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第8章〜転生王子は授業中

クラスメイトに囲まれて

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 召喚獣の授業を早めに切り上げルーバル先生が教室から出ていくと、俺は周りの生徒から一斉に話しかけられた。
 「フィル君召喚獣持ってるって言ってたよね?」
 「どんな召喚獣いるの?」
 「召喚獣にしたい獣っている?」
 「え…あの、えと…」
 瞳を煌めかせた女子たちに矢継ぎ早に質問され、その勢いに戸惑って言葉が詰まる。
 そんないっぺんに話しかけられても、俺聖徳太子じゃないからっ!

 だが、その女子たちの質問に答える間もなく、今度は鼻息を荒くした男子たちからも尋ねられる。
 「召喚学の課外授業があるけど、組む人ってもう決まってるのかな?」
 「僕らにもその余地はある?」
 「え…く、組む人?」
 課外授業は先のことで、組む人はまだ決める段階ではないのだが……。 

 「あ、俺一緒に組みたいっ!」
 「私も!」
 次々上がる手と大きくなるざわめきに、俺はあわわわと見回す。
 どうしよう。組むんであればいつもいるメンバーと組みたいが、皆にまだ確認取っていないからなぁ。言い切っちゃっていいものか……。
 
 俺が言い淀んだことで、付け入る隙があると見たのか1人の女の子が俺の手を握った。
 「ね!いいでしょう?たまにはいつもの人たちじゃなくても」
 確かF・Tファンクラブと名乗っていた子だ。
 金髪碧眼、綺麗な縦ロールになった髪をツインテールにしてピンク色のリボンをつけている。色白の美少女だ。目の大きさが、アニメの魔法少女っぽい。
 牽制のためか、チラリとアリスやライラを見て微笑む。
 「いや……僕は……」
 困ったように手を抜こうとしたが、意外にがっちりと握られてほどけなかった。
 強っ!何この力強さ!

 すると突然ライラとアリス、レイとトーマが、一斉に立ち上がった。そのタイミングが一緒だったので、示し合わせたのかと思ったがどうやら違うらしい。立ち上がった4人は驚いたようにお互いの顔を見合わせた。だがすぐにコックリと頷き合う。

 「な、何よ。あなたたち」
 「文句でもあるの?」
 ファンクラブの面々が、眉根を寄せて睨む。
 ライラは少し顎を上にあげ、ニヤリと笑った。
 「あるに決まってるじゃない。私たちフィル君の友達・・だもの。困ってたら助けるわよ」
 「なっ!」
 ライラの挑発するような物言いに、女子たちが目を見開く。

 「私たちが困らせてるって言うの?」
 そんな彼女たちに、今度はトーマとアリスが申し訳なさそうに言った。
 「ごめんね。フィルの組…もう決まってるから、フィル断り辛いんじゃないかと思って」
 「そうなの。受講する前から決めてて……だからごめんなさい」
 真摯に謝るその様子に、女の子たちも口をつぐみ、周りから落胆の息が漏れる。
 実際にはそんな約束はしていないのだが、皆が助けてくれているとわかって胸が熱くなった。

 だが、手を握っていた少女は諦めていないようだった。女の子好きのレイに焦点を合わせる。
 「レイ君はどう思う?いつもの組より私たちとフィル君とレイ君で組を作った方が楽しいと思うんだけど」
 にっこり微笑んだ彼女は、自分の可愛さと言うものに自信があるらしい。
 俺としてはアリスやライラの方が可愛いと思うのだが、レイにはてき面だったようだ。小悪魔的な微笑みに、レイはとろけるようにだらしない顔つきになる。
 「えーメルティーちゃん達と一緒か〜」

 おいおい、単純でわかりやすいな。レイしっかりしろ。利用されそうになってるんだぞ。
 少女ながらに凄い戦略してくるな。美少女ならではかもしれないけど。
 妙に感心していると、ライラがバンッと机を叩いた。レイももちろんだが、同様に魅了されていた男子もビクッとなる。

 辺りにいる生徒の視線がライラに集中した。
 「…………」
 いつもは言葉で言い負かすタイプのライラが何も言わなかった。だが無言でレイを睨むその眼差しが余計に怖い。
 レイは油の足りないブリキ人形のように、ライラから少女に視線を戻す。
 「ご……ごご、ごめんね。約束はこっちが先だから」
 そう言って彼女から俺の手を抜き取ると、代わりに自分がぎゅっと彼女の手を握る。
 「一緒に組は組めないけど、俺だったらいつでも話し相手になるよ。フィルみたいな鈍感より俺にしない?」

 にっこり笑う顔はいつもの彼を知ってる分、気取っていてひどく胡散臭い。俺は手が解放されてホッとしつつも、半眼でレイを見る。
 助けてくれつつナンパするその抜け目のなさはむしろ感心するが、鈍感ってどういうことだ。

 そんな時、突然教室の後ろの扉が勢いよく開いた。その勢いと音に、ざわめいていた教室が静まり返る。
 何だ?誰が来たんだ?
 授業は終わっているけどそれはルーバル先生が早めに終わらせたからで、時間帯で言えばまだ授業中なのに。
 人混みでよく見えなかったので、席を立って背伸びをする。
 そこにいた人物を目撃した俺は、驚きすぎて大きな声が出てしまった。
 「カイルっ?」
 召喚学の間カイルは授業がないので、寮で自主練をすると言っていたはずだ。

