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連載

ルエットとのやり取り

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「それにしても、ほんと毎回毎回……今回は、まあわかるけどね」

 そんな事を指輪の中からちびキャラモードで出てきたルエットに言われてしまう。会議の方はいったんお開きとなり、一時間後に再集合することになっている。各自二十名は人魚さん達と里の中をしているはずだ観光。人魚さんが付き従っているのは言うまでも無く、空気の補給と入ってほしくない場所に踏み入らないための監視だ。因みに、自分についているのは泳ぎを教えてくれた緑髪の人魚さんだ。最初はルエットにびっくりしていたが、物怖じしない性格らしくてすぐに適応して見せた。

「泳ぎを教わった恩もあるし、釣り上げてしまった事もあり……人魚さん達との関わりもそれなりにあるからねえ」

 ルエットの言葉はこう返答するしかない。見捨てる……には、ちょっと情がわいているために難しい。

「そのぐらいじゃ対価としては釣り合ってないけどね。無事に乗り切ったら相応の報酬はだすよ。こういった事はけじめが肝心だし」

 と、人魚さん。まあ助けに来る人の大半は人魚スキーらしいので、デートでもしてあげれば満足する人が大半な気がする。男女問わず。

「それにしても今回の相手……赤鯨だっけ? 正直私としてはおかしい所が満載だと思うのよね。登場自体は突然変異で現れたのかも知れないという事で無理やり納得するしかないけど、一番気にかかってるのは、自然に生きる者が無為な殺戮をする物かしら? 変な固さとか魔法抵抗力を持ってるとかよりも、そこが気になるわ」

 ルエットの言葉に、自分も人魚さんも沈黙する。その点については、自分も同意見だ。そもそも鯨はただでさえ大食らいだと言うのに、それに加えて無為な殺戮行為をすれば自分の首を絞めるだけだ。ぶっちゃければ、将来自分が口にできる可能性のある魚達を無為に殺戮すれば、飢えて死ぬ未来しか待っていない。そうして飢えた結果、何とかして地上に出て来て磯井出すのかも知れないが……水中と地上では言うまでもないが勝手が違い過ぎる。そんな事をするぐらいなら、無為の殺戮などせずに過ごす方がはるかに良い。

「──それはこちらでも話に上がったよ。明らかに海に生きる者としておかしいって。でも、以前に海の掟を無視してある川に済む方々に迷惑をかけたサメの集団という前例もあったから……海に生かされているという事の本質を知らない愚か者が増えているのかも知れないって結論になったけど」

 そう言えばそんな事もあったな。あの時もえらく苦労をさせられたっけ。そしてあの時共に戦った……いや、そんな思い出に浸る時じゃない。手に力が入ってしまうのは仕方がないが。

「ともかく、海を必要以上に荒している以上、何としてでも討伐するしかないのは仕方がないだろう。今まで分かっているいくつかの点だけでも十分に不気味な相手だがな……あくまで鯨というのは外見だけで、中身は完全に別物と考えた方が良いか」

 そう自分は発言し、ふぅと息を吐く。ただ今回マシだと思われる点を挙げるなら、今回討伐に関わるのはプレイヤーだという点になるだろう。今までと違って、死亡してしまったら永久に取り返しがつかないこちらの人達のと共同戦線ではない為に精神的には楽だ。今までの戦いでこちらの世界の人達の死は何度も見てきたが、やりきれない物を心の奥底に感じていたのは事実だ。今回はそれがないだけでも気軽と言って良い……不謹慎とは思うが。

「そうね、明らかに今回の相手は異常だし……海の平穏の為にも排除はやむを得ないと私も思うわ。今まで呼び出されずにいたために必死で訓練してきた成果を……今回は見せる機会があるわよね?」

 チラッチラッとこちらの目を見ながらのルエットのお言葉。そうだな、今回は完全にお留守番という可能性はまずない。

「十中八九はあるだろうな。赤鯨にとって、この水中戦は自分の有利なエリアであるという事は言うまでもない。そしてこちらは、いくら水泳系統の技術を磨いたところで呼吸による制限が付きまとう。人魚さん達との連携である程度のカバーはできるかもしれないが、戦闘の状況次第では窒息死に追いやられる可能性が零であるとは言い切ることは不可能だ。そんな状況に追い込まれた時は……出てもらう」

