トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
248 / 349
連載

魔王城内にて

しおりを挟む

 翌日ログインしてみると、ツヴァイからゲーム内メッセージが来ていた。今日は『ドキドキ! 秘密の魔王城の中身をドーンと初公開!』ツアーに入って来るぜとあった。なんなんだそのタイトルはと突っ込みたくなる。が、まあほっといても良いだろう。リビングメイドさんの先導の元で魔王城の中を見て回っているらしいので、変な所に入り込む展開にはならないだろう。さてと、それじゃあ自分は鈍ってしまっている蹴りの修練の為に行動を起こしますか。

「すみません、少しよろしいでしょうか?」

 近くにいたリビングメイドさんに、魔王城内に訓練場があるかどうかを確認。あるという事なので、使用してよいかどうかを聞いてみたところ問題ないとの事。ただし、城の兵士達も居ますが宜しいですか? と確認されたのでそれは別に構わないですと返答。これと言った秘密の技を放つつもりも無いし、ひとまずの感覚を取り戻したいだけなので見られていても構わない。そう言ったことを確認すると、リビングメイドさんの案内してもらって魔王城内にある訓練場へとたどり着く。

 広い。魔王城の地下らしいのだが、広々とした空間が広がっていた。運動場にダミー人形が配置されているエリア、何らかの特殊訓練に使うと思われる妙な装置など……まあとにかく広い。その広い訓練場のあちこちで、魔族の兵士の皆さんが訓練を行っていた。兵士の皆さんの邪魔はしないようにしないと。訓練場では幾つもの激を飛ばす声と、それに応じる熱い返答が飛び交っている。

「それでは、何かありましたら入り口に控えておりますメイドに何なりとお申し付けください」

 と言い残してリビングメイドさんは立ち去った。その後姿を見送った後で、早速ダミー人形の元に向かって蹴りの訓練に入ることにしよう。訓練なので足に付けている武具は解除してある。まずは基本のローキックを左右五〇本づつ打ってみて、感覚がどれだけ鈍っているかをまずは確かめよう。

(四七、四八、四九、五〇)

 ──そして無心に近い心境で左右五〇本のローキックを打ち終わる。そしてその結果だが、予想以上に鈍っていた。ゲームなので鈍っていようとステータスは落ちないし、スキルレベルだって落ちはしない。しかし、蹴りの感覚は相当に鈍っていると感じた。これはかなり不味い、今日一日は蹴りの訓練を行って多少なりとも勘を取り戻さなくては。それからざっと四〇分ほどだろうか? ローキックをメインに据えつつ、ミドルキックやハイキック、水面蹴りモドキや飛び蹴りを加えた蹴りの訓練を行っていた所に声を掛けられた。

「ずいぶんと熱心だな。くたびれているマントに身を包んでいるが、どこの部隊の者だ?」

 振り返ると、そこには黒い鎧に身を包んだ一人の男性魔族が立っていた。顔にあるしわの深さから、かなりの経験を積んできたベテランの戦士だろう。とはいえ、この方は自分を魔族の兵士の一人と勘違いしているようだ。そんな誤解はさっさと解いておこうと、自分は頭の部分だけ装備を解除してフードを下ろし、素顔を見せる。このマントに気がつかなかったって事は、この方は部隊長とかその辺りの役職の人かな? 上位の人には、自分のマントの本来の姿が見えるはずだし。

「私はこの城に使えている兵士ではなく、ちょっとした事が評価されて、一時的に魔王城の中に逗留する事を許された人族なんです」

 顔を晒しながらそう返答を返した所、目の前の魔族の男性は額に手を当てていた。

「これは大変失礼しました。あまりいない体術の使い手を見たので興味を引かれたのですが……いやはや、お客人とは存じませんで……」

 おそらくこの方は、自分が前に魔王城に来た時のあらましを知らない人なんだろうな。まあ別にかまわないけど。一々頭を下げられても面倒だからねぇ。

「いえいえ、こちらも分かりにくい姿で訓練をしていたのでお互いさま、という事にしておきましょう。それでは訓練に戻りますので──」

 と、ダミー人形を相手にした蹴りの訓練に戻ろうとしたのだがそれを止められた。

「ダミー相手も良いですが、どうでしょう? あちらで一つ私と手合わせと行きませんか? 色々と調整もできますから、お客人の体を傷つける事もありませんよ」

 と、魔族の男性は、ある施設を指さしながらそんな提案をして来た。うーん、とりあえず話を聞くか。有益そうなら乗ればいい。

「申し訳ないのですが、実はここをに来るのは初めてでして。あの施設がどういった物なのか全くわからないので説明をして頂ければ──」

 との自分の言葉に魔族の男性は再び額に手を当てた後に説明してくれた。どうやらあの装置は、一定範囲の地形をある程度操ることが出来て、その場で戦える様にするための物だった。なので石畳、滑りやすい足場、足首が埋まる沼などのあらゆるシチュエーションが試せる。更にそれだけではなく、一定のダメージを防ぐシールドをの付与もできる。そのシールドが破れた時点で強制転移を発動させ、訓練中における死者の発生を防ぐ能力もあるようだ。ちなみに作ったのは今代の魔王様らしい……これも魔道具研究の一環なんだとか。

「という訳でしてな、あれを用いれば本気で打ち合いをしても相手を再起不能や死に追いやる心配がないのです。やはり本気での打ち合いは戦う者を戦士として鍛え上げるには最適な方法ですからな、そのために今代の魔王様は魔族の訓練がはかどるようにと、様々な魔道具を作ってくださる。我らはその魔王様に報いるべく、平時でもこうした訓練場での訓練を欠かさないという訳でしてな」

 なるほど、訓練場に熱気があふれているのはそう言う一面もあるのか。とにかく、施設の意味と役割は理解した。そして、確かに動かないダミー人形よりも動く相手とやった方が訓練になるのも事実だ。ここは話に乗っておくか……今日は基本的な蹴り方の修練だけにしておくつもりだったが、その事に固執する理由も無い。

「話は分かりました、お付き合いいたします」

 さて、魔族の皆さんは基本的に魔法が得意なわけだが、だからと言って体がもやしみたいに細いわけではない。直接ぶつかり合えばどうなるのかを知るいい機会だな。以前魔力の暴走時に出会ったあいつと似た感じになるのか、それとも全く違うのか……やってみればわかるだろう。
************************************************
今日は忙しいので、少々短めです。
しおりを挟む