 皆が驚いている中、カイルはゼーゼーと荒い息を繰り返しながら一直線にこちらに向かってくる。
 何だ何だ。どうしたっていうんだ?
 鬼気迫るカイルの様子に、生徒たちはまるでモーゼが海を割ったがごとく俺へと続く道を作る。

 どんだけ走ってきたのか。肩で息を整えるカイルは、ポカンと口を開けた俺の顔を覗き込んだ。
 「フィル様、授業が終わったそうですね?では、もう帰りましょう」
 そう言って、アリスやライラ、レイとトーマに目配せする。一緒に帰るぞと言っているかのようだった。
 それを察して手早くアリスたちは荷物をまとめる。カイルは俺の荷物とアリスやライラのエナ草を持ち、そのまま扉へ歩き出した。

 呆気にとられている皆の間を通り抜ける。それからカイルはピタリと止まって振り返った。
 「強い獣も周りの環境が騒がしければ弱って命を落とすと言う。好意は好意として、ほどほどにすることだ」
 冷ややかにそう言われて、皆は少し冷静になったのかシュンとしたように肩を落とした。悔しそうに見つめるメルティー以外は。

 あれは諦めてなさそうだなぁ。うーん。ファンクラブはありがたいんだけどなぁ。

 カイルを先頭に教室を出た俺たちは、そのままカイルの案内で階段や廊下を歩いていく。
 てっきり真っ直ぐ寮に向かうと思ったのだが、方向的にみて違うようだ。アリスやライラ、トーマも不思議そうな顔をしている。その中でレイだけが、行く先に思い当たっているような顔付きだった。
 もしかしてどこに向かってるのか知ってるのかな?

 年季の入った扉の前でカイルが止まった。人が使っている印象のない扉の汚れだ。位置的にも校舎の奥なせいか、廊下も薄暗い。何だか不気味な雰囲気だった。
 「え、ここに入るの?」
 ライラが顔をしかめ、トーマは俺の背に隠れる。するとレイがニヤリと笑った。

 「表面はわざとこうしてんだ。中は綺麗だよ」
 そう言って持っていた荷物を俺に渡すと、懐から鍵を取り出し扉を開けた。
 10畳ほどの部屋の中は、物が雑多に置かれている。だがレイの言うように綺麗に掃除されているようだった。
 奥にある窓辺には、長いソファや椅子、長方形の机もあって、なかなか居心地良さそうである。

 レイはソファに座って息を吐く。俺たちもとりあえず机に荷物を置くとソファに腰を下ろした。
 「ここは?」
 「今はなくなった教科の教務室です。空き時間の休憩用としてレイに教えてもらいました。合鍵も」
 「え、僕そんなの聞いてないよ」
 「僕も」
 俺とトーマは拗ねたように口を尖らせる。
 ずるい。何でカイルだけに教えてるんだ。
 
 俺たちの非難を感じたのか、レイは片眉を上げる。
 「トーマは俺と授業かぶってること多いし、フィルはカイルといること多いだろ。カイルにだって今回初めて教えたし。合鍵そんなにないんだよ」
 「何であんたがそんなの持ってるわけ?」
 ライラが訝しげにレイを見る。レイは誤魔化すように話をそらした。

 「ここは特別の穴場。誰もこないから安心してくつろいでくれ」
 はっはっはと笑うレイは、ライラの舌打ちも聞こえないふりだ。
 「確かにここ奥まってるし、不気味だもんね」
 ブルリと震えてトーマが言う。
 「あのまま寮に行っても同様のことが起こる可能性もあるので、人気ひとけのないここにしました」
 カイルの言葉に皆がため息を吐いて頷く。
 確かに。少し間をあけたほうがいいかもなぁ。
 
 「抜け出せないかと思ったよね」
 トーマが言って、アリスも安堵したように微笑む。
 「そうね。カイルが来てくれて良かったわ」
 その言葉に俺やライラは頷いたが、レイは残念そうに呟いた。
 「せめてメルティーちゃんの返事聞いてからでもよかったなぁ」
 「聞かなくて良かったんじゃない?むしろ」
 ライラが鼻で笑うと、レイはムッとして口を尖らせる。
 「どういう意味だよ」
 また言い合いが始まりそうだったので、俺とアリスが「まあまあ」となだめる。

 「レイにも助かったよ。皆もありがとうね。組になってくれるって言ってくれたのもすごく嬉しかった」
 照れながらもにっこり笑うと、皆も照れたように頬を紅潮させた。
 「当たり前だろ」
 レイはふいっとそっぽを向いて、アリスは恥ずかしそうに目を伏せた。
 「私はもともとそのつもりだったもの」
 「僕も」
 「当然よ」
 トーマとライラが頷く。
 その言葉もさらに嬉しくなって、へへっと頭をかく。

 「それは良かったと思いますが……」
 カイルは1人沈んだ声で呟いた。
 暗い……。1人雨雲背負ってるみたいに暗い。
 そういや、何でカイルが迎えに来たんだろう?用事あるかと思いきや、人気ひとけのないこっち連れてくるし。
 「カイルちょうど良い時に来てくれたけど、何か急ぎの用事?」
 小首を傾げてカイルを見ると、恨めしげ俺を見る。
 あ、あれ……どうしたんだ?
 「全然ちょうど良くないですよ……。フィル様、ド派手なエナ草とやらを出したそうじゃないですか」

 な……何故それを……。

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