トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
226 / 391
連載

人魚の里

しおりを挟む

「その話はこちらも今掴んだところだ。当然ながら我々も人魚さん達の支援に参加する方向で動いている」

 ウィスパーチャットで、自分が情報を伝えたレッドからの返答はその一言だった。

「メンバー六人全員中数名に急用がある為、すぐに駆けつける事が出来ないのが悔しい所だが。しかし今回の話は、ヒーローとして放置できる話ではない。少し遅れるが、必ず参戦する……済まないが、それまでの時間稼ぎを頼みたい」

 レッドからの要請に了解と返答を返し、ウィスパーチャットを終了する。彼らは水中戦もできる貴重な戦力だからな、ぜひ来てほしい。

「えと、どうだった?」

 知り合いに援軍要請をしてみると伝えて置いた自分の手を引く人魚さんは、上手く行ったのかどうか不安そうだ。

「少し時間はかかるようだが、来てくれるってさ。だから、他の人魚さんにサーズ近くの川まで迎えに行くように伝えておいて」

 この自分からの返答に、元気よく「分かった、海の仲間たちを通じて動いてもらうように言っておくね」との事なので、これでレッド達がやってくる時に、やたらと待たされると言った事にはならないだろう。そしてそこから人魚たちの街に到着するまでは、これといった問題も無く到着できたので省略する。問題は到着した後だった。到着した自分達は、顔を通すために会議場として使われているある場所へと案内されたのだが……


「我々に地上の物の力を借りろと言うのか!? しかも勝手にこの人魚の里に連れて来るとは!」「他にどんな方法がある! 歴戦の勇士ですら、あの赤い鯨にはろくに手傷を与える事が出来ていないのだぞ! それに彼らは自発的に協力を申し出てくれた勇気ある者達だ、そんな者達に対して礼儀がなっていないではないか!」

 そう、到着した自分達を見て異議を言い出す人魚さんと、むしろこうやってきてくれた自分達に感謝する人魚さんとの言い争いが勃発したのだ。馬鹿でかい貝殻とかサザエの貝の様な物から成る人魚の里……そこにこうして地上の存在がやってくる事は非常にまれな事であり、地上の連中は海から物を奪っていくだけだ! として憤慨する風潮があるらしく……場が大荒れに荒れている。

「ごめんなさい、貴方達は協力するために来てくれたのにこんなものを見せてしまって……」

 そしてただただ謝り続けるのは、自分たちプレイヤー二十名を連れてきた人魚さん達。そりゃまあ、援軍が欲しいと言って呼んでおきながら、こんな光景を見せればマイナス以外の何物でもないもんね。頭も痛くなるだろうし、自分が悪くなくたって謝らなきゃいけないと言う損な立場になってしまて同情するよ。そんな憐みの瞳で自分を含むプレイヤー達は謝り続ける人魚さんをなだめていたのだが、突如そんな会議モドキ? にて反論ばかり並べ立てていた人魚さんの一人が吹き飛んだ。なんだ!? 襲撃か!?

「戦いに来ないくせして、さっきからガタガタガタガタとうるっさいんだよ!! そんだけぎゃあぎゃあ吠える事が出来るんだったら、武器を持って戦ってきな! そんな奇麗な面してるんだからさ!」

 襲撃かと思ったら、全身に包帯の様な物を巻き付けて顔にいくつもの真新しい傷跡が痛々しい一人の金髪人魚さんが乱入して来た。その人魚さんが入ってきたとたん、先程までうるさかった反論側の人魚さんが全員黙りこくった。そう、一種の威圧感によって半強制的に。

「アタイや他の連中が血を流し、肉を失い、息も絶え絶えになって戦ってるってのにあんたらは何だい? その上そんなアタシ達を見て、罰せられる覚悟で助けを求めに行った連中や無茶に近い救援の頼みを聞いてここに駆け付けてくれた勇士に対しても何て口の効き方だい! 言葉が達者なだけじゃ、今回の事態は解決しないってのが被害を多大に出した今ですらまーだわかんないのかい! 今はもう、種族の掟とかしきたりとかにこだわってたらみんな死ぬしかない状況なんだよ!」

 反論側からの声は上がらない。逆に自分達プレイヤー達の援軍を受け入れるべきだと主張する側の「そうだ、そうだ!」の声は大きくなる。

「反対してる連中にははっきり言ってやるよ。あんたらは現実が見えてない。アタシ達戦士がこれだけ必死で戦ってもあいつにはせいぜいかすり傷を負わせることしかできない。そしてあっちは同胞であるはずの鯨ですら食っちまってやがる。そこまで狂暴化したあの化物赤鯨をどうにかできなかったら、アタシら人魚もそう遠くない内にあいつの腹の中に納まることになるだけさ。こうして一部の人魚たちが連れて来てくれた勇士たちが、ある意味最後の希望なんだよ!」

