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第2章

美談と英雄、涙の理由

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鋼鉄都市ヴォズラオリーフ

グラン・リオ・ドワーフ王国首都

国王 レジアス・ゾロワディーン・リエス・ジョデル3世
執政 ルカテス・セラフィン 侯爵

グラン・リオ大陸に住まうドワーフ族の国。リュハイ山脈の麓にある広大な鉄鋼山を開拓して造られた地下都市。豊富な鉄鉱石を産出する。人口6万人ほどの大都市。都市の大半が魔道具(マジックアイテム)で機能。主な産業は鉄・銀・イルドラなどの各種鉱石。武器・防具・魔道具・各種魔石。王立職人学校がある。
夏には巨大な山車が町中を練り歩く祭りが催される。


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「…祇園祭りか」
「ピュイィ」

キュリチ大河を越え緑の平野を抜け肌寒さを感じた頃、巨大なリュハイ山脈のお膝元にドワーフ王国はあった。
ベルカイムの倍以上ある鋼鉄の大門は無骨ながらも細かな模様が刻まれている。ドワーフは手先が器用で凝り性でも有ると聞いていたが、なるほどこの門だけでも観光名所になりそうなくらい立派だ。

こっそり調査(スキャン)をすると、材質は鉄鉱石と少量の銀鉱石とイルドラ石が使われていた。一部純金の装飾もされている。豪華だ。きっと名のある職人達が技を競って作ったのだろうなあと、知らぬドワーフの歴史に思いを馳せる。

門の前にはずらりと並ぶ入国待機者。ドワーフ族はほぼ顔パスらしいが、他種族はお行儀良く並んでいる。
俺も最後尾に並んで待機しようとしたら、クレイがずんずんと列を無視して門を目指した。そのまま警備のドワーフと一言二言会話をしたと思ったら、振り向いて俺らに手招き。どうしたのかと列を外れて近づくと、そのまま警備に案内されて大門の中へ。

大門から長くゆるやかな坂を下ると眼下に広がるのは巨大都市。鉄鋼山を採掘して出来た穴に宿場を設けたのがヴォズラオの始まりらしい。宿場は村になり、村から町に。国民の8割が何らかの職人というまさしく職人大国。町のあちこちにある建造物はどれもこれもが素晴らしく、美しく、ちょっと無骨。

太陽光と何らかの魔道具(マジックアイテム)で灯された電灯によって、地下坑道跡だというのに暗さも陰気さも感じさせない。空気を循環させるシステムがあるのか、息苦しさや不快感も無かった。
ただし、全てドワーフサイズで作られているため、俺たちのような背が高いものにとっては多少の不便もある。種族別の宿や各店の受付が完備されているところはありがたい。

「なにこれ特別待遇?」
「いやなに、俺の知り合いが居たから挨拶をしたまで」
「いいのか?身元調査とかしないで」

ギルドリングを出す用意はしていたのだが、それも見せろと言われなかった。この世界ではギルドリングが身分証明書でパスポートの役割もする。冒険者じゃないものは身元を証明する証紙のようなものを携帯するらしいが、そもそも冒険者や商人以外長旅をするものは居ない。商人は専用のパスみたいなものを所持している。
他国に入るには厳重な検査があるものだと思っていたが、なんだか拍子抜けだ。

「旦那のお仲間ですからね!気にしないでくださいよ!」

先導していた警備のドワーフが歩きながら振り向き、鉄甲冑をがちゃがちゃと響かせながら叫ぶ。声がでかいのもドワーフ族の特徴。

「旦那ってのはクレイのことか?そういえばクレイはこの国に来たことがあるんだっけ」
「旦那のお仲間さん、旦那のことを知らないんですかい?旦那は我が王国の国王様と旧知の仲なんですよ?」

え。王様と知り合いなわけ?
それは寝耳に水ですよとクレイを見上げると、

「旧知の仲と言うよりも、ただの腐れ縁だ」

ははっと笑い飛ばした。それでも王様と仲良しなんて凄いことだと思うんだが。

「何を仰るんですか旦那ぁ!剛雷王ごうらいおうゼングムを追い払い、我が国を守ってくれた旦那はドワーフの救世主、いや英雄じゃないですか!」

なにそれ何処の勇者のお話??
俺が興味津々の顔をしているのに気づいた警備ドワーフは、ちっちゃな目を爛々と輝かせて自慢げに続けた。

「聞いてくださいよ旦那のお仲間さん!あれは10年ほど昔の話なんですがね」

武具を作るが使わない者が多いドワーフ族は戦争と無縁。他のどの種族にも寄らず媚びず贔屓せず、一貫して中立の立場を守ってきた。鋼鉄都市ヴォズラオは豊富な鉱石の資源に恵まれた富める都市。そんな平和な王国は貧しい国からすれば強引に攻め込んでも手に入れたい魅力的な地だった。
しかしドワーフ族も平和に安穏と胡坐をかいているわけではない。手先が器用で知能も高い彼らは、都市を守る防御壁も完璧。そもそも都市自体が分厚い鉄鋼脈の地下にあるのだ。生半可な軍隊はものともしなかった。

