を置いたルイ師匠が何かをつぶやくと、少し自分の体が浮き上がるような感覚を感じる。これはそう、風魔術の魔法の一つである《フライ》を掛けた時と似た感じだ。つまり、自分の力で回転するのではなく、自分の力に加えて回転や飛び上がる時に風の力を借り受けるのだろう。まずは練習としてロー、ミドル、ハイキックの三回攻撃を回転しながら繰り出してみた。いい感じだ、先程まであったきつさやバランスの悪さが全くない。これならいけそうだ。

(よし、《風華蹴》の一連の流れを通しでやってみよう)

 二、三ステップを踏んでから最初師匠が見せてくれたように的に向かってダッシュ。的に近づいたら自分と風の力を使って回転を始めながらさらに近づいて間合いに入る。そこから、ロー、ミドル、ハイ、そして飛び蹴り! 出来た! そうか、こうやって風の力を纏う感じでやらないといけない技だったんだ。だからさっきまでは上手く行かなかった訳だ。ちらりとシステムを確認すると、そこにも『《風華蹴》の習得条件を満たしました』の文字が浮かび上がっていた。

「そうそう、それでいいわ! そして今から二十回ほど《風華蹴》を打ちなさい! 風の力を借りながらの攻撃にもっと慣れてくれないと、奥義の一つである《風結蹴》の習得は叶わないわよ!」

 との師匠のお言葉に従って、そのまま二十回ほど的に向かって《風華蹴》を当て続ける。打てば打つほど理解が進み、スムーズに四連撃が放てるようになっていた。なにせ、この技はオートモードがない。完全マニュアルモード限定なので、理解して繰り出せるようにならないと身に付かないのだ。もしかすると、こういった伝授技はオートモードが存在しないのかも知れない。オートがあるのはスキルレベルを上げる事で習得するアーツ限定なのかもしれないな。

「うんうん、どうやら風の力を借りながら蹴りを繰り出すという感覚はある程度分かったようね。それを生かせば、ただの蹴りでもそれなりの攻撃力が出せるようになるわよ。その分精神力を多く使う事になるから、使うべき場所、使わない方が良い時はきちんと見極めてね」

 あ、やっぱりこの感覚は他の蹴りにも流用できるのか。もしかするとこれは、エルフ流の流派に属した特典なのかも。他の流派にも、おそらくこういった特典はあるのだろう。ただ、こういった事は基本的に秘密にしておくべきことに入るからな……情報交換は難しいだろう。

「さて、それなりに《風華蹴》も使えるようになったようだから先に進むわね。そして貴方に伝授するもう一つの技である《風結蹴》なのだけど……こちらは時間をかけて習得してもらう事になるわね。まず今日中に習得することはできないわ。その理由だけど、一回技を見て貰えば解ると思う」

 習得が難しい、か。伊達に奥義なんて言っている訳ではないのかも知れない。よし、まずはしっかりと見よう。師匠が「じゃ、始めるわ。良く見ておいて」と伝えてきたので頷く。さて、どんな技なのやら。

「──行くわよ、風蹴奥義・その一、《風結蹴》!」

 その一って、さらに先があると言う事ですね。そんなツッコミを心の中で行いつつ、師匠の動きを瞬きせずに見ていたのだが……徐々に自分の口があんぐりを開いて行く事を自覚した。何せルイ師匠が空中と的の間と何度も往復しながら蹴りを見舞いつつ、魔法陣を編み上げているからだ。魔法陣を描く動作の途中で的を蹴っている、と言い換えても良いかもしれない。ただ、蹴るたびに的にも魔法陣が埋め込まれるかのように描かれているので、ただダメージを与えて逃がさないために蹴っているという訳ではないな。

「砕けなさい!」

 そうしてとどめの一撃とばかりにルイ師匠が的の真上から踏みつぶすような蹴りを落として技を〆ると、描かれた魔法陣が発動。大量の風が集まって的目がけて圧縮され、大爆発。暴風が周囲を襲い、それを受けた自分も地面へと転がった。何て爆風だ、火薬のにおいがしない事以外は特大の爆弾と大差ないぞこれは。

「これがエルフ流の蹴り技における奥義の一つ、《風結蹴》よ。蹴りながら風の力を爆発的に高める魔方陣を構築し、完成したところで蹴りの衝撃によって発動させて捉えた相手を粉砕。周囲の敵も吹き飛ばす事で大きな被害を与えるの。今回は手加減したから、強風程度に収まってるけどね」

 これで、手加減だと!? 確かに的は壊れていない。いないけど、ヒビが入っているように見えるんですけどねえ。そして、これを自分が修得するのか……しかもオートがないマニュアルモードでやるの!? こんな大技の習得とか、出来る気がしないんですが。でも、ルイ師匠は「できそうにない、何て認めないわ。やるの。良いわね?」と言ってくるんだろうなぁ。
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