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第8章〜転生王子は授業中

フィルのエナ

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 キラキラとさせながら飛び出したもの、それはエナ草の芽だった。
 な…………んだ?何だこれっ!?
 ビックリしすぎて、思考回路が停止しそうだ。
 芽が出て良かったと言いたいところだが、これは明らかにおかしい。飛び出した芽が、薄い膜に覆われているかのように発光しているのだ。
 これは夢か。もしくは目がおかしくなったのだろうか。
 そう思って目をこするが、その間にも茎が伸び、葉は茂っていく。そしてその葉や茎も、やはり同じように発光していた。

 気のせいじゃないっ!発光してる!何これっ!って言うか、ルーバル先生エナ草の葉は全部で100枚と言ってなかったか?
 簡単に数えてみても10枚葉のついた茎は、すでに10本以上生えていた。しかもその数は未だに増え続けている。
 あきらかに多いよね?いったい何本増えるわけ?葉や茎の形は一緒なのに、成長する様子は突然変異かってくらい違うんだけどっ!
 どうしたら止まるんだと、あわあわと手を彷徨わせる。

 教室のざわめきが多くなり、それがどんどん俺の席に集まってきた。俺のエナ草の異変を感じ取ってか、近くにいる生徒から徐々に近付いてきているようだ。だがそのざわめきも花が咲き始めると、すっかり聞こえなくなった。
 赤・青・水色・黄色・緑・橙色、ざっと見ただけでもいろんな色の花が咲いている。色が溢れすぎて、もはや何色あるのかわからなかった。
 皆は驚いて口を閉じることもできず、ただ目を瞬かせている。ルーバル先生も鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔で動かなくなっていた。

 俺のエナって……どうなってるの。
 本数から見ると100のふり幅が完全に振り切れてるのは解る。性質も多い。
 だけど…何でエナ草発光してんの?これは何を意味しているわけ?
 さっぱりわからーん!!

 シーンと静まり返った教室で、クリスマスツリーみたいにデコられたエナ草を見つめながら、俺はカクリと頭を下げる。
 もう駄目だ。これは完全に父さんの言う規格外状態だ。
 アリスをチラリと見る。俺の事情を知る彼女でさえ驚きを隠せないようだった。その様子を見て、より一層自分のやっちゃった感を自覚する。

 でも…でも…俺は悪くなくない?この状況って想定外すぎるよね?
 確かに前世の記憶はあるし、召喚獣がちょっとばかり変わってるけど。それ以外はなんの変哲もない子供……だったはず。
 まさかこんなことになるなんて思わないよ。むしろ残量足りないかもとビビってたくらいなのに。

 「これは…何としたことだ…」
 ようやくルーバル先生が言葉を発した。口を開けすぎて喉がカラカラだったのか、その声はひどく掠れている。
 ゴクリと喉を鳴らして、手を震わせながら俺のエナ草にそっと触る。まるで幻ではないのかと確認しているようだ。
 「こんな…こんなエナ草は初めて見た…」
 ルーバル先生が熱に浮かされたように口元を震わせた。それからエナ草に魅入られたように、数センチもない距離で観察し始める。

 「ぼ…僕のだけエナ草じゃなかったじゃないですか?あ、あははは…」
 何とか誤魔化せないかと笑ってみるが、笑いはすっかり乾いていた。
 だって発光したり茎や花の量が多かったりしているが、葉や花の形状はエナ草なのだ。
 「そんなはずないよ。これはエナ草だよ」
 案の定すぐさまトーマに否定されてしまう。
 「そうね。エナ草だわ。とても同じ植物と思えないけど」
 ライラが感嘆するように、詰めていた息を吐いた。
 だ…だよねぇ。俺だって誤魔化すの無理があるってわかってた。わかってたけどさ。
 俺はすっかり途方に暮れる。

 「すげーっ!やっぱりエナ草だって、これ!」
 突然、時が動き出したかのように歓声が上がった。あまりに凄い歓声に、俺はビクッと身をすくめる。
 「僕解ってたよ!フィル君はすごいんだって!」
 「何言ってんだ、1年男子の大半は知ってるさ!な!」
 「ああ!フィル君はただ者じゃないよ」
 身を伸ばすようにして何人もの男子が手を差し出してきた。俺が反射的に握手すると、彼らは感動したように目を潤ませる。
 その中の1人が、俺の手をぎゅっと両手で握りしめた。
 「俺、あの時からずっと憧れてます!」
 「あ…ありがとう…」
 勢いに負けて、意味のわからないままお礼を言う。

 すると遠くにいた男子たちからブーイングが起きた。
 「お前らだけずるいぞ!」
 「抜け駆け禁止だろ!」
 「あんまり騒いだらかわいそうだから、見守り隊結成してたのに!」
 その声に、周りが「そうだそうだ」と加勢する。
 ……何、その隊。え、歓迎会の後、直で質問攻めにあわないのってカイルが何かやってくれてるのかな?と思ってたんだけど。そんな隊出来てたの?

