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連載

強化赤鯨VSヒーローズの切り札

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 討伐隊が集合して、魔魚との戦いが幕を開けてから十分ほどが経過した。討伐隊にとって、それはとてつもなく長く感じられる時間であり……その十分間の戦いを経た今の討伐隊は、ほぼ全壊状態に陥っていた。魔魚の『全力をもって骸に変える』と言う宣言は嘘でも虚勢でもなく、できる事だから言ったという事を、討伐隊は知る事になってしまった。

 もちろん討伐隊もただただ魔魚の猛攻を受け入れたわけではない。攻撃を回避し、僅かな隙に反撃し、仲間の盾となり、魔法を放った。しかし……すでに倒された赤鯨の力を取り込んだ魔魚の前には頼りの魔法の威力が弱められ、前衛は針や刃の猛攻に次々と倒れてその数を減らした。

 特に厄介なのが魔魚の体から無数に生える針で、魔魚が針の長さだけではなく先端を自在に動かす事が出来たのだ。その為、近接戦闘を挑んだ前衛は針に追われ、退路を狭められて追いつめられ、串刺しにされた。即死こそしなかったものの、腕や足を負傷する者が多数。戦闘力や機動力を容赦なく落とされていった。

 そして、この針はタンク役の前衛も苦しめた。盾を前に掲げて自分矢後衛を護ろうとしても、針が盾を避けて攻撃して来るのだからたまらない。魔魚は、盾を持つタンカーの腕を重点的に狙っていたらしく、次々とアームブレイクを引き起こされて盾を落とした。タンカー役はそれでも必死に挑発系統のアーツで後衛を護ろうと試みたが……やはり挑発は通用せず、やむなく物理的に後衛を護ろうと魔魚と後衛の中間に立って壁になった所をこれまた針によって串刺しとなり、次々と戦闘不能にされてゆく。

 そんな守りを失った状態では、後衛である魔法使いも威力のある魔法を放つことは出来ない。針を回避するために詠唱が短い魔法しか用いる事が出来ず、一発性を発揮できない。さらに魔法が当たるほどに体勢を獲得する性質を得てしまっている魔魚の前では、そのような十分な詠唱を用いる事が出来ない魔法では大したダメージを取る事が出来ず……やがて伸びてきた触手に打ち据えられ、地面に倒れた。

 今両の足で立っているのは数名だけ。ヒーローズの三名はその数名の中に入っている。自分は何度か針の攻撃を受けて片膝立ちの状態。軍師役のゴウさんは、特にしつこく狙われたようで戦闘不能に。人魚の皆さん達はあと数分以内に手当てをしないと、永久にこの世界から消える状態にまで追い込まれている。

「これほどまでに強いなんて……レッド、どうする?」

 ピンクがそんな言葉をレッドに掛けるが、レッドは無言。ヒーローズである彼らにも、もう打つ手がないのか? 残って居る自分が使える最大の切り札を切るべきタイミングはここなのか? が、まだヒーローズの話が続く。

「──レッド、今回は使うのもやむを得ないさ。どんな相手であっても、負けてしまったら、救いを求める人を助ける事が出来なかったら……俺達はヒーローを名乗る資格がなくなっちまう」

 これはブラック。何やら切り札が残って居るような感じだな。そしてこのブラックの言葉にレッドが「そうだな、皆に無理をさせる事になるが……ここで負けてしまったら、共に戦った友や人魚達が皆殺しにされてしまう。それは許される事ではない」と返し、何かを始めるしぐさを見せる。しかしそのしぐさは非常に小さく、魔魚は気がついていない様だ。

 一方で魔魚も、今は攻撃を止めていた。こちら側の攻撃による大きなダメージこそ受けてはいないが、魔法やら針やら刃やらの連続使用でスタミナとかMPとかが切れたのかも知れない。心なしか苦しそうに呼吸をしている所から、そう自分は推測する。その為、この時レッドが行っているしぐさに邪魔が入る事なく、ヒーローズの準備が整う事になる。

「たとえ、どんな敵が立ちはだかっても絶対に引かない! それが俺達ヒーローだ! 例えこの身を削っても、必ず貴様を倒して見せる!」

 突然レッドが大声で魔魚に対して宣言したかと思うと、「トウッ!」という掛け声と共に赤い光を残しながらの大ジャンプ。そしてピンクやブラックも同じく大ジャンプ。さらに後ろの方からブルー、イエロー、グリーンの光も見えて来る。それら六つの光が空中で一か所に集まったかと思うと……光り輝く全身鎧を纏った巨人が下りてきた。その衝撃で自分を始めとした近くに居た人がバランスを崩してすっ転ぶ。合体ロボならぬ合体巨人ですか!? これがヒーローズの切り札なのか?

