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連載

赤鯨VS前衛

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 自分が集合場所に到着した時には、もうほぼ全員が揃っていた。そして二十秒以内に残りのメンバーも集まり、全員集合となる。

「早い集合に感謝します。今回は赤鯨一体とのレイドボス戦と考えて頂けば良いと思われます。今回の目標ですが、討伐はすべてが上手く行ったらの話。大事な事は確実に追い払って時間を稼ぐことと、情報収集になります。効果的な攻撃方法を探り当てる事や、弱点の発見。危険な攻撃の予兆などを見破り、このあとやってくる人たちに伝える事で討伐の成功率を上げます。もちろん情報収集は大事ですが、死者を出さないように」

 集まったプレイヤー&人魚さん達がこくりと頷く。

「そして、私が皆さんを六人PTで割り振って役割を与えます。とりあえずこの用紙をみて、書かれているメンバーで六人PTを組んでください!」

 ゴウさんから渡されたその紙に従い、声を掛け合ってPTを組む。事前の説明通り、プレイヤー四名人魚二名の編成となる。自分達のPTに与えられた役割は、側面からの攻撃役であった。メンツも魔法使いプレイヤーであるランさんとギルヴァートさん。エンチャント技術を持つロウさん。そして自分。そして人魚のネウさんとミューさんで六人。遠距離から中距離で戦う編成。ただし自分は弓が機能しないのでスネーク・ソードの魔剣である惑を用いる事になる。

「では宜しく」「こちらこそ」「頼みますよ」

 そんなPT内での軽い挨拶を交わしてから、こちらに向かっていると言う赤鯨の進行ルート上に急行して待ち伏せる。今回の作戦は、まず前衛や直接攻撃を得意とするメンバー&支援や回復を得意とするメンバーで編成されたPTが赤鯨の注意をひきつける。そして機を見て、ゴウさんからの指示が飛んできたら左右で待ち伏せている中距離や遠距離攻撃を得意とするPTが集中砲火を浴びせて一気に大きなダメージを与える事を狙う。その後は抵抗を続けて撤退させる、もしくは倒せるようならば討伐してしまうという流れになる。

「左右に隠れた皆さんの不意を突く攻撃が肝です。前線PTが窮地に追い込まれても、私の指示が飛ぶまでは絶対に攻撃を仕掛けないでください」

 と、ゴウさんから左右に隠れているPTには念入りに注意が飛ばされている。おそらく、まずは近接攻撃で一当てしてみたいという事なんだろう。前衛として配置された二PTは、どれも武器が両手斧や両手剣と言った切り裂く事も考えつつ、その重さで潰す一面がある武器をもっているし、魔剣や魔斧の所有者も居る。それらの攻撃を当ててどうなるかのデータを収集することも目的の一つと考えられる。ここで何かしらの有用なデータが手に入れば、今後やってくるはずの残りの二体に対しても、対策を講じやすくなるのだから。

【来たぞ! 全員構えていつでも戦えるようにしておけ!】

 そうして待ち伏せること数分。遂に今回のターゲットである赤鯨がその姿を見せた。それにしてもでかい。全長が二十メートルは超えるとされているシロナガスクジラより一回り以上大きいのではないだろうか? 確かにあの図体ならば、人魚だろうが何だろうが丸呑みにすることなどたやすく行えるだろう。体の色は強弱の差はあれど赤い……というよりは多少酸化した血の様な気持ち悪さがある紅い色合い。そんな存在が、蒼い海の中を泳いでいると言うだけで周囲の雰囲気から浮いている。

 そして赤鯨の方も、進行ルートの真ん前に立っている前衛PTを発見したのだろう、泳ぐスピードが上がった。って、加速が早い! それにあのままじゃ、海底にぶつかるぞ!?

「さ、散開しろ! 奴は俺達を押し潰すつもりだ!」

 前衛PTの誰かがそう叫び、大急ぎで赤鯨の激突予想箇所から逃げ出す。幸い全員が逃げ出せたので、グロいぷちっという光景は見ずに済んだ。しかし、赤鯨は海底にひびが入るぐらいの勢いで突っ込んだのにもかかわらず平然と浮かび上がる。そして陣形を乱されて散り散りになった前衛PTを目で確認しているようだ。やがてそのうち、ある一人の両手斧餅のプレイヤーに狙いを定めたのか、口を僅かにあけて突っ込んでいく。もしかして、食いちぎるつもりなのか?

