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ログアウトするまで

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 ひとまず勝利の余韻に僅かに酔った後、アクアに小さくなって貰ってから回収。しばらくは絶対安静だ、上に載って飛んでもらう何て事はさせる訳に行かない。魔王様と黒稲荷さんはどうなったか……確認するために、穴を通って再び二人の元へと戻る。

「おかえり、勝ったんだね?」

 魔王様の言葉に、親指を立てて返答とする。この親指を立てた時に、まだ自分の変身が解けていない事に気がつく。ちらりと変身残り時間を確認すると、あと五分少々ほど持続する様だ。

「まずは、魔力の封印を。詳しいお話はそれからでも遅くはありません」

 ある程度立ち直ったと思われる黒稲荷さんの言葉に従い、もう一度楕円形の闇の形をした暴走魔力を封じる事にした。しかし、あの老魔術師を象った魔力その物を打ち倒したためか、荒れ狂うような様子は一切ない。実に穏やかな物だった。でも、きちんと封じておく方が安心できる。弾かれて転がってしまった球体を拾い上げ、もう一度軽く投げつけてみる。すると、球体は無数の術符と化して、楕円形の闇を取り囲む。これで、闇の球体はその封印を護っている守護者を模した形で封印を行っている事が確定したな。

 無数の符に囲まれた楕円形の闇は一切の抵抗を行う事も無く、静かにドアの形へと姿を変えていった。例の如くドアが出来上がったら鍵が飛んできたので、自分の手でロックを掛ける。これで、ダークエルフの守護者から頼まれた依頼は完了したとみていいだろう。最初の予想と異なり、どえらい苦労をする羽目になってしまったが……まあ、これは守護者の方としても予想外だったろうから、文句を言う訳にもいかないだろう。

 ドアのロックを完了して、魔王様たちの前に戻ってきた自分はどっかりと腰を下ろして胡坐をかく。鎧のお蔭で、座り込んだときにちょっと大きい音が出てしまったのはご愛嬌とさせてもらおう。

「はあ、これでようやく収まったと見て良いのかね? さすがにきつかった」

 本音がこぼれるが、これぐらいは勘弁してもらおう。本当に疲れた。もうこんな戦いに遭遇することは勘弁願いたい。まー、そうはいかないのだろうけども。

「本当に良くやってくれたよ、ここで彼奴を放置した場合はとてつもなく大きな被害が出てしまっただろう。魔王としてでなく、この国の一人としても礼を言いたい。それに見合う謝礼を払う事が出来るかが微妙だが、出来る限りの報酬は支払おう。なに、これで魔王領の国民に戦争をするための徴集をしなくて済んだのだ。貴殿に相応の金を払っても問題は無い」

 そうか、今回の暴走した魔力は魔王様との二人三脚で封じる事に成功している。そうなれば、当然兵を集める理由は無くなる。そして兵を集めなくて済むとなれば、それに伴う出費も無くなる。ならば、それに割り当てる予定だった軍資金のいくばくかを、自分に与えても問題は無いか。さすがに厳しかったし、今回は無報酬という訳には行かないからな。少なくとも、マントの代金ぐらいは貰わないと。妖精国で買ったマントも、後から買った二枚目のマントも、両方が完全に駄目になった。愛着があっただけに残念だが、最後まで身を守ってくれた二枚のマントに感謝しよう。

「とりあえず、何とかして魔王様の城に戻り、黒稲荷さんに休息を取らせるのが先ですね。しかし、実はここまで自分達を運んでくれたアクアが外での戦いで深手を負っておりまして、空を飛ばす訳には行きません。どうしましょう?」

 とりあえず、今は報酬云々は後回し。深手を負った黒稲荷さんとアクアは出来るだけ早く暖かい場所で休息と治療を行う必要がある。ポーションの治癒能力を信じていない訳ではないが、万能でもない。医療に通じていると言う四天王の一人である死神さんに、一度見せておきたい所だ。

「もう少し魔力が戻れば、私の魔法で城には戻れる。そこは心配する必要はないから。しかし、少々傷がうずく。アースの魔力を治癒に回すことは出来ないか?」

 治療か。確かに今の姿では、普段はあまりできない魔法による怪我の治療を行う事は可能だ。可能なのだが……見た目がちょっと問題なのだ。

「可能か不可能かで言えば可能です。ですが問題が……確かにこの姿を取っている人きは、普段とは違って大きな魔法を用いる事は可能です。ですが、それは一般的な魔法では無くてですね……」

 魔王様と黒稲荷さんなら、口は堅いから説明しても問題ないだろうと考えて、この変身状態地の能力を話す事にした。普通、魔法の触媒と言えば杖とか指輪とかだ。魔法を使うためのグローブなんて物もある。しかし、今の自分では、そういった物を通じて魔法を使う訳ではないのである。じゃあ、何が触媒になるのかと言うと……

「弓と、矢が魔法の触媒に?」

 黒稲荷さんが、困惑気味な様子を漂わせて確認を取って来る。そう、自分のこの姿、〈偶像の魔王〉状態での魔法の使用は、矢に魔力を込めて弓で撃ちだすと言う方法を取らなくてはならないのだ。矢に魔力を込めても、それを素手で掴んで魔法に効果を出したい相手に突き刺した場合は何の意味も無い。つまり、回復の力を込めた魔力を矢に込めて、それを撃ちだせば対象者を回復させることが可能。しかし、一般的な考えでは、矢で射られるという事は攻撃されるという事だ。気分のいい物ではない。

