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連載

波乱は起きず

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「それにしても……一つ聞いても良いかしら?」

 話も終わり、そろそろ探索を再開しようという所で女性プレイヤーから声を掛けられた。なんだ?

「貴方はそんな道具をいっつも持ち歩いてるの? 道具に食材などを考えるとかなりの量になるはずだから、アイテムボックスのスペースをかなり圧迫してるんじゃない?」

 そうだな、確かに簡単な修理をするための携帯できる鍛冶の道具、調理器具、木こり用の斧などで自分のアイテムボックスはかなり圧迫されている。でもなあ、たまに出番があるのも事実なわけでして……特に調理器具はちょこちょこ出番が回って来る。その為、持ち歩かないと言う選択肢は自分の中には無い。戦利品を持ち帰れる量が減るのは痛いが、だからと言って持っている技能を生かす為には必須なわけでして。

「圧迫してるのは認めるが……でも持ち歩かないと言う選択肢はないよ。今回みたいに役に立つ事も時々あるからねえ」

 と、質問して来た女性プレイヤーに返答。これからもこのスタイルは維持することになるだろう。

「じゃあ、話すべき事も全部話したし、俺達はいったん街に引き上げるわ。せっかく用意して来た数々の料理や飲み物が全部台無しにされちまったからな……」

 氷の彫像にされてしまった一団は、街に引き返すとの事。食料を軒並みやられてしまった以上、その判断は正しい。何せ冷めてしまった料理や飲み物は製作評価が品質評価という文字に変化して、その評価内容も二になってしまっていた様だ。つまり、腹に無理やり収めることは出来るが、素晴らしく不味い物に変化してしまったという事だ。一ではないから食えないほどではないにしろ、それらの料理や飲み物は捨てるしかないだろうな。

「じゃ、お互い頑張ろうぜ。またな」

 そんな言葉を交わして、引き上げていく一団とは別れた。さて、こちらはもう少し探索を続けますか。

「とりあえず、スノーゴーレムが出た場合は出来る限り速攻で。話に出てきた特殊なスノーゴーレムが来た時は他の連中をタンカーに引っ張ってもらって、他の皆で集中砲火。OK?」

 魔法使いの男性プレイヤーの言葉に、全員が頷く。氷の彫像にされるのは誰だって嫌に決まっている。そんな未来を迎えないように、スノーゴーレムが現れた時の段取りを確認しておくのは良い事だ。何せこの集団はたまたま集まっただけの団体でしかない。だからこそ、確認するために声に出して確認する行動は大切だ。声を出さずに『まあ、全員分かってるだろ』と思い込んで行動してると、ドえらい目にあう可能性が高い。

 と、そんなやり取りもあったが……この日の探索ではスノーゴーレムとは出くわすことがなかった。あれから一時間ほどダンジョンを回ったが、出て来るモンスターはみんな小物と言った感じで、苦戦のくの字も無い状態だった。モンスターが出て来ても数の力でさっくりと終るし、オーバーキル気味な所も数多くあった。ウサギ型とか狼型とかいろいろ居たんだが、とにかくサーチ&デストロイだったので印象がいまいち……

「ちょっと意気込み過ぎたかもなー。人数が多い事もあってさっくり終わっちゃうな」「なんか、こう、ね。」「これだったら、三人ぐらいの小規模PTを組んで戦うのがちょうど良いかもしれないな。スノーゴーレムだけは見てないから何とも言えないが」「こういう人数が多い時にこそ出てきて欲しいのに、上手く行かないもんだな」

 なんて会話も。ここはある程度経験を積んで初心者を脱した人達が来ると手ごわいが、自分の様に幾つもの国を回ってきた人たちからすればそう怖ろしい場所ではない。もちろん罠は殺す気満々の物も多いし、スノーゴーレムと言うまだその力がいかほどの物かがまだ分かっていないが……まあ、その様な要素がなければ極端に厄介な点と言う物は見受けられない。

「それにしても、宝箱は全部空っぽってのが寂しいな〜」「トレジャーハントは無理だよ、その手の人達は、新しい場所に真っ先にやってぱぱーっと根こそぎ回収していくもんだから」「隠し部屋でもないかねえ」「トレハン技能伸ばしている人達の前じゃ、隠し部屋だって丸裸じゃないの?」

