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連載

再び振るわれる、魔王の切り札

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「アクア、これから前にやった時と同じことをする。もし奴が妨害を仕掛けてきた時は、どんな方法でもいいから邪魔されない様に支援を頼む」「ぴゅ!」

 変身後も頭の上に鎮座していたアクアにも協力をお願いしてから、鎧の背中に生えている四枚羽を展開し、魔力のチャージにかかる。このチャージに時間がかかるのが最大の欠点だが、これは魔法に優れた魔族ではない以上仕方あるまい。本来なら使う資格自体がないのだから。

(ルエット、今回も頼む)(ええ、任せといて! 今度こそきっちりと終らせましょう!)

 《デモンズ・ジャッジ》の本当の形を完成させるためには、ルエットの魔力操作によるサポートは必須だ。自分一人でやった場合は、以前の特殊空間でやった方な威力ぐらいしか出せない。魔力も徐々にチャージされてきたが、そうなると当然、アイスジャガーキング変異体? の視線が明らかにこっちを向くことが増えてきた。中距離攻撃や遠距離攻撃をしている人達の方に関心を示さなくなってきている分、そちらの方は安全になってる可能性もあるが……こちらに攻撃を飛ばしてくる回数が増えたな。ちなみに自分の周囲はすでにそれなりのスペースが空けられており、巻き添えを食う人はいない。

「ぴゅい!」

 飛んでくる攻撃は基本的に他の魔族の皆さんの迎撃か、アクアの防御に任せている。ここで自分が攻撃行動を起こせば、せっかく溜まって来た魔力が霧散してしまう。だらだらと時間をかけると何をして来るか分からない相手なのだから、チャージは最短時間で行いたい。ちなみにアクアの防御方法だが……かなり変わった方法を取っている。氷の槍を作って放つだけではなく、氷で作った四本の手首までの手を浸かっているのだ。ちなみにその手はグー固定ではなく、ちゃんと関節部分で閉じたり開いたりできている。で、この手で伸びてきたチェインアイスジャガーを掴んできゅっと雑巾を絞るような形で千切ったり、グーで殴ったり、時には地面すれすれからアッパーカットを決めたりしている。なんでこんな方法を覚えたんだろう? 何か切っ掛けでもあったのかな?

(一番から三番リング、各自展開。──一番に軽微な異常を確認、調整を開始)

 よし、ここからは意識の全てを《デモンズ・ジャッジ》の発射に振り分けよう。防御は全て周りにいる皆さんに任せておけばいい。背中から感じる感触は、徐々に力強さを増してきたがまだまだ奴を打ち滅ぼすには足りない。必要な力が一秒でも早くたまるように精神を集中、集中! そうして精神を集中させれば、周囲の音、声がゆっくりと聞こえなくなってゆく。感じ取れるのは背中に集まる魔力と対峙しているアイスジャガーキング変異体? から感じられるこちらに対しての敵意と脅え。

(四番から六番までのリングを展開、四番に致命的な問題を感知、四番を破棄して再構成。一番の調整が終了、設置。四番の再構成を行いつつ七番目を配置)

 たまった魔力は大体五割前後。もう少しで最低限の威力ではあるが撃てるようにはなるか。もっとも、この技を中途半端なチャージで撃つメリットは全くないのだけれど。フルチャージで撃ち、敵を問答無用で消滅させること事が持ち味だからね。某宇宙戦艦の波○○が一番近いたとえだろうか。しかし、それでも今回は消しきれずに残滓が残ってしまったけれど。自分が未熟すぎたのか、それともあの時の暴走魔力が歴代でも強い方だったのか。どちらにせよ、ここできっちりと決着をつける。

(『人災の相』、という問題ではないな。恐らくは縁があるんだろう、こちらの世界の厄介ごとと。ただそれをスルーするか、関わっていくかの選択権があるなか、自分は徹底的に関わって来たってだけで)

 そう言えば、こんな情報がどこかのサイトにあったな。このワンモアでは、こういった大なり小なりの厄介ごとは常にどこかで起こっている。そして当然それに関わるプレイヤーと、兆候を感じてもスルーするプレイヤーが居る訳なんだが、何と積極的に関わるプレイヤーとスルーしてきたプレイヤーではイベント遭遇率が劇的に変わっていくというデータが取れているらしい。関わる人にはより多くの、スルーする人には最低限のイベントしか兆候を掴めない様になるわけだ。もちろん、公式のイベントなどは除く。

