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連載

討伐終了

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 それは、途轍もなく長く感じた三十秒。とにかく無理やりにでも前進して鎧巨人を倒そうとする魔魚。それをさせまいとする黄龍変化を行た自分や他の討伐隊の人々。魔魚を一刀両断するためのアーツを発動するために、溜め行為を続けている鎧巨人。ここまで溜めに時間がかかるのは、それだけの力を籠めないと魔魚を切り裂く事が出来ないのだろう。何せサイズはデカいわ、防御は固いわで、これだけ大勢の討伐隊が攻撃を当て続けても魔魚の動きはほとんど鈍っていない。その様子から大して攻撃が効いていないのだろうと予想できる。

 もちろん自分も討伐隊の皆さんと一緒に積極的に打って出ている。しかし、最初の一発は不意打ちだったから刺さったようなもので、来ると分かれば魔魚も対策を練って来る。赤黒いオーラをこちらの攻撃箇所に集中して盾と成し、ダメージを与える事がほとんどできていない。黄龍でこれか……が、その分他の守りが甘くなるので、他の討伐隊の皆さんの攻撃が当たりやすくなるために無駄ではない。ダメージはほとんど取れないが、のけぞらせる事で時間を稼ぐことができるのである。あくまで今回この魔魚を倒すのはヒーローの変身したあの鎧巨人なのだから、それまでの時間稼ぎが出来れば意味がある。

「まだなのか!? まだ溜まらないのか!? くっそ、一分にも満たない時間がものすごく長く感じるぞ!」

 誰かがそんな事を叫ぶ。魔魚も当然強行突破するために、魔法に針、刃に触手と言ったあらゆるものを使って足止めを行っている討伐隊に攻撃を仕掛けてきている。それらの攻撃を回避し、ひきつけ、そこから足止めをするために反撃しなければならないのだ。並の狩りには要求されない集中力を必要とし、判断ミスで即死しかねない状況下では、一分どころか一秒が非常に長く感じる。それでも魔魚の前進を少しでも足止めするために必死で皆が反撃している。頼みの綱である鎧巨人の一撃が完成すれば勝てると言う希望があるが故に。

 だが、ここで新たな動きを見せたのは魔魚の方だった。死すら厭わない討伐隊の必死の抵抗により、前進する事が難しいとみたのか、魔魚が後ろに下がって距離を取った。しかし、その行為に討伐隊が笑顔を見せることは無かった。なぜなら、魔魚が大きく口を開けたその中には、とてつもないエネルギーが集まっていた事が見えてしまったからである。口の内部にエネルギーを集めて行われる攻撃は……レーザーの様なブレス攻撃であると、誰もが簡単に予想できたのだろう。自分の近くに居る人達の表情はほぼ例外なく引きつっていた。

「おーい!! まだなのか!? もう限界だぞ!」

 そんな声が鎧巨人に掛けられる。しかし、鎧巨人から帰ってきた言葉は──

「──済まない、あと二十秒はかかる! 皆、もういい! 残り二十秒は何とか耐えて見せる! だから、奴と私の間から退避してくれ! あの攻撃を食らったら、ほとんどの人は一瞬で消し飛ばされてしまう!」

 まだ、時間がかかると言う返答。しかし、目の前に居る魔魚の口の中にたまっているエネルギーは、鎧巨人の言った通りその直線状にあるものすべてを消失させる事を嫌でも理解させるだけの規模なのは事実。魔魚が後ろに引いたことで、こちら側の攻撃が届かない様に距離を空けられてしまっていた事も痛かった。攻撃を当てて妨害する事も出来ず、討伐隊にできた事は大急ぎで魔魚と鎧巨人の間から退避する事だけ。だが、黄龍変化の時間がまだ残って居る自分はその間に留まっていた。

「そこの黄金の戦士、もう無理をするな! 君もそこから引くんだ!」

 鎧巨人の声が聞こえる。が、自分はそれを聞き入れずに両手両足を大きく広げる事で自分自身の意思を示した。そう、ここから引かずに盾になると言う意思を。それに、まだ手はある。残った変身可能時間のすべてを、防御アーツである《武龍壁》に突っ込む。《武龍壁》は、視覚や聴覚に大きな制限を受ける……と言うか限りなく盲目状態と難聴状態となって周囲の状況が分かりにくくなるが、その代わり強力な壁を生み出せるアーツ。これならば、奴の高エネルギーのブレスでも耐えられる可能性はあると踏んだ。それに、先程鎧巨人は耐えると言ったが……その耐える事で今まで溜めた力が霧散する可能性もある。そしてもう一回その溜め時間を生み出す事は、ほぼ不可能だ。討伐隊の消耗が激しすぎる。

 だからここは自分が最後の壁となる。最悪の場合は一瞬で押しつぶされて自分は即死する事になるが……それでもここはやるべきだ。勝てる可能性を少しでも上げるために。両手両足を大きく広げた格好のまま、自分は魔魚を睨みつける。魔魚の方も、引かない自分の姿にイラついたのが、威圧感を叩き付けてきている。やがて魔魚が溜め続けていたエネルギーが臨界を迎えたかのように激しく輝いたかと思うと……そのエネルギーの塊がこちらに向かって叩き付けるかのように撃ちだされた。

「GAAAAAAAAA!!」「《武龍壁》!!!」

 《武龍壁》を発動した事で、目の前に壁が生まれると同時に自分の視力と聴覚は失われた。生まれた壁に両手を押し付けて、叩き付けられていると思われるエネルギーの奔流に必死で抗う。どれだけのエネルギーを叩き付けられているのかは、両手に伝わる感覚が教えてくれる。黄龍状態で大幅に自分の力は強化されているはずなのに、確実に確実に後ろに押されている感覚を自分は感じていた。だが、最悪の即座に突破されてしまうという事にはなっていないのも事実。あとは、根性を入れて変身時間が尽きるまで耐えるだけだ。

(この程度の重圧、今までに何度も味わって来た! 負けるかぁ!)

