トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
256 / 357
連載

二戦目。

しおりを挟む

「それでは、そろそろ始めましょうかの?」

 十分ほどの休憩を取った後に、再び対峙する自分と魔族の男性。今回はアーツや魔法などは全部あり。地形は前回と同じく平坦な雪原に設定してもらった。さて、魔法の制限を取っ払った事で、魔族の本領が発揮されることになるだろう。くどい様だが、魔族は今まで出会ってきた種族の中で一番魔法に長けている種族。距離を取られてしまったら、弓を使わない自分にとっては勝ち目が一切なくなってしまう。初歩の風魔法なんか、おそらくレジストされて無力化されるだろうし。

 勝ち目があるとしたらとにかく接近して蹴りを叩き込むしかない。むろん相手も先程とは違って、各種強化魔法に色々なアーツを振るってくるだろうからたやすい事ではないが、それでもくっついて蹴りを当てていかない事にはどうしようもない。上手く《スライディングチャージ》を使って、接近と相手の足を狩れるかも大事なポイントの一つになるだろう。エルフ流蹴術や、伝授してもらったあの技も、状況によっては放っても良いか。この場なら致命傷に当たるダメージを与えても防護が働くのだから。

「ええ、宜しくお願いします」

 一礼し、構える。一度息を吸って吐いてから頭の中にあるスイッチを切り替える。最初の数秒だけ様子を見て、その後は距離を詰める。そこから数発蹴りを放ってみて、もし相手の隙があったら軽いアーツを入れてみるか。そんな予定を立てていたのだが、開始と同時に相手の魔族の男性は一気に距離を詰めてきた。魔法を使わないのか? ひとまずサイドステップで軸をずらし、相手の剣による攻撃を回避してから反撃の蹴りを放った自分であったが、これは空中に現れた小さな盾によって防がれる。これはそう言う魔法か。初見なので魔法の名前が分からない。

 再び自分目がけて振るわれる剣を、左手の盾で《シールドパリィ》を発生させて受け流し、右手の盾で《スタンバッシュ》で反撃を加える。しかし、怯む様子が見られない。おそらく何らかの防御系魔法で耐性をつけていたのかも知れない。もしかすると無詠唱か即時発動する魔法の使い手なのか? そうなるとかなり面倒な話だ。自分の肉体を魔法で強化し、剣による攻撃を主軸に置いた魔法剣士タイプなのかもしれない。しかし、だからと言って下手に距離を取れば、今度は《ファイアランス》やら《エクスプロージョン》などがドカドカこちらにふっ飛んでくる事になるかもしれない。

 よく見れば、振りかざされる剣にうっすらと霜がついている。まさか、冷気系統の攻撃でこちらを冷やし、動きを鈍らせることが目的か? インチキマントやドラゴンスケイルメイル一式の防御効果には期待しているが、それでも直撃を貰うべきではない。何とか盾でいなすか防ぐかしないと。だが、さっきから徐々に相手の動きが早くなってきている。どうやら次々と戦いの合間に強化系の魔法を重ねが消しているようだ。あかん、これは時間が経てば経つほど勝ち目がなくなっていくパターンじゃないか。

「なかなか粘りますな!」

 まずい、どんどん相手の攻勢に対してこちらが防戦一方になってきている。盾による防御に気を取られて、攻撃できる回数ががた減りになってきた。おまけにこちらの数少ない攻撃は全て相手の盾にふさがれる。アーツを振るおうにも、相手の剣速が早いために振るうチャンスがなかなか掴めない。このまま勢いに飲まれたら何もできずに終わってしまう。円花が使えればカウンター技《惑わしの演舞》で反撃できるのだが、今は使用を禁じているために頼れない。仕方ない、小手先の技になるが〈砕蹴〉スキルの中にある幻を見せて幻惑するアーツ、《幻体》を使う。

「む、これは?」

 相手の男性魔族がわずかながら戸惑いを見せた。《幻体》の効果で、体と足の動きによる幻が相手の判断力を落とす。が、それを過信する訳には行かない。いくつかの幻影が見えているとはいえ、本体である自分は間違いなくそこにいる。目先を多少狂わせる程度の力でしかない。もちろん慣れていない人相手ならば効果が大きいが、相手は魔族。こういった魔法は存在するだろうし、そう言った魔法に対する経験も相応にあるだろう。動くのであれば迅速に仕掛けていくしかない。このままでは押されっぱなしで終わる。だからこそ、戸惑いを見せた今、反撃を仕掛ける。数回攻撃を振って、幻と実態が入り混じっているという事を暗に示してから更なるアーツの手札を切る。

