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連載

やはりのくじ運

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 色々な場所に行ったときに大切な事はな、ある程度自分の中にある常識を捨てる事が出来るかどうかだと儂は思う。ある程度というのが難しいのじゃが、その一方では全てを捨ててもいかんのじゃ。。全てを捨てては己が進む指針を失ってしまうからな。しかし、ある程度は捨てないとその世界に対応もできん。あり得ない物がある、夢幻としか言いようがない物がある。だがそこで自分の中にある常識で否定する様では、生きて帰ってこれん。世界や場所が変わればそう言う常識もあり得るのだと、受け入れる心を持たねばのう。

 ──ある、老トレジャーハンターの言葉より

 ダンジョンの中に入ると、一番最初に入っていたカナさんが天井に立っていた。カナさんはタンカー故に相応の重さのある装備を身に纏っているので、こちらを脅かすために特殊なスキルを発動してまで天井に立つ理由は無いだろう。と、そこにカザミネとカナさんの会話が身にに入ってきた。

「いきなりです」「その様ですね、これは少々面倒な事になりましたか」

 どうやら、二人は状況を理解しているようだ。なら、ここは素直に教えを乞う事にした方が良いか。

「ちょっと状況が分からないんですが、何故カナさんは天井に立っているんですか?」

 そんな自分の問いかけにすぐには返答を返さず、カザミネがゆっくりと前に進む。すると歩いていたカザミネが突如ふわりと宙に浮き、天井に吸い寄せられた。自分でも何を言っているんだろうとは思ったが、そう表現せざるを得ない。埃を払ったカザミネは、そのまま天井を足場として立ち上がる。

「ダンジョンに入る前にもしかしたら情報を集めていたかもしれませんが……この魔王領に沸くランダムダンジョンでは往々にしてこういう事があるんです。アースさんから見れば今私達は天井に立っているように見えると思いますが、これは重力が反転しているから起きる現象です。と言っても、普通はせいぜい壁側に重力の方向が変わる九十度なんですが……天井に昇らされる百八十度は珍しいですね」

 ──だからさ、人災の相はもう永久に寝てていいんだってばさ。絶対仕事しただろ……もちろんこの場合の仕事には、頭に『余計な』がつく。と、内心でぼやいていても仕方がない。此処がこういう世界なら、慣れるしかないんだから……覚悟を決めて前に進む。カザミネの立っている所に近寄った所、急にふわりとした浮遊感を一瞬味わい、その後急速に落下。受け身を取って、頭から落ちる事だけは回避する。

「なんか、こう、気味が悪いと言うか……」

 自分で飛び上がった訳ではなく、無理やり浮かせられる感覚がどうにも気持ち悪い。浮遊系と言えば《フライ》の魔法だが、あっちにはこんな気持ち悪さを覚えたことは無い。

「ええ、私も最初はそうでしたから。でも数回味わえば慣れる物です。最初は我慢ですよ」

 自分の反応を聞いたカナさんからのお言葉。とりあえず数回味わえばこういう物か、と体が理解できるだろうからそれまでの我慢だな。

「さ〜、先に進みましょ〜。良い薬草がいっぱい取れれば、ギルドメンバーの薬師ロールプレイをしている子が喜びますから、ぜひ手に入れたいですね〜」

 薬師か。ブルーカラーも結構大所帯になってきているらしいし、いろんな面子が活躍してるんだろう。もしかすると、毒関連についての研究も進んでいる可能性があるな。教えを請いたい気もするが……それは機会があれば、だな。


 その後五分ほど進むがモンスターの反応は無く、道の途中に薬草が生えているという事も無かった。警戒しつつ歩くが、ごつごつとした岩肌の通路をただ進んだだけだ。

「もしかすると、ハズレパターンかも知れませんね。モンスターが居ない事はそう珍しい事ではありませんが、薬草が一切生えていないと言うのがちょっと引っかかります。これだけ歩けば、薬草にしろ毒草にしろ、何かしら見つかるはずですから……アースさんが居る以上、薬草を見落としていると言う可能性もありませんし」

 カザミネがそんな事を言い出す。確かに何の収入も経験も積めてない以上、外れと評しても仕方がない。大抵のダンジョンなら、もうとっくにモンスターと出会うか何かしらのアイテムや切っ掛けとなる物を見つけていてもおかしくない時間は経過している。

