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連載

アリーンの手助け

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 そして翌日。ログインすると二人の人魚さんが借りている部屋の入り口……というか水面から顔を出していた。今更だが、この人魚の里では出入口はドアなどではなく水面。個室はカタツムリの殻の様な形の部屋の中に空気がたまっており、出入りは水中を泳ぐことで行われる。

「お、やっとお目覚めだね。押しかけて悪いんだけど、どうしても一つだけ確認しておきたい事があるんだよ」

 自分がむっくりとアクアの体の中から起き上がって顔を出した事を見つけた人魚さんが、そんな事を言ってきた。確認したい事ね、何かやっちまってたかな?

「もしかしてあんたの名前はアースって言うんじゃないかい? アタシの名前はアリーンって言うんだけどさ。以前アンタに似た格好をしていた奴に、海の恥を始末するとき世話になった事があってね。もしかしたら……と思ったのさ」

 アリーン? 海の恥? あれ、なんか身に覚えがあるぞ? いつだっけか、かなり前だな。そうして記憶を掘り返していると、チリッと胸の奥が焼かれるような痛みを覚えた。そしてその胸の痛みで完全に思い出した。

「そうか、マーマン族の人たちが海から来たサメ連中によって滅ぼされそうになったあの時。討伐作戦の後半で人魚さんの援軍が来たんだった。そしてその時のリーダーが……」

 自分がここまで言うと、アリーンさんは満足そうにうなずく。

「そうだよ、やっぱりあんたがアースだったんだね。見覚えがあるなーとは思ってたんだけどさ、この前の戦いから戻ってきた時にほぼ間違いないだろうって思って今日確認に押し掛けさせてもらったんだよ。あの時の借りをまだ返せていないのに、また海の事で助けてもらうだけってのはさすがに気が引けてね……何かしら出来る範囲で返そうと思ってさ。ただ、あの時近くに居たあのきれいなエルフがいないから間違ってるかもしれないと思ってたんだが、合っていてよかったよ」

 そうだな、以前アリーンさんに会った時はエルが存命だったからな……その後、死なせてしまったが。

「エル……あの時自分と一緒に居てくれたエルフの名前だが。今はもうどこにもいない。女神の所に旅立ってしまったから」

 自分の言葉に、アリーンさんも一度目を閉じた。そして「そうかい……思い出させてしまって済まなかったね」と謝ってきた。だが、謝る様な事ではないので「気にしないでほしい」と返答しておく。ちょっと妙な空気になってしまったが、そこでアリーンさんと一緒に居たもう一人の人魚さんが「リーダー、話を進めましょう」と発言。

「そうだね、死者を悼むことは大事だけど今はそれよりもやるべきことがあるね。先日の戦いに同行した部下からの報告なんだけど、あんたはスネーク・ソードのみで戦っていたと聞いたが本当かい? 以前会った時は弓も使っていなかったかい?」

 自分が頷く。それに水中で使える武器は惑以外の手持ちがないんだよな……強化オイルも水中ではほとんど使い物にはならないだろうし。アレは別かもしれないが、自爆や周囲に与える危険性がなぁ。

「確かに弓も使えるけど、あの時使っていた弓は大破してね。今は別な弓を使っているんだけど……まあ、弓を使わない理由は見て貰った方が早いか」

 弓を取りだし、水中へ。そしてアリーンさん達と一緒に里の外まで出てから矢を番えて弓を引く。当然ながら水中で矢がまともに飛ぶわけも無く、少し飛んだ後はふよふよと漂うだけになってしまった。そんな漂っている矢を泳いで回収し、弓と共にアイテムボックスの中へと仕舞。う

「という訳で、この弓は水中戦に対応していないんだよ。だから持ち出しても意味がない。そのため、唯一まともに機能するスネーク・ソードのみで戦う事になるんだ」

 という自分の実演を交えた言葉でアリーンさんも理解したんだろう。これじゃ使う訳ないねという事を理解したような表情を浮かべている。弓が使えれば、ゼめる手段の幅が広がるからありがたいんだが、ない物ねだりしてもしょうがない。あるものだけで何とかやるしかないというのが世の中だ。が、それをアリーンさんは良しとしなかったらしい。

「ふむ、でもこれなら借りを返せるかもしれないね。アース、水中などの特殊な環境でも威力や効果が落ちない弓があるとしたら使いたいよねえ? 色んな事を秘密にしてもらう必要があるんだけど、その条件を飲めるならこちらの武器を一つ提供できるよ。どうだい?」