「かなり尖った魔法だな……」

 いまいち信用されていないようなので、実演することにした。まず、魔王様の使っている指輪を一時的にお借りして、火の初球魔法である《ファイアニードル》を詠唱する。しかし、発動しない。〈偶像の魔王〉状態なら、光以外のすべての属性の魔法を用いる事が可能なので、本来ならば発動しなければならないはずなのだが……恐らく、そこまでの柔軟性は人と言う器に入りきらなかったんだろう。指輪を魔王様に返却し、続いて矢に火の魔法を込めて弓で射る。壁に突き刺さった矢からは激しい炎が噴き出し、火の魔法が発動したことを教えてくれる。

「この通りです。おそらく、魔王の力を人の器に入れると言う無茶をするために、柔軟性をかなぐり捨てる事になったと自分は考えます。とにかく、治癒の魔法を矢に込めて、弓で射れば自分でも他者や自分を治癒できる事は間違いないです。言葉だけではあれなので、今から自分の体で実演します」

 火と水の魔力を混合した治癒の魔力を矢に込める。この複数の属性を同時に扱う事も、この〈偶像の魔王〉状態であればたやすい事である。矢を弓に番えて、自分の足に当てる様に軽く放つ。足に当たった矢はすっと足に吸収されるかのように潜り込み、治癒の力を発揮する。これと言った問題も無く、きちんと発動したな。

「──なるほど、確かに発動してるな……解った、やってくれ。それにしても、人前でやってもらうには難しい方法だな……」

 魔王様の言葉に苦笑するが、そう言う能力なので仕方がないとしか言いようがない。先程の様に治癒の力を矢に込めて、魔王様の手に軽く当てる。あくまで弓で撃ちだせばいいので、弦を思いっきり引く必要はない。軽く引いてぽてんと力なく飛ばして当てればいい。魔王様に刺さった治癒の矢は、するすると魔王様の体の中に浸透し、魔王様の怪我を癒す。その後は黒稲荷さんにも治癒の矢を打ち込んでおいた。もちろん本人の了解を得た後で、だ。

「楽になりました。それにしても、また使いにくい上に誤解を招く能力ですね……人前で使うのは難しいでしょう」

 黒稲荷さんからもそんな事を言われてしまった。まあ無理もない、見た目じゃ攻撃しているようにしか見えないからなぁ。治療です、何て言っても一斉に「嘘をつくんじゃねえ!」と反論されるだろう。ま、そもそもこの〈偶像の魔王〉は人前でホイホイ変身して良い物ではない。使う時は基本的にこっそりとだろうな。黄龍といい、使いにくさが目立つ変身ばっかり習得してしまったな。それに、自分の器はこれで完全に満たされただろうから、もう更なる新しい変身を習得することはできそうにない。

「仕方ないです、それにあそこで躊躇していれば、あの暴走魔力が多大な犠牲を生み出したでしょう。それと引き換えならば、割り切れますよ」

 強がりではない。彼奴を放置すれば、どれだけひどい被害が出るか分かったもんじゃなかった。そしてその被害が、今までの冒険で知り合った友にまで及ぶ可能性は十分にあった。それを阻止することが出来たのだから、十分だろう。二兎を追えば両方逃がすと言うのならば、どちらか一方に絞って行動するしかないじゃないか。

「まあ、使いにくいだろうがそれでも十分に賭けに勝ったと言って良いと思うよ。バケモノにも成らず、姿を大きく変える事も無く。一時的な変身能力の範疇に納めたのだから、それ以上の要求はかなり贅沢と言える領域になってしまう」

 魔王様の言葉に頷く。そうだった、下手すれば今頃自分の姿はとんでもない姿に変わっていた可能性があるのだった。幸いにしてそんな事態は避けられたのだから、これ以上を望んではいけないだろう。ロマン溢れる攻撃方法も取得したのだから、それらをどう生かすかが今後の課題だな。と、ここで変身時間が終了し、自分の姿が元に戻った。しかし、マントがやられてしまったのでドラゴンスケイルメイルが丸見えだ。だが、だからと言ってこの場で脱ぐこともできない。この場で脱いだら、寒さで凍死してしまう。

「新しいマントを新調しないと駄目か……魔王様、最初に頂きたいものが決まりました」

「そうだね、一番良いのを用意させよう。さ、そろそろ城に帰ろう。その前に天井にあいた穴をふさいでおかないと……ここは機密に当たる場所だからね」

 魔王様が穴をふさぎ、転移魔法を用いて自分達を魔王城まで移動させた。それから自分は魔王様に許可を頂き、アクアの治療をお願いした後に魔王城の一室を借り受けてログアウトした。まさか、こんなに濃い一日になるとか、ログインした時には予想しなかった……もう寝よう。
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という事で、偶像の魔王も柔軟性はあまりありません。
その辺が魔族と人族の差と考えて貰えれば。
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