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連載

魔王様登場

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番外編でちらっと出たっきりの魔王様。
ようやく本編で登場です。
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 先の「魔王様、ご入場!」の言葉で、謁見室には静寂が訪れた。そんななか、コツコツと言う足音が聞こえて来る。ああ、この足音の主が魔王様なんだな。もちろん頭を上げる訳には行かないので、音だけで判別するしかないが、この状況で足音を耐える事が許されるのは魔王様だけだ。コツコツと言う足音はやがて自分の前面から聞こえる様になり、さて、いよいよかと自分が身構えた瞬間、それは起こった。

 ズルッ ガン! べちょっ ドッスーン

(何事!?)

 つい、突如起こった四つの音に反応して、つい頭を上げてしまった自分。だが、そんな自分を窘めたり警告を飛ばしてくる人はいない。何故なら……

「ま、魔王様〜〜〜!?」

 との、マドリさんの絶叫が響き渡ったから。自分の前には、うつ伏せの状態で玉座の下敷きになっている一人の女性が居た。ドレス姿なので女性で間違いないだろう。そして、豪華な玉座がそんな彼女の上に乗っかっているのである。何が起こったんだ……さっきの音から予想すると……ズルッで魔王様? が足を滑らした? そしてガン! で玉座の手すりに体のどこかをぶつけた。べちょっが魔王様? がうつぶせに倒れた音で、ドッスーンが玉座が魔王様の真上に落ちた音なんだろう。玉座が空を舞った理由は、魔王様? が玉座の手すりにぶつかった時に跳ね上げたという事だろう。物理法則は、たまにワンモア世界だとサボるからね。

「おはな打った、痛い……」

 可愛い魔王様? の声。大慌てで下敷きになっている魔王様? の上に乗っかった玉座をどかしたのはマドリアさんとリビングアーマーさん。そしてそのまま魔王様と思われる女性をいったん外に運び出していく。あっけにとられている自分に、サキュバス・クィーンのヘテラさんが近寄ってきてこう一言。

「見なかったことにしてください」

 いや、見なかったことにしろって……何だろう、これから重要な話をしなければならないと言うのに、そこはかとなく不安になってくるこの気持ちは。とりあえず、先程の一言を言ってから、じーっとこちらを見て来るヘテラさんにはうなずく事で返答した。本当に、美人から無言の圧力を受けると実に怖いね。そしてそれから待つこと数分後……

「魔王様、ご入場! これは先程のリハーサルではない!」

 をいこら。リハーサルって何なんですかリハーサルって。王様の登場にリハーサルも何もあるものか。が、そこで騒ぎ立てないのも大人だって事は重々理解してますよ。とにかく、先程の様な珍事は早々発生する事でもないだろう。静かに頭を垂れて、魔王様を待つことにする。コツコツと謁見室に響く足音。さすがに今回は問題は発生せず、ドサッと、魔王様が玉座に座ったような音がする。

「試験を乗り越えた魔族に理解を示す者よ、大儀である。面を上げよ」

 先程とは全く違う、涼やかな女性の声が、謁見室に響く。その言葉に従い、自分はゆっくりと頭を上げ……即座に元に戻して咳き込んだ。何故なら……魔王様の鼻の穴の両方に、ティッシュのような物で作られたこよりが刺さっていたからである。何これ、自分を何が何でも笑わせようとしてんの!? 気分は小学生時代に牛乳を飲んでいる時に、友人が目の前で突如変顔をしてきたりとか、中学生時代に校長先生の真面目な話が行われている時に、教頭先生のズラが風で飛んだ時の状況とそっくりだ。

 ほら、普段は「くっだらねー」とか「そんなことして何が面白いの?」とかで受け流せる事でも、限定的な状況でやられると無意味に大爆笑したくなる事ってあるだろ? アレだよ。理由とか理屈はどうでもよくって、何故か笑いたくなっちゃうと言う不思議な状況。恐らく無意識に「ここでは絶対に笑っちゃいけない」と考えているからこそ、その反動で笑いたくなるんだろう。そういう事を題材にしたTV番組もあることだしね。──しかし、今ここで笑ったら最悪自分の首が飛ぶ。息を吸って、吐いて、息を吸って吸って吸って、ゆっくり吐いて……よし。

「どうした、面を上げよ。それとも、我に顔を見せることは出来ぬと申すか?」

 やばい、魔王様の声の温度が数度下がってる。再び自分は気合を入れてから顔を上げる。そしてやっぱり魔王様の鼻に刺さっているこより。魔王様は美人だ。整った顔立ち、長い紅の髪の毛、黒を基調としたバトルドレス。そんな美しい魔王様だからこそ、鼻に刺さっているこよりがますます笑いを誘う。気合いを入れろ、笑っちゃいけない。ちらりと横を見ると、ヘテラさんとデスさんの肩が小刻みに震えている。あ、どうやら二人も笑うのを必死でこらえているようだ。

「大変失礼をいたしました。急に咳き込んでしまいまして……お許しを」

 少々苦しいが、そう言い訳をさせてもらう。馬鹿正直に『いえ、魔王様のお顔が大変傑作でして。HAHAHA』とか言っちゃだめだってのは誰だって解るだろう? くっそ、笑えれば楽になると言うのに・・…頑張ってくれ自分の腹筋と理性!