 今まで生きてきた中で、このぐらいの重圧感や威圧感を受けた事は何度もあった。このように物理的な意味ではないにしろ、生きてきた人生の中でそれらと戦ってきた経験が、この程度で屈してたまるかと言う意地を生み出す。そしてその意地が、押されっぱなしだった動きを止めて……ほんの少しずつではあるが、ゆっくりと前に押し返し始める力を生み出す。その力をもって、両手に力を籠めて前に一歩ずつ前進する。そして、なんとなく前方から驚きと怯えと言った感じの気配がする。前方に居るのは魔魚だけのはず、ならば、この気配は魔魚の物か? 砕けぬ壁に恐怖を覚えたのか?

 だからと言って、手から伝わる重みが軽くなった訳ではない。むしろ、重くなったかもしれない。砕けぬ壁が、下がらぬ壁に恐怖を覚えた魔魚が、威力をさらに上げて吹き飛ばそうと考えても無理はない。でも、だからと言って今の自分にできる事はたった一つ。たとえどんな重圧を掛けられても、引かず、脅えず、前に出る。愚直にただまっすぐ前に出て、後ろに居る鎧巨人を護り切る。決めの一太刀は向こうに任せればいい。ただ、自分の役割はここで絶対に引かずに耐える事。変身時間が尽きるその時まで。そして今、まだ変身は切れていない。故に自分は耐えなければいけない。

 十秒経ったのか? もしくは二十秒? それとも── そんな感覚を味わいながら《武龍壁》を維持していた自分であったが、突如あれほどまでに感じていた重さが急激になくなった事でバランスを崩す。それと同時に変身が解除されたようで、自分の姿は元に戻っていた。と同時に、視覚と聴覚が戻って来る。そんな自分の目に最初に入ってきたもの、それは……息も絶え絶えで疲労を全く隠せていない魔魚の姿であった。おそらく、強烈なエネルギーを吐き出したはいいが、自分の壁を突破できなかったことで予定以上の物を吐き出してしまったのだろう。だからあんな風に隙だらけの姿を晒していると思われる。

「体を張っての防衛に心から感謝する……その恩に報いるためにも、この一撃は必ず決めて見せる!」

 そして、自分の後ろからは鎧巨人のそんな叫びが聞こえた。振り返ると、手に持つ剣は黄金に染まり、そのオーラは燃え滾る炎の様に激しく動いている。その剣を見れば、あれこれ言われなくても理解できる。あの魔魚を一刀両断できる準備が完全に整ったのだと。

 その決着は、実にあっさりとしたものだった。あれだけ討伐隊を苦しめた魔魚であったが、力を使い過ぎて息も絶え絶えの姿で鎧巨人が振り下ろす金色のオーラを纏う剣をよける事も出来ずにバッサリと真っ二つに叩ききられた。戦いの終わりは、案外こうやってあっさり終わりを迎える事が結構多い。とにかく、これで終わったはずだ。もう、復活とかしないよな?

(なんとか、喋れるぐらいの魔力が戻って来たわ……そして、今、間違いなくあの赤鯨を異常に強くしていた根源みたいな物が斬られたのを確認したわ。だから、この戦いは終わりよマスター。ゆっくり休んでね。私も、またしばらくの間は魔力を取り戻すために深く寝るから。それじゃお休み〜)

 とだけルエットの声がした。そうか、ルエットがそう言うなら間違いないのだろう。まさに英雄が悪を断ち切って勝利……うん、良くある英雄譚の一つだな。今回の事は人魚さん達の間で語り継がれるんだろうなあ、尾ひれに背びれに他もろもろの脚色付きで。世の中はそんなもんだ。ま、とりあえず今日は引き上げて色々やるのは明日以降にしよう。終わったと分かったら、ドッと疲れが押し寄せてきたので、ログアウトしてぐっすり寝たい。討伐隊の他の人も、勝ったぞー! と言うより終わったか……と言う感じなので、戦勝パーティのような物をやるとしても明日以降だろ。

 こうして、犠牲者が多数出た赤鯨三体の討伐は終わりを告げた。だが、自分は翌日レッド達からの情報で驚くことになる……。
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決着があっさりと思われるかもしれませんが、
ヒーローのとっておきである大技が直撃すればこんなもんです。

スキル

風迅狩弓Lv50 The limit! 砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)Lv42  百里眼Lv38  技量の指Lv54  小盾Lv39  蛇剣武術身体能力強化Lv1 ダーク・スラッシャーLv1  人魚泳法Lv10 ↑1UP 鍛冶の経験者LV30 妖精招来Lv17 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv2.48 ↑UP!

控えスキル

木工の経験者Lv8 上級薬剤Lv34  釣り LOST!  料理の経験者Lv27 義賊頭Lv47  隠蔽・改Lv7

ExP 10

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

強化を行ったアーツ

《ソニックハウンドアローLv5》
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