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連載

魔王城でのやりとり

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アースがログインできないので、もうちょっと番外編が続きます。
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 ──という訳だ。と魔王様の話が終わると、集められていた四天王や魔族の重鎮たちからはため息がこぼれた。魔王様が話した『人族でありながら魔力の暴走停止作業行為に貢献し、挙句の果てに魔王様の力を一部とはいえ扱えるようになってしまった』例外の存在の登場にどうすればいいかの見当がつかないからだ。

 まず、報酬をどれだけ支払えばいいのかが見当もつかない。例の闇が象った老魔術師が街に到着していたとしたら、どれだけ魔族の民の命が失われたのか考えたくも無い。いくら魔族と言えども、不意打ちを食らう形になっては混乱が起きるし、その混乱によってどれだけの命が消えたか分からない。その上、他の国から訪れていた民も当然巻き込まれただろうから、外交問題も同時に発生しかねない。

「あの、魔王様。不敬ではあると思いますが……その、本当に人族が、魔王様のお力の一部を扱えたのですか?」

 重鎮の一人からそんな言葉が上がるのも無理はない。種族も違う上に、初代魔王様の力は強大で、今まで何人もの次代魔王候補であった魔族が何人も魔力の継承に失敗して暴走。止む無く……と言った血生臭い歴史があるだけに、魔王様からの言葉と言えど、なかなか信じる事が出来ないのは無理もない話と言う実情がある。

「──もっともなお言葉です。ですが、彼はその常識を打ち砕きました。私の命に誓って、魔王様は何も偽っていないと申し上げます」

 この発言は黒稲荷。間近でアースの変身を見届け、魔力の流れによって暴走魔力を打ち倒した事を理解している彼女は、言葉通り命を懸けて魔王様の言葉を肯定する。魔力の暴走を抑える役目をこなす……事を知っているのは魔王様と四天王のみだが、他の重鎮たちも黒稲荷の事は魔王様から直接重要な任務を任されている事だけは知らされているので、彼女の言葉は無視できない。そして何より、彼女も現場にいたのだ。二人が同時に同じ幻を見る可能性はまずない事から、例外の発生に現実味が出て来る。

「しかし、本当にその者は人族なのですか? ある程度私達の血が混ざっていると言う可能性は無いのですか?」

 このような質問が出るのも無理はない。しかし、それを即座に否定したのは四天王だ。直接アースをその目で見て判断している四天王は皆アースの事を『まぎれも無く、人族だった』とやや強い口調で言い切る。

「あの光の柱は、この城に居た私もその目ではっきりと見る事が出来ました。そしてあの光の輝き、アレはまさか……魔王様となられたお方が色々な形で身につける《デモンズ・ジャッジ》ではないのですか!?」

 くどい様だが、《デモンズ・ジャッジ》はまさに各歴代魔王の最大の切り札である。その発現方法はさまざまで、今代魔王の様に剣型などに始まる近接系統やアースの様に遠距離高火力砲台タイプ。さらには歴代で一人だけではあったが、とてつもない治癒の力を発揮し、蘇生まで可能とした《デモンズ・ジャッジ》もあったとされている。とにかく、《デモンズ・ジャッジ》を使える人物は、魔王であるとこの世界では言い切っても良い。

「ああ、貴様の言う通り、あれはあの者の《デモンズ・ジャッジ》だ。故に、彼は人族でありながら魔王の座につく事が可能となる。もっとも、それをあの者が望んでいるとは思わんがな」

 魔王様の言葉に、首をかしげる重鎮。それとは対照的に頷く四天王。四天王にはアースの情報がすでに共有されており(共有されている情報は、魔王領に来るまでの間にアースが行ってきた事も含まれる)、アースには王になるとかの出世欲がかなり低い事を理解しているために頷いたのだ。ちなみに洞窟に居たはずの魔王様がそう言い切れた理由だが、魔法で視界だけを飛ばしてみていたからに他ならない。魔王様にとってはさほど難しい魔法ではない。

「とはいえ魔王様、恩賞の方が問題であるという事は変わりません。彼はそれだけの事をその身を犠牲に……文字通り、取り返しがつかないバケモノとなって自らが討伐される可能性を理解した上で行い、乗り越えて目的を達成しました。この事を正当に評価しない訳には行きません」

 四天王の一人であるリビングアーマーの言葉に異論をはさむ者はいなかった。あくまでアースの事で困惑しているのは『人族が魔王の力を持ってしまった』事に関してであり、『見事な戦果を挙げて民を護った』事に関する評価は、誰もが正当に認めている。

