トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
197 / 366
連載

赤鯨との戦い……の合間

しおりを挟む

「お、アース君じゃないか」

 そんな声が後ろから聞こえてきたので振り返ると、そこにはレッドとブラック、ピンクの姿が。

「いやはや、他の所の面倒事がなかなか終わらなくてね。この戦いに参戦するのがかなり遅くなってしまったよ」

 なるほど、なかなかこっちに来れなかったのはそれなりの理由があったわけか。ヒーローズはヒーローズで何らかの戦いを繰り広げていたんだろうな。彼らも、自分とはまた違った形でこのワンモア世界と関わっている人物だからな。

「ところで、ブルーやイエロー、グリーンはどうした? 彼らがこの場に来ていないとは思えないが……」

 この質問をレッドに投げかけてみた。このやり取りを行っている最中に、もう一つの分隊に居た戦闘続行可能なプレイヤーや人魚さん達が集合して来た。そろそろ、不気味な沈黙を続けている魔魚も動くかな?

「その三人なんだが……先程までの戦いでやられてしまった。HP自体はまだ残って居るんだが、回復行為を受けられない呪いを食らってしまって、前に出ても無駄死にすることになる可能性が高い。呪いが解けない限り、三人の復帰は難しい。あの赤鯨とかいう奴は、今まで戦ってきた相手の中でも三本の指に入るぐらいの強敵だ。水中戦という事もあって、かなり厳しいな」

 そうか、歴戦の勇士でもあるヒーローズですら半壊か。これはちょっと厳しいにもほどがあるな。自分の居た分隊はルエットの滅茶苦茶な戦方もあって被害は最小。だが他の二つは大体半壊。最初の戦力がプレイヤー百二十人に人魚さん三十人前後の大雑把に言って百五十。そこから二か所半壊で大雑把な計算になるが、半壊部隊が二十五人づつ減ったと考えて今ここに居るのは大体百前後、か?

「──おそらく自分よりもはるかに強い奴や厄介な奴を相手にして来たレッドに聞きたい。行けそうか? この戦い」

 この自分が行った質問に、レッドはしばし沈黙。そしてレッドの口から出てきた答えは──

「行ける行けないではなく、行くしかない。ここで負けたら、人魚を始めとした海に生きる者達が皆滅しかねない。だから、行くしかない……困った人達を見捨てる様ではヒーローを名乗る資格はないからな」

 やっぱり、勝算はある。と言い切ってはもらえないか。なら、全力を尽くして勝つしかない。そう自分が覚悟を決めた時……意外な存在がしゃべり始めた。それは、魔魚だ。というか、こいつ喋れたのか。

『どうやら勇士たちが揃ったか。まさか、兄と弟が破れるとはな。陸に生きる者の力も侮れぬ事は十分に理解させてもらった』

 突然しゃべり出した魔魚に、動揺が隠せないプレイヤー達。その一方で人魚さんは魔魚を睨み続けている。

『が。兄と弟の力を受け継ぎ、そしてお前たちの会話を聞いて用いている言語を覚える事が出来るほどの知性も得た。故に、戦う前にたわむれにこうして話しかけてみている。言語を得たとしても、おそらく使うのはこれが最初で最後になるだろうからな。そちらが勝てば私が死ぬ故に使う機会はない。逆に私が勝てばそちらを皆殺しにする故に使う機会は消え去る』

 急に喋り出したと思ったら、何ともまあ。ま、どう転ぼうが戦わないと言う選択肢はまず無いが。

『ちなみに手出しをせずに待った理由だが、これだけの勇士が地上に居る以上、ここで皆殺しにする事で海に来れば生きて帰れないという恐怖を陸の者に理解してもらうためだな。これだけの勇士が出向いたとすれば、陸にも汝らを知る者は多かろう。そして汝らが最後に出向いたのが海であると知れば、帰ってこなかった理由も大よそながらに察してもらえるだろう。そうすれば、海にちょっかいを出そうと考える者は確実に減る。誰にとっても死と言う物は恐ろしいからな』

 こちらの予想とは違ってたか。それにしても、急激に頭が良くなる敵って色々と怖い。

『兄と弟が死んだことは悲しいが、それについては戦ったゆえの結果だ。その事について、私はあれこれ言うつもりはない。こちらもこれまでに相応の事を今までにやってきているからな、討伐の対象にされて死ぬと言う結末も十分に予想できることだ。が、だからと言ってこちらもそれをすんなりそんな結末を受け入れるつもりはない。私としてもまだまだ生きていたいからな』

