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連載

魔王城から街に移動する途中で

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「いやー楽しかったぜ!」

 翌日、自分とブルーカラーのメンバーは魔王様の用意してくれた豪華なソリに乗って魔王城を後にした。ソリと言っても自分達がいる所は馬車のような感じで、足元が車輪ではなくソリになっていると言うだけだが。ソリを引いているのは、四天王の一人であるサキュバス・クィーンさんのペットであるでっかい白熊。正式名称はアサルト・スノーベアというらしい稀少な存在で、知能が高く力も強い。なので目的地さえいえば、そこまでこの豪華なソリを引っ張って行ってくれる。

「魔王城の中をのんびり観光できるなんて、普通のRPGじゃ無理よねー……いい経験が出来たわ」

 ブルーカラーの面々は、数日かけて行った魔王城内観光の話で盛り上がっていた。まあ気持ちは分かる、なかなかお城ってのは入れるものじゃないからね。ましてや魔王城ともなれば……昔のコンシューマーゲームならちょっと歩くだけでモンスターと遭遇して戦い続けるパターンが多く、一々のんびりと見て回る余裕はない。それをメイドさんの先導付きでのんびりと見て回れたんだから十分に楽しめたんだろう。

「所でアースさんは一体どこで何をやっていたんですか? 結局一回も私達の観光に合流しませんでしたし」

 と、いきなり話を振られた。蹴りの修練に夢中になってて、合流しようと言う考えが一切浮かばなかったな……それに魔王城に入ったのは二回目だったという事もあり、観光ツアーに参加する気もあまりなかったんだよねぇ。とりあえず、やっていた事を話しておくか。

「魔王城にある修練場に通って、最近全然使ってなかった蹴りの再訓練をやってたよ。同じ訓練場に居た魔王軍の兵士の皆さんとも時々拳を交えて貰って、蹴りの感覚を取り戻してた」

 この自分の言葉に、何やってんのこいつみたいな表情を向けられた。まあその気持ちも分かるけど、こっちとしては優先順位が観光よりも訓練の方が高かった訳で。それに魔王城に用事が出来た場合は、この身に纏っているマントが身分証明になるから再入場もたやすい。もちろんそんな特定を振りかざして傍若無人なふるまいなんかは絶対やらないけどさ。それをやってしまったら、ただの下種野郎になってしまうよ。引き締めるべき所は引き締めないとね。

「せっかくの魔王城に入れたと言うのに、やってる事は訓練か……無意味とは言わんが、あまりにも勿体なくないか?」

 レイジの言葉も分かる。というか、その考えが普通だよね。自分は以前来たことがある為に、そう言った稀少価値を感じる感性が鈍っていたんだろうけど。それに、豪華すぎる空間に居ると落ち着かないと言うのもある。その点訓練場は比較的簡素な見た目だったから、落ち着いて訓練できたけど。

「まあ、人それぞれですよ〜。それよりも、街の様子について話し合わなくて良いのでしょうか〜」

 ん? 街の様子って何かあったのか? つい発言をしたミリーの方に視線を向けてしまったが、相変わらずのにこにこ笑顔だ。何を考えているのか読みずらいんだよな、ミリーって。悪人じゃないって事だけは間違いないんだが……

「ああ、そうだった。おそらくアースの事だからそういう事に関してはあんまり情報を仕入れていない可能性があるから、改めて話をしておこうと思ってな。うちのギルドメンバーからの報告だから、内容については信用してくれていい」

 ツヴァイの言葉に否定できない自分が居る。とはいえ、何か大きな問題が起きていると言うような話は魔王城内には無かったはずだが。が、一々話の腰を折っても仕方がないので、そのままツヴァイの話を聞いてみた。で、大まかにいうとプレイヤーと街の人との間における炭の取引に変化が起きたとの事。指示を飛ばしたのは魔王様であり、不満があるのであれば魔王城まで来いと、かなり強気の内容だったようだ。

 で、肝心の内容は、炭の販売をギルドに属している人はギルド単位。属していない人は個人単位で販売限界量を定められることになったとの事。炭の期間はリアルに換算すると一か月単位。一か月内に販売限界量まで炭を買ってしまうと、次に買う事が出来るのは来月になる。──だが、その量は普通に行動していれば十分に余裕が持てるレベルであり、攻略の足を止められる問題はない。そう、あの炭を買いあさったいくつかのギルドを除いては、の話だが。しかし、この取り決めはこれからではなく、今まで購入した炭の量も考慮されていると言う点が重要だ。