「彼は冒険者ですからな……魔王領に彼の私有地などを与えても困るでしょうな。かといって大量の金を出しても持ち運びに苦労することになるやもしれません。ならば武具を……と言いたい所なのですが、魔王様、彼がマントの下につけていた鎧は間違いなくドラゴンスケイルで作られた鎧だったのですね?」

 重鎮の一人の言葉に、魔王様が頷く。

「となってしまうと、難しいですな。剣も魔剣を用いていたという事でこれまたそれ以上の物を用意するのはたやすい事ではない。弓は……直接預かっていた事があるリビングアーマー様に確認いたしますが、獣人連合の弓だったのですね?」

 話を振られたリビングアーマーは「ええ、あれは獣人連合に多大な貢献をした人物が持つことを許される弓ですね。もっとも、私が知っている物と比べてかなりの変化を遂げていましたが……新しい弓を作る技術が確立したのでしょうか?」と疑問符を付けつつも、弓自体は獣人連合から授与された物であると認める。

「ありがとうございます。との事で八方塞がりですな。ある程度は金で支払うにせよ、やはり何かこう、それなりの形に残るものかつ冒険の役に立つ物を報酬として出したい所ですが……良案はございませぬか?」

 ここで一同がうーむと考え込む。この報酬が難しい事を再確認させられたからだ。今回アースが成し遂げた事は大きい。いや、単独が行った貢献としては大きすぎる。軍事物資や金と言った面から見てもそうだが、いくら金を積んでも戻らない命や、信用問題や外交問題等の面からも魔王領を護ったのだから、生半可な貢献ではないのだ。

「本人から聞ければ話は早いのですが……魔王様、今だアース殿は目覚めませぬか?」「うむ、死んだかのように眠っている。リビングメイド隊が万が一に備えて様子を見ているが、純粋に眠り続けているだけのようだ。生命力その物は衰えておらんようだからな、もしかすると今回突如得てしまった力を体が落ち着かせるために深い眠りに陥っているのやも知れぬな」

 ──いろいろと台無しにしてしまうが、アースが目覚めない理由はそうではない。アースがVR世界に入る為のヘルメットを修理に出していてログインできていないからと言うのが理由である。いろいろおかしい声が聞こえたりしたことから、アースが故障を疑い、カスタマーサービスを通じて修理に出したのだ。

 ちなみにそのアースのVRヘルメットはワンモアの開発室に送られて、今まで蓄積した様々なデータを取られていたりする。もちろん、アース……リアルの田中大地の個人情報は除いてだ。このデータは、今後のAI達のアップデートの中で生かされる事となる……当然、アースである田中大地はそんな事は知る由もないが。

「だが、絶対に贈るべきものの一つは決めてある」

 この魔王様の発言に、一同が注目する。その注目が集まった中、魔王様の口から出た言葉は──

「マントだ。耐熱耐寒はもちろん、あらゆる属性を軽減し、あらゆる環境に耐えうる最高の一品を作り出すのだ。具体的には、今我が使っているこのマントより二段三段上の性能の物が望ましい。マントは色々と便利だからな、冒険者には必要不可欠な一品だろう。さらに、今回アース殿は戦いでマントを失っている。そう言った視点から見ても、適切な報酬の一つとなるだろう。どうだ?」

 あちこちから「なるほど」や「確かにアリですな」などの会話も聞こえて来る。

「今回は徴兵すらなかったからな、国庫には余裕がある。ならば、職人たちにバカバカしくなる位の金を掛けさせて、これから先数十年はこれ以上の能力を持たぬ最高級のマントを作らせる。職人達も普段出来ぬことができるだろうから喜ぶであろうし、外見だけは地味にすればそんな高級品であるとはそう簡単に見抜けんだろうからな。むろん、アース殿から盗もうなんて考える不届き者に対するカウンター能力も付与させれば完璧だろう」

 更なる魔王様の発言に、「では、私の所から職人を」「私からも出しましょう、効果は高いがコストが高い付与魔法を試したいが機会がないと腐ってる奴がおりましてな」「ほほう、それは興味深い……」などのやり取りが発生する。

 こうしてアースのために作られ、贈られることになるマントは魔改造に魔改造を重ねたワンオフ物となってしまうのであった……限界を決めずに職人が暴走、その途中経過を見た魔王様がさらに資金と素材を提供しまくった結果である。アースがそのマントを受け取ることになるまで、あと少し……。
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