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連載

魔王領解放寸前

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 それから数日は、大きな問題は一切発生しない穏やかな日々が続いた。義賊リーダーからもいくつかの情報を受け取っていたが、一番懸念していた赤いオーラを纏ったモンスターの発生は起きていないとの事。おそらく赤鯨の発生に使ったエネルギーがかなり大きかったので、新しく紅いオーラを纏うモンスターを生み出すのに時間がかかっていると思われる。

 また、街に居る魔族の方に少々時間を貰って、魔王領の大まかな街の位置なども把握した。魔王領には大きな街が三つ、そして魔王城が存在する。東西南にの方角に街が一つづつ有り、最北端に魔王城が存在すると言う形らしい。一番北に魔王城があるのは、もし他国が魔王領に攻めあがってきた時に、寒さで出来る限り戦力を削る事が目的との事。要は冬将軍と言う天然の妨害能力を最大限に生かすという事だろう。もちろん領民を見捨てるような真似はせず、魔王城に避難させるらしいけど。そのため、魔王城はかなりの大きさらしい。

 お次に説明会を行っている魔族の方に質問をしに行った。事前の説明会の終了後に借り受けたこの寒さを防ぐペンダントをしていたのにもかかわらず、氷の彫像にされて凍えてしまった者がいたがそれはなぜなのか、と。それに対しての返答だが、どうもこのレンタルされたペンダントの効果は『魔王領内限定』でしか機能しないようなのだ。これもまた持ち去りを防ぐための策らしい。じゃあ何故そんな大事な事を説明会で話さないのかと言うと、それは魔王領から出て行くときに説明する予定だったと。特に序盤の説明会は数をこなす必要があり、削れる部分はとことん削った結果、その事を伝える余裕がなかったという事だ。

 なので、あくまでペンダントの効果があるのは魔王領だけであるという事を広めても構いませんか? と質問した所、構いませんとの返答だったので掲示板の方に書き込んでおいた。もし嘘だと思うのであれば、魔族の方に確認してくださいとの一文を添えて。

 もちろんダンジョンにも何度か足を運んだ。しかし人がかなり多いために、ダンジョン内のモンスターと戦う機会はあんまりなかった。たまに戦えた時は、蹴り技の修練をさせてもらった。特にルイ師匠から教わった《風華蹴》の復習を何度も行った。かなり苦労して覚えただけあって、感覚はすぐに取り戻せたので良しとする。本音を言えば《風結蹴》の方も復習したかったのだが……人の目が多すぎるので諦めた。《風華蹴》の方なら、まだ一般的なアーツだとごまかせるから見られても問題はないんだけどねえ。

 スキルレベルの方は全く上がらず。経験としては蓄積されているんだろうけど、レベルアップするほどではないという事なんだろう。まあ、それならそれでいい。あくまでここにいるのは魔王領解放までのつなぎなんだしね。ぶっちゃけると、プレイヤーの皆さんもそろそろ開放してくれーと言う声が上がるようになってきている。そして、そんなタイミングを見計らったかのような形で公式発表が行われた。色々な事が書いてあったが簡略化するとこんな感じ。


1.魔王領解禁。魔王領への通行が可能になります。

2.魔王領解放に伴い、いくつかの隠しアーツ&魔法が解禁されます。習得方法は皆様でお探しください。

3.魔王領解放に伴い、新しいタイプの変身が解放されます。こちらも習得方法は皆様でお探しください。


 の三つ。もちろん他にもアーツの細かい調整やシステムの更新などもあったが、そちらは全体的にプレイヤーがより遊びやすくするための調整と言う感じなので省略。そして肝心の魔王領解放時期は一週間後の長期メンテナンス後となっていた。その為、掲示板でもワンモア内でも話で取り上げられるのは魔王領の事一色に染まっていた。

「いよいよ最後の国の開放だな。アースももちろん行くんだろ?」

 そして今は、ブルーカラーのいつもの面子と魔王領の事について雑談をしている真っ最中。ツヴァイからの問いかけに対して、自分は素直に頷く。

「いろいろとやるべき事も多いから、行かないと言う選択肢はないかな」

 この自分の発言に、じとっとした視線を向けてきたのはノーラ。

「また、なんか裏クエストみたいな物を引き受けてるの? 本当にアースは何をやってるのよ……ある意味才能ね、そう言う物を引き寄せるってのは。ある意味トラブルの神様に愛されてるんじゃない?」