 その人魚さんからの発言を聞いたある男性プレイヤーが「ちょっと質問良いですか? 詳しい話を聞きたいので」と一歩進みでる。静かになった会議場の中にその言葉はよく通り、先程まで反論側に意見を叩き付けていた人魚さんが「ああいいよ、分かる範囲なら隠し事一切なしで答えるよ。何が知りたいんだい?」と返答したので、その男性プレイヤーは言葉を続ける。

「では失礼して。私はゴウという人族の魔法使いです。ここに来るまでに案内してくださった人魚さんから赤い鯨が暴れ回っている事、そいつらは三体いることなどは教えていただきました。また、防御力が異様に高いという事も。ですが、やはり直接戦った方の感想も伺いたいのです。よろしいでしょうか?」

 そうすると、数名の人魚さん……この数名もかなり手傷を負っており、体のあちこちに手当をされた様子が伺える。

「まずはこれを見てください。これは私達人魚の戦士が扱うトライデントなのですが……」

 そうして掲げられたトライデント……先が三つ又に分かれている槍。ポセイドンなどはこの槍を持った姿で書かれることが多いあの槍だ。だがその掲げられたトライデントは無残な姿を晒していた。左右の先がひん曲がっており、中央部分は折れてしまっている。

「あの赤い鯨に対し、突き刺そうと攻撃を仕掛けた結果がこれです。このトライデントは私達が手に入れる事が出来る最高の鋼材を用いて作られているのですが、あのバケモノ鯨には全く通じません。持ち宜しければ、手に取っていただいても構いません」

 との事なので、プレイヤーの一人が受け取って確認。見た目からもなかなかの一品だと思うが……さて、受け取ったプレイヤーはどう言った判断を下すだろうか。

「──なるほど。こりゃなかなかの一品だな。自分でも使えるなら使いたくなるレベルだぜ。しかし、これでここまで折れ曲がるほどの装甲か……こいつは、予想よりも厳しい戦いになるだろうぜ。後からくる手はずになっている奴らには、もっと補給品を多く持ってくるように言わねえと不味いな。だが、事前にそれが分かったって事だけはいい。分かってればそう言うレベルだって慌てずに済むし、準備だってできるからな」

 ほぼ自分と同じ意見か。今回の相手は、かなり厳しい展開が多そうだな。ただでさえ水中戦という普段とは違い過ぎるフィールドだと言うのに。だからこそ、少しでも事前情報は仕入れておきたい。

「なるほど、なかなか厄介な硬さのようですね。それからもう一つ、これらの武器には、何らかの魔法を纏わせて戦ったのでしょうか?」

 俗に言うエンチャントだな。魔法のスキルだけではなく、他の何らかのスキルと組み合わせる事で習得できる事が発見されたアーツの一種だ。それを使うと、一定時間魔剣でなくても属性を持った物理攻撃ができる。魔剣がポンポン手に入る物じゃない以上、有用なアーツだ。さらに、魔剣にもその魔剣にとってマイナスじゃない属性をエンチャントすればさらに強力になる、との話も聞いたことがある。

「いや、アタイ達はそこまで器用な事は出来なくてね。純粋な武器の力だけで運用してるよ。今回は全く通じなかったけどさ……」

 金髪人魚さんが悔しそうな表情を浮かべる。それにしてもあの金髪人魚さん、何処かで会ったような。口調と言い、顔と言い、見覚えがあるような気がするんだよな。気のせいだろうか?

「──なるほど、了解です。後は実戦で戦いながらデータを集めるしかないですね。あと、この街の中で水に浸かってない場所を提供してもらえないでしょうか? 武器の修理や強化などを行う鍛冶作業や、休息の場として使わせてもらいたいのですが……」

 この申し出は受け入れられ、各自プレイヤー達は寝床の確保や鍛冶が出来る人(自分含む数名)は、ボロボロになってしまった人魚さん達の武器修理に追われた。戦うのは翌日と話し合いで決まった為に、この日は雑用で終了。翌日の戦いに備える事となった。
************************************************
今回の様な事がない限り、まずプレイヤーがやってくる事がない場所ですね。
他にも、ドラゴン達が住んでいる場所などが該当します。
しおりを挟む