「じ、冗談じゃねえぞ! いくら何でも速攻でやられてたまるかよ!」

 だが、その狙われた両手斧プレイヤーは何とかその赤鯨による攻撃を回避。赤鯨のスピードがあんまり乗っていなかったことも回避できた要因の一つだろう。そして回避したところでカウンター……とは言い難いが反撃を加えた。大きく振りかぶって両手斧を振り下ろす。何せ相手の図体はデカい。近距離なら外しようがない。だからこその大振りなのだろう。そうして仕掛けた一撃であったのだが。ガツッという鈍い音を立てただけで、両手斧の一撃は難なく防がれてしまったのだ。

「オイオイオイ! 両手斧のフルスイングによる一発だぞ!? なのにここまで手ごたえが感じられないって事があるのかよ!」

 そんな悪態をつきながら距離を取る両手斧使いのプレイヤー。その判断は正しい。チャンスと見てその場から動かずに攻撃ばかり行っていると、不意の一撃や資格からの攻撃に対処できない。ましてや相手のデータがないのだから、慎重な行動を心がけるその行動は素晴らしい。しかし、そんな姿を見せられてもまだゴウさんからの攻撃開始の指示は飛んでこない。もっと引きつけておきたいと考えているのだろうか。入れ代わり立ち代わり両手斧や両手剣を赤鯨に対して振りかざすプレイヤーだが、どれも有効だと言える一撃はない。

「ほら、支援をくれてやる! 次はもうちっと気合の入った一発をプレゼントしてやれよ!」

 赤鯨の突進から立ち直った他のプレイヤーが、両手斧プレイヤーを始めとしたPTメンバーの得物にエンチャント魔法をかけたようだ。斧の周囲に僅かながら紫電が走っているのが〈百里眼〉のお蔭で確認することが出来た。そして当然、そんなエンチャントを付与された両手斧やら両手剣は赤鯨に振るわれる。赤鯨の方もまだ遊びと考えているのか、激しく暴れず敢えて攻撃を受けているような感じがする。お互いにまだ様子見って所か?

「これならどうだ! 《ロック・プレッシャー》!」

 斧が輝いたので、おそらく両手斧のアーツの一つだろう。エビぞりと言って良いぐらいに背中をそらし、そしてその体勢から勢いをつけて赤鯨の体に両手斧使いのプレイヤーが振るう一撃がぶつけられる。ガリバリッ! という音が聞こえたので間違いなく命中はしている。だが、命中した個所はわずかに黒くなった程度。ダメージは……恐らく通っていない。

「(マジかよ、破壊力の高い両手斧のアーツにエンチャントのバックアップがあってもほっとんど効いてねえじゃねえか)」

 小声で、PTのロウさんがボソッとつぶやく。ロウさんもエンチャント枠でこのPTに入っているので、効果の少なさについ声が漏れてしまったのかも知れないな。と、ここであまり暴れる事も無く受けに回っていた赤鯨が口を開く。だが、吸い込むような兆候は見られない。──その理由は、口の奥で水色の発光が行われた時点で理解した。水魔法の発射を行おうとしている。

「全員伏せて何かに掴まっていろ! 食らったらひとたまりもないレベルだぞ!!」

 ここまで丁寧な言葉使いだったゴウさんが口調を変えざるを得ないレベルの魔法攻撃が、ゴウさんの叫びに従って伏せた前衛PTの行動後に行われた。吐き出された水魔法は、横向きの渦巻きを生み出して周囲を巻き込むかのように激しく回転。その渦に巻き込まれたら、中央でミンチにされると思われる。前衛部隊は伏せてなおかつ必死に捕まれる物にしがみつきなんとか回避。ゴウさんの判断があと少し遅れたら、前衛PTは全滅していたかもしれない。

「(こっちまで引っ張られかけたほどの威力だったね。前衛の人達の負担が大きすぎるよ、ゴウさんはまだ私達への攻撃許可を出さないつもりなの?)」

 前衛程じゃないにしろ、引きずられる影響を受けての発言となるPTメンバーのランさんの言葉に、焦りとイラつきが混ざる。確かに今の一撃を死者無しで乗り切ったとはいえ、明らかに前衛のPTに精神的な疲労が出始めてきている。その一方で赤鯨はいまだ余裕たっぷりであり、次はどう遊ぼうかと考えているようにも思えて来る。

「お返しです、これを食らいなさい!」

 と、そんな指揮権を持つのゴウさんから放たれる魔法。その土というよりは鉄でつくられていた魔法の矢は赤鯨の体に当たると大爆発を引き起こした。水中という事で爆発の余波が伝わり、またしても周囲が音と振動で荒れ狂う。それにしても今の魔法は、オリジナル魔法か? リアルの軍事的な兵器の事はよく知らないが恐らくそっちの方からネタを引っ張って来たんじゃないだろうか? なんとか効果で爆薬の量が少なくても威力を跳ね上げる方法とかもあるって耳に挟んだことがある。

 しかし、その一撃でも赤鯨は怯まなかった。先ほどの両手斧を振ったプレイヤーよりも焦げ跡の範囲は広いが、それだけ。何て装甲の硬さだよ、これはもう攻城兵器とかに出て来るバリスタとか持ってきてぶち抜くしか方法がないんじゃないか? と、ここでとうとうゴウさんからの攻撃指示が隠れていたPTに飛んだ。

【これだけ攻撃を加えた存在が私達だけしかいない以上、奴の注意は完全にこちらへと向いたはずです! みなさん、側面からの攻撃を開始してください!】

 そのゴウさんからの指示を受けて、待ってましたとばかりに左右から魔法攻撃や遠距離攻撃が降り注ぐ。ここからが本番と言えるだろう。
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