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今回のお相手情報

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 さて、戦うとなれば分かる範囲でモンスターの情報を集めないといけない。ソロならば倒されたって問題はないのだが、今回は魔族の皆さんとの共闘だ。やり直しがきかないのだから、事前情報の仕入れは万端にしていかなければいけないのは当たり前だろう。

「さて、まずはアイスジャガーの情報からだな。さっきも言ったが、アイスジャガーにはいくつかの特殊能力がある。繰り返しになってしまうが、一定以上の長さを持つ武器じゃないとダメージを与えられない防御能力。水に対する耐性と……氷属性の魔法攻撃能力もあるようだ。さらに体毛が白い事から、軽く雪が舞うだけでとたんに視認しにくくなる天然の隠蔽能力。それらに加えて、アイスジャガーキングには更なる能力が二つか三つつくようだな。おそらく今回のキングは集団を好戦的にしている事から、プレイヤーで言う《鼓舞》か《扇動》の様なスキルを持っている事だけは間違いない」

 レイジの説明が続く。さて、ここに出てきた《鼓舞》や《扇動》と言ったアーツだが……《鼓舞》は音楽系のスキルからもたらされるアーツで、もう一方の《扇動》はシャウト系のスキルからもたらされるアーツだ。もう少し詳しく説明すると、《鼓舞》は楽し気な音楽や、テンションが上がりそうなノリのいい音楽などで聞く人の士気や能力を高める事が出来るアーツとされている。実体験する機会がないので、あくまで情報としてしか知らないが。

 もう一方の《扇動》は、ある意味リアルの扇動と大差ない。大きな声で周囲に居る人の意識を特定の方向に向けるアーツ。使いどころは、対レイドボスなどで厄介な攻撃を繰り出してくる前兆が見えた時に、指示をする人が他のプレイヤーに掛ける事で半強制的に意識を向けさせ、回避に専念させたい事に使うらしい。ただ、このアーツはワンモア世界の住人に《扇動》をかけて、王に対する不信感を募らせてクーデターなどを引き起こさせるような効果はない。もし効果があった場合は、とても恐ろしい事になったのは間違いないが……なので、こちらも戦闘中の指揮を執る事が多いプレイヤーが修得している事がある。

「とりあえず、あと二つのスキルを持っていると考えて対策を練っておいた方がいいでしょうね。それぐらい慎重な態度で事に当たるべきです。そして情報サイトなどや、今までの経験を加味しておくと……さらなる攻撃手段を一つ、防御手段を一つ持っている可能性がありますね。例えば、今回戦うアイスジャガーですが、氷魔法と鋭い爪、そして牙による噛みつきが主な攻撃方法ですが、これはレイジさんの様なタンカーががっちりと装備を固め、水系統の防御を高めていればやられる事はほぼ無いでしょう。そこで、キングは他の属性の攻撃魔法を習得して、その守りを崩してくる可能性があります。これが更なる攻撃手段の一例です」

 と、カザミネが話をいったん区切って飲み物を口に運ぶ。ふぅーっと息を吐いたカザミネは、更に話を続ける。

「そして防御面では、魔法対策をして来る可能性があります。アイスジャガーは俊敏性が高く、武器による直接攻撃を当てる事がなかなか難しいとされています。なので、プレイヤーだけでなくワンモア世界の人達も、アイスジャガーと事を構える時は武器による牽制である程度相手の行動を抑制し、水属性以外の魔法による攻撃で仕留める事が多いようです。魔法はある程度狙った相手を追尾しますから、タイミングを見計らって仕掛ければ、素早いアイスジャガー相手であっても命中率はそれなりにありますからね。その光景を、キングが見ていれば当然その対策はして来るでしょう。その方法が、魔法を反射なのか受け流してくるのか防御なのかまでは分かりませんが」

 カザミネの話から察するに、今回の様なキングが発生した時は、これまでのプレイヤーやワンモア世界の住人の行動パターンを学習している可能性が高いと言う事になるようだ。そう言えば格闘ゲームなどでも、AIがワンラウント負けた時にプレイヤーの行動を学習し、その後の戦いで対策を練って来るなんてのもあるそうだ。要はそれと似たような感じだと考えておく必要があるのだろう。