 と、新しいダンジョン登場によるお宝探しの方も空振りと言う結果に。これはまあしょうがない、一緒に行動している人達の言う通りで、そう言ったお宝回収に全力を注ぐ人達が我先にと詰めかけるもんだ。知っている面子で言えば怪盗メンバーとかかな。獣人連合で出会ったあの人達はそう言うお宝探しをメインに据えている様だったし、ここのお宝もおそらくは彼らのような人達が持って行ったんじゃないかな。

 とまあ、そんな感じで初めてのダンジョン探索は終了。危険な状態に陥る事も無く、ある程度の内部情報も掴めたから自分としては上々だ。後でソロで入る時に注意しておくべきことも大体わかったから上場の結果だろう。ここ最近色々とトンデモ無い状況に陥ったりすることも多かったから、これぐらい平穏に済む日があっても良い。この日は宿屋に戻り、そのままログアウトした。


 翌日、ログインして前日に消費た食材の補充を行った後にもう一度フォルカウスの街をゆっくりと見て回る。もしかしたら何らかの依頼が見つかる切っ掛けが見つかる可能性があるので、時々やっている行動の一つだったりする。そうして街を歩いていると、何やら言い争いをしている人達を見つけた。何事だろう。

「だから、今日は鶏肉の料理が食いたいって言ってるだろ!」「鶏肉は二日前に食っただろ! 今日は別の肉が良い! 鶏肉のうまさは否定しないが、鶏肉ばっかりでは飽きる!」

 ──どうやら、ワンモア世界の冒険者達が、昼か夜の飯の内容で言い争っているようだ。これはスルーして問題ないな。さて、他に何かないかなと。

「はー、うちの人が今日もお肉を食べたいと言ってまして」「困るわよねー、ウチもそうなのよ。野菜を出しても残す癖に、肉を出すともっと持って来てくれって。自分の稼ぎ以上の食事を食べたがるから、どうやって家計簿を赤くしないかが悩みなのよね」「どこも一緒なのね〜、こっちはこっちで、昨日鶏、は今日牛、明日はまた別の肉が良いとか。そんなにお肉ばっかり食べるとブクブク太るだけって何度言っても聞いちゃくれないわ」「うちの人は、最近横にばっかり成長しちゃって。いい加減ひっぱたこうかしら?」

 うん、これもスルーしていいだろう。変に口を挟むと面倒な事になりそうだ。他に何かないかなー。

「あー、最近雪下ろしがきついな。歳を取ったからか?」「はっ、何を言ってやがる。そんなにだらしのねえ腹をたぷんたぷんと揺らして居りゃ、疲れるのも当然だろーが」「おやっさん、あんまり言いたかねえけど……さすがにここ最近太りすぎですぜ。食い物の好き嫌いを止めて行かないと、いろいろとまずいですぜ」「下手すりゃ、奥さんに愛想を尽かされるかもなぁ? ひひっ、そうなったらお前は笑い者になるだけだぜえ?」「

 なんだろう、なんで今日はこんな事ばかり耳に入ってくるのだろうか? こういう話はリアルだけで十分だ! ただでさえ健康診断や人間ドッグに行けば憂鬱な事ばかり医者に言われるのに、なんでこっちに来てまでそんな話を耳に入れなきゃならんのですか。まあ、食生活の方はできるだけ野菜多めでお肉は少なめを心がけている。だが、お肉ゼロでもダメだ。ある程度の動物性たんぱく質は取らないといけないとも医者から言われている。

 日当りのいい場所に出たので、気にもたれかかるようにして一休み。街を歩いてみたが、今日はこれと言った街の人が冒険者に頼むような仕事はなさそうだ。かといって、時間的にダンジョンに入るには中途半端だし、そもそも今日はダンジョンとかに行くような気分でもない。かといって、資源採取も望めない。このフォルカウスの街の周囲には木も坑道もない。そして近いうちに魔王領への道が開かれるアップデートが控えているので、フォルカウスの街から離れるのもよろしくない。

(ま、たまにはこんな日もある。宿屋に戻ってアクアの羽根の手入れでも手伝うか)

 この日はログアウトまで、アクアと戯れつつ宿屋で過ごした。念入りに羽根の手入れを手伝ったので、アクアはご機嫌に。明日はソロでダンジョンに行ってみますか。
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──特に意味はありません。
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