 自分の知りうる範囲での話になるが、水中などによる呼吸困難な状況を打破できる魔法はない。もしかしたらそう言った魔法を作ったプレイヤーも居るかもしれないが、Wikiなどにそう言った情報は上がってきていないので、一般的に広まっているとは言えない。そんな状態なので、人魚さんとの接触による空気の補充行為を何らかに手段で妨害された場合はかなり不味い状況になる。どんなに強い人でも水中という特殊なフィールドで行動する以上は、空気がなくなれば窒息死させられると言う法則からは逃れられない。

 そして、今回の相手が窒息死を誘う手段を持っていないと考えるのは危険すぎる。それに人魚さんの動きから察してくる可能性もある。そんな時、このルエットに暴れて貰う事で戦況をひっくり返す。今の今までろくに呼び出さずにいたため、魔力は十分すぎるほどにたまっているはずだ。それに加えてルエット自身があれこれ手を尽くして自己鍛錬を行っていたようなのだ。そのため、もしかしたらオリジナルのフェアリー・クィーンよりも部分的に強くなっている可能性がある。戦況をひっくり返してくれる可能性は十分にあると期待している。ルエット本人には言わないが。

「魔力は十分に蓄えているし、何時でも行けるように準備は完了してるわ。そして、肝心の活動時間なんだけど……ちょこちょこ力を抑えつつ戦えば一時間以上は行けるわ。逆に常時全力、後先考えず魔法連射となると二十分が限界ね。さらに全力で魔力を使い切っちゃうと、惑ちゃんを振う時のサポートもできなくなるわ、私が寝ちゃうし」

 活動時間はそんな感じなのか。最初は数秒しか出てこれなかったはずなのに、ものすごいパワーアップだこと。頼りになるのは非常に心強いのだが。

「それにしても、なんかすっごいねえ。そんな子が中で眠ってる指輪なんて、私達人魚の秘宝にも存在しないよ……珍しい物が見れたのは楽しいけど」

 なんて事を、人魚さんが言う。まあ、地上でもこれ一つしかないはずだからな。もともとはクィーンがこの世界にある六つの属性の力を込めた指輪だったんだが、魔改造じゃなくて、魔進化? 上手い言い方が思いつかないが……とにかく、自己進化を遂げてこうなったんだよな。まあ、一般的にありえない指輪だ。

「私も最初は普通……よりちょっと強いぐらいの指輪だったんだけどねぇ。私のマスターはいろんなところに顔を出して色々とむちゃくちゃやるから、『これはまずいわ、私も力を蓄えなくちゃ!』と思って色々やれそうなことに手当たり次第挑戦してたら、こうなったと言う感じね。

 ──反論が出来ない。色々首突っ込んだし、現実だったら絶対やらない無茶も何度もやってきた。それでもこう他者に言われるとがっくりくる。でも止めちゃったら『冒険者』ではなくなるし。さてどうした物か……そんな事を考えだしたその時だった。

「大変だ! 赤鯨のうち一匹がこっちに向かってきている! 戦う意思を持つ者は全員戦闘用意して門の前へ、戦えない者は避難を迅速に行え! 繰り返す……」

 何だと。時間を確認すると、追加の援軍が来るまでにはあと二十分弱掛かりそうだ。援軍を待って攻めると言う方法は難しいか。

『みなさん、失礼します! ゴウです! 大急ぎで人魚の里にある門の前に集合してください! 赤鯨三体の内の一体がこの人魚の里に向かっているとの情報が入りました! 陣形や人員の割り振りはこちらの方で作っておきましたので、門の前で指示を飛ばします!』

 その直後、今度はゴウさんからの集合要請がかかった。少々急だが、こういう時は完全に準備が整うまで待ってはもらえないのがお約束だ。このきれいな人魚の里を護る為にも、いっちょがんばりますか。
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ルエットの活躍はもうちょっと後で。
この世界である意味アースを一番見て一番知っているのは
間違いなくこのルエットでしょうね。普通だったらメインヒロイン候補だなぁ。
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