「つまり、魔法に頼った戦い方では今回のアイスジャガーキング討伐は難しいだろうと……レイジとカザミネは見ている訳なんだな?」

 確認を取る自分の言葉に、レイジとカザミネはほぼ同時に頷いた。

「おそらく魔族の皆さんは、魔法が得意であると言う一面から魔法使いを多く入れて来るでしょう。そこにこちらも魔法使いを多くPTに入れてしまうと、魔法に対する対策をキングがしっかりと組み立てていた場合は苦戦どころの話ではなくなってしまいます。そのような展開は絶対に回避しなければなりません。そうなると、槍や弓と言った射程の長い物理攻撃が使える仲間の有無が勝率を大きく左右するでしょう」

 とカザミネ。

「もちろん魔族の人達は武器を扱う能力にも長けてはいるがな……やはり全体的に見ると魔法に重きを置いている人が多いと言うのは事実だ。これは実際に魔族の人達と一緒に行動してみて感じた事だから、そうそう間違いではないだろう。確かに魔族の使う魔法の威力は、プレイヤーで言うなら魔法特化プレイヤー並みか、それ以上の力を持っている事は事実だ。不意打ちさえ喰らわなければ、そうそうモンスターに後れを取る事も無いだろう。今回は王による強化? とかが行われていたと見るべきで、数少ない例外だったんだろうがな。さらに付け加えるなら、パトロールに出ていた人はおそらく探知能力とかを重視しているはずで、戦闘を重視する人よに比べれば、近距離で殴り合う真っ向勝負は苦手だったんだろう」

 こちらはレイジ。まあそうだろうね、自分も不意打ちをしかけるとか道具とかを使って戦わないと、PvPでは純粋な戦士のプレイヤーや魔法使いプレイヤーにはかなり苦戦することになる。魔法にはまだ弓の相殺能力の高さがあるからいいが、ガンガン距離を詰めて来て武器を振って来る近距離戦を得意とするプレイヤーには、以下に距離を取ってごかましながら戦うかを考えないといけないし。要は活躍できるステージが違うって事だ。

「だから、アースにも来てもらったんだ。ぶっちゃけてしまうと、ブルーカラーのメンバーでも弓使いはそれなりに育って来てる。スキルレベルからすれば、アースを超えていると思われるメンバーもそれなりには居ると思う」

 まあレイジの言うことは尤もだ。自分のような社会人よりも学生さんの方がプレイ時間の確保はしやすいだろうし、さらに自分は武器を使う戦闘も魔法も生産もするプレイヤーだから、各々のスキル成長限界は低い。そう言った要素が絡めば、当然自分の方が特化された分野では他の人よりも弱くなっていく。これは特化せずにあらゆる状態に対してある程度柔軟に対応できるようにと考えている自分にとっては仕方がない事である。成長方針の違いだからね。

「ですが、アースさんの強みはそこではない。アースさんの持つ『どんな状況にでも一定のレベルで対応できる柔軟さ』という強みを持っている人は、ブルーカラーのメンバーの中にもいないのです。その強さを持っているからこそ、相手の強さや持っているスキルがはっきりとしない今回のような戦いには是非参加してほしかったのです」

 と、レイジの言葉を継いだカザミネの一言。ブルーカラーの初期メンバーとは付き合いが長いから、そう言った部分を評価してもらえるんだろうな。初見ではわかりずらいからねぇ……野良のPTでは特化者同士が集った方がいい場合ってのも最近は多いし。以前はまだスキルレベルもカウンターストップしてなかったから野良のPTに参加しても問題は無かったのだけれど、今はそうはいかない。やっぱりレベルの差は火力の差になってしまう一面がね……

「とりあえず、槍使いのギルドメンバー……ガルドって男なんだか、そいつは明日までにここに来てくれるように手配しておいた。なので、明日は俺とカザミネ、コーンポタージュにアース、そしてガルドの五名で今回の依頼達成に向けて動くことになる。今日はこの後、ポーションやら消耗品やらの補充だな。アースはどうする?」

 そうだな……少し強化オイルを追加しておくか。あとは、もしかしたらの可能性を考えて危険物のヘルマインオイルもちょっとだけ作っておこう。冒険初期に作った物が、日の目を引始めたからな。備えあれば憂いなし、柔軟性を発揮するためにも、こういったアイテムを仕込んでおくか。

「そうだな、今日はここで失礼するよ。ある程度のアイテム生産をしておきたいから。それじゃ皆、また明日」

 ブルーカラーメンバーに断りを入れてその場を後にする。ブルーカラーの皆も一言挨拶をしてから送り出してくれた。ではちゃっちゃと明日の仕事を無事に終える為にも道具屋などに行って、必要なアイテムの素材を買いそろえて生産しないとな。
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美味しい生ハムを新鮮なアスパラガスに巻いて食べたいこの頃。
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