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連載

『闇』の脅威

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 そこからの戦いを三行で表すとこうなるだろう。

 三人とも全力で対抗した。
 しかし、相手はそれ以上に強かった。
 弄ばれたかのように全ての手段を返され、その倍以上の威力でねじ伏せられた。

 魔王様の格闘術と強力な魔法。黒稲荷さんの防御、妨害に特化した符術。そして自分の妖精を呼び出したり、惑を用いた搦め手。途中で自分の〈黄龍変身〉こそ解けてしまったが、出来る限りの戦いは行った。しかし、相手はそれらの攻撃を一回受けただけですべての技と魔法をコピーした。その上に単純にコピーしただけに収まらず、威力は倍以上となるし発動速度も大幅に早くすると言う改良付きで返された。お蔭でこちらがあらゆる技や魔法を使うほどに相手の攻撃方法が多彩となるばかり。しかも、一度行った攻撃は見切られてしまっている様で通用しないのだ。

 魔王様の戦法と魔法をコピーされてしまったので近距離遠距離関係なく猛攻が飛んでくるし、こちらの攻撃は黒稲荷さんの符術をコピーした防御術で防がれたりカウンターされたり。そして自分の搦め手をコピーされてしまったおかげで、こちらの防御を左右上下から崩してくる。戦えば戦うほどに、最悪の敵を作り上げていると言っても良いだろう。そして当然ながら、こちら側はどんどん追い詰められていく。とっくにポーション中毒発生寸前まで追いやられているので、ポーションにも頼れなくなっていた。そして回復魔法何て使う暇がない。

「もっと戦え、もっと技を見せろ。面白い、とても面白いぞ。強者には強者の、弱者には弱者の技や術があり、そしてそれらを覚えるごとに私の体はより強くなる。そしてここまで押されてもなお折れぬ気迫が素晴らしい。お前達が諦めた時の言葉がより楽しみになってきたぞ!」

 一言で言うならくそったれ、と言う汚い言葉を言いたくなる。生き延びるために、勝つためには攻撃を仕掛けなければならない。しかし、その攻撃をすべてコピーされて自分達よりもより威力や速度を増した状態で返される。とっくに自分の持ちネタは尽きた。唯一使っていないのは惑のカウンター技である《惑わしの演陣》だが、これを使ってしまったら相手に間違いなくコピーされる。そして、今度はこちらが手詰まりになる。ただでさえ、黒稲荷さんの符術がたくさんコピーされていると言うのに。とは言え、黒稲荷さんが符術で護ってくれなければ、とっくに自分達は全滅している。黒稲荷さんの判断が間違っている訳ではないのだ。

「冗談じゃ……ありませんよっ……」

 黒稲荷さんがズタボロにされて立ち上がれなくなり、地面にあおむけになった状態できれいな顔をしかめている。無理もない、自分だって同じ気分だし魔王様だってそうだろう。魔王様の魔法にしろ、黒稲荷さんの符術だって、そして自分の搦め手も今までそれなりの時間をかけて作ってきた物だ。小説に出て来るチート系キャラの様に、一朝一夕でポンと生み出された物じゃない。それを一目見ただけでコピーした上に、性能を上げて来ると言う理不尽さ。今までワンモア世界で出会って来た敵の中で、一番理不尽だ。少し前の赤鯨も相当だったが、こいつに比べればまだかわいいもんだ。

「残念ながら冗談ではない所がイライラさせる……これならどうだ!」

 最期まで立って戦い続けている魔王様が右手から光のブレードを生成して、老魔術師をかたどった闇に切り付けた。その切り口が少し歪む……もしかすると、次元を斬るってタイプの攻撃か? ぐにゃりとねじ曲がった個所は、一秒もかからずに元に戻る。と、老魔術師をかたどった闇が闇の吐しゃ物? を吐き出して片膝をつく。老魔術師の姿になってから、初めての明確なダメージを与えたと言う感じがするぞ。

「グフ……良いぞ良いぞ、持っているではないか、素晴らしい技術をまだ持っているではないか! 今の攻撃は効いたぞ、ああ、素直に認めよう! とても効いたぞ! そして!」

 片膝をついた体勢から飛び上がった老魔術師をかたどった闇は、右手に魔王様が作り出したブレードと同じものを瞬時に精製して魔王様に斬りかかる。が、魔王様はその行動は想定内だとばかりにブレードで受け止めた。そこから二、三回ブレード同士がぶつかり合うが……そのやり取りだけで魔王様の方のブレードの光が弱々しくなり、老魔術師を象った闇のブレードはより輝きを増した。

「これは素晴らしい! 瞬時に手から出せて、この威力、この切れ味! この刃ならば、いろいろな物を切り刻めそうだ!」

 高笑いをする寸前と言った高揚感を感じる口調で老魔術を象った闇が大声を出す。あれでも倒せないのか……間違いなくあのブレードは、魔王様のとっておきの一つだったのだろう。それですらとどめを刺せず、丸々コピーされてしまった。魔王様も遂に地面に座り込み、それと同時に手に発生していたブレードも消える。残りの魔力を振り絞って最後の一撃とするために発動したのだろう。すでに自分はMPが空、HPも残り一割を切っている。黒稲荷さんも立ち上がることができないところから見て、自分と同じかそれ以上の重傷だ。