 俺が新事実に呆然としていると、言い合いをはじめた男子を押しのけるようにして、今度は女子グループが取り囲んできた。 
 「フィル君すごーいっ!」
 「こんなに性質あるなんて!」
 「葉の枚数だってすごいわよ!エナの量多いのね!」
 「何言ってんのよ!この発光してるのなんてもっとすごいじゃない!」
 女子生徒たちは頬を紅潮させながら、きゃあきゃあと手を叩く。
 「ど、どうも」
 かしましいとはこのことか。圧倒された俺が口元を引きつらせて微笑む。
 すると女子たちから黄色い声が上がる。
 「かーわーいーいー」
 俺……怖い。
 
 すると今度は遠くの女子たちからブーイングが起こる。
 「ちょっと!私たちだって近くでフィル君見たいのよ!」
 その声に共鳴するように、周りからも「そうよ!」「代わってよ」と声が上がる。
 だが、俺の近くにいる女の子たちは、キッパリと言った。
 「イヤ!」
 「F・Tフィル・テイラファンクラブに優先権があるわ!」
 
 え、ちょっ!何そのクラブっ!初耳なんですけど!カイルならわかるけど、俺にもファンクラブ出来てんの?
 驚愕する俺を置いて、今度は女子の言い合いが始まってしまった。ファンクラブに「公認じゃないでしょ!」と反論する子もいれば、「じゃあ、入りたい!」と手が上げる子もいる。
 どう収拾したらいいんだ、これ。

 「な、何でだー!」
 突然隣でレイが叫んだ。わなわなと身を震わせ、エナ草と俺を交互に見比べる。
 「俺てっきり1本2本かと思ってたのにっ!!これくらいは勝てるかと思ったのにぃ」
 おぅい!思ってたんかい!いや、俺自身もそう思っていたけれども。思っててやるように急かしていたなら、レイ結構ひどいな。
 俺がジッと見てると、その視線の意味に気付いたレイは若干涙目で唇を噛んだ。
 「だって!俺だって女の子にすごいって言われたいっ!ファンクラブ欲しい!」
 「……はい?」

 「中等部に入って、カイルとフィルにすっかり人気が奪われてるんだよ。ここらで巻き返したいじゃんか!お前も男ならわかるだろ?」
 なっ?と同意を求められて、俺はゆっくり首を傾げる。
 わかるような…わからないような…。 

 そんなレイをライラは鼻で笑った。
 「あんたの人気下降は別の理由でしょ。っていうか、そういうのは自分の努力で巻き返しなさいよ」
 ごもっともで。
 「できたらやってる!」
 レイ、そこは自信満々に言うところじゃないよ。

 あぁ、俺が変なエナ草出した為に、教室がカオスになった……。どうしよう。
 渦中の人なのに、皆に取り残されて途方にくれる。

 しかし、そんな周りの喧騒とは別次元の2人がいた。
 「それにしても、この花色々あって本当に綺麗ね。何色あるのかしら?」
 「このエナの量もすごいよね。いいなぁ。これだけあれば召喚獣し放題だよねぇ」
 アリスとトーマは騒然とした教室で、そんなことを言いながら、のんびりとエナ草を見つめている。他の人の勢いが凄いせいか、なんかそのテンポにホッとした。
 癒される。俺の心のオアシスたち。
 
 「ねぇ、フィル」
 トーマが少しお願い事があるような口ぶりで言った。
 「ん?何?」
 「それだけエナあったら召喚獣にし放題だよね?」
 「ん……うん?」
 まぁ、そういうこと……かな。
 何がいいたいのだろうと、俺は少し小首を傾げる。

 「僕いっぱい観察したい獣いるんだぁ。それをフィルが召喚獣にしてくれたら観察し放題だと思うんだけど」
 そう言ってにこっと無邪気に笑った。無邪気だけど、それ利用っ!人を利用しようとしてるから!
 「それの為に召喚獣にしたら可哀想でしょう!」
 俺が言うと、トーマは「そっかぁ」と残念そうに息を吐く。

 「ねぇ、フィル」
 今度はアリスがおうかがいをたてるように言った。
 「な、何?」
 困ったように眉を下げ、憂いを帯びた瞳で見つめる。
 何だ。いったい何言う気?

 「どうしよう……フィルの実家に自慢したくてたまらない」
 予想外過ぎて吹いた。
 「何でっ!?」
 学校で再会した時、俺に不利になる事報告しないって言ったよね?
 「フィルの気持ちはわかってるんだけど。……フィル凄いからビックリするだろうなぁって思って」
 そりゃ、ビックリするよ。教室カオスにしたくらいだもん。父さんに知られたら、絶対説教される。
 「ダメ?」
 可愛く聞いても、それは勘弁願いたい。
 無言で手を合わせると、アリスは残念そうに息を吐いた。
 「ダメかぁ」

 俺のオアシスたち……油断ならないな。
 ゴクリと息を飲む。
 
 そんな俺の肩を誰かがそっと叩いた。先ほどまで観察に夢中になっていたルーバル先生だ。
 これだけ教室が騒がしいのに注意することもなく、キラキラとした目で俺を見ている。
 「フィル・テイラ君」
 にこにこと微笑み付けで呼ばれ、俺はそのことに違和感を覚えた。
 さっきまで君付けじゃなかったような…。そしてこの笑顔。
 不思議に思いつつ、返事をする。
 「はい、何ですか?」

 ルーバル先生は笑顔を深くして、ズイと俺に顔を近付けた。
 「このエナ草……研究資料として持って帰ってもいいだろうか?よく調べておくから」
 聞いてはいるのだが、答えを聞く前に気持ちが先行しているらしい。すでに俺のエナ草の鉢をがっちり抱え込んでいる。
 あきらかに持ってく気まんまんだ。
 「ど…どうぞ」
 俺が口元を引きつらせつつもそういうと、先生はパァっと笑顔になり生徒からは落胆の声が聞こえた。他にも欲しい人がいたようだ。

 「こういうものは早く交渉したもの勝ちだ。では少し早いが授業はここまで。フィル君、研究結果は後で教えるからな」
 ルーバル先生はホクホクとした顔で鉢を抱きかかえ、フォホホと笑いながら教務室へと去ってった。

 少し早いって……まだ授業時間半分あるんですけど。
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