長い歴史の中でドワーフ達は戦う術を忘れてしまった。完璧な防御壁があるのだから、地上戦なんて無縁。武具は作るが実際に扱えるものは無くなり、危機管理意識が低くなりつつあった頃。

「人族に化けた魔族が大門を抜けたんだ!滅多に姿を見せない伝説上の種族って聞いていたから、俺たちも油断した。その魔族が恐ろしい姿をした剛雷王ゼングム!」

また出てきた中2、じゃない謎の王様。どの国の王様なんだ?
魔族は北の大陸に住んでいる長命な種族。ゲームでは異形の種として恐れられていたりするが、この世界では特にそんなことはない。知能が高く高潔な種らしく、魔力が高い。誰もが美男美女。

で。
そのどこぞの王様がドワーフ族の都市に不法入国したもんだからまあ大変。戦う術を失ったドワーフ達はナントカ王に言われるがままに金銀財宝を差し出してしまったと。
暫くは暗黒の搾取の時代が続いたらしいが、そこで登場するのがクレイストン。

「旦那は剛雷王ゼングムに一人立ち向かってくれた。俺たちを助けてくれた!」

鼻息荒く拳を掲げた彼は、甲冑をがしゃがしゃ鳴らしながらスキップ。
どうやらクレイはこの国で英雄扱いらしい。なるほど顔パス入国のわけだ。

「………いや、少々話が違うのだが」
「え?」
「新しい武具を揃えるためにたまたま立ち寄っただけでな。その…ゼングムという魔族は俺の姿を見ただけで飛んで逃げただけだ」
「なにそれ」
「あの様子だと姿かたちが恐ろしいだけで実戦経験は無かったのであろう。剣すらまともに構えることが出来ぬようだった」

つまり、見せ掛けだけのヤンキーがオラオラしていたら、見た目も戦闘経験もバリバリのクレイに怖気づいてケツまくって逃げた、と。
それはお恥ずかしい。魔族、カッコワルイ。

「確かにクレイの見た目は怖いからな」
「何だ」
「いや別に。まあいいんじゃないか?追い払ったことに変わりはないし、ドワーフ達は喜んでいるんだから」
「喜ぶどころじゃないですって!旦那は武具を扱えなかった俺たちを一から鍛えてくだすったんだ!」

話に食い込んできた警備ドワーフは、更に話を続ける。
一流の冒険者であるクレイを師と崇め、国民総出で槍術を教えてもらったらしい。総出て。
はじめは国王を護衛する者たち。続いて王宮を守る者たち。街の治安を守るものたち。そうして気が付けば立派なドワーフ軍団の出来上がり。今では高ランクのドワーフ冒険者も珍しくなくなった。

「…いや、そうではない」
「またかよ」
「俺は基礎の型を指南しただけだ。後は別の冒険者らが報酬目当てで教えただけのこと」

気まずそうに話すクレイを無視し、警備ドワーフはそれどちらのクレイさん、というものすごい英雄の美談を語り続けた。感謝感激しすぎて真実を大いに脚色しまくった挙句、真実がどっかいっちゃったようだ。誇張された話を聞くたびにクレイは言いづらそうに顔を顰める。気の毒かもしれないが、それだけ慕われているということだろう。

「まあ…あながち嘘ではないのじゃ。ドワーフどもがクレイストンに感謝していることは変わりないのじゃろう?」
「そうそう。そのうち巨大銅像とか建つかもしれないな」
「ピュイ!」
「それはすごいぞ!」
「ふふっ、まさかそこまでのことではなかろう」
「あははは。だよなー」
「はははは!」

ブラジルの巨大キリスト像みたいなのがあったら流石に笑えないだろうな、と。
俺たちは呑気に都市見物を続けたのだが。



笑い事ではありませんでした。



「………勘弁してくれ」

ヴォズラオギルド『カリスト』がある中央広場のその真ん中。
都市の象徴になっているだろう巨大建造物を観た俺たちは、呆気に取られた。
クレイストンは―――絶望していた。