「《トライアングルシュート》!」

 幻影に戸惑いを見せ、少し攻撃が緩んだタイミングを掴んで、幻影をその場に残して左右どちらかに飛び、死角から強襲する《トライアングルシュート》で反撃を仕掛ける。先ほどの《幻体》で、幻が見えるが実態がある状態を教えていたので、この攻撃に魔族の男性は引っかかった。今度は実体のない幻影に剣を振りかざした所に、自分の蹴りが後頭部に直撃。前方に数歩よろめく。着地した自分はすかさず《スライディングチャージ》で相手の足を後ろから狩りに行く──が、何と攻撃が命中したは良いが、まるで大木の根元を蹴ったかのような感じを受けた。転ばせるどころか、こちらの動きを止められてしまった事になる。体勢もスライディングしている格好なので、すぐには立ち上がれない。

「そこですな!」

 そんな隙を見逃してもらえるわけもない。盾を投げ捨てて左手を自由にした魔族の男性が、自分の体を掴み上げて軽く宙に放り投げる。不味い、これは

「受けて頂きますかの、こちらの攻撃を」

 一太刀、二太刀、三太刀と剣による連続攻撃をもろに受ける。三回目の攻撃で吹き飛ばされた自分は雪原をゴロゴロと転がり、体中に雪をくっつける事に。何とかそこから立ち上がった物の、バリアは半分以上削られており、あともう一回同じ攻撃を受ける事が許されない状態にされてしまっていた。そして、吹き飛ばされたことにより距離が開いてしまったので──

「休む暇はありませんぞ!」

 火と雷の魔法が次々と自分に飛来した。弾速もまちまちのせいでかなり回避が難しい。自分も数少ない風魔法の《ウィンドニードル》と《ウィンドカッター》を用いてある程度相殺し、後は気合で避けるか盾で直撃を防ぐピカーシャの心羽根の効果もあって、一部の魔法は直撃コースから逸れてくれるのが助かる。それでもじりじりとバリアの残量を削られている事には違いが無く、このままではこちらの負けになるだけだ。しかし打開策が思いつかない。《プリスムノヴァ》は詠唱するだけの時間が取れないし……《妖精招来》も今は禁じられている。

 そんな事を考える時間ももうほとんどない。バリアの残りも一割を切った。なのに飛んでくる魔法の勢いは止まらない……ガス欠とかしないのか!? プレイヤーがこんな勢いで魔法を乱射すればとっくにMPは空っぽになると言うのに、そんな様子は一切見せずに涼しい顔で次々と魔法を放ってくる。こちらの集中力は落ち始めており、被弾回数が増えてきている。あと数発魔法を貰ったらお終いだ。このまま負ける位なら……前に出ようか。

「《大跳躍》! 《フライ》! 《ウィンドブースター》!」

 魔法を乱射できる相手にはあまりいい方法ではないのだが、アーツを組み合わせて空高く飛び上がり、空中から強襲を仕掛けた。だが、空中ではいくら《フライ》があっても地上のような細かいフットワークは望めない。そのため下手に使えばただの魔法の的にしかならないのだが……あのままでも負けてしまうことに変わりはないと割り切って空に飛んだ。あとは《ウィンドブースター》の後押しでどこまで相手に迫れるかが勝負だ。

 もちろん相手の魔族の男性も宙に飛んだこちらに目がけて魔法を撃ってくる。それに対しては盾をつけている両腕を、ボクシングのピーカブースタイルの様にして前面に出し、盾のアーツを発動することで無理やり耐える。そして距離が詰まった所でくるっと回転して足を下にして飛び蹴りのモーションに入る。届くか!?

「残念ながら、それはこちらの読み通りですな」

 そんな言葉と共に、相手の剣がこちらの体を切り上げる様な角度で振られるように構えられた。このままではただぶった切られるだけだ、何か策は!? ──無い。

「ぐぬぬぬ!」

 出来た事は、足の角度を調整する事だけ。そして落ちてくる自分に対して振り上げられる剣。こちらの苦し紛れの攻撃は空を切り、相手をしていた魔族の男性が振り上げた剣は自分の体を切り裂く……これで決着がつき、自分はエリアの外に強制転移された。負けたか……やはり魔族の人に魔法を使わせると、蹴り一本じゃどうしようもない。蹴りの訓練にはなったような気もするが、悔しいな。

「ありがとうございました」

 が、悔しかろうが何だろうが、終わった後には礼をする。今日はもう戻って今日の反省かな? 久々に蹴りを面として戦ったが、いろいろと忘れてる事が多すぎる。このままじゃルイ師匠に物理的な意味でお仕置きされかねない。魔王城にいる間は、ひたすら蹴りの訓練を行う事にしよう。

「いえいえ、こちらこそ感謝しますぞ。近頃は誰も私の相手をしてくれませんのでな……機会があれば、また手合わせをお願いしたいぐらいで」

 その後は二、三軽い会話を交わし、握手して別れた。さて、今日はもうログアウトしよう。やっぱり対人戦は疲れるな。
************************************************
ある意味爆発オチって、自分でやるとなるとすごく難しいような
気がする今日この頃。
しおりを挟む