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連載

やっぱり人災の相が余計な真似を 『人災の相』今回の一件は濡れ衣です!

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今年もあと一か月ですね。
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 そして自分達は再びアクアに乗って空を飛んでいた。だが、自分、魔王様、アクアの誰にも余裕はない。その理由は、先程のヒュドラさんの言葉が原因である。

「魔王様、ここは治まったのじゃが……悪い知らせじゃ。儂の感覚が、黒稲荷の危機を伝えておる! 話は後回しにして今すぐに向かってくだされ! 一分一秒の遅れで手遅れになるやも知れぬ!」

 その言葉に従って、魔王様と共に短距離転移で外に出た後にアクアに飛び乗って移動を開始した。アクアの飛行速度も、普段の二倍近い速度が出ているのが雲の流れで分かる。

「最悪は暴走した魔力との戦いになるか……四天王の皆さんの誰かを連れて来るべきだったか……?」

 この自分がつい漏らした呟きに対する魔王様の反応はこうだった。

「駄目だ、あそこは魔力の暴走を抑えられる者に関連しているか、魔王である我か、貴殿のような例外を除いて人を近づける訳には行かない。死神殿は協力者だから呼ぶのは論外としても、四天王の一人であるリビングアーマーは特に相性が最悪だ。あの暴走した魔力に呑まれて、理性を完全に失って誰彼かまわずに襲い掛かるバーサーカーとなって朽ち果てる結末を迎える事になる。他の二人も、意思を乗っ取られて物語に出て来るようなただの暴れ回る悪魔や、その肉体で魅了し、生ある者の命を貪るだけの外道に落とされかねんのだ。過去における暴走魔力との戦いも、最後を抑えるのは魔王の役目。他の者では更なる戦いを引き起こすだけなのだ」

 だからか。だからこそ魔王様はあの時四天王に対してついて来いと言わなかったのか。連れてくれば、逆に敵を増やすだけになると言う展開を迎える事になってしまう……厄介な。

「──理解しました。最悪暴走魔力によって生まれた何かとの戦いになってしまったら」

「我と貴殿、そして黒稲荷殿の三名でどうにかするしかない、という事だ。メインの攻撃と防御は我が受け持つが……貴殿にも多大な負担を強いる事となってしまう。そうならぬことを祈ってはいるが、その祈りは残念ながら届きそうにないかも知れん。感じるぞ、魔力の暴走で異様に膨れ上がっていく事で何かが形作られていく。最悪、黒稲荷殿の命は奴に襲われてとうに尽きているやもしれん……ピカーシャよ、済まぬが出来る限り急いでくれ!」

 アクアが高速飛翔を続けたので、この会話を行った四分後に目的地に到着し、魔王様の短距離転移で最後の暴走魔力の元へと向かう。そして、そこで見た物は……黒い巫女装束のあちこちを紅に染めて倒れている一人の女性と、その前で勝ち誇るように吠えている大きな虎の形をした闇であった。そして周囲からいくつかの煙があがり、何かが焼けたような嫌な臭いが立ち込めていた。恐らく黒稲荷さんは必死に単独で戦っていたのだろう。

 そして、自分と魔王様が次に見た物は、虎型の闇は巫女を喰らおうと開けて倒れている狐耳巫女に対して大きく口を空ける姿だった。その虎型の闇に対して、魔王様が素早く行動に移る。一瞬の詠唱を終えて、指に闇の魔力をみなぎらせている。

「やらせぬよ、《カースマグナム》!」

 魔王様が、魔力をみなぎらせた指から闇の弾丸を数発ほど連射する事で虎型の闇に攻撃を仕掛ける。その弾丸は虎の尻尾や胴体部分をすり抜けて行くが……一発だけ、額部分に飛んだ弾丸がガチン! と言う金属同士がぶつかったような音を立ててはじけ飛ぶ。虎型の闇はそれでもよろけることは無かったが、巫女に向けて開けていた口を閉じ、じろりとこちら側を見るようなしぐさをする。ただ、目がない。頭と思われる部分をこちらに向けたので、見たのではないかと感じただけである。

「アース殿、貴殿は黒稲荷殿にポーションを飲ませるなり掛けるなりしてくれ! 黒稲荷殿はあのまま放置したらすぐに死んでしまう! ポーションを飲ませて回復させるまでの時間稼ぎは魔王である我が必ず成す!」

 言うが早いか、バトルドレスを僅かに揺らした後に、魔王様は虎型の闇に向かって突撃を仕掛ける。武器も何も持っていないが、魔王様の手周辺に赤、青、緑、黄色、白、黒の六色の色をした球が浮かんでいる所から、何らかの効果を殴れば発揮できるようにしていると推察できる。っと、今は魔王様を信じてやるべきことをやらねば。魔王様が虎型の闇の注意を完全に引いたことを確認してから、自分はこそこそと気配をできる限り殺して移動し、赤黒く汚れている黒稲荷さんの元に移動。手持ちの中で一番高品質な回復ポーションをぶっかける。ここでケチったら取り返しがつかん。一番いい物を使うのが最善だ。

「──ぐっ!」

 苦しそうな声を上げる黒稲荷さんだったが、ともかく反応がある、それは生きている事を意味するので一安心。もう一つポーションを用意して黒稲荷さんの前にもっていく。黒稲荷さんも差し出されたポーションをすぐさま手に取って飲み干す。こちらに害意は無いという事を瞬間的に理解してくれたようで良かった、今は喋る時間がもったいない状況下だしな。