 そんなたわいない事が頭に浮かんでは消えていくうちに、魔力が八割ほどたまった事を感じ取る。魔力のチャージは順調だ。周囲を一瞬だけ見渡すが、被害者もこれと言って出ておらず、陣形も崩れていない様だ。自分に向かっての攻撃も多数飛んでくるが、アクアが、魔族の皆さんが、レイジやカザミネが攻撃を途中で止めるが防いでくれている。どちららかというと、これはボスであるアイスジャガーキング変異体? の方が膠着状態に陥ってる感じがする。引けないし攻めきれない。こちらが単体であった場合はこんな風に落ちついて魔力をチャージすることは不可能だから、アイスジャガーキング変異体? の方にも十分に勝ち目があるんだが……まさに数の力で様々な攻撃を繰り出しても悉く防がれてるな。

(リングチェック完了、魔力伝達率問題なし。各自リングの回転を開始)

 魔力のチャージ完了が迫ってきた事を感じ取ったのだろう。先程よりもアイスジャガーキング変異体? の攻撃が激しくなった。チェインアイスジャーの数がさらに増えているし、ブレスに目からの熱線も連射してくるようになった。まるでマラソンなんかのラストスパートを見ているかのような……向こうも後がないと感じ取ったか。だが、それでも魔族の皆さんは隊列を崩さず対応している。さすがに被弾も増えているし、回復魔法の発動回数も増えているようだが、死者は出ていない。

 こちらの発射準備はあと少しで整う。魔力のチャージは九割から溜めるのに必要な時間が大幅に伸びるのだが、それでも溜めなければいけない。結論から言ってしまえば、おそらくあのアイスジャガーキング変異体? を消し飛ばす事が出来るだけの力はすでに溜まっているのだろう。だが、暴走魔力の残滓は残ってしまう可能性は高いだろう、という事も感じていた。こればかりは直感だが、このワンモア世界との付き合いも長い。こういった直感は外れるとは思えない。文字通り、塵一つ残さぬ様に消し飛ばしておく必要がある。

(魔力チャージ、九割五分を突破、六分、七分、八分……)

 ルエットのカウントアップを聞きつつ、弓を構えて狙いを定める。狙いの中心点は、奴の顔。長いチャージが必要となる分、自分のデモンズジャッジの弾速は異様と言っても良いと程早い。この距離であれば、狙いを外す理由は自分のミス以外にありえない。そしてそんなミスは、この集中している状態では絶対にないと言い切る。世の中に絶対という言葉はないのだが、それでも言い切る。この一撃を外したら、この場が瓦解しかねない。これだけの魔力の高まりは、この場に居る人だけではなく街の魔族の皆さんも感じ取っているかもしれない。それだけの魔力による攻撃を外したら、この場にいるすべての人の士気がガタ落ちになる。だから、絶対に失敗はないと言い切る気持ちでこの一矢を射なければならない。

(魔力、完全チャージ! 《デモンズ・ジャッジ》をフルパワーで撃てます、マスター!)

「総員前方より退避しろ! どんな形でもいい!」

 ルエットのチャージ完了の言葉を聞いた直後に、自分は大声で叫ぶ。魔力がうなりを上げて自分の背中を押している様な感触すら感じる。早く俺を撃て、目の前のアイツに食らいつかせろと言わんばかりだ。

「総員退避! 敵の前を開けるんだっ!」

 指揮官の声も響く。そして声に反応して退避する魔族の皆さんやレイジ達。なかにはわざとアイスジャガーキング変異体? の攻撃を盾で受けて吹き飛ばされる事で退避するという荒業を取った人すらいた。そうして退避は行われ、アイスジャガーキング変異体? と、自分の間には誰も居なくなった。アイスジャガーキング変異体? はこれが最後のチャンスとばかりに特攻してくる。

「今度こそ、完全に消す!」

 そうして溜めた魔力を開放することで、魔王に伝わる《デモンズ・ジャッジ》の自分バージョンがここに解き放たれた。
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バイド、バイドとは……
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