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連載

復帰するまで

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 足音が部屋の前で止まり、部屋の扉がキィ……と本当に僅かながらの音を立てて開かれた。そうして部屋の中に入ってきた人物だが──

「あ、目が覚めた様ね。また長く眠り続けるのかと思っていたのだけれど……今回は早いね」

 四天王の一人、死神のデスさんだった。今回は鎌を持っておらず、服も大人しめの物だ。

「体の方は大丈夫なの? 正直に言って物凄く無茶をしたと貴方の体を診察した時に分かった。貴方の体から、生有る者が生きるための根源である生命力がごっそりと抜け落ちている。──戻ってきた兵士の話から、貴方が兵士四人に生命力を分け与えた事も理解できた。でも、それは普通じゃない。生命力を他者に受け渡すなんて事が出来ると言う時点で十分にそれは異常な事」

 自分が寝ているベッドに近寄りながらそんな事を言って来た。そう言われてもしょうがないか……

「それを可能にしていると言うこと自体が私から見ても怖ろしい。そしてそんな事をしてもこうして生を繋いでいること自体が生物としてあり得ない域に近い。でも、さすがにそれ相応の反動はある様ね……今の貴方はまともに立ち上がる事すらできない状態に陥っている事は分かる」

 そう言えばデスさんは医者も兼任してるんだったな。だからこっちの体の状態はほぼ把握できていると見ていいだろう。

「自分でも相当な無茶をしたと言う自覚はありますが、見捨てる事も出来なかったので……それと、今回の一件はもう報告を受けている様ですが、自分からの報告は必要ですか?」

 この自分の言葉に、デスさんは頷く。やっぱりこっちからの報告も必要か。

「ではいくつか。今回の一件ですが、その発端は先に発生した暴走魔力との戦いが原因でした。あの時自分は初代魔王様から授かった力である《デモンズ・ジャッジ》を用いて暴走魔力を抑えましたが、その時に完全に暴走魔力を消し去れていなかったようなのです。その残滓が今回アイスジャガーキングに取り付き、その体を乗っ取ったのでしょう。そうしておかしくなった王を止めるために、アイスジャガーの群れの中で、暴走魔力の意識に取り込まれなかった済んだ個体が、魔族の皆様に何とか異常事態を知らせようとしていた……と考えられます」

 そうじゃなきゃ、あの時のこちらに殺されるような飛びかかり行為が説明できないからな。

「そこからの発見、ならびに先頭内容は既に報告されているでしょうから省きますが──今回自分が放った《デモンズ・ジャッジ》で、今度こそ完全に消し去れたと思います。自分の左手の薬指につけている指輪に宿る魔力の動きや流れに敏感な存在がそう告げてきたので間違いはないです」

 ここまで口を挟まずに聞いていたデスさんだが、ここでゆっくりと一回だけ頷いた。

「了解した、むしろ暴走魔力を抑えてくれたことに感謝する。こちらもまさか暴走魔力が残滓を残しているとは予想できなかった事もあり、完全に後手に回ってしまった。もしあそこに貴方が居なければ、兵士達や協力していた冒険者たちの命を次々に吸い上げ、とてつもないバケモノが生まれていた可能性が高い。それを体を張って止めてくれたことに、心から感謝を。魔王様からもそれをまずは伝えてほしいとお言葉を頂いている。本当にありがとう」

 あそこにいた兵士達や、レイジを田治米としたブルーカラーメンバーの命を吸っていたら、全部の属性が効かず、物理体制も高く、アイスジャガーチェインを無数に生やして命を食らいまくる様な進化をしたんだろうか? そうなってしまったら、魔王領の居る人だけではなく、全ての種族が再び集まって退行しなければならなくなった可能性もあった訳だな。あくまで可能性があった、という過去形になってくれて本当に良かったが。

「もちろん報酬も渡すけれど、今は体を治してほしい。貴方が完治するまで、私がつきっきりで看護する事になりました」

 ──え? あの、目の前のデスさんは今なんて言いました? つきっきりで看護?