「ふふ、ついに全員が倒れたか。しかし、良く戦ったと褒めてやろう。我は魔力の塊故に魔力が尽きると言ったことはそうそう無いが、お前たちはそうはいかんようだからな。特にそこの男は魔力の量がかなり少ない。にも拘らずここまで戦ってみせた事は高く評価できる。しかも戦い方も面白い、覚える価値は十分にあったぞ。そこの狐耳も良かった。符と言う物を縦横無尽に使いこなし、我の力を封じようと多種多様の術を見せてくれるその姿、実に美しかった」

 最後に座り込んでしまった魔王様に向けて一言──

「そして汝は最期までよくぞ戦った。負けは恥ではないぞ、相手が悪すぎただけなのだからな。故にここに居る三人は殺さぬ、我に色々な技と魔法を教えてくれた師とも言えるからな。そして、ある程度傷が癒えた後に新しい世界を見るが良い。汝らがここに来る前に見ていた世界とは全く違い物が見えるはずだからな」

 そんな事を言ったかと思うと、天井に向けて魔法を放つ老魔術師を象った闇。力技で外に出る穴を穿ち、そこから悠々と飛び去って行く。奴を止めなければ大勢の人が危ない、それは解っているが足が動いてくれない。立ち上がろうとすると、上から何か壁みたいな物で押しつぶされそうになるのだ。立ち上がるのを諦めると、その壁のような物は消える。とは言え、何時までもこうしている訳には行かない。と、先程開けられたそとから『ぴゅいいいいいい!』とアクアの鳴き声が聞こえてきた。あいつ、アクアまで傷つけるつもりか!

「ぐうっ……!」

 立ち上がろうとすると再び重圧が襲い掛かってくるが、ここで座り込んでいたら状況はますます悪化する。この程度の重圧、リハビリの苦しさに比べたらおままごとみたいな物だ! 策は無い、無いがだからと言ってここに座り込んでいる訳には行かない。普段より大幅に時間がかかったが、何とか両足で立つことに成功した自分は、奴を追う事にする。魔王様や黒稲荷さんの方も気になるが、魔力があまり戻ってきていない上にポーション中毒寸前では手当のしようがない。

「魔王様、私は奴を追います! 策も勝算もありませんが、だからと言ってこのままここに居る訳にもいきません! 本来であれば魔王様や黒稲荷さんの手当てを最優先すべきなのですが、ポーション中毒寸前に加えて魔力も尽きている以上、どうしようもありません。ポーション自体は置いて行きますので、中毒寸前の症状が抜けたら飲んでください!」

 その場に数個のポーションビンを置き、痛む右手で惑を使って穴から脱出しようとした時……魔王様から声が掛かった。

「──勝算は、作り出せる。確率は低いままだが、ゼロをイチにする事は可能だ」

 その方法は? と自分は魔王様に眼で問いかける。それを察した魔王様が、話を続ける。

「──アース、君はバケモノになる覚悟はあるか? 取り返しがつかない事になっても構わないと言う覚悟はあるか? 方法は単純だ。魔王の力を君の体の中に無理やり注ぎ込む、これだけだ。だけど、これは非常に危険な行為だ。魔法に慣れ親しんでいる魔族であっても、バケモノになって二度と人に戻れなくなる可能性が六割を超える。だが、その代わり力は途轍もなく跳ね上がる。あのこちらの技をすべてまねる事が出来てしまう彼奴を倒す方歩はおそらく一つ。圧倒的な一撃で即死させるしかない。だからこそとっておきの技で終わらせるつもりだったんだけどね……耐えきられたどころか、丸々コピーされちゃって……」

 魔王様の口調が変わってきている。もしかして、痛みや追い詰められた状況で地が出てる?

「私はもうしばらく立ち上がることは出来ない。黒稲荷ちゃんもそう、限界だ。そうなるとこの場で唯一の可能性はアース、君だ。闇に適応できている君なら、可能性がある。だけど、それでも失敗したら君は誰からも恐れられるだけのバケモノとなってしまう。だから、強要は出来な「やってくれ!」」

 魔王様の言葉にかぶせる。手段があるのなら、それに賭ける。そして瞼の裏によみがえるのは、ゲヘナクロスの時に片目を失ったゼタンの姿。あいつは自分の目を捨てて仲間の命を優先した。あんな漢の友であるならば、これぐらいの賭けに乗らなきゃ友を名乗れる自信がない。それに、あの老魔術師を象った闇にゼタンを始めとしたこの世界で出会った多くの人々を殺させるような真似を見過ごすわけにはいかない。もちろん彼奴が街に攻撃を仕掛ければ、街に居る魔族の皆さんや、プレイヤーが連合を組んで対抗するだろう。だが、そんな人任せにはしたくない。自分が、この手でやりたい。やらなきゃいけない。

「本当に良いのかい?」

 魔王様が最終確認をして来るが、自分は迷う事なく頷いた。

「もし化け物になって荒れ狂うようになったら、魔王様が倒してください。そして、外見は変わっても心が変わる様な事がなければ──魔王様の下で働く一兵士として使ってくれればそれでいい! やってくれ!」

 魔王様は「解った、じゃあ右手を出して……」と、震えながら左手を前に出してきた。その左手を右手でしっかりと掴む。

「どんな結果になるか分からない。でも、君の勇気が良い方向に動くことを祈ってる」

 その直後、ドクンと心臓が震えて周囲が大きくぶれた。これは──
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年末の為、更新が三日おきから四日おきになるかも。
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