「厳しいとは思いますが──」「言われるまでもありません。彼奴をここで抑えないと大変なことになるのは明らかな事、私もここから参戦致します!」

 すぐさま立ち上がった黒稲荷さんは、数枚の術符のような物を取り出して構えていた。黒い巫女装束に、黒い毛。そして頭の上には狐耳。そして後ろにはしっかりとふっわふわな尻尾も完備。やはりお稲荷さんの闇属性特化した存在と言う考えで良さそうだ。もっとも、そんな事をこれ以上のんきに考えている訳にも行かないが──

「魔王様! 彼奴きゃつには、ほとんどの物理攻撃が意味を成しません! さらに魔力を用いた攻撃でも地水火風の属性では効果がほとんど出ません! 光か闇の力を用いて彼奴の額部分に攻撃を当てる事が、数少ない有効な攻撃手段です!」

 現在進行形にて、殴り合うような形で戦っている魔王様に聞こえるような大声で黒稲荷さんが叫ぶ。それにしても有効な攻撃方法が光か闇の属性限定、だと? 自分の手札で該当するのは、魔剣である惑、後は本を使って呼び出す光と闇の妖精ぐらいか? 弓を用いた攻撃では闇属性も光属性もないし、蹴りも同じく駄目。今までこういった緊急時に活躍してくれた強化オイルも火だからアウト。使える手札が少なすぎる!

「やはりそうか、どうにも攻撃の効きが鈍いと思ったぞ。面倒な!」

 黒稲荷さんの言葉を聞いて、魔王様も使う属性を光と闇属性のみに絞っていた。魔王様の方は問題なさそうだな。後は黒稲荷さんの方だが……

「不意打ちをしてきた返礼はしっかりとさせていただきます。《漆黒鴉しっこくがらす》!」

 符を複数の鴉に変換し、その鴉を突撃させている。鴉は魔王様と虎型の闇の間をかいくぐるように飛行してある程度の注意を引いてから、額目がけて突撃していく。虎型の闇は、何羽も襲い掛かってくる鴉を鬱陶しいとばかりに衝撃波を出して鴉達を一気に消し去っった上に、魔王様も吹き飛ばした。全包囲攻撃も持っているのか……これでは距離を詰める訳にもいかないな。自分があの衝撃波を食らったらひとたまりもなさそうだ。

「魔王様、ご無事ですか!?」「この程度、造作もない。が、貴殿は決して近寄るな! こいつはこの魔王の鎧を貫いて打撃を与えて来る強敵だ、貴殿が一撃を受ければ一発で真っ二つにされるぞ! 貴殿は状況を見て、向こうにあるあの闇に例の物をぶつける機会をうかがうのだ! むろん、出来る範囲での支援を貰えるのならありがたい!」

 吹き飛ばされたために心配になった自分の声に対して、魔王様がそう返答を返してくる。声の様子からして少しダメージを受けた程度で済んでいるようだが……魔王様相手にも攻撃を届かせる相手となれば、先程感じたとおりに自分が攻撃を受ければ一発で戦闘不能寸前まで追い込まれる可能性が高い。下手な事をして、足手まといになる訳には行かない。ここはチャンスが来るのを信じて様子を見よう。

「さあ、我は大してダメージを受けてはいないぞ? かかってこい」

 魔王様の手の動きを加えた挑発に、虎型の闇は乗った様だ。短く叫んだかと思うと、魔王様に向かって飛びかかって再び至近距離での肉弾戦が再開される。その一方で黒稲荷さんは符の枚数を増やし、何かしらの術式を発動させる準備を行っている。ただ、魔王様と虎型の闇がが戦っている場所が問題で、自分と押さえなければならない闇のちょうど中間に居るのだ。もう少し横にずれて貰わないと、楕円形の闇の近くに到達できない。

「先程の術は消されましたが、今度はいかがでしょうか? 《虚人きょじんの剛腕》!」

 黒稲荷さんの新しい術式が発動し、虎型の闇の近くに大きな一対の手が生まれる。この後に起こる事は大体予想できるな。

「黒稲荷殿、奴を端に寄せてくれ! あの闇の暴走を抑えられる一手をこちらは持っている! 我と共にやってきた協力者が行動できる隙を作って欲しい!」

 魔王様の言葉に従い、黒稲荷さんは現れた一対の手で虎型の闇を壁に叩き付ける様な攻撃を開始。虎型の闇もその手を回避しようと動き回るが、魔王様に妨害されて完全回避は成らず、徐々に壁際に追い込まれていく。ここで妖精の本を通じて使える属性不明の技である《アンノウン・プレッシャー》で虎型の闇を押さえつける事も考えたが、余計な手を出して魔王様と黒稲荷さんの連携を壊す可能性もあったので堪える。そしてチャンスは来た。黒稲荷さんの操る一対の手が虎型の闇を捕え、壁に叩き付けるようにブッ飛ばしたのだ。

「今だ!」

 魔王様の声が聞こえる前に、自分は行動を起こしていた。《ウィンド・ブースター》で急加速し、一機に楕円形の闇へと接近。間合いに入った所で、前もって手の中で握りしめていた球体をもう一度握り直してから、狙いを定めて全力で投げつけた。これで楕円形の闇を穏やかにすることが出来ればあの虎型の闇もおそらく霧散するだろう。──と言う考えで行動したのだが。

 ──キン。

 そんな金属音と共に、闇の球体ははじき返されてしまったのである。地面を転がる闇の球体。そして背中に迫る何者かの気配! 《気配察知》に頼るまでも無い、何か恐ろしい物が後ろからやって来る事が分かる!

「避けるんだ、アース!」

 その直後に聞こえてくる魔王様の声、つまり、この背中から感じる気配の正体は──虎型の闇以外にありえない。回避、間に合うか!?
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人災の相「アースさんがあれこれ苦労する姿を眺めるのは大好きですけど、死人が出る展開を私は好みません。ええ、アースさんだけがあれこれ苦労する姿を見るのは快感なんですが」
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