「い、いえいえいえ、それには及びません。このままただ安静にしていればゆっくりと回復しますからどうかお構いなく」

 すぐに自分は反論。それを聞いたデスさんは直ぐに部屋を出て行った。良かった、理解してくれたんだなと安心した自分であったが……デスさんが出て行った理由は別の所にあったのだ。再び部屋の中に入ってきたデスさんは、手押し車を押すリビングメイドさんを一人伴っていた。その手押し車の上には、粥のような物が入っていると思われる皿が乗せられており、湯気が上がっていた。

「とりあえず、今の貴方は休むだけではなく食事も必要。これは龍の国から取り寄せたお米を柔らかくした粥という食事。これならば胃が疲れていても受け付けるから心配はない。はい、あーん」

 なんだか、別方向のベクトルで物凄い試練が突然やって来た。あーんとか、レベルが高すぎてどう対処すればいいのか分からない。恋愛の一つでもしてればよかったんだろうが、自分の青春時代は勉強メインで恋愛なんてする時間がなかったし、事故で心が半壊していた時期ももちろん恋愛なんて縁がなかった。そんな人間に、いきなり美人さんがあーん、だと!?

「──恥ずかしいのかも知れないけど、ちゃんと口開けて。ちゃんと熱くないようにほどほどに覚ましてるから大丈夫だから、ね?」

 しかも容赦なく生暖かさが残る感じの理解のされ方をしてしまった。なんだろう、アイスジャガーキング変異体と戦っている時よりも精神的にゴリゴリと削られていくような気がするよ……や、やらなきゃダメなのかな……かといってこの状況でログアウトするのはちょっとアレだし、どうしよう。

「もしかして、あーんじゃ不満? だ、だったら、口移しをしても「すいませんでした、今すぐに口を開けますので勘弁してくださいませんか」」

 なんかさらにとんでもない事を口走り始めたので観念することにした。うう、指輪のルエットがまともに聞き取れない大声で猛抗議してくるし、さっきからアクアが嘴で額をつんつんしてくるのが地味に痛くて辛い……かといってこのまま口を開かなかったら、デスさんが何を言い出すか分からんし。この手の人って、放置とかお任せ状態にしておくと、気が付いたらとんでもない状況が出来上がっていたと言うパターンがあるから……

「じゃ、あーん」

 ──世間一般の男性が、美人にこんなことしてもらえるならば爐舛腓辰箸修蛎紊錣譟鼻,箸倏発して塵も無くなれ” とかの恨み言を言うんだろうけどさ、本人にとっては嬉しさなんて全然なくて、とてつもなく恥ずかしいだけなんですよこれ。とはいえ、すぐに口を開けると言ってしまった以上、違える訳にもいかない。ゆっくりと口を開けて粥を口の中に入れて貰う。──うん、確かに程よい熱さで火傷する心配はないな。

「顔が真っ赤だけど、大丈夫? 熱は……平熱のようだけど」

 これ以上畳み掛けて来るのは勘弁してくださいと心の中では思うが、今回の彼女は医者としての観点から熱を測っただけなのだろう。幸いおでこを合わせると言う方法じゃなくて手で触ると言う方法で助かった。別の意味でダメージは容赦なく蓄積してるが、これは今までの自分の生き方が歪過ぎたからしょうがないと言う事にしておこう。

「とにかく、今は安静にしているしかないから堪えてもらうしかないわね。変にわがまま言った場合は、添い寝付きでがっちり看護する形になるからよろしくね?」

 何をどう宜しくされればいいんでしょうか。理解したくありません。くう、以前のダークエルフのメイドさんぐらいの距離感なら良かったけど、ここまで密着されると羞恥心的な意味で苦しい。けど、動かない体じゃ、いくら平気だと言っても説得力も何もないわけで……結局、すり減った生命直がある程度回復してくるまでにリアルで四日間ほど時間がかかり、ログイン中はデスさんの看護を受けつつ、情勢をブルーカラーのメンバーから聞くと言う流れになってしまう事に。体がまともに動くようになった五日目は、本気でホッとした……。体が治るまでログインしなきゃいいじゃないか、という事も考えたが……それをやってしまうと、デスさんが色々な意味で怖い事になりそうで試せなかった。この看護の日々は、黒歴史として封印しておこう。
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冷静に考えて、死神に看護されると言う絵面は、
外から見るとかなり奇妙な感じがするかもしれませんね。
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