「六人合体、究極装甲機人! この力をもって、皆を護る! まずは《ヒーローサクリファイス》!!」

 突然の超展開について行けない周囲の様子だったが (魔魚含む)、《ヒーローサクリファイス》と言う技? 魔法? を巨人が使うと、討伐隊で戦闘不能になっていた人を含めた全員が大幅に回復し、問題なく動けるようになる。とうやら、この《ヒーローサクリファイス》は、自分の黄龍変化で使える《黄龍玉》と似たような性質を持っているのかも知れない。ただ、六人でデメリットを分担できると言うのであれば、《黄龍玉》よりも使いやすいのかも知れないな。

「皆、ここは我らに任せて一旦後ろに下がっていてくれ! この究極機人なら、しばらくは持ちこたえられる! 今のうちに呼吸を整えて体勢を立て直してほしい!」

 鎧巨人は告げると、魔魚に向かって一歩一歩前進。動きはやや緩慢だが、そのサイズから一歩の幅がとても大きい。あっという間に距離を詰め、右手に持った剣を高く掲げる。

「行くぞ、勇気の剣『ブレイブハート』! アイツに一撃を加えるぞ! 食らえ、《シャイン・クロス》!」

 鎧巨人の持つ剣が、剣の初級アーツである《クロスライン》と同じ軌跡を描く。だが、《クロスライン》と完全に異なる点は、その軌跡が光り輝いている事だろう。その事から、あの攻撃は光属性を持っていると予想できる。剣自体が属性を持つのか、アーツによる効果なのかがはっきりしないが、もしかすると自分の持つ惑の様に、その剣を持っている時だけの専用技と言う可能性もある。そう考えると、あのブレイブハートなる剣も魔剣の一種なのか?

 この一撃を受けた魔魚だが……直撃は避けた様だ。しかし、多くの針と刃の一つがバッサリと切り裂かれた様なので、完全回避もできなかったらしい。そして一気に沸き立つ討伐隊。あちこちから「なにあれ、すげえ!」とか「あんな変身もありなのか!?」とか「あいつに一太刀与えやがった!」などの声も聞こえる。というか、あれも変身に分類されるのか……複数の人が協力しないと変身できないなんて条件もあったのか。

「流石にそうそう当たってはくれないか。だが、こちらも負けられない理由がある。受けてみろ、《ヒーロー・クラスト》!」

 鎧巨人はそうアーツ名を宣言すると、何も持っていない左手を魔魚に向ける。すると、鎧巨人の左手に光の弾が発生。何せ鎧巨人のサイズが大きいので、その光弾も非常にデカい。それを見た魔魚もこれは危ないと感じ取ったのだろう、赤黒いオーラを前面に展開して壁を作り上げる。示し合わせたように、その壁の完成とほぼ同時に鎧巨人の左手に集まっていた光弾が撃ちだされる。魔魚の生み出した壁はその光弾を受け止めるが、徐々に壁の中にめり込んでいくのが見える。

 光弾と壁の激突は、その大きさを一回り小さくされたが光弾が貫通。魔魚に直撃した。魔魚の方も壁の生成にかなり力を入れていたのか? それ故に回避行動を取る余裕がなかったのかもしれない。とにかく、ようやく魔魚に対して討伐団側が大きな一撃を入れる事に成功した事になる。

「「「「よっしゃあああああ!!」」」」

 そして、その一撃で討伐団が湧く。しかし、こうしてみると特撮のエキストラになったような気分だな。日本得意の巨大化して戦うアレを、間近で見ているような気分だ。戦闘方法は違うけどさ……と言うより一緒だったらいろいろと不味い、か。