 え? 進化した魂弓以外にもそんなものがあるのか? いざという時は変身して魂弓を使うしかないと考えていたが、もしそんな弓を新調できれば非常に助かる。たとえ威力が今使っている弓より落ちるとしても、遠距離攻撃手段が増えると言うのは大きなアドバンテージを得る事になる。

「興味がある。条件の方を教えて貰えないか?」

 悩まず自分はそう返答を返していた。スキルの選択でスネーク・ソードの強化を選択したが、それ以外でも使える手段が一つでも増えると言うのはありがたい。ましてや今回の赤鯨は厄介な相手であることは疑いようも無く、手札を増やせるのならばある程度の条件は飲むべきだ。そこに救助する側される側の区別はない。どこにも門外不出にしておきたい技術や道具、武具などは存在するのだから。

「黙っていてほしいのは、作る武器の素材と製造法。人魚のアタシ達が持っている武具の元だからね、地上に大量に持っていかれたりすると苦しいのさ。だから、そう言った情報だけは絶対に流さないでほしい。ぎりぎり人魚から貰ったと言うのが許可できる範囲になる。恩人なのにこんな事を頼むって時点で申し訳ないんだけどさ、こっちにもそれなりの事情があるからね。アタシ達だって、赤鯨を倒した後に生きていかなきゃいけないんだし」

 おっと、大体読みが当たったか。やはり素材や製造法は秘密にしたいよな。十分納得のいく内容だし、断る理由も無い。

「了解、地上でも武具の作り方などは基本的に他者に喋らないのが基本でね。その条件は当然の要求だと思うぞ」

 これは本心である。どっかの誰かさんは『日本が技術を世界に提供しないのはケチ!』などと言っているが、これはとんでもない話だ。ワンモアでもそうだが、リアルでも一つの物、一つの技術を生み出すには多大な時間とお金が必要なのだ。そんな技術を軽々しく提供しろ、何て言う奴は現実を何も見ていない愚か者だ。

「そうかい! それなら今回限りの特別って形にはなるんだけど、アタシの顔でアースに水中でも使える弓を提供させてもらうよ! 今回の相手はとんでもないバケモノだかんね、戦える勇士でもあり、恩人でもあるあんたになら武器を提供する価値があるってもんさ!」

 そうして自分は、アリーンさんの案内で、人魚の里の奥に向かう事になった。途中で警備をしている人魚さん達と何回かあったが、アリーンさんの「アタシが全ての責を負うから」の一言で難なく通過。はてさて、、何がが出てくる事やら。そして泳ぐこと数分、目的地と思われる場所に到着した。

「ここで、アタシ達が使っている武器が生み出されてる……鍛冶屋だね。おーい、ニテララいるかーい?」

 この人魚の里では珍しいドア付きの建物の前で、アリーンさんはドア越しに声をかけた。やがて中から扉がゆっくりと開かれる。中から出てきたのは、ねじり鉢巻きをした (本当にそう表現するしかない物を頭に巻いていた)一人の人魚。髪の毛は茶色で、あちこちにやけどの跡と思われるシミが見られる。

「アリーン、そんな大声出さなくったって聞こえるってば。で、何? ──って、その連れてきた子は誰? ここは基本的にごく一部の人魚しか出入りは許されてない事をアリーンが知らないわけないわけないから、何かそれなりの理由があって連れてきたんだと思うけど」

 なんとなく、眠たそうな表情している鍛冶屋の人魚さん。素なのか本当に眠たいのはか分からないが。

「ああ、以前アンタにも話したと思うが……以前海の恥知らずが川や陸の者に迷惑をかけた時……戦ってくれた勇士の一人がこのアースでね。で、さらに今回の赤鯨を倒すための戦いにも自発的に立ち上がってくれて、初戦で追い払ってくれた。ここまで恩を受けておいて、何も返さないとなれば今度はアタシ達が海の恥知らずになっちまう。違うかい?」

 このアリーさんの言葉に、鍛冶屋の人魚さん……ニテララさんだっけか? は「分かった、詳しい話は中で聞く」と言いながら中にアリーンさんと自分を招き入れた。さて、中には何があるのだろう。そして人魚の鍛冶か……面白そうだ。
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このアリーンさんは、以前のマーマン族が海からやってきた
サメたちに襲われていた時に手助けに着た人魚さんです。
この時はエルが生きてたんだよなぁ。
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