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連載

魔王城の中

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「では、こちらへどうぞ」

 案内に従い、魔王城の中に。そして中に入ってつい、こう呟いてしまった。

「これは……凄いですね」

 見た目的には、そう極端に派手と言う訳ではない。だが、何というか荘厳と言うか圧倒されると言うか。とにかく一国の王が住まう場所としての威厳を城の中にあるものすべてが醸し出しているのである。成程、魔王の名に偽りなしと言った所か。そんな自分の声が聞こえたらしく……

「魔王様はあまり好まれないのですが、やはり王の住まい場所にはそれ相応の物が必要となりますから。さて、ここから先の案内は別の者が行います。やってきたようですね」

 と、説明してくれた。さて、魔族の女性が向けている視線の先に自分も視線を向けると、奥から女性用のフルプレートと、メイド服が数人あるいてきたのが見える。──お前は何を言っているんだ? と思うかもしれないが、自分は何も間違ったことは言っていない。本当に、鎧とメイド服が宙に歩いて近寄ってきているのである。透明人間なのか? そう言う種族が魔王様の配下に居てもおかしくはないけれど。

「お疲れ様です、ここからの案内役は私達が引き継ぎます。貴女はいつも通りの任務に戻ってください。外に控えさせた兵士たちも通常任務に戻るようにと指示を出してくださいね」

 と、女性用フルプレートが魔族の女性に優しい声で告げる。ここにきて自分は、こういったモンスターに該当する物を思い出していた。それは、リビングアーマー。動く鎧。しかし、鎧の方はそれでいいとしてもメイド服の方は? リビングメイド? いや、そんなのは居ないはず。

「貴方が、今回四天王の試験を受ける方という事で宜しいのですね? これからは私の部下であるこの子……ミステが案内を務めます。ミステ、挨拶をなさい」

 リビングアーマーがそう発言し、動くメイド服部隊の中から、一人? 一着? のメイド服が進み出て来て丁寧にお辞儀をして来た。お辞儀して来たと分かったのは、頭上に浮かんでいるメイドさんのヘッドドレスがあったから。しかし、こう中空に浮かぶメイド服を見てると、どうにも妙な気分になる。

「今回案内役を務めさせていただくミステと申します。短い間ではありますが、よろしくお願いいたします」

 礼には礼で返すべきだよな。こちらもアクアを頭から降ろして胸元に抱きかかえてから挨拶をする事にした。

「ご丁寧にありがとうございます。私はアースと申します。こちらこそ急なお願いを聞いていただくことになってしまい、申し訳ありません。よろしくお願いします」

 普通に挨拶を返しただけだったのだが、なぜかざわめきが起こる。何かやっちまったかな? 所変われば意外な事がタブーになったりもするから……が、こちらを非難するような雰囲気は無いから大丈夫だとは思うが。挨拶も終わった所で、ミステさんが手をこちらに差し出してきた。手袋をしているので、分かりやすいのが助かる。

「それでは、武具を預かります。ですが、四天王の皆様に対して力を示す事で魔王様との謁見につなげたいとお考えであるならば、そのままお持ちいただいて結構です」

 戦いに来た訳ではないし、四天王の皆様に力を示す方法も取るつもりもないからここは素直に武具を預けようか。鎧はまあいいだろうけど、武器に転用可能な物は根こそぎ預けておくか。

「分かりました、ではお預けしますね。ただ、少々数が多いのですが宜しいでしょうか?」

 この自分の問いかけには「問題ありません」と言うミステさんの返答が返ってきたので、あらゆる物を預ける事にした。まずは弓と矢。次に魔剣。そして靴につけている蹴りの補助武器。

「はい、では一時お預かりしま「すみません、またあるのですが」す……あら? そうなのですか?」

 次はアイテムボックスの中にある強化オイル、調理器具である包丁、木こり用の斧、鍛冶用のハンマー、いくつかの毒薬などなど……武器にできる物をすべて引っ張り出した。

「ず、随分とお持ちだったのですね。はい、確かにお預かりしました。お帰りになる時に返却いたします」

 少々ミステさんが引いているようだったが、まあ仕方がない。色々なスキルを取っている上に生産までやっている以上どうしても必要な物が増えてしまうんだよな。それに伴ってどうしても刃物が増える。製作には欠かせない道具の一つだからなぁ。