 誰かがギリッと歯ぎしりをしたような気がする。しかし、ここで魔魚の話の内容が大きく変わってきた。

『だが、ここで一つ、大切な事を戦う前に伝えなければならない。陸に住む者達よ、兄弟が死亡して私一匹になった事により、接種せねばならない食事の量は大幅に減った。それはすなわち海にすむ命が絶滅し、新たな食料を得るために止む無く陸上に進出して、私と陸に住む者とが争いを繰り広げなくてはいけなくなると言う未来がやって来る可能性は消えたという事だ。それを前提として、一つ話がある』

 いったん言葉を区切った魔魚は、こんな提案をこちらにぶん投げてきた。

『陸からやってきた勇士達よ、先程の私は君達を皆殺しにすると言った。だが、ここで提案をしよう。この戦は痛み分けという事にして、本来の住処である陸上まで引くつもりはないか? 引くのであれば私は追わぬ。その代わり、陸の勇士はもう海に関わらない。そうすれば陸に住む者と海の者で住み分ける事が出来る。そしてこれ以上そちらも死者を出さずに済む。どうだろうか?』

 まさかの取引の提案までして来るとはな。なるほど、これを言いたいから敢えて集合を待っていた、か。さて、状況を考えるか。こちらの被害は三分の一の人数が戦闘不能、もしくは死亡。赤鯨側は二匹死亡。しかし、最後の一匹が二匹分の力を引き継いだと思われるために単純な引き算で考えるのは危険。それに、新しい隠し玉を得ている可能性も高い。

 だからと言ってここで引きあげるという事は、海に住む人魚の皆さんを見捨てるという事になる。当然自分の攻撃することができる人魚さん達を、魔魚が生かしておくとは思えない。もし自分が魔魚だったら、地上の人がいなくなった直後に人魚さんを強襲して真っ先に消す。そしてその後は敵がいなくなった海で悠々自適に過ごせばいい。恐らく魔魚の考えもそう違わないだろう。そう言う形にもっていきたいからこそ、プレイヤーに痛み分けとして住み分けようと提案して来たんだろうしな。ここで戦えば、負けて討たれる可能性も十分にあると魔魚は理解しているのだろう。

 あちこちで相談し合う声が聞こえて来る。人魚さん達はプレイヤー達を不安そうな表情を浮かべながら見守っている。もしここでプレイヤーである自分達が全員撤収してしまったら、勝ち目は消える。そして、地上に侵攻しないという事で戦う理由がかなり消えてしまっているからな。が、その人魚さん達の不安は取り払われる。ゴウさんが代表として、魔魚の前に進み出てこう宣言した。

「悪い話ではありません、が。私達の作戦は赤鯨の完全討伐なのですよ。ましてや人魚さんやこちら側に相応の死者も出てしまっている上に、これから先、貴方の手によって人魚さん達が死ぬ可能性が非常に高い以上、我々は引けない。と言う意見で一致しました」

 ゴウさんの返答に『ふむ……』と思案してから、魔魚は最終確認を行う。

『そうか、それも良かろう。しかし、汝らもかなり疲弊しているのもまた事実であろう? そんな状況で兄と弟の力を吸収し、更なる力に目覚めた私相手に本当に戦うという事で良いのだな?』

 この魔魚からの確認に、ゴウさんは胸を張って「ええ、答えは変わりません」と返答。そしてほぼ同時に、プレイヤー達が武器を構えて戦闘態勢に入る。

『了解した、ならば私は全力をもって、汝ら陸の勇士達を二度と海底で動かぬ骸に変える事としよう。それが私の攻撃によって汝らの迎える未来だ』

 その言葉が終わると同時に、魔魚は水魔法に加えて風魔法まで使いながらこちらへの攻撃を開始した。使える魔法の種類が増えているとはいきなり予想外だ。奴の使う風魔法は自分のものとは違い、岩がすぱっと断ち切れるほどのキレを見せている。直撃したら痛そうだ……と言うレベルでは済みそうにない。それに、岩が断ち切られることによって隠れる事が出来る安全地帯が確実に減っていく。これでは今までの戦法が通用しない。

「全員散開! 適度に距離を明けてください! 固まれば奴の魔法によって一網打尽にされてしまいますよ!」

 ゴウさんからの士気も飛ぶ。何とかしてここを乗り切らないとな。そして脱落者が増えた時は……黄龍変化を使って《黄龍玉》による蘇生も考えに入れなければならないだろうな……。
************************************************
皆さんはお墓参り、きちんと済ませましたでしょうか?
しおりを挟む