「罠も無いなぁ。探知にも反応がない。何もない事がハズレというパターンなのかな?」

 自分の言葉に、ミリーが「そ〜ですねえ、そう言った形も今まで何回か私達も経験しています〜。でも〜、このパターンにはもういくつかありまして〜」と気になる言葉を吐く。なんかこの時点で嫌な予感がするんですけど。厄介なボスが待っている? 謎解きを強要される? それとも……とここまで考えた所で、探知の端っこにモンスターの反応が現れた。当然見た事が無いモンスターだと思われるので詳細はまだ分からない。その事をパーティメンバーに告げると、自分を除く全員が嫌な顔をした。

「一発目でこれですか」「一発目ですね……」「アースさん、ある意味大当たりです〜。そして大外れです〜」

 あーうん、わかった。ろくでもない物を引いたって事だけはよーっく解りました。とりあえず、予想できた内容を教えてもらいましょうか。

「おそらくですが、敵は一匹だけです。そしてそいつを倒さないと出られません。私達は蟻地獄パターンと呼んでますけどね……説明を続けます。その一匹は食虫植物をデカくしたような姿をしている食人植物です。外見で言うとウツボカズラが近いでしょうか? あの独特のにおいを出して小さな虫をおびき出し、細長いツボの中に入った虫を溶かしてしまうと言うアレです。途中にモンスターも薬草も存在しなかったのは、そいつが周囲の栄養を吸い上げてしまうからじゃないか、何て意見もギルド内にありますね」

 カザミネの説明を聞いているうちに思い出した。ウツボカズラは何度か図鑑等で見た事がある。そうなると攻撃パターンって……自分の表情が嫌な感じに歪んだことをカザミネも理解したようだ。

「アースさんの御想像通りだと思います。こちらの世界の食人植物は、蔦を扱ってこちらを搦め取ってそのまま消化器官であるツボの中にポイです。おびき寄せるなんてのんびりとした行為をせずに、無理やりこちらを捕まえて食らってきます。もし、ツボの中に落とされた場合は他の誰かが急いでツボの側面を燃やすか切り付けるかして穴をあけ、そこから助け出さないとあっという間に消化されたという事になって死亡します。気持ち悪さはさすがにかなり軽減されていますが、食らいたい攻撃ではないですね」

 蔦に捕まったらほぼアウトか。厄介な相手だな……というか、説明からすると一回はその死亡を経験したことがあるんだな。

「対処方法は火で良いのかな? 一応例の爆発炎上するオイルは持って来ているけど」

 この自分の質問にはカナさんが答えてくれた。

「はい、火で燃やしたりカザミネさんに持つ斬撃力の高い武器での攻撃が有効です。蔦がかなり厄介ですが、それでも刃物で切り裂いて行けば問題ありません。ただ捕まってぐるぐる巻きにされてしまうと剣を振るう事も出来なくなりますので、そうなってしまった味方が出た場合は、急いで蔦を切るか蔦を燃やすしかありません。このモンスターに限っては、アイテムドロップを狙わずに確実に倒してしまった方が良いと言っておきますね」

 ま、そうだろうね。自分だってぐるぐる巻きにされて消化されるなんて死に方は御免被る。ここはドロップを無理に狙うより、確実に焼却処分としてしまう方が良いだろう。そうなれば早速強化オイルの準備を……とアイテムボックスをいじっていると死蔵していたアイテム、試作爆裂矢に気がついた。

 そう言えば作り上げた時は素材が高価過ぎて、結局試作品を作ったまんま使わずにいて忘れ去ってしまっていたんだった。ここまで忘れたまま使う機会も無く図らずも温存しておいたのは、こういった時の為だったのかも知れないな。赤鯨戦で出番が巡ってきたヘルマインオイルの様に。

「分かりました、では隙あらば自分がオイルで燃やすという事で」「私も火の魔法で積極的に燃やしにかかりますね〜、蘇生魔法であっても、体を溶かされちゃうと蘇生できなくなっちゃいますので〜」

 自分の言葉に、ミリーも行動方針を述べる。あと、蘇生魔法にもそんな弱点があったんだ。初めて知った。

「では、お願いします。行きましょうか」

 カザミネの言葉に皆が頷き、食人植物を討伐することになった。倒さなければ出られないと言う条件がついている以上、避けられないからね。
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人災の相

「私の仕事に抜かりはない」
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