 やめてくれ。それはある意味間違ってないから。

「まあまあ、ノーラさんもその辺りで。しかしそうなりますと、アースさんは魔王領でも基本的にソロ活動ばかりという事になりそうですか?」

 カザミネが仲介に入り、その後に質問を投げて来る。

「いや、自分の用事は魔王領が解放されたら即座に動いて即座に終わらせる事が求められているからね。それが終われば……PTを組めると思うよ」

 そう、即座に行動に移る必要がある。今回ばかりはアクアに飛んでもらって、全速力で魔王城に行き、魔王様に謁見しなければいけない。その謁見で許可を貰い、ダークエルフの守護者? にもらったあの黒い球状の道具を使って、暴走を収めなければならない。それが終わらない限り、安心して魔王領の街を見て回ることは出来ない。

「アースと共に戦うのは面白いからな、用事が終わったらぜひ教えてほしい。お前の事だ、また隠し玉が一つや二つ増えているのだろう?」

 こちらはレイジ。なんか別の意味で期待されてるな。確かにいくつか増えはしたけど、必要でない限りは使うつもりはないよ? まあ、《風華蹴》とかは見せても良いけど。使う機会があればだが。

「あー、でもちょっと憂鬱。ボクはリアルでも冷え性なんだよねぇ。そして魔王領は極寒地域なんでしょ? レンタルの耐寒ペンダントがあるとはいえ、寒い所はちょっとなー」

 あれま、ロナちゃんは冷え性なのか。女性は冷え性持ちの人が結構いて大変そうにしてるからな。職場でもそう言う人はいるし、うちの母親も冷え性だ。辛い辛いと口をそろえて言うのも別段珍しい事じゃない。まあ事実、冷たいと言うのはきつい。自分もちょっとした事で二月の群馬に行ったことがあるのだが、あそこのからっ風は厳しかった。何せ冷たい風を受けて『寒い』と感じずに『痛い』と感じたのだ。そんな痛いほどの冷たさを日常で受けていれば、辛いと言うのも無理はない事だ。

「あ、ロナさんもそうなんですか。私もちょっと寒いのは苦手な方で……せっかくの新しい場所の開放でも、あんまり喜べないんですよね。ワンモアのスタッフの皆さんが表現などに力を入れる事がこういう時は恨めしく感じますね」

 ロナちゃんに同意したのはコーンポタージュ、レイジの彼女だ。うーん、やっぱり冷え性の人には厳しいか。何せこのフォルカウスでも結構寒さを感じる。その寒さがより強まるとなれば、憂鬱になってしまうのも無理はないか……。

「だから、ちゃんとこの街のお店をしっかり回っておこうと言ったじゃないですか〜。温かい靴下を始めとした鎧などの下に着れる装備品を売っているお店が色々とありますよ〜? 冷え性ならなおさらその辺りから対策を始めるべきですよ〜、いくらレンタル品の道具を借りられるからって、そう言った基本を疎かにしちゃ駄目ですって〜」

 なんて事をミリーが言う。ああ、そういや防具や道具を扱うお店にはそういった物が結構販売されていた。ああいった物を買いこんで、きっちり装備すればそれなりに有効かもしれない。他のゲームで言うアバター装備と言う見た目だけの変更とは別物と思われるし。

「あの、ロナさん、コーンポタージュさん。後で私と一緒に買いに行きませんか? 向こうに行って寒さで苦労するよりはずっと良いと思いますし」

 エリザの言葉に、そうね、と同意するロナとコーンポタージュ。しかし、その三人の血相が次の一言で変わる。

「あ、同じ事を考える人が近頃かなり多いそうで、そう言った防寒具関連は売り切れ間近って話をお店の人から聞きましたよ? 私が買いに行ったときに」

 と、カザミネの相棒役と言う立ち位置をほぼ確立したカナさんが発言。そしてその直後に街に飛び出していくロナ、コーンポタージュ、エリザの三名。この時の三人の動きは、完全に目で追うことは出来なかった。気がついたときはもうドアの外と言う感じであり、残されたメンバーはあっけにとられてしまったほどだ。

「えっと」「早いな」「戦闘の時よりも早かったんじゃないか?」「私も、一瞬あの三人の姿を見失いました……」「準備が足りないのは困った物ですね〜」「意外な所で抜けてるな」

 そして再起動した自分達はそんな間抜けな言葉を交わした……さて、いよいよ最後の国の開放だな。どんな出来事が待っているのやら。さっさと面倒事はやっつけて、のんびりと満喫したい。
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次回からはいよいよ魔王領の話に移ります。
予定より大幅に遅れましたが、ようやくお届けできます。
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