「まあまあ、どう見ても別人にしか見えないからさ」
「やかましい!」
「わたしはあの怪物クレイストンのほうが恰好いいと思うぞ!」
「黙れブロライトォォ!」

雄々しいティラノサウルスみたいな超巨大立像の名前は「勇者ギルディアス」。ちなみにギルディアスはクレイストンのファーストネームだ。
銅と錫と亜鉛で作られた立派な像はどう見てもクレイではない。面影が一切ない。ビジュアル重視で作っちゃった感ありありのその像は、ドワーフ達の誇りらしい。拝んでいるものもいた。あれ完全に恐怖の大魔王だよな。

羞恥に悶え縮こまるクレイを放置し、ギルドの受付で採取した素材を売りさばいた。
どの国でも薬草や野草というものは常に需要があり、特に状態のいいものばかり選んで採取する俺の素材は高値で売れた。

「エウロパのグリット受付主任から伝書虫が届いていたが、いやはやこいつは想像以上だ!すげえな!どれもこれも一級品だ!」
「それはどうも」
「こんな腕持っているのに、アンタ何でFランクのままなんだよ」

ランクアップがめんどくさくてですね。

月夜草が一本白銀貨5枚の値が付いた。これはエウロパギルドよりも高い。回復薬に不可欠な薬草はどれも高値が付いたということは、それだけ品数を必要とされているということだ。これはやはり、鉱山と関連しているのだろうか。

「聞いてもいいか?リュハイの鉱山はどうなっている」
「うん?ああ…もしかしたらアンタもイルドラを求めて来たのか?」
「知人に頼まれてな。様子を見に来たんだ」
「そいつは無駄骨だったな。一部の坑道はなんとか確保出来ているんだが、そこはもう取り尽くした跡に過ぎない。一番奥のこれから採掘をしようって場所に、とんでもないモンスター…、いや………アイツは悪魔だ!悪魔が出るようになりやがった!」
「なんでその、悪魔?が出てくるようになったんだ?」

ギルドカリスト受付主任であるドワーフのザンボは肩をすくめた。
数ヶ月前に大地が激しく揺れ、その災厄によって地下に眠る獰猛な悪魔が目を覚ましたのだと。

つまりがだ。

………ビーの目覚めとボルさんの浄化が絶対に関与しているような気がします。
大地が激しく揺れたってのは地震のことだろう。何故地震でモンスターが目覚めたのかはわからないが、魔素の停滞によって現状を維持していたものに変化が訪れ、その変化が悪い方に向いてしまったということだ。
絶対にそうに違いないとは言えないが、思いつくことはそれくらい。

「ピュイィ?」

ともかくこの愛くるしい生き物のせいにするつもりは毛頭ない。どれだけ恐ろしく強いモンスターが居たとしてもボルさんほどじゃないだろう。ほんと、ボルさんは良い基準になります。

「なぜ…なぜ俺が…あんな…俺はあんな…恐ろしいのか…?」
「クレイ、クレイストン、ちょっとこっち帰ってきてくれる?」

ギルドの隅っこで羞恥に震えるクレイの肩を叩き我に返させる。

「ぐすっ…なんだ」

ちょっと泣きべそやめてー。

「グルサス親方が書いてくれた紹介状は誰に見せればいい?俺は坑道に入って少しでも多くのイルドラ石を採取したいんだ」
「ずびっ、危険だとわかっている坑道に入るというのか」
「最強の鋏を作って貰うためにここまで来たんだぞ?観光だけして帰るなんて」

勿体ないというかなんというか。
ドヤ顔して受注した依頼を無理でした出来ませんでしたテヘッ、というのはものすごく格好悪い。いやいや、格好悪い良いの問題でもない。信用問題になるのだ!

「鉱山の坑道って迷路みたいに入り組んでいるんだよな」
「熟練の坑夫ならば案内(あない)も出来ると思うが」
「それってダンジョンだよな」
「……タケル。お前の目的はそれか」

そうです。
迷路と言えばダンジョン!

洞窟や遺跡なんかを探検するのは憧れていたんだよ。有名なはっちゃけ考古学者の冒険映画なんて何回も見たものだ。謎を解いて秘宝を手にするなんて、たまんない。虫だらけの床は嫌だけど。

この世界は現実であり、リセットしてやり直すことは出来ない。死んだらそこでおしまい。
だが地球に居た頃は無縁だった鉱山。しかもモンスターが出る危険地帯。ボルさんクラスのモンスターは出てこないとすれば、行かない以外の選択肢が見つからない。


俺の優れた第六感が言っているんだ。


行っちゃえと!







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明日は幕間を投稿します。

トルミ村での出来事。


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