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赤鯨戦間近

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 翌日。ログインして十分後ぐらい後にプレイヤーに招集がかかった。どうやら後から来る予定だった資材調達を担当していた援軍の二十名が到着した事と、赤鯨の動向に関する情報が入った様だ。集合場所はいつもの会議室か。遅れないようにいかなければな。そしてそれからさらに十分後には全員が揃っていた。遅刻者無しとはすばらしい限りだ。

「では、会議を始めます。重要な事ばかりですので、質問等は最後に受け付けます。途中の報告に口を挟まないようお願いします」

 参謀役のゴウさんの言葉で始まった会議。まずは私財を確保してやってきた援軍二十名の顔合わせから始まった。

「──という訳で、金属や木材に始まり各種の皮や布。食材など、必要になると思われる物はとにかくかき集めてきた。十分な余裕をもって対応できるだけの量を用意できたと自負している」

 アイテムボックスから出されたそれらの資材は、小山が出来るほどの量であり……確かに十分すぎる量である。これなら、少し人魚の方に回してほしいとお願いしても問題はない、か? まあ、それは会議の最後に発言してみよう。

「これらの物資の要求は、会議終了後にお願いします。そして資材調達を務めてくださった方には感謝を。後で必要経費を出します。では次に、赤鯨の動向ですが……お願いします」

 赤鯨の動向を発表したのは、偵察に出向いていた人魚さん。ゆっくりとお辞儀をしたのちに報告内容を喋り出す。

「先日皆様によって手傷を負ったあの赤鯨の傷は、外見上の話になりますがほぼ癒えてしまった様です。そして、その傷を負わされたことに対する報復を考えているようでして、赤鯨三体はこの人魚の里を目指しています。到着時刻の方ですが……」

 ここで人魚さんがゴウさんをちらりと見る。そしてゴウさんが「先に報告を受けて計算しておきましたが、我々の時間で言うなら午後の九時半頃ですね」と発言。

「と、その辺りにやって来ると思われます。戦ってくださる勇士の方は、それよりやや早い時間に準備を整えてくださるようお願いいたします。私達もそれまでに体を癒し、皆様と共に行動できる力を蓄えられるように調整しておきます」

 明日の午後九時半か……午後九時までにログインして、あらゆる準備を整えないといけないか。幸い明日の残業予定は入っていないからリアルの問題は無し、か。

「では、PTメンバーの組み合わせを発表します。大半は前回と同じですが、前回の戦闘を鑑みて一部配置を変えている人がいますのでしっかりと確認をしてください」

 そう言って、紙を挟んだバインダーが配られる。そのバインダーから一枚紙を抜き取り、今回の配置を確認。ふむ、自分は変化なしというかメンバー変更自体がないか。他の人もメンバーの内容見て意見交換が行われているようで話し声が聞こえて来る。やがて全員に配置が記されている紙が行き渡り、皆が確認したころ合いを見計らってゴウさんが会議を纏める為の発言を行う。

「この戦い、負ける訳には行きません。赤鯨達は明らかに他の生物に対して異常な行動を取りすぎていますからね。ここでしっかりと始末しておかないと、被害が広がるばかりでしょう。資源もこうして用意されましたので、必要な方は申請を行って持って行ってください。修理などの作業は出来るだけ早めに行ってください。鍛冶作業が出来る人も資材運搬班として来て頂いておりますので」

 そして何か質問、ならびに発言したい事はありますか? と来たので、自分は手を上げる。他にも手を挙げた人が数名おり、ゴウさんが指さして質問内容を聞き出す。

「人魚さんの基本的な立ち位置はこの前と同じ?」とか、「資源を使った新しい武器製作は許可される?」とかの質問が出て、ゴウさんが「ええ、人魚の皆さんの行動内容は基本的にこの前と同じです。攻撃が通じない以上、仕方がありません」「新しい武器を作るのは構いませんが、あまり資材を浪費しないでくださいね」などの返答を行ってゆく。そして、自分は最後に発言する許可を貰った。

「申し訳ない、大体……そうだな、三十人分から四十人分ぐらいの槍を作れるだけの鉱石資源を持ち出す許可はもらえるだろうか?」

 この自分の発言に、周囲からは「ハア!?」「ちょっとまてよ、そんなに持って行って何すんだよ?」「この状況下で転売とかやるって言うんじゃねーだろうな?」「一個人が要求するようじゃねーぞ!」などの非難する発言が相次ぐ。当然だな、自分だってそんな事を突然言われたら同じような反応をするだろう。ましてや外套で顔などもすっぽりと隠している以上、胡散臭さが跳ね上がるだろうし。そんな声を上げる皆をゴウさんは制する。そして静かになった所でゴウさんが口を開く。

「では私からも問いましょう。明らかに一個人が要求するには異常な量であることは明白です。そして、貴方もそれは十分に自覚しているはず。資源は無限ではない以上、相応の理由がなければ貴方の要求を認める訳には行きません。それも重々理解していますよね? それらを理解したうえで要求する理由とは一体なんでしょうか? ここに居る皆様に納得してもらうだけの理由を述べてください」