 ここまでのやり取りで、魔魚は防御に偏った行動を取っていた。だが、先程の光弾を受けた事でスイッチが入ったのかも知れない。先ほど鎧巨人に斬られた棘を再生し、長さを揃えてから針を伸ばす攻撃を鎧巨人に対して仕掛けた。この攻撃を鎧巨人は右側に転がりながら移動することで回避。しかし、針はそんな回避行動を取った鎧巨人を追尾し、貫かんと襲い掛かる。

「避けきれないなら、切り裂いて見せる!」

 鎧巨人は避けきれないと判断し、襲い掛かってくる針を剣で切り裂き始める。途中までは襲い来る多数の針を全て切り裂いていたが、攻撃密度を上げた針の攻撃の前に被弾し始める。〈百里眼〉で刺さった部分を詳しく見ているが、鎧を貫通しているのが見えた。間違いなくダメージは入っているだろう。それでも大多数の針は切り捨てているし、突き刺さった針も切った後に抜き取っている。かすり傷レベルで収まったか? 鎧巨人はうめき声を上げていないし。

 魔魚も、針による攻撃があまり通じないと見て攻撃を停止。針の長さを元に戻して様子見状態になる。その一方で鎧巨人はゆっくりと剣を構えなおして対峙する。ここまでのやり取りを見るならば、鎧巨人の方が一歩リードと言って良いだろう。先ほどの《ヒーロー・クラスト》と言う光弾による攻撃は魔魚にダメージを与えていたようだし、魔魚が得意とする針攻撃も、鎧巨人がその手に持つブレイブハートと言う名前の剣で切り捨てられている。

 だがその一方で、魔魚はまだ鎧巨人に魔法を使っていない。まだMPが回復していないのか、それとも有効的に使えるタイミングを計っているだけなのか。じりじりと鎧巨人が間合いを詰め、魔魚は迎撃態勢を取る。そしてみている自分達は誰も言葉を発しない。ここであの鎧巨人が打倒されれば、勝ち目は薄い。そんな戦いなのだから、ここで変に声を出して鎧巨人の集中力をそぎたくはない。そのような考えが全体に広がっているのかも知れない。もしくは、ただただ目の前で展開されている巨人VS怪獣の戦いに釘付けになっているだけなのかも。

 と、ここで魔魚が、水魔法と風魔法を乱れ討つ。ここで鎧巨人を下がらせて、遠距離戦メインに持ち込もうと言う腹なのだろうか。先ほどの《ヒーロー・クラスト》は一度見たので、再び撃たれたとしても対処できると踏んだのかも知れない。そしてこの魔法の弾幕を受けた鎧巨人は……下がるどころか勢いよく前に出た! そしてブレイブハートを振るい、ある程度ではあるが魔法そのものを切り捨てながら前進する。鎧巨人の鎧に魔法が傷跡をつけるが、大きく凹んだりヒビが入ると言うような感じはない。

 魔魚はこの鎧巨人の突貫に対し、さらに目から出ている触手を振るう。しかし鎧巨人はこの触手を軽くはじくかのように受け流し、さらに距離を詰めて……魔魚目がけて、大上段からの一撃を振り下ろした。
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裏設定……究極機人

魔剣・ブレイブハートの前で、共通の目的のために戦い抜くと誓った六名が
全員同意することで発動する六人合体特殊変身。これはユニーク変身であり、
ヒーローズのみに許された変身能力となっている。

発動すると物理、魔法両方に高い抵抗力を持つ鎧を着込んだ巨人に変身。
メインコントロールを行うのはリーダーで、他の五名はそれを補佐する。
また、変身中専用のアーツも多数存在している。

因みに各自の担当は……

メイン……レッド
剣による攻撃……ブルー
防御行動……イエロー
回避行動……グリーン
回復・支援行動……ピンク
アーツ使用の制御行動……ブラック

が各自担当している。この変身を使うと、再使用まで二週間のクールタイムが発生。
さらに合体したメンバー六名が一週間能力半減のペナルティを負う。
その為、気楽に使えないので使いどころが難しい。
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