 そして吹雪の中、炭を買いあさったいくつかのギルドだが……この制限に大きく引っかかったので新規の炭購入が出来なくなったそうだ。買いこみ過ぎたせいで当然ながら制限に引っかかるどころか大きく超過していたのは言うまでも無く、その超過分は一年と数か月分にまで及んでいたそうだ。一体どんだけ金に物を言わせて買いあさったんだと突っ込みたくなったのは自分だけではないだろう。この制限方式の新規導入によって、炭を買いあさったギルドは魔王領における冒険が一気に停滞した。

 その結果、その炭を売ってもらえなくなったギルドは他のプレイヤーから炭を買う方式に切り替えたのだが、当然他のプレイヤーだって緊急時に使うための炭は必要だし、制限がついてしまったことで軽々しく炭を売ることは出来ない。そんな訳で炭の入手がはかどらずに困った各ギルドだったが、街の人達が話していた『炭を売りに来た人族が居る』という話に目をつけたらしい──しかし、街の人達は情報提供に非協力的であり、焦れてきた各ギルドは少々手荒な手段に出そうだと言う雰囲気を漂わせ始めた。という話らしい。

「話は分かったけど……手荒な方法ってなると、強盗、恐喝とかか? 炭が手に入らず困っているとしても、そんな事を仕掛けたら一発で指名手配犯になってどえらい事になるだろうに。いつだったか、過去にサーズの街にモンスターを引き連れて来て指名手配された連中の末路は大半のプレイヤーは知ってるはずだし……そしてプレイヤーに恐喝なんかしたら、それこそ取り返しがつかないだろう……よっぽどのバカじゃない限り、この辺は分かるはずだ」

 ツヴァイの話を聞いて思ったが、いくらなんでもそんな短絡的な事はしないと思う。よっぽどのバカじゃない限り。しかしなぁ、人は時としてバカになるのも事実だ。早まった真似はしないでほしいが……一時の感情で全てを台無しにする事になっちまうぞ。

「ボクもそう思うけど……どうにも例の各ギルドは揉めてるっぽいんだよね。と言っても、ギルド全体でやってたんだから言い逃れはできないし、お店の方も顔を覚えちゃってるらしいからごまかしも効かないってさ。で、最新の場所で冒険できないイライラで短絡的な行為に走る存在が出て来てもおかしくないって聞いてるんだよね。だから一応念のためにって事で。もしかしたらどこからか情報が流れて、アース君が炭を作り始める音頭を取ったってのが伝わるかも知れないから」

 なるほど、ロナの言葉は最もだ。人の口に戸は立てられない以上、何かから転がってぽろっと情報が流れる可能性は否定できない。最低限の心構えだけはしておくか……

「で、だ。アースに提案するんだが、薬草取りをいったん中断してこっちが攻略しているダンジョンに来ないか? 確かアースは鍛冶もできたはずだろ? こっちだと鉱石が取れるんだから無駄にはならないし、そんな状況だからしばらく俺達と一緒に行動して奴らが大人しくなるのを待った方が良いと思う。俺達と一緒なら囲まれたりする可能性はずいぶん減ると思うんだ」

 うーん、なるほどな。もし炭の生産に関する情報が知れ渡ったら、連中がぎりぎりセーフの所からこっちにプレッシャーをかけてくる可能性はあるか……そこで変に逃げたりすると、後ろ暗い所があるから逃げただの何だの難癖をつけて来るくらいは仕掛けて来るかもな。

「確かにツヴァイの言う通りかもしれないな。その話に乗ることにするよ。それにしても一つが片付いたと思ったらまた問題が発生か……面倒だねえ」

 買いあさったギルドも、魔王領での冒険を諦めて他の国に行けば十分楽しめるだろうにとは思うが、炭を買いあさってまで攻略を進めるっていう点で最前線組なんだよね。そんな最前線組が、攻略を諦める、妥協するって事はまずあり得ない訳で……しばらくはあれこれ動くだろうな。触らぬ神に祟りなしで行きたい所なんだが、称号の人災の相が何かやらかす可能性が否定できないのが怖ろしい所。さすがにプレイヤー関連にまでは影響を及ぼさないと信じたいが、どうだろうか?

「アースや俺達は何も恥じる事はやってないんだがなあ。そう言った言葉を受け取れない奴ってのはいつもいるから仕方ないさ」

 ツヴァイの言葉にレイジが目を閉じながらうんうんと頷き、カザミネも「困った物です」と言葉をこぼす。自分達の乗った豪華な橇が街に近づく中、これからやって来るかも知れない面倒事に誰もが少々憂鬱な顔を浮かべていた。ほんと、手助けをしたことで面倒事に目をつけられるのは勘弁してほしいな。
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今日はやや寝不足なのがちょっと厳しい。変な時間に目が覚めた。
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