 ゴウさんから少々冷ややかな言葉を頂く。それも仕方がない。が、こちらだって相応の理由があるからこその発言であり、後ろ暗い事は何もない。

「理由ですが、人魚の皆さんが戦える様になる為。今までの作戦では、人魚の皆さんが持つ槍……トライデントが赤鯨の皮膚などを貫く事が出来ないから支援に回すしかないという事が前提になっていました。しかし、水中における機動力は人魚の皆さんの方がはるかに上です。そんな人魚の皆さんが、赤鯨に対してダメージを入れる事が出来る様になれば……討伐できる可能性が大きく上がる。そう思いませんか?」

 この発言に会議場に居るプレイヤーや人魚さんがざわめきの声を上げる。特に戦士と思われる人魚さん達の目の色が変わったのが見て取れる。

「その攻撃できる手段を得る事が出来たのは偶然というか人の縁が繋いだと言うか。まあ百聞は一見に如かずと言います。アリーンさん、入ってきてください」

 自分は昨日打ち合わせをしていた通りに、アリーンさんを呼び出す。そして入ってきたアリーンさんだが、会議場に居るプレイヤーと人魚さん達の視線は、すぐに蒼色に輝くアリーンさんの持つトライデントに釘付けとなっていた。よし、掴みはOKという奴だな。アリーンさんは打ち合わせ通りに、手に持っている新しいトライデントを会議場の中央で高く掲げる。

「これが、その技法で作った新しい人魚さんの槍です。そして、その槍の攻撃力は百九十を超えていると言ったらどうしますか?」

 この自分の発言を聞いて、会議場は大騒ぎになった。プレイヤー側は「百九十とかバケモノ槍じゃねーか!」「ちょ、何したらそんなのが今の時点で作れるん!?」「ほ、ほしいい!」などの反応。人魚さん達は「私の槍の三倍以上……」「あの赤鯨を、あの槍なら貫けるかもしれない」「私達にもあの槍があれば、もっと戦えるはずなのに!」など。少なくとも、強烈なインパクトを与える事には成功したな。大騒ぎがある程度治まった所を見計らって手を上げ、「続き、喋って良いですか?」と問いかけ、その問いかけに答える様に静かになる周囲。

「全てがこれだけの力を持つ槍になるとは断言できません。特殊な方法故に、かなり不安定な面が多くありますので。ですが、もう一度問います。このような強力な槍を持った人魚さん達と共に戦った場合と、私達人族だけで戦った場合。どちらが赤鯨をより確実に討伐できるでしょうか?」

 問うまでも無い事は分かっている。いくら水泳を極めても、水中における機動力は明らかに人魚さん達の方が格段に上。まあ、人魚さん達は水中行動に適した姿を取っているのだから、それは当然の事である。その利点を今まではターゲットに対して力を発揮できる武器が無いから発揮できなかった。

 しかし、その前提をひっくり返す事の出来る武器が手に入ったらどうなる? 状況は大きく変わり、人魚さん達が強力な戦力に変わる。そして何より、人魚さん達が何もできずに外から来た連中に頼る事しかできなかった等の負い目を感じる事も無い。負い目なんぞ、交流をする上では基本的には邪魔なものでしかない。

「──決を採ります。この案に乗り、人魚の皆さんに資源をある程度融する事に賛成の方は挙手を」

 ゴウさんの言葉に手を挙げた人は九割以上。こうして、槍を作るために地上の鉱石がニテララさんの海中工房に運び込まれる事が決定した。

「ああ、失礼。まだ言い忘れていた事がありました。言うタイミングを逃してしまったために遅れたのはとても申し訳ないのですが」

 自分のこの発言に、また会議室は静かになる。

「今回の赤鯨の討伐に成功した暁には、この新しい武器を皆さんにも提供する準備が武器製作者にはあるとの事です。それも今回の報酬に上乗せされるとお考えください」

 僅かながらプレイヤー側から上がっていた反対意見は、この自分の一言で完全に消えた。皆さん正直ね、実に分かりやすい。

「あと、ここで聞いておきたい事がある方はまだ居ますか? 次は赤鯨との対決になりますから、こうして話し合いで集まるのは赤鯨を討伐した後の話となりますよ?」

 ゴウさんが確認を取るが、挙手する人は現れなかった。これで解散となり、人魚さん達の手によって四十人分の槍を作れるだけの鋼鉄資源が運ばれた。運び込まれた鉄鋼素材は、さっそくニテララさんの手により武器となってから融合が行われ、人魚の中でも強者の皆さんの槍が生まれ変わる事となった。この為、ゴウさんは新しく作戦を練り直し、戦える様になった人魚さん達も赤鯨討伐作戦に組み込まれることとなった。これでやれる事はやれたかな。あとは、赤鯨との真っ向勝負か。

 自分は矢を作るための最低限の素材だけを受け取り、矢の補充を行った。水中でも矢が使えるようになったので、補充する必要があったのだ。後は、アイテムボックスの中で半分忘れ去られた形で眠っていたあるアイテムをすぐ取り出せる位置に用意しておく。これでほぼ準備は完了だな。後は明日、最終確認をするだけか。
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魔王様「出番まだ? 準備は完了してるんだけど」

四天王の皆さん「魔王様は私達より登場するのは後になりますけどねー」
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