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新ダンジョン内での初戦闘

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「とりあえずアース君への説明はこんな所かしら? で、ツヴァイ。今日はどのぐらいの深さまで行くの? 初挑戦のアース君の事もあるんだから、いきなりマイナス四階とかにつっこませないでよ?」

 自分への説明を終えたノーラが、ツヴァイに声を飛ばす。そうだな、とりあえずノーラの説明でダンジョンの大まかな形こそ分かったが、いきなり奥地までご案内はきついな。奥地に行くにしても、とりあえず二、三回ほどこのダンジョンの浅い場所で行動し、感覚を掴ませてもらってからにしてほしいかな。

「分かってるぜ、いきなりマイナス四階とかは俺達だって無茶だったろー? とりあえずプラマイゼロか、マイナス一階辺りで慣れて貰うさ。その回想でも探してる鉱石はそれなりに出るしな」

 ツヴァイの言葉に内心ほっとする。とにかくここに生息しているモンスターや、溶岩などの仕掛けも一回体験してみないとどう動けばいいのか分からないからな。説明されただけで十全に動けると言うのであれば、誰も苦労なんかしない。

「ま、あんまり気を張らなくても大丈夫だ。この盾を貫ける様な奴には出会っていない。アースは、様子見という感じで戦闘よりも、このダンジョンになれる事を今日の所は重視してくれ。俺達も最初はそうだったからな……と、そのマントを脱がなくて良いのか? ここから先に進むとかなり熱くなってくるぞ? 防寒具はこのダンジョンでは必要ないから、今ここで脱いでおいた方が良いと思うんだが」

 そんな一部フラグっぽいレイジの言葉を聞いて、周囲を見渡すとブルーカラーのメンバーは全員マントを始めとした防寒具を全員装備解除していた。うーん、とはいってもこのインチキマントには耐寒だけではなく耐熱効果もあるんだよね。周囲が溶岩を固めたような壁で、この場に居るだけで見るからに暑そうな感じを受けるが、自分の受ける体感温度は五月の過ごしやすい気温のような感じがしている。なので脱ぐ必要性が無い。それに脱いだら、下にあるドラゴンスケイルメイルが丸見えになってしまうという問題もある。

「あーうん、今のところは大丈夫。脱ぎたくなったらすぐに脱ぐから」

 と、この自分の返答にレイジは「そうか? まあそれでいいならいいが。予想外にアースは寒がりなのか?」と少し首をかしげながらもPTの先頭に立つ。さて、とにかく新しいダンジョンに挑戦だ。自分にとっては初めての場所なのだから、普段よりも警戒心を高めていこう。近くに何らかのモンスターが居るという反応もさっそくある事だし。


 少し歩いてみたが、このダンジョンは何というか熱い事とか溶岩とかのギミックがなければ古き良きRPGのダンジョンのような感じだなというイメージを受ける。通路と幾つもの部屋で作られているダンジョンで、ワイヤーフレームで表せば有名なあのゲームになってしまいそうだ。後は出て来るモンスター次第かな……恐らく次の部屋に該当するあたりにいくつかのモンスター反応がある。ちらりとノーラの方に視線を向けるが、そちらも気が付いているようだ。小さくお互いに頷いた後、ノーラが全員に向かって声をかける。

「次の部屋があると思われる距離にモンスターの反応があるわ。数は五、おそらく人型ゴーレムが三、機動力を重視したウルフの様なゴーレムが二って所ね。人型はこの辺りだと恐らくノンアクティブだと思うから(自発的に襲ってこない事をノンアクティブという)、ウルフ優先ね。人型ゴーレムはその後に処理すればいいわ」