「では、ご案内いたします。最初の試験を担当している四天王のお部屋はこちらでございます」

 色々な物を預けて身軽になった自分は、外套のフードも外して顔を出した状態でミステさんの後に続く。その途中でちらりちらりと横目で周囲の様子を伺うと、多くの中空に浮いているメイド服が掃除をしていたり、植物の世話をしていたり、物を運んでいたりと忙しく仕事をこなしていた。

「これだけ大きいお城だと、メイドの皆様の仕事量も非常に多そうですね」

 前を歩くミステさんのそう質問を投げかけると、「ええ、かなり大変ですね」と前置きをしてから話をしてくれた。

「休息時間は十分に頂けるのですが、かなり忙しいです。正直こうやって案内をしている方が楽ですね。まあ、案内をしているアース様が非常に友好的かつこちらの誘導に素直に従って頂けているからそう言えるのですが。逆に戦いばかりを望まれたり、城の中から価値のあるものを盗み出そうと考える不埒な方を相手した時は非常に疲れます」

 なるほどねえ。つまりここに居るメイドさん達はこまごまとした作業から、戦闘などもこなせるという訳か。まあ、魔王城に居るメイドさん達が、普通のメイドさんな訳もないか。──それ以前に、メイド服が宙に浮いている光景を見ると言うだけでただ物じゃないけどさ。そんな雑談を交えながら案内されること数分。いろんな場所を曲がり、階段の上り下りなどもあり、一人で帰るのにはかなり迷いそうな通路を歩いて、一つの扉の前に到着した。

「さて、お待たせしました。ここにいらっしゃいます。ここから先はお一人で向かってください。それが決まりですので」

 決まりならしょうがない。罠もかかっていない事を確認してから扉の前へ。そしてノックをしようとして手が止まる。

(あれ、ノックの回数って何回が正しかったんだっけ?)

 他の人からしてみりゃ、そんなことどうでもいいだろうかとツッコミを飛ばすかもしれないが。ここで少し自分は考え始めてしまった。

(一回じゃ足りないよな。二回は確かトイレの時に使うなんて事を誰かから聞いたような。そうすると三回で良いのかな? 四回はくどいような気がするし)

 そんな風に考えを纏め、ノックをコンコンコンと三回。それから少し後に「入ってよいぞ」との女性の声。「失礼いたします」と断りを入れてからドアをゆっくりとあける。そして中に居たのは、大きなヘビの下半身、上半身の背中からは羽が生えていた。羽が背中から生えていた事が分かったのは、彼女がたまたま背中をこちらに向けていたからだ。

「済まなかったな、ちょっとした書類の確認が終わらなくてな……せっかくやって来てくれたと言うのに申し訳ないが、少しだけ待ってほしい」

 押しかけたのはこちら側なのだから、大人しく待つことにした。しばらくこの部屋の中にはサラサラサラと言う筆記用具が紙の上を舞い、何かが書かれていく音だけが聞こえた。そしてカタンと言う音と共に筆記用具を机の上に置いて、ふうと息を吐き出す。

「こんな物か。飛び入りの仕事はやめてほしい物だが、魔王様の為ならば仕方がないな。さて、大変お待たせして申し訳ない。私は魔王様に使える四天王の一人でエキドナのマドリアと言う者だ。で、貴殿が四天王の試験を受けて魔王様への謁見を願う者で間違いはないか?」

 なんというか、眼鏡を掛ければ仕事が出来てクールなOLみたいな感じだな。まあ四天王と言う位置にいる方なのだから、OLと比べてしまうのは失礼か。

「はい、どうしても魔王様との謁見を出来る限り早く行いたい事情がありまして……今回押しかけてしまいました。よろしくお願いします」

 さてと、ここからが本番だな。どんな試験を言い渡されるのかが怖いが、逃げ出す事だけは許されん。気合いを入れて行ってみよう。
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おまけ話で出してから、やっと正式登場。
ついでに名前も確定。まずはエキドナさんです。
ちなみにおまけ話と口調が違うのは、お仕事モードだからです。
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