「そうか、体には気を付けるのだな。して、此度の謁見を要求した理由は何だ? 四天王の試験を受けてまでやってきたのだから、詰まらぬ用事ではないのだろう? 話すが良い」

 いえ、ダークエルフの守護者? からの依頼がなければ、ただの雑談をするために押し掛けようかなどと考えていたアホは自分ですよ? ま、いい。ここはストレートに行こう。

「理由は二つありまして。まず一つは魔王様と直接お話をしてみたかったという事が理由になります」

 この自分の言葉に、魔王様は「ほう? 我と話を直接したいと言うか。なかなか面白い奴だ」とのご感想。頭の方では何を考えているのかはさすがに分からないが、幸いその声からは好意的な物を感じた。もちろんこれは感じただけだが、先程の冷たい声色を聞いているので、比較がたやすい。そして、もう一つの目的のためにダークエルフの守護者? から預かっていた手紙を取り出した。

「そしてもう一つの理由ですが……リビングアーマーさん、申し訳ありませんがこの手紙を魔王様に手渡していただけませんか?」

 そうして、やっと依頼された事を達成することが出来た。リビングアーマーさんに手紙を手渡し、その手紙は魔王様の元へ。これならば、直接手渡した事に限りなく近いだろう。手紙を開封し、中身を読み始める魔王様。そしてしばらく読み続けた後に、急に鼻に詰めていたこよりがスポンスポンと勢いよく抜け落ちた。

 その不意打ちに笑いたくなったがぐっと我慢。良く見れば、こよりの先が赤い。そうすると、魔王様は王座の手すりに顔面ダイブしたことになる。アライタソー。

「この手紙は事実か!?」

 くわっ、と言う効果音でも突きそうな表情で、魔王様が自分の方に顔を向ける。と言っても、手紙の内容を自分は知らんのよ。

「手紙の内容は自分は一切存じません。ですが、ダークエルフの谷にいらっしゃる守護者様から依頼を受けたことは事実であります。そして、この三つの漆黒の玉をもちいて、魔王領で発生している闇の魔力による暴走を抑えて欲しいと依頼されたのです」

 自分は、ここぞとばかりに例の漆黒の球体の三つをアイテムボックスから取り出して魔王様に見せる。

「私はこの球体を持ち運ぶことができる稀有けうな存在であると守護者様に言われまして、魔王領に足を運びました。そして、魔王様には、この球体に手抑える事が出来る三か所への立ち入りの許可を頂きたく、お願いに参りました次第でございます」

 やっとこの一言が言えたよ。ここまで来るのにかなり時間が掛かったなぁ。そしてそれだけ時間がかかっている以上、間に合わない可能性も上がっているんだよね。そして、手紙に書いてある事と実物を見ても、それから実際に動けるようになるにはどれぐらいの時間が必要となるか──

「話は分かった。いや、むしろ良くぞここまでやって来てくれたと礼を言わねばならん! そして事態は一刻を争う! アースなる冒険者よ、その横に居るのは妖精国のピカーシャなる神鳥だな? 案内は我が行う。貴殿と我で迅速に目的の場所へと急行するぞ!」

 えっ!? 魔王様が直々に現場に出るんですか!? 横ではマドリアさんが「魔王様!?」と、驚いている。まあ無理もない、一国の王が直接出るってのは普通はそうそうないからな。出るとしたら、負けたら終わりの最終防衛戦とかの、重要な局面だろうな。──あ、いや。暴走が起きれば魔王領は大変なことになるな。ならば、魔王様が出るのはおかしい事でも何でもないか。

「マドリア、国民への出征要請を出すのは明日になっていたな?」

 魔王様が、マドリアさんにそんな事を確認している。出征か……もしそれが行われれば、大勢の魔族の皆さんが死ぬことになるか。ダークエルフの守護者? の方が言っていた事を思い出す。暴走が起こると、戦争のような状況になるんだったな、そしてそれを止めるために魔王様が軍を率いて治まるまで戦うと言う流れになるんだろう。

「その出征を出すのを二日延期しろ。国民に命を掛けさせなければならないと言う未来を回避できる希望が、ぎりぎりのタイミングで飛び込んできてくれた。良いか、二日たって我が戻らなかった場合は出征要請を出し、戦いに備えろ、良いな!」

 有無を言わせぬ、とはこういうことを言うのかもな。マドリアさんも気圧されたようで、「は、ははっ」と返すのが精一杯のようだった。そのマドリアさんの反応を確認した魔王様が今度は自分に一言。

「では、一緒に来てもらおう。貴殿の助けがあれば、魔王領に血と涙がまき散らされる未来を回避できる可能性がある。我と共に来れば、一々許可を出す手間も無い」

 まさかの魔王様が同行者に……とはいえ、何が待ち受けているかがわからない以上、魔王様と言う魔族のナンバーワンが来てくれるのは心強いのも確か。ここは、一緒に行動する方が吉だろう。

「宜しくお願いいたします。では早速行動に移りましょう」

 さて、サクサク暴走が抑えられれば良いんだけど……とにかく、魔王様と協力して事に当たろう。ゲヘナクロスの時の様な大勢が死ぬ展開は真っ平ごめんだ。
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ズラ飛びはフィクションです。
牛乳は……ディスガ○ア2のタローの固有特殊技にもありますね。

ちなみに、魔王様の本性は「おはな打った……」の方です。
立場上えらそうな言葉使いもしないといけないのがストレスだそうです。
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