 へえ、ダンジョンに居るのにノンアクティブとは珍しい。なんにせよこのダンジョンに入って初めての戦闘になるから、まずは様子を見ながら用意して来た重撲の矢でちょいちょいと攻撃を仕掛けるか。それにしても重撲の矢があって良かったよ……こういったゴーレム相手に、基本的な刺さる系統の矢はあんまり効果的じゃないってのは簡単に予想できる。だからこの先端が鈍器形状になっている重撲の矢とか、試作した後改良するタイミングがつかめずにそのままになっている爆裂矢とかが有効だ。もちろんアーツを乗せれば他の矢もそれなりに使えるだろうけど、行う攻撃全てにMPを消費するアーツを用いる訳にもいかない。消費が少ない《風塵の矢》だって、連射すれば相応のコストになってしまう。

 そんな事を考えながら歩き、PTの先頭を行くレイジとカナさんが部屋に入った途端にそれらは動き出した。部屋の中にあった幾つもの石や岩がカタカタと動き始め、五つの塊となって行く。なるほど、普段はばらばらになっているが、侵入者が現れると一塊になる訳だ。その後は当然、それなりの形になるのだろう。と思っていた通りに、体の中央にある一番大きい岩を中心にして、人型とウルフ型のゴーレムがその形を完成させた。ただ、岩と岩同士はくっついていない。人や動物にある関節に当たる部分が空いているのだ。なので形作っているパーツは人型だと頭、胴体、片腕三つ、片足三つ。合計で十四。ウルフの方はもっと細かい。特にしっぽは小さなほそい石が複数連なっているので数を数えるのは放棄する。

「こっちに来るぞ、攻撃準備!」

 と、レイジの声。その声に反応して、全員が武器を構える。ウルフ型のゴーレムも、唸り声こそないがいつでもこちらに飛びかかれるような態勢を取っている。その一方で人型の方は立ってはいるがこちらに攻撃をしようとしている雰囲気が感じ取れない。本当にノンアクティブなんだな。ならば今は殺気をこちらに向けているウルフ型ゴーレムだけに集中しよう。と、早速突進して来たか。

「ウルフの俊敏さとゴーレムの重さという本来相反する要素を持ち合わせる……何度戦っても動物型ゴーレムは厄介ですね」

 ウルフ型ゴーレムの突進を受け止めたカナさんの声が聞こえた。やっぱりゴーレムとしての重みがあるのか。タンカーにとってもちょっときつい相手だな。ウルフ型ゴーレムも突進を受け止められた後に素早く下がっており、仕切り直しかと思われた。しかし、相手はウルフの形を取ってはいるが、ゴーレムであると言う事をこの時の自分はちょっと失念していた。二匹いるウルフ型ゴーレムの片方が口に当たるパーツをぱかっとあけたかと思うと、口の奥を光らせ始めた。あ、これって魔法かそれに近い攻撃が飛んでくる予兆だ。

「っととと、それはよろしくないな!」

 慌てて重撲の矢を一旦矢筒にもどし、普通の鉄の矢を取り出して弓に番えて《風塵の矢》を発動させてから放つ。飛んだ矢と、ウルフ型ゴーレムから放たれた火炎弾が空中でぶつかり合って……矢が競り負ける。が、勢いの無くなった火炎弾はレイジがその後に斧を一振りすることで簡単にかき消えた。その様子を見たウルフ型ゴーレムは自分に対してさっきを向けて来る。まずい、相殺したら一気にこっちにヘイト(モンスターにとって優先的に狙う優先順位を示す隠しステータス)が跳ね上がってしまったか?

「よそ見をするな、お前らの相手はこっちだぞ!」

 それを感じ取ったのか、すかさずレイジがタウント系のアーツを発動して注意を向けてくれる。そのお蔭で、こっちに対しての殺気が薄れる。にしても、向こうにとって相殺されると言うのは想定外だったのかね? あの火炎弾をこちらに当てる事で崩し、産まれた隙を狙って一気に突撃してくる予定だったとか。

「アース、相殺ナイスだ、次も頼むぜ! よし、今度はこちらが仕掛ける番だな!」

 攻めるきっかけを潰されたウルフ型ゴーレムに対し、ツヴァイとカザミネ、ロナにノーラが飛び出した。ツヴァイとカザミネはウルフの側面に、ロナとローラはすばやさを生かして背面を取る。ウルフ型ゴーレム達も囲まれたことは分かっているんだろうが、今のところはレイジとカナさんの方に注意を向けている。

「こいつらはダメージに敏感だから、ほどほどに当てろよ!」「分かってるわよ、ツヴァイこそドジ踏まないでよね! レイジとカナの負担が一気に増えちゃうんだから!」

 ツヴァイとノーラのやり取りに少し驚く。そう言う性質もこいつらは持っているのか。そうなると自分もアーツを使わず普通に重撲の矢を放つにとどめた方がいいな。それに先程攻撃を相殺した方は狙わない様にしよう。いきなりターゲットがこちらに向いて突っ込まれたら、近くにいる魔法使いのミリーやエリザと言ったメンバーが危険にさらされる。

「行きますよ、ノーラさん!」「レイジは攻撃後にタウント頼む!」「じゃ、ボクも軽くツヴァイ君の後に叩かせてもらうかな」「アタシはスリングを使って攻撃するわ」

 ん? ノーラはスリングなんて手に入れてたのか? スリングとは石を投げる道具の事で、普通に投げるよりもはるかに威力が上がる。もちろんその扱いは簡単なわけではなく、頭上で振り回すか側面で振り回すかして遠心力を得て投げつける技術が必要であり、一朝一夕では標的に命中させられない。その反面、弾の確保は石で良いので簡単という一面、手持ちが尽きても今回のような石や岩が転がっている場所ならばすぐに弾が補充できるという長所もある。

 ツヴァイ達の攻撃は、ツヴァイ&カザミネの男性陣が側面から一発だけ攻撃を当てて怯んだところにロナ&ノーラの女性陣が追撃を入れた。男性陣と女性陣の合間に妖精が攻撃を入れているので、ダメージが大きくなった女性陣に対し、ウルフ型ゴーレムが反応して後ろを向く。そこにすかさずタンカー二人の攻撃&タウント系アーツが入って再び元の方向に向き直す。なんかぐるぐる回される猿回しのような感じだな……なんてアホな事をちょっと考えていたら、二匹のウルフ型ゴーレムが同時に先程の火炎弾を吐き出す動きを見せた。

「それに対する準備は〜」「十分できていますのよ!」

 と、ミリー&エリザが用意していた魔法を放って火炎弾を完全に相殺した。その直後に動いたのは──

「逃がしませんよ、さっきの火炎弾の後に動けない時間があると言うのはもうわかってるんです! 《マテリアルスライサー》!」

 との声と共に、コーンポタージュが土魔法を発動。ウルフ型ゴーレムが立っていた場所付近が突如陥没し、無数の鋼鉄っぽい色の刃が何度もウルフ型ゴーレムを刺し切り裂く。ツヴァイ達はとっくにその場から退避しており、問題はない。おそらくこの形は練習通りって事なんだろうな。さっきの魔法はかなり詠唱時間が長い様だから、詠唱官僚までの時間を稼ぐことと確実に止めをさせる様にという二つの理由で注意を引き、ある程度のダメージを当てておく事で確実なとどめをコーンポタージュの強力な魔法にやってもらう、と。自分は中衛だから、教えておかなかったとしても巻き込まれる可能性はまずない。そんな所かな?

「よし、ウルフ型ゴーレムは沈黙したな。相変わらずこの魔法は固い連中に効果抜群で助かるぜ!」

 へえ、先程の魔法には特攻効果みたいな物があるのか。硬過ぎる相手とか、柔らかすぎる相手とか。もしくは特定の種族には効果が跳ね上がるとかいう物が特攻効果だが、先程の魔法にもゴーレムなどに特によく効く能力があるって事なのだろう。そうなると、ここの攻略の鍵はコーンポタージュが握ってるって事になりそうだな。
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13日の